プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

第18話 再挑戦

暗い…目の前も、周りも真っ暗だ。

『…ろ！』

　何だろう？何か聞こえる気がする

『…きろ！』

　この声、どっかで…

『起きろ！いつまで寝てんだ！とっと練習しやがれ！！』

「！！」

　声の正体に気付くと共に恐怖心からすぐに現実世界へと戻されて飛び起きた。

「はぁ、はぁ！」

　ここは…何処？こんな場所に来た覚えは…

　まだ頭が上手く働かず状況を呑み込めずにいると布団の近くに置いておいた生徒手帳が目に入った。

　そうか、確か昨日から学生寮で生活することになったんだった。

　ようやく疑問が解けて少し安心していると次に手帳の隣にある時計が視界に入った。

　もう5時30分。随分眠ってしまっていたんだな。だけど睡眠時間に反して何か疲労感のようなものを感じる。肉体的な疲労でないなにかを…。とりあえず急いで練習しないと…

　大河はなにかに突き動かされるようにモヤモヤしたものが自身の中に蠢くのを感じながら道具を手にして外に出た。辺りはまだ少し暗く夜の時間特有の静けさ包まれていた。しかしその静寂を破るように一つの足音が砂利を踏みながら近づいて来た。

「あれ、輝明もう起きてたんだ。昨日来たばっかりにしては結構早いな」

(えっと、確か前沢…先輩？)

「ん、これからまた投球練習でもするのか？だったら俺が一緒にキャッチボール…」

　いつものようなノリで気軽に誘おうとしていた自由だったが昨夜の輝明の豹変を思い出して言葉が止まった。そしてバツが悪そうな顔を浮かべて口を開く。

「ああ、まあ昨日急に体調崩したばっかだし、その…俺とキャッチボールするのあんま好きじゃなさそう…だったし…な。やめておいた方がいいよな？」

「！！」

(ち、違っ！あれは先輩がどうこうとかじゃない！)

　”ブンブンブンブン！！”

　普段のテンションの高い声色からは思えない少し落ち込んでいるようにすら感じる申し訳なさそうな感じで発するその言葉を真っ向から否定するように懸命に首を横に振った。

「えっと、本当に俺とで大丈夫か？」

　”コクコクコク！！”

　今度は対照的に自由の言葉を肯定するように必死で頷いた。

「…よし、じゃあやろっか！」

(今度こそ頑張るんだ！頑張って他の人ともやっていけるように…)

　2人は昨日のように立ったまま軽くキャッチボールをした後、自由が座って輝明のボールを受けた。その間自由は何事も無く球が互いを行き来し、輝明に異変が見られない事にホッとすると同時に昨日の輝明の身に起きた異変の原因が何であったのかが薄々分かり始めるていた。そして同時に得体の知れない不安に襲われていた。

　そして何球目かの返球を受け取った後で輝明が昨日と同じくその場で固まった。そして投球を行わずに自由の方へと歩いて行く。

(もう肩は大丈夫だ。後は…)

　再び自由へ自分言葉を伝えようとしたその時だった。

『おい、何しようとしてんだお前？』

　脳を支配するようにその言葉は電気信号のように輝明の全身に駆け巡る。


『いつ、俺が他の奴と話していいっていった？』

(で、でも…)

『でもじゃねーんだよ。お前は俺が与えたメニューだけこなして俺の言うことだけ聞いてればいいんだよ！』

　それは怨念のように背後霊のように輝明の心に住み続け、彼に訴え続ける。そしてその訴えが嫌でも彼の体を震わせた。

『また痛い目に遭わせねえと駄目か？そんな事も忘れちまったか！？』

「！！」

　その言葉に体を両手で覆う様にして縮こまった。

「おい、大丈夫か！?」

(どうして、どうして僕は…)

　変えられない自分の現状に悔し涙を流しながら膝から地面に崩れ落ちた。