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29.超・天才流剣術
しおりを挟む「さあ。いよいよ準決勝。最初の試合は、2回戦でサブ・マシ選手を相手に完勝したミランダ・カノン選手。そして超・天才剣士・改2選手です」
「ミランダ・カノン選手は、攻守において完璧な選手。パーフェクトナイトですから。これは戦う前から勝負ありと言わざるをえませんね」
場内で相対するミランダ・カノン。
まるで騎士のような出で立ち。
その全身を金属鎧で固め、左手に巨大な盾。
右手に巨大な砲塔を持っていた。
「えー。資料によりますと、ミランダ選手の持つ大砲は、10センチの鉄板をも破壊する威力があるそうです」
「はっはっ。そうなんですよ。無反動砲。城塞破壊用に作られた、個人携行できる大砲みたいなものです」
「そして、ミランダ選手が持つ大盾。3回戦ではサブ・マシンガ選手の銃撃を完全にシャットアウトしました。凄いですね」
「はい。銃弾すら防ぐ10センチの特殊鋼で作られていますからね。最強の矛と最強の盾。負けようがありませんよ」
ならば、その大盾とやら。
性能を確かめさせてもらうとしよう。
ウイイイイイイイイン
試合開始と同時。
さっそくガトリングガンを作動させる。
ドガガガガガガガガガガガ
唸りを上げて銃弾が収束。
カノンの構える大盾を勢いよく打ち付ける。
カンカンカンカンカン
「ああー! ミランダ選手。ガトリングガンの直撃を受けて、ビクともしていません! なんという防御力でしょうか!」
「はっはっ。ガトリングガンは優れた武器ですが、あくまで対人用。要塞なみに分厚い大盾には通用しませんよ」
ガトリングガンを受けきったミランダが右肩に無反動砲を担ぎ上げる。
ターゲットは、もちろん俺だ。
ドカーン
発射。
強烈な後方排気を残して、巨大な弾頭が接近する。
なるほど。
デカイ弾頭。おそらくはその破壊力も破格だろうが……遅い。
華麗にサイドダッシュで回避する。
「おーっと! 超・天才剣士・改2選手。なんと砲撃を回避したあ!」
「だからさあ……もう無茶苦茶やん? 斬ったり避けたり、あんなん人間ちゃうやん……」
ドンガラッシャーン
外れた弾頭が闘技場の壁面に衝突。
大爆発により、防弾ガラスが破壊されていた。
「そして今の爆発で観客に死人が出た模様です。観戦される方は注意して観戦してください」
「どや! 無反動砲の破壊力を見たかいな!」
お次は俺の番。
野郎の無反動砲。威力は絶大な反面。
弾込めにかかる時間も長い。
その時間をカバーするための大盾なのだろう。
ミランダは大盾に隠れ、その陰でゆうゆうと弾込めを始めようとしていた。
そのような余裕……与えようはずがない!
「超・天才流剣術・改2。ガトリング☆パージ」
肩ひもを外して投げ捨てるガトリングガン。
身軽となった身体でもって、一息にミランダの元へ走り出す。
「なんとお! 超・天才剣士・改2選手。虎の子のガトリングガンを投げ捨てたああ! どうやって戦うつもりだあ?」
「こらああ! ワイのガトリングガンを放り投げるやつあるかい! もっと丁寧に扱わんかい!」
確かにガトリングガンは強力な武器。
だが、超・天才剣士・改2の強さは、ただそれだけではない。
急速なる接近に慌てるミランダ。
もう遅い。すでに手遅れである。
ガトリングガンに代わり、両手に持つはショットガン。
ミランダが構える大盾に足を掛け乗り越え、その内側へ。
金属鎧の腹部に押し当て──
ドガシャーン
ショットガンを接射した。
散弾の集中直撃。
金属音が鳴り響き、ミランダの身体を大きく吹き飛ばす。
「これはあーっ! ショットガンです。なんと至近距離からのショットガン。これはミランダ選手、勝負ありなのか?!」
「また勝手にワイのショットガンを使いおってからに……」
吹き飛び、倒れたはずのミランダが立ち上がる。
その腹部。
ショットガンが直撃したにも、金属鎧はへこむに留まっていた。
「まじかあ?! 至近からショットガンを受けたにもかかわらず。ミランダ選手は健在です!」
「はっはっ。ミランダの鎧は英下衆騎士の誇る全身金属鎧。それを防弾向けに改造した防弾鎧というべきものですからね。とくに散弾は殺傷範囲が広い反面、物体破壊力には劣りますから」
対。銃撃戦闘を想定した装備。
それを備えるのがミランダ・カノン。
吹き飛び倒れた衝撃で外れた兜。
長い髪がこぼれ落ち、その顔が露わとなっていた。
「お前は……筆頭騎士か?」
「……いかにも。憲伸くん。このような場面で相対するとは残念だ」
英下衆大学への転入初日。
道場で暴れる憲伸を、いさめた相手。
憲伸の挑発にも礼儀正しく対応した、まさに英下衆騎士といった好人物。
その筆頭騎士が、なぜ銃火器を手にする?
「私は奈美くんに敗れた。そして、銃マスター。ココロ