107 / 121
第2章 冒険者編
106話 再びピンチからの始まり(後編)
しおりを挟むちょっと待て、今こいつ…なんて言った?
「ばくはつ?…バクハツ?…爆発⁉ま、まさこれば、爆弾なのか⁉」
「勿論そうだぞ」
「勿論じゃねーよ!何でそんな恐ろしい物《ブツ》をポケットなんかに忍ばせてんだよ!」
「おいおい、乙女の口から言わせるのか?そんなのいつ滑って爆発するからわからない緊張感を常日頃から味わう為に決まってるじゃないか」
「……ぁ…あぁ…!」
「ふ、流石に私もこれを口にするのは恥ずかしいんだぜ。そいうプレイだということは理解するが、あまり言わせないでくれよ」
「今の発言内容のどこに恥じる要素があったんだよ⁉自分のネジの外れ具合の方を自覚して恥じろよ!」
「女性に恥をかかせて楽しむだなんて、なんて嫌らしい男。ですが…ああ、エルノアが恥じらっている姿も新鮮で可愛いわ!」
こんなののどこを楽しめってんだ!って、違う違う!今はこいつらの奇行を気にしている場合じゃなかった
「何で助かる方法が爆弾なんだよ!」
「「???」」
「2人して『何言ってるのかわからない』みたいない表情するのやめろ!どうしてこの危機的状況で助かる手段が爆弾なんていう危険極まりない代物なんだよ⁉」
「そんなもん爆発と地面衝突の2つのコンボを味わえるからに決まってるだろう?」
「爆発の衝撃で落下の速度を殺して爆発と地面への打撲による衝撃のみで無事瀕死状態で到着。エルノアの言う通り2度も快感を味わえ、目的地にも到着出来る一石三鳥の策だというにどこに不満があるというのですか?」
「不満だわ阿呆!『無事瀕死』なんていう矛盾しまくった単語を簡単に口にしている時点でな!そもそもそんなもん食らったら地面とゴッツンコする前に体がバラバラになる未来が容易想像出来るんだが⁉」
「ふ、安心しろ。『自分の体を使って確認している』と言っただろう?私も姉上も日頃の努力によって爆発関連の耐性《レジスト》を持っているから大丈夫だ」
「俺はその耐性《レジスト》とやらは恐らく所持していないからアウトなんだが⁉」
「大丈夫だ、同士ツンデレよ」
「何が大丈夫だってんだよ⁉というかその呼び方やめろ!」
「ビリビリくんを常に所持するくらいのマニアたるお前なら日頃から鍛えられているその体にあらゆる耐性《レジスト》以上の耐性がついている筈だ。さあ、これまでの自分の努力を信じてようじゃないか」
「俺が渇望しているのはこの危機的状況からの脱出だけだ!」
いや待て、落ち着け俺。こんな時だけど、こんな時たからこそ落ち着くんだ。冷静になって考えるんだ。今の俺にはアレがあるじゃないか!
大河の脳裏にあるスキルが浮かんできた。
【一応の保険】
死亡のダメージを受けたとき一度だけ瀕死状態で留める事が出来る。この効果は一日一度しか適用されない
*このスキルを所持している間、食器が割れやすくなる
そ、そうだ。これがあれば死ぬほどの激痛に見舞われるかもしれないけど死ぬ事はないんだ。これなら!…
ふと湧いた希望にパァ~っと顔が明るくなりかけたが影がさした。
待てよ。でもこのスキルって確か…
『いいかタイガ、お前の持つスキルにある【一応の保険】。あれは確かにレアスキルだ。突然の奇襲により即死の攻撃を受けたりしたとしても存命できるたりと便利ではある。だが文字通り【一応の保険】でしかない。
攻撃を受けた後も続くような永続効果と違ってほぼ瀕死に留めた状態からなんらかの攻撃やダメージ受けたら間違いなく死ぬたろうから『俺は死んでも1日1回までなら大丈夫』とかいう馬鹿な考えを持ってたら早死にするから気をつけろよ。まあ、お前なら大丈夫だとは思うけどな』
マルグレアの忠告を思い出し、それを踏まえて今の状況を分析した。
爆発に巻き込まれるにしても地面とごっつんこするにして一回は助かるわけだ、一回は。だけどほぼ瀕死である事に変わりないからその後になんらかのダメージを追加で受けたら死ぬ。つまり爆発とごっつんこのどちらかを回避できれば一応生き残るとはできる。そしてこの状況で最も可能な選択は…消去法で爆発の回避しかない。そうなると俺が取るべき行動は…
