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1/16.開戦
しおりを挟むスペース新世紀一〇〇年。
人類がスペースコロニーを新たな住居として一〇〇年が経過していた。
新天地を得てますます発展するかと思われた人類。
だが、地球と宇宙の間で新たな対立が勃発する。
スペース格差社会。
地球で産まれた者と宇宙で産まれた者。
空気が当たり前に存在する地球と、空気の有無が生死に直結する宇宙。
生まれた時点で大きな格差が存在するにも関わらず、地球は更なる利潤を求めて惑星開発の利権を優先的に主張する。
もともと人類の宇宙進出は、目減りする一方の地球の資源に代わる新たな資源。
各惑星に埋没するスペース資源を求めての政策である。
その橋頭保として、全てのスペースコロニーは地球が建造、管理していた。
地球の主張は当然である。
だが、地球は欲張りすぎた。
利権の九割を持っていかれたのでは、宇宙は地球の奴隷でしかない。
地球の主張に対して、宇宙を住居として産まれた人類。
宇宙人類とも呼ぶべき者たちは、宇宙は自分たちの領土であると主張する。
いわく月や火星をはじめとした宇宙での利権は、全て宇宙に存在すること。
宇宙で採掘されるスペース資源は、莫大な関税を経て地球へ輸出すること。
そして、あらたに宇宙政府を発足。地球からの独立を宣言した。
当然、地球は大きく反発する。
こうして、スペース資源をめぐる主導権争いから、地球と宇宙は全面戦争に突入する。
──開戦から一年。
宇宙軍、第五機動艦隊に所属するエイス少佐は、自身が搭乗するSM(スペース人型機動・マシーン)のコクピットから、無防備な敵SMの背後を捉えていた。
エイスが操縦桿のトリガーを落とす。
ドンッドンッドンッ
携行するスペース小銃が閃光を放ち、音速をはるかに超えた速度でスペース徹甲弾が射出される。
ズドーン
狙いたがわず動力炉に全弾命中。
射出される脱出ポッドを尻目に、すでにエイスは左右から襲い来る敵SMに目を向けていた。
現在エイスが所属する宇宙軍。
その第五機動艦隊は、スペースコロニー周辺で地球軍艦隊と遭遇。
戦闘状態に移行していた。
スペース空母を発艦した両軍SMが接触。
制宙権を得るべく戦闘が開始される。
SM(スペース人型機動・マシーン)とは、宇宙作業用であった人型作業機械を起点に、新たに戦闘用に製造された人型の宇宙兵器である。
ダイレクト神経接続ヘルメットを介した思考認識により、まるで自分の身体を動かすよう、自在に動かせる利便性。
二本の腕を持ち、戦況にあわせて武装を換装できる汎用性。
艦艇に比べて小型の機体は、機動性、隠密性にも優れることから、スペース戦艦に代わる主戦力として、いわば宇宙空間における航空機としての役割を担になっていた。
両軍を発艦するSMの数は、地球軍が宇宙軍を大きく上回る。
となれば地球軍優勢かと思われるなか、戦闘は宇宙軍優勢で進んでいた。
なかでも、宇宙軍の中でひときわ目立つ活躍を見せるSMが一機。
全身を黄色く染め上げたSM。
漆黒の宇宙空間において、あえて自機の存在を誇示するよう塗装されたその機体。
そのSM。アカツキ改こそが、第五機動艦隊のエースパイロット。
エイス少佐の乗機である。
開戦以来、単独で艦艇三十隻。
SM二〇〇機撃墜という比類なき武勲を立て続けるエースパイロットであり、共同撃墜数は、その数倍を数えるという。
その功績から数々の勲章を授与すると共に、量産SMであるアカツキの改造が特別に許可されていた。
左右の敵SMから放たれる砲撃を、エイスは巧みに回避する
挟み込んだまでは良いが、お互いが同士撃ちを恐れて銃撃が甘い。
