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第8話 野球のような野球ではない駆け引き(後編)
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(早めにスイングしちまうと『投手が投げる前から振っているように見えた』とかなんとかいちゃもんつけられて、枠を捉えなかったらボールにされちまうだろうからな。俺のスイングスピードと前沢の球の速さを考慮してここは前沢が投げる時に足を踏み出したタイミング。そこから振り出せばいい感じに空ぶりになる筈だ。どうせ今回も外れるだろうしな。そしてその後は…ひぃっひっひっ)
中田は悟られないようにニヤケそうになるのをぐっと堪えて前沢が投げるをジッと待った。そして彼が右足を上げてからさらに集中力を高めていく。そして前沢の足が地面に着地した瞬間、そのタイミングに合わせてバットを振り出した。
(よっしゃ完璧!これで誰がどう見たって空振り三振に見える筈だ!だ~が~、それだけじゃ終わらねーよ。ここまで散々ななめてくれたこのクソ捕手にお礼をしてやらねーとな。ここのままいつも以上に大きく振った遠心力に少し体勢を崩した演技を追加してこの馬鹿チンにケツバットを叩き込んでやる!)
これまでの仕打ち+始める前に自分が死球を受けた時にぶつけられて当たり前、神様からの天罰などと言い放った件で復讐せんといつも以上に力が入る中田。そしてすぐさま森村の方へと視線を移した。
(さあさあさあ、もう少しだ!あとバット半周させれば俺の復讐を完成させられる!お前の激痛に歪む顔を俺に拝ませてくれよ!)
バットがホームベース付近を通過しようとし制裁の時間がバット前に出る度に刻一刻と迫り、抑えていた笑みがこぼれた。次第に興奮が高まる中田。しかし彼は二つの事を見落としていた。
一つは由自が投げてからすぐに目を離してしまったのでボールをしっかり見ていなかった事。
もう一つは森村の方を見てはいたが彼の顔ばかりに着目していたため、他の部分はあまり見えていなかった事。
森村は世にも恐ろしい事を実行した。由自が投げる直前にミットの位置を中田の体に当たるスレスレまでズラしたのだ。今までほぼ真ん中にしか構えられてなかったミットの急な位置変更に由自も咄嗟に合わせようとした。しかもその際にボールは大きく浮く事無く森村のミット目掛けて放られた。そしてその結果…
”ドォ――ン!!”
「オギャァァ――!!」
中田は本日二度目となる臀部への危険球《デットボール》を喰らって地面に突っ伏した後、激痛のあまり涙を流しながら気絶してしまった。
「……ぁ…ぁ……」
「デットボール!!」
森村は中田にボールが直撃しかろうじて口を動かすものの発音が叶わない彼の状態を満足そうに確認してから高らかに四球を宣言した。しかしその声は今日一番大きく顔も何故か満面の笑みで皆が違和感をぬぐえぬまま倒れて起き上がれない瀕死体《中田》を嬉しそうに引きずってベンチへと運んで行った。
「………ま、切り替えて次行ってみましょう!」
ボールを当てた直後は『またやっちまった!』みたいな表情をしていた由自だったが、すぐに普段のハツラツとした表情に戻ったが周りの部員達は納得していなかった。
「それはぶつけた奴が言う台詞じゃねぇ――!!」
「それよりも、バッター5人目なのにストライクよりデットボールの方が多いってどういう事だよ!?」
「ま、まだ肩が暖まってないのかな~あはははは」
「やっぱピッチャー替えるぞ。このままだと最悪この馬鹿以外保健室送りになりかねん」
「くっ~。け、けど誰がやるんですか?皆スピードやコントロールに自信ないし、滅多打ちに遭うのが嫌だからやりたくないって言ってたじゃないですか」
「「「ぐっ、う…」」」
由自の言葉に部員は皆言葉を噤んで互いを見合った。
「お、お前やれよ」
「そう言うお前こそ」
「いいのかよこのままで」
「そんな言うならお前が名乗り出ろよ」
皆そこまで球速はないが由自のような壊滅的なレベルのコントロールでもないためストライクを取る事は可能だが勿論コースは甘々なのでマウンドに上がれば滅多打ちに遭うのが分かっていた。そのため誰一人として打たれるためのバッティングピッチャーを務めたいとは思えず誰か犠牲となるための立候補をしてくれないかと願っていた。そしてその様子は部外者である輝明にもはっきり伝わってきた。
誰もピッチャーやりたくなくて困ってるのかな?今日が特別調子を崩していたにせよチームメイトなら前沢自由《あの人の》コントロールの酷さは知ってた筈。それでも尚誰も申し出ずにマウンドに上げたって事はやっぱりみんな投手はやりたくないんだろうな。けど僕は…
輝明は西村の元まで行くと服を引っ張った。彼がが振り返ると輝明は人差し指を自身の顔に向けた。
「え、何?………もしかしてやってくれるの?」
”コクコク”
部員達はそれぞれ一瞬だけ顔を見合わせて固まったがすぐに皆首を縦に振った。
「まあ無理矢理付き合わせちゃってるようなもんだしな。好きにやらせてあげよう」
(((この子相手なら皆手心を加えようとするだろうから大丈夫か。それにどう転がってもあの馬鹿《前沢》より酷い事は絶対に起こらないだろうしな)))
ある意味この日一番チーム(由自以外)の気持ちが一つとなった瞬間だった。
中田は悟られないようにニヤケそうになるのをぐっと堪えて前沢が投げるをジッと待った。そして彼が右足を上げてからさらに集中力を高めていく。そして前沢の足が地面に着地した瞬間、そのタイミングに合わせてバットを振り出した。
(よっしゃ完璧!これで誰がどう見たって空振り三振に見える筈だ!だ~が~、それだけじゃ終わらねーよ。ここまで散々ななめてくれたこのクソ捕手にお礼をしてやらねーとな。ここのままいつも以上に大きく振った遠心力に少し体勢を崩した演技を追加してこの馬鹿チンにケツバットを叩き込んでやる!)