僅か1秒足らずで己の状況を理解し、危険を回避せんと一人離れて距離を取ろうとするも隣にいたクラリスに”ガシッ”と腕を掴まれ阻まれた。
「何処に行こうとしているのですか?離れたら爆発で受ける威力が半減してしまいますよ。ここまでエルノアが尽くしてくれているのですから食わず嫌いせずに味わいなさい」
「離せ!いや離して下さい!今だけでいいから離して下さいましやがれ!」
振りほどこうともがくものの落下中による強い空気抵抗のせいか上手く抜け出すことができずにもがいていた。
「姉上の言う通りだ。大丈夫、初めての未知の味《快感》に不信感を抱くのは仕方ないがきっとお前にとっても美味の筈だから何も心配せずに新たな扉を開こうじゃないか!」
クラリスだけでなくエルノアからももう片方の腕を掴まれしまい、両手をホールドされて身動きが取れなくなってしまった。
「ええい!目をキラっキラさせながそういうことを言う…オイー!なに爆弾のスイッチに指を当ててんだよ⁉そしてなに超楽しそうな顔してんだよ⁉」
大河が何とか腕を振りほどいて脱出しようともがいているとエルノアが大好物を目の前に差し出されながら待ったをされて、今か今かと待ちわびているペットの様に息を切らして興奮していた。
「ああ、やはりこの今すぐに手に入りそう手を出せないもどかしい感覚は…たまりませんね姉上!」
「ええ、私もそんな高揚した貴女の表情を見ていると胸が高鳴ってきます!
「だからそんなことの心配はしてねー!というか離せ―!頼むから腕を離してくれ!」
2人の美少女。それも一国の王女に左右それぞれ腕を掴まれている様は両手に花といった状態であり、男子ならば血の涙を流しながら大河を羨む場面だった。尚、上空からの落下中及び爆発数秒前であるという状況を省いた場合に限る。
「押すなよ!絶対に押すなよ!」
大河自身もこれまでの経験とこの2人の性格からして停止はおろか中止すらしないであろうことは理解しており、同時に自分の必死の訴えも意味のないものだと理解はしていたが叫ばずにはいられなかった。
「分かっている、分かっている。そういうフリなんだろう?本当に素直じゃない奴だな~ツンデレは」
「だから違ーう⁉」
「仕方ないな。それなら…ほい」
”ポチッ”
それは一瞬だった。気付いた時には大河の人差し指はエルノアの指に重ねられており、そして指の腹にはなにかつるつるとした物体に触れている感触があった。
「はぁ?」
”ピッ”…”ピッ”…”ピッ”…”ピッ”
状況を理解しきれない間に触れていた器具から断続的な点滅音を鳴りだした。恐る恐る目線を下げるとW・K・Bのボタンをエルノアの手によって自ら押してしまっている現状が目に入ったが直ぐには理解が追い付かなかった。
何でこんな爆発寸前みたいなヤバイ感じの音が鳴ってるんだ?ああそうか、俺の指がボタンを押しちまってるからか。ははははは…
「て、てめー!なに恐ろしい物を人様の手で押させてんだよ⁉」
「同志が押したがっていたから押させてやったんだが?」
「俺がいつそんなこと言ったんだよ⁉」
「『押すな、押すな』と騒いでおったのは自分で押したかったからじゃろう?」
「はぁ、ははあぁぁ!?」
「ふ、私は気を遣える女だからな。本当は自分で押したかったのだがお前の指の上から押すことで我慢してやったぞ」
『どうだ、私はえらいだろう』とでも言わんばかりにドヤ顔をかますエルノアのその顔を空中という特殊な場所でなければ今すぐにでもぶっ飛ばしてやりたいとう気持ちだけが沸々と湧き上がってきた。
「浸る気持ちも分かりますが、エルノアそろそろ10秒程経ちましたよ」
「そうですね」
エルノアはポイっと爆弾を投げ捨て、そのまま大河たちより早く落下していった。
「さあ同士ツンデレよ!新しい世界はすぐそこだ!」
「これが私達の新しい門出」
「いいっやぁぁーー‼︎誰か助けてー‼︎」
爆発のタイムリミットが近づく中で大河の叫びは虚しく空に響き渡るのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる