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第1章 異世界転生編
41話 ミラクル・オンリーラブ誕生の話
しおりを挟む「それはもう何年も昔の話、誰もが羨む美貌のご令嬢。ロザリー・クライレッド様がいらっしゃいました。ロザリー様には婚約者がおり、近々結婚予定でした。しかし不幸な事にその婚約者は結婚一週間前に原因不明の病により亡くなられました。そしてロザリー様は婚約者の唐突な死にショックを受けて、悲しみに暮れ部屋に閉じこもってしまったようです」
同情からかクラリスが顔を歪めながら胸に手を当て、エルノアは大河に背中を向けてすすり泣いていた。
「婚約者の悲報が届いた日からロザリー様は部屋にこもりきりになりました。両親ですら部屋に入ろうとすることを拒み、唯一長年ロザリー様にお仕えしていた執事のみが入室を許されたそうです。その執事の話によるとロザリー様は突然亡くなられた婚約者の魂が彷徨わず安らかに眠れるようにと毎日神に祈りを捧げていたそうです」
「それを知った両親は傷心したロザリー様を思いせめて娘の好きにさせてあげようとあの方の事をすべて執事に任せて見守っていた…でしたよね」
「ええ、その通りですエルノア。ロザリー様は自分の中の悲しみを押し殺して早くに亡くなられた婚約者の魂の安寧を願って祈りを支え続け、そんな健気なロザリー様に執事も懸命に尽くしたと言われています」
堪えきれなくなったのかクラリスは目から零れる一筋の涙を指先で拭いながら妹と共に悲しみを共感していた。
「そしてごロザリー様が祈りを捧げ始めてから3カ月が経った頃、突然ロザリー様が体調を崩され何事かと医師に確認させたところ、何とロザリー様のお腹に新しい命が宿っている事が発見されました。それも祈りを始めてからの月日と同じ妊娠12週目であることも判明し、結婚前でまだ清い体のままだったご令嬢が普通に妊娠したとは考えられず、導き出された結果がつまり想像妊娠という事です」
「………」
「ロザリー様は突然の事に驚きましたが涙を流して歓喜しました。『私を憐れんだ神があの方との子供を授けてくださった。この子は天が与えてくださった何よりも尊い宝物だわ』と言って子供を恵んでくださった神に感謝し、両親・執事共に泣いて喜んだと言われています」
「やっぱり神様ってのは…見てくれているんだな」
「そうですね。きっと今も見てくださっている筈です」
語っている最中から伝承に感動し、姉妹共に歓喜に浸り素晴らしいものだと共感している中、1人思考や感情が感動とは程遠い感想を抱き完全に置いてきぼりをくらっている大河が明らかに2人とは異なる低いテンションからなる覇気のなさを感じさせる声で尋ねた。
「…話し終わった?」
「いえ、まだ少し続きがあります」
(俺もうお腹…というか頭が一杯なんだけど。処理しきれない情報のせいで)
「その後子供を産むことを決意したご令嬢でしたが、彼女が独り身のまま出産しそれからやっていくのに不安を覚えた両親は縁談を考えますが、ご令嬢はよく知りもしない相手との婚姻など受け入れられないと言い、どうしても結婚を望むなら相手は長年連れ添ってくれた執事が好いと令嬢は譲りませんでした」
「きっと自分が辛い時に傍に居て支え続けてくれたくれてる内に惹かれていったんだろうな」
「そうでしょうね。最初は両親も少し反対しましたが婚約者を失い傷心し、身重になる娘の事とを考えると下手な男の元に嫁がせるよりも、人柄も良くこれまで娘に尽くしてきた執事の方が娘の幸せを考える意味でも良いかと納得し受け入れ、晴れて2人は結ばれたそうです。そして生まれてきた子供含めて多くの子宝に恵まれて幸せに暮らしたと言われています」
「うぅ…やっぱりいい話だよな。婚約者に先立たれて不運だったロザリー様も執事と結ばれてハッピーエンドを迎えられたし」
「ええ、本当に何度思い出しても涙無しには語れない良いお話です」
語り終えて姉妹共に涙を浮かべながら感動している中、大河だけは青ざめた表情を浮かべながらドン引きしていた。
(こいつ等にとっては胸打たれる感動のお話なのかもしれないが俺には下手なホラーなんかよりもよっぽど恐ろしい怖い話にしか聞こえないのだが…)
大河は反射的にたじろいだ。
(今のが妊娠した経緯にしたって真っ先に誰かとの行為による妊娠を疑うもんじゃないのか?まあ結婚前に婚約者に先立たれ、彼の為に毎日祈りを捧げてたと聞かされた両親とかの立場としては『お前誰かと寝たのか?』なんて聞けないだろうけど。だけど医者は否定しなかったのかよこの非現実的な話を)
本来なら疑われるのが当然そうな場面が何故か神という神聖なものを取り入れる事により奇跡的に子供を宿せた美談にされていて、それを容認してしまっているどころか、彼女を伝説として祭り上げているこの世界の現状に頭を悩ませた。
(それに祈りを捧げるなら教会行って捧げるのが普通なんじゃないの?この世界に教会があるかどうかは知らないけど。でもさっきこの姉妹が神がどうのこうのと言ってた辺りこの世界でも神というものが認知はされてるみたいだしないこともないのか?