回避と同時にアクセルを踏み込むエイス。
わずかに動きの劣る右SMへ、一息に距離を詰めていた。
二対一。
挟み込まれて逃げ惑うはずのエイスの急接近に、敵SMは慌てたようにスペース小銃を乱射する。
だが、ここは宇宙空間。地球軍が良く知る地上ではない。
重力という縛りの消えた宇宙空間。
地球では考えられない急角度でアカツキ改は上昇。
一瞬で視界から消え去っていた。
連携して追うはずだった敵SMは、乱射される銃撃に阻まれエイスの機動を阻止できない。
その間にエイスは敵SMの直上から背後へと。
スペース刀剣を手に駆け抜ける。
ズバーッン
その機動は、宇宙を駆ける稲妻。
動力炉ごと上半身を切断され火花を散らす地球軍SM。
ドズンッ
数秒後、爆発と同時に脱出ポッドがこぼれ出していた。
宇宙戦闘は、かつての地球における大戦時代のように、パイロットの技量が勝敗を大きく左右する。
それは、宇宙塵を改良して作られた宇宙世代の粒子。
スペース撹乱粒子の存在によってである。
スペース撹乱粒子の散布下においては、レーダー。無線。
それらを用いた誘導兵器。ミサイルなどの全てが、ごく短距離でしか機能しなくなる。
加えて、スペース撹乱粒子には、疑似質量を生成する副次効果が存在する。
地球軍SMがエイスを狙い発砲する。
カーン
その砲撃は、エイスが構えるスペース盾に弾かれ、あらぬ方角へ消えいった。
本来。空気も重力も存在しない宇宙空間。
ひとたび動きだした物体は、決して止まることがない。
100キロ先から放った銃弾は、勢いを落とすことなく。
地面に落ちることなく、そのままの速度で目標へ到達する。
だが、スペース撹乱粒子が散布された戦場。
大気中における空気抵抗と同じように、粒子抵抗が生成されるのだ。
今の距離は、スペース小銃の有効射程を大きく越えた距離。
エイスは加速。十分に距離を詰めた後、スペース小銃を発射した。
ドンッドンッドンッ
エイスが放つ銃弾は、地球軍SMの盾を貫通。
その胴体部部を直撃、戦闘不能へと追いやる。
空気が存在しない宇宙空間。
お互いの距離感をつかむのは難しく、音もなければ上下すら存在しない。
とどめに、地球軍ご自慢のハイテク兵器が制限された宇宙戦闘。
となれば、宇宙に暮らす宇宙軍パイロットの技量が、地球軍を上回るのも必然。
宇宙という未知の環境に対して、地球軍のパイロットは未だ不慣れであった。
だからこそ、地球軍と戦い続けることができる。
しかし、それも近いうちに限界がやってくる──そうエイスは考える。
地球軍のパイロットも宇宙戦闘の訓練を、実戦をこなしており、お互いの技量差が縮まっていることをエイスは実感していた。
何より、最も大きいのが資源力。戦力の差だ。
月や火星での採掘が起動に乗ってからの開戦であれば、スペース資源が豊富に眠る宇宙が有利であっただろう。
だが、ようやく採掘の目途が立った段階での開戦。
未だスペース資源の採掘作業は芳しくない。
対する地球は、埋蔵量が減少しているとはいえ、充実した採掘設備、生産設備を有している。
宇宙政府は失敗した。独立を急ぎすぎたのだ。
撃墜しても撃墜しても地球軍の戦力は増すばかり。
反面。損耗した宇宙軍の戦力が補充されることはない。
今や、どの戦場も宇宙軍の敗戦は珍しいことではない。
しかし、今回の戦場は違う。
襲い来る砲撃をエイスは巧みな機動で回避する。
傍から見れば何気なく操縦桿をひねるような。
そんなわずかな動作だけで、敵SMを照準の中央に固定していた。
ドンッドンッドンッ
アカツキ改のスペース小銃が閃光を発するたび、地球軍SMが爆発する。
戦場で一際目立つよう、黄色く染め上げられたアカツキ改。
