元BL 作家だったけど

アナログ仕様

文字の大きさ
上 下
1 / 18

鈴のような声だな...、中身はワタシだが。

しおりを挟む
「う、う。」
…何だろう。喉に違和感がある。
「ここは…?」
「王都近くの森だよ。」…王都?現代日本じゃないのか。あの夢は現実になってしまったのか。
じっと手を見る。少しだけ前より大きい、透き通るように白い手。髪を一房。うん、色違う。綺麗な柔らかい
金の巻き毛。きっと零れ落ちそうな大きさの碧い瞳の、少年に、なってるんだろうな。
「大丈夫か?」私は、声の方を見る。
…良かった、通りすがりの人だ。茶髪、茶目の人懐っこい笑みの兄ちゃんだ。動きやすそうな格好の、ド庶民だ。
「はい。大丈夫です。ただ…」何と言っていいのか。色々混乱している。どうでもいいけど、喉から出てくる、自分の声が、アイドル女子並みに高い。
「すみません。田舎から出てきて、脇道に入ったみたいです。働き口と住む所を探しています。」と、伏し目がちで言ってみる。
「偉いな、まだ小さいのに。」
兄ちゃんは、ヨシヨシとわたしの頭を撫でたが、自分15歳、この世界では成人男性だ。
「じゃあ俺んち来るか?俺んちは宿屋やってるんだ。俺は、ライ。お前は?」ニッカと笑ってライはいう。
「シリルです。よろしくお願いします。」
私は、騎士だの、狩の最中のどこぞの貴族様に会わなくてよかった、と思いつつライんちに向かった。

私、今は、シリル少年だが、中身は残念なBL作家だ。シリル君は私の生前書いてた作品のキャラ(受)だ。
そこら辺のアイドル顔負けの愛らしい容姿に、海のように広い心を持つ。彼は、商家の三男でかなり大きな商売をしているが、支店に向かう所で襲われる。色々消し飛んで、彼だけ生き残ってしまった。…そうとも。ちゃんときちんと、話して、諸々退治に行かにゃならんのだろう。が、今は嫌だ。
私は、色々の残骸を、見なかったことにした。

「はあ、まったく…」
私は、机と椅子、ベッドのみの6畳ほどの部屋でため息をついた。私は転生したらしい。
締切が明けて、ホッとして、んじゃ寝るかって、したところから記憶がない。
気が付いたら目の前にやたらまぶしい存在が居て、「この度は」とか。なんでも、地震と火事で、「この度」にあいなってしまったらしい。
「ただ、」「なんです?」「あまりにも気の毒に」
「かな。私割と好きなことしかしてないし、残ってたらやばいようなあれこれまで、残らず片付いているなら上等な気もするんですけど。」
だから、そんな顔しないで。
「誰かと心を通わす喜びを知らないのは寂しい。」
それは、どちらの、声?
「たとえば、この話の」
それは、出版される予定の。まだ先の。
「あなたは、しらないと」
そして、視界はホワイトアウトした。

 シリルは、森の入り口で、放心している所を騎士に救われるが、強大な魔力を持っているということで、城に連れられて行き、勇者たちと諸々、それこそ諸々あるわけだ。しかし、シリル君の中身は私だ。今諸々は欲しくない。なんなら、そんな覚悟ない。
 コンコンと、ドアがノックされる。
「俺だ。」
ドアを開けるとライが具沢山のスープとパンの皿の乗ったトレーを持って立っていた。
「ありがとうございます。」
 あれから、森の端につないであった馬でライの家の宿屋までいき、着替えを借りて風呂をいただいた。魔石付きの木桶で魔力を魔石に込めると自動(?)でお湯が溜まる。
身ぎれいにしたところでダボっとした、借り物シャツとズボンを着る。うん。
 ライは、おおっ、て顔をする。いいたいことはわかる。彼シャツ。袖をまくってもでかい。
「よかったら、うちでしばらく働かないか。」
「いいんですか?」いただきます、と食べ始める。よく煮込んだ肉と野菜入りのビーフシチューに似た…。美味い。
「ああ。親父も喜ぶぜ。お前かわいいし。」
 ライの性別の誤解は解いてある。かわいいとは。私にはライについてはいまいち分からない。メインキャラではなかった、っていうかこんな人描いたっけ。
「これで、薪の束とかはこぶしな。」ライはスープを食べてる私の頭をワシワシと撫でる。馬に乗ってた荷を下ろすのを手伝ったらガン見されたな。
「かわいいとは。」
「まんまだよ。」ニッカと笑う。…あれこの人よく見りゃイケメンでは。今そんな設定いらんけど。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女のお母さんのブラジャー丸見えにムラムラ

吉良 純
恋愛
実話です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

結婚相手の幼馴染に散々馬鹿にされたので離婚してもいいですか?

ヘロディア
恋愛
とある王国の王子様と結婚した主人公。 そこには、王子様の幼馴染を名乗る女性がいた。 彼女に追い詰められていく主人公。 果たしてその生活に耐えられるのだろうか。

妹しか守りたくないと言う婚約者ですが…そんなに私が嫌いなら、もう婚約破棄しましょう。

coco
恋愛
妹しか守らないと宣言した婚約者。 理由は、私が妹を虐める悪女だからだそうだ。 そんなに私が嫌いなら…もう、婚約破棄しましょう─。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

処理中です...