まあ、両親すら入れなかったのに執事だけ部屋に部屋に通していたことから考えても恐らく執事と2人きりになる為の口実だったんだろうけど)
大河は本日何度目かもわからない頭痛に悩まされながら痛む頭部を抱え込むように手で押さえた。
(何より最後の方から考えるとまるで執事と結婚したかったから婚約者を暗殺したみたいに思えてならないんだが?仮に婚約者の死が偶然だったとしても子供ができた件はどう考えても神パワーとかでどうこうなったより単純に執事との間にできたとしか思えないんだが?
もしそういうのでなく神の力によってできたものだったら…それはそれでメルヘンチックなのが現実化する恐ろしい世界に来たってしまったって事になるな。まあ、魔王やモンスターやらがいる時点で相当ヤバイ世界なんだけど)
「なんだよ…無情なこと言って平気な面してたくせにお前も大泣きしてんじゃねーかよ」
何とも言えない恐怖に包まれていた大河から吹き出し頬を伝って流れ落ちた多量の汗を涙と錯覚したエルノアが半笑いで嬉しそうに声をかけてきた。
「いや、これは別にそんなんじゃ」
「泣いてるところ見られて恥ずかしいからって照れんなよ」
「泣いてないぞ」
(真面で)
「そう隠すな隠すな。あれ聞いて泣いちまうのは仕方ねーよ。寧ろあれ聞いて泣けないなら人間じゃねーしよ」
(それだと俺人間じゃなくなるのですが?まあ元から人扱いすらされたなかったけど)
「エルノアの言う通りですよ。こんな素晴らしい言い伝えとっみにして感銘を受けない人類など存在しません」
(ここにいるのですが?)
「私も嬉しいです。あの素晴らしい伝承によって貴方の中にあったゲロに塗れた汚物のような腐った邪悪を取り払うことが出来て」
(俺の人格否定酷いな)
「浄化に成功したことでやっと私の思いが通じ、貴方と心を交わす事が可能になりました」
(それ思いっきり錯覚です!一方通行過ぎて発信した電波がどこにも衝突しないまま一周回って自分に帰ってきて通じてると勘違いしてるだけです。こっちには1ミリたりとも伝わっておりません!)
「私達は気にしないのでどうぞ好きなだけ涙を流してください」
(本当に微塵もそんなんじゃないんだけど…そんな他者に気を遣うことができたなら、もっと別の事に気を回してほしかったんですけど)
「感動のまま惨めったらしく泣き喚いてください」
(もうちょっと他に言い方ないの?)
「そして思う存分涙と鼻水を垂れ流し続けてください」
(本当に言い方!)
「いや~クソゴミカス最低野郎と思ってたけど、案外お前いい奴なんだな」
(どうリアクションすればいいんだ?)
会って早々に地の底レベルになっていた大河への好感度が誤解によって何故か普通レベルに上昇し、がらりと変わった2人の姉妹の変化にエルノアに背中を叩かれながらどう対応していいかわからず困惑していた。
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