その戦果は友軍を鼓舞すると同時に、敵軍を恐怖に陥れる。
動きの乱れた地球軍に対して、一斉攻勢に出る宇宙軍。
敵SMを友軍に任せたエイスは、敵スペース空母に向けて加速する。
スペース空母を落とせば、敵SMの戦闘継続は不可能。
燃料。弾薬。
何より酸素がなくなれば、死ぬしかない。
ダダダッダダダッダダダッ
空母から無数に放たれる対宙スペース機銃。
SMが近づこうものなら瞬く間に蜂の巣となるであろう弾幕を、エイスは難なくかいくぐる。
アカツキ改はSM戦闘用に設計された制宙SM。
一番の売りはその機動力にある。
ドンッドンッドンッ
回避と同時に火を噴くスペース小銃。
反面、対艦戦闘用の重装備を所持しない。
エイスが狙うのは、対宙スペース機銃。その砲塔。
そこから生まれる対宙弾幕の間隙。
手兵装をスペース散弾爆雷銃へと換装。
一息に距離を詰めると
ドガガンッッ
至近距離から斉射した。
元々は、極小の爆雷を放射状に射出する対SM用装備。
散弾のため高速飛行するSMにこそ有効だが、有効射程の関係から艦船を相手に使用することは稀である。
ドガガンッッ
さらにもう一射。
接射するほどの距離から放たれた散弾爆雷。
極小の散弾とはいえ、その全てが同一箇所へと収束。
爆発した際の破壊力は、艦艇の重装甲すら吹き飛ばす。
動力炉を破壊され、白旗を掲げる敵スペース空母。
同時に周辺宙域での戦闘は終了した。
戦いの終結した宙域で、エイスはアカツキ改を駆り漂流者の捜索を行っていた。
わざわざエースパイロットがやるべき任務ではない。
だが、エイスは自身の意志で捜索活動を行っている。
戦場では敵味方関係なく多くの者が撃墜、漂流、そして命を落とす。
エイスの戦友たちも──そして、かつての恋人メディも。
メディは別艦隊のレスキュー隊に所属していた。
戦いを好まない女性だったが、宇宙のため。
そしてエイスを手助けしたいと宇宙軍に志願。
主に漂流者の捜索、救助を行っていた。
スペース撹乱粒子の影響により、遭難信号すら短距離までしか届かない宇宙。
いかにサバイバル能力のある人間でも、空気が無くなっては死ぬしかないのが宇宙。
艦隊を遠く離れて遭難した者は、レスキュー隊の救難艇だけが頼りとなる。
そのため両軍のレスキュー隊の活動は、宇宙条約によって危害を加えることが禁止されていた。
メディには丁度良い任務だと安心していたのだが──
三ヵ月前。レスキュー隊として出航して以降、メディの消息は不明となる。
救難艇に搭載された酸素は半年が限界。
敗色濃厚な宇宙軍において、遭難したレスキュー隊を捜索する余裕はない。
エイスは捜索を志願する。
しかし、上層部はエースパイロットであるエイスが前線を離れることに難色を示す。
その代わりとして、艦隊から離れすぎないことを条件に、単独行動の許可を与える。
戦闘時以外は、エイス独自の判断で行動が可能となる特別許可。
これにより、エイスの行動は艦長とて抑制できるものではなくなっていた。
それ以降のエイスはスペース撹乱粒子の濃い宙域、遭難信号の届かない宙域において、エースの腕をいかんなく発揮。
漂流者の捜索においても、エースとして知られるまでになっていた。
それでも、肝心のメディは未だ発見できていない。
今回の捜索でもエイスのSMは遭難信号を見つけられず、前方には暗黒の宇宙が広がるばかり。
しかし、エイスの直感が。
エイスがエースパイロットたりえるその直感が、前方に不穏な騒めきを感じ取っていた。
エイスは迷わずアクセルを踏み込み、前方宙域へと加速する。
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