プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第4話 凄い?コントロール(前編) 

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自由らはグラウンドへと戻り投球練習を再開したが相変わらずボールがミットに収まらない状況は継続し、先程の危険球+範囲の広さを目の当たりにした部員達は念のために由自の後方へでバットを振りながら様子を窺っていた。そしてキャッチャーは由自が以前外しまくっているにも拘わらず何故か笑顔だった。

 この投球練習が始まる前のこれからの苦労が感じ取れるようなやつれた顔をしていたのに、投球練習再開後は『何かいい事があったんですか?』と、つい聞いてしまいたくなるような爽やかな表情を浮かべるという異様な光景がそこにはあり、ストライク一つ取れていないにも拘わらず楽しそうに投げ続ける自由の存在がその特殊さをさらに助長させていた。

 そんなこんなしていると何十球目か忘れかけていた頃にようやくボールがミットの中に納まった。

 ”パァーン!”

「っ、とと。枠を外れるの前提意識してる中で急に入ってくるとタイミングがズレるな」

「よーし入った!これで肩も暖まったかな」

「「「………」」」

 まだ一球しかストライク取れてないけど…一球でも入れられたらコントロールがつけられるようになるタイプ、とかなのだろうか?

「それじゃあ始めようか」

(連中にも苦労を味わってもらわないと割に合わないからな。くっくっく、果たしてどうなる事かな?)

 部員達も思うところはあったが渋々と言った感じで皆守備に付くが輝明はその行動に驚きを隠せなかった。

 え?かなり外れてたけどこれでアップ切り上げて始めるの?こっちだとそれが普通なのだろうか?それとも今までの投球練習では難しいコースを狙い過ぎて外れていたとか練習だから制球より球速優先とかで投げてたけど今度からは入れていくピッチングに切り替えるから大丈夫とかなのだろうか?

 練習の移り方に疑問に感じていると一人の野球部員が輝明の元にグローブを持って来て差し出した。

「これ部で一番小さいグローブだけどサイズ合うかな?」

 左手のグローブ…まあ壊れた部分があるわけじゃないみたいだし、捕るだけなら大丈夫かな。

「大丈夫そう?」

 グローブをはめ込んだ後に軽くグローブを叩いたり、開いたり閉じたりしているとその様子を見ていた野球部員は尋ねてきて、輝明は軽く頷いた。

「よーし、それじゃ悪いけど頼むね」

 そういって彼は外野へと消えて行き、輝明もファーストの守備に就いた。そしてそれを確認した打者がバッターボックスへと入る。

「ふふふ、手加減しないですからね先輩」

「ああ、うん。よろしく頼むよ、マジで」

「じゃあ、プレイボール」

 キャッチャーの号令によってようややく始まり、由自は投球モーションに入り第一球を投じた。が…

 ”ガシャーン!” 

「………ボール」

「よーし、よし!今日も球走ってるぞ!」

 やはりというか当然というべきか、投じられた球はキャッチャーの遥か上を通り過ぎて行く明かなボール球。始まったばかりにも拘わらず判定のやる気の無さがうかがえる覇気のないコール。対照的にいい感触だと言わんばかりにやる気の上昇が見える由自。その光景は先程とは別の意味で異常だった。

(…何で今の暴投であんなにはしゃいでいるのだろうか?もしかしてあれが狙い通り?ボールになる事が?車のエンジンをかけるみたいにこれからピッチングのリズムを作り上げる為に必要な要素《アクセル》だったりする…のかな?)

 目の前の理解しがたい状況になんとか理由を探すものの、それらが該当しないという事をその後の投球で直ぐ理解する事となった。

 ”ガシャーン” ”パシィ” ”ガシャーン”

「…フォアボール」

(えっ?)

「おい、またストライクが入ってないぞ」

「慌てないでくださいよ、まだまだ一人目じゃないですか。ピッチングのリズムを整える為にもキャッチャーがピッチャーを焦らせたら駄目ですよ」

「「「………」」」

 ”パシィ” ”パシィ” ”ガシャーン” ”パシィ” 

「またもフォアボールだ馬鹿野郎!」

(えっ?……えっ?)

「見ろ、あの拉致られて来た中学生。驚きを隠せないって顔してんぞ」

「『僕は一体何を見せられているんだろう?』て思ってるのかもね」

「実際野球の皮を被ったボールとバットを使…ボールを使った野球に類似する何かだからな。しかもあれ、見てみろ」

 1人の野球部員が呆れた様な表情でマウンドの方を指差す。

「先輩、キャッチャーがボールをしっかり捕れないとピッチャーが安心して投げられなくて不安になりますよ。ちゃんと補給しないと」

「ああ、それは悪かった。でも俺はお前ほどキャッチング上手くないから仕方ないだろ。しかもお前の球は球速だけは無駄に速いから捕りづらいんだよ」

「才能って罪ですね。いや~申し訳ない」

「そういうのマジでウザイからやめてくれ。そ・れ・と!さっきみたいな台詞はちゃんとストライクゾーンに投げ込んでから言ってくれないかな?全球ベース二つ分ボール12個分以上は軽く外れてるからな?人の仕事ぶりどうこう言えないからな?」

 キャッチャーが色々と苦言を呈しているにも拘らず微塵も狼狽えない有様はいっそ清々しさすら感じられた。

「元々コントロール酷いのに今日は更に荒れてるな。しかも急速が無駄に速いから始末に悪い」

「大方連れて来たあの子にいいとこ見せようとして力んでから回っているってところか」

「ああ~、あり得そう。でもその結果がこれって…」

「まあ、あいつらしいよ」

「捕手からするといい迷惑だろうけどな」

 守備に就いていた全員が由自の破天荒な投球に振り回される捕手に同情の念を抱かずにはいられなかった。


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