これまでの仕打ち+始める前に自分が死球を受けた時にぶつけられて当たり前、神様からの天罰などと言い放った件で復讐せんといつも以上に力が入る中田。そしてすぐさま森村の方へと視線を移した。
(さあさあさあ、もう少しだ!あとバット半周させれば俺の復讐を完成させられる!お前の激痛に歪む顔を俺に拝ませてくれよ!)
バットがホームベース付近を通過しようとし制裁の時間がバット前に出る度に刻一刻と迫り、抑えていた笑みがこぼれた。次第に興奮が高まる中田。しかし彼は二つの事を見落としていた。
一つは由自が投げてからすぐに目を離してしまったのでボールをしっかり見ていなかった事。
もう一つは森村の方を見てはいたが彼の顔ばかりに着目していたため、他の部分はあまり見えていなかった事。
森村は世にも恐ろしい事を実行した。由自が投げる直前にミットの位置を中田の体に当たるスレスレまでズラしたのだ。今までほぼ真ん中にしか構えられてなかったミットの急な位置変更に由自も咄嗟に合わせようとした。しかもその際にボールは大きく浮く事無く森村のミット目掛けて放られた。そしてその結果…
”ドォ――ン!!”
「オギャァァ――!!」
中田は本日二度目となる臀部への危険球《デットボール》を喰らって地面に突っ伏した後、激痛のあまり涙を流しながら気絶してしまった。
「……ぁ…ぁ……」
「デットボール!!」
森村は中田にボールが直撃しかろうじて口を動かすものの発音が叶わない彼の状態を満足そうに確認してから高らかに四球を宣言した。しかしその声は今日一番大きく顔も何故か満面の笑みで皆が違和感をぬぐえぬまま倒れて起き上がれない瀕死体《中田》を嬉しそうに引きずってベンチへと運んで行った。
「………ま、切り替えて次行ってみましょう!」
ボールを当てた直後は『またやっちまった!』みたいな表情をしていた由自だったが、すぐに普段のハツラツとした表情に戻ったが周りの部員達は納得していなかった。
「それはぶつけた奴が言う台詞じゃねぇ――!!」
「それよりも、バッター5人目なのにストライクよりデットボールの方が多いってどういう事だよ!?」
「ま、まだ肩が暖まってないのかな~あはははは」
「やっぱピッチャー替えるぞ。このままだと最悪この馬鹿以外保健室送りになりかねん」
「くっ~。け、けど誰がやるんですか?皆スピードやコントロールに自信ないし、滅多打ちに遭うのが嫌だからやりたくないって言ってたじゃないですか」
「「「ぐっ、う…」」」
由自の言葉に部員は皆言葉を噤んで互いを見合った。
「お、お前やれよ」
「そう言うお前こそ」
「いいのかよこのままで」
「そんな言うならお前が名乗り出ろよ」
皆そこまで球速はないが由自のような壊滅的なレベルのコントロールでもないためストライクを取る事は可能だが勿論コースは甘々なのでマウンドに上がれば滅多打ちに遭うのが分かっていた。そのため誰一人として打たれるためのバッティングピッチャーを務めたいとは思えず誰か犠牲となるための立候補をしてくれないかと願っていた。そしてその様子は部外者である輝明にもはっきり伝わってきた。
誰もピッチャーやりたくなくて困ってるのかな?今日が特別調子を崩していたにせよチームメイトなら前沢自由《あの人の》コントロールの酷さは知ってた筈。それでも尚誰も申し出ずにマウンドに上げたって事はやっぱりみんな投手はやりたくないんだろうな。けど僕は…
輝明は西村の元まで行くと服を引っ張った。彼がが振り返ると輝明は人差し指を自身の顔に向けた。
「え、何?………もしかしてやってくれるの?」
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部員達はそれぞれ一瞬だけ顔を見合わせて固まったがすぐに皆首を縦に振った。
「まあ無理矢理付き合わせちゃってるようなもんだしな。好きにやらせてあげよう」
(((この子相手なら皆手心を加えようとするだろうから大丈夫か。それにどう転がってもあの馬鹿《前沢》より酷い事は絶対に起こらないだろうしな)))
ある意味この日一番チーム(由自以外)の気持ちが一つとなった瞬間だった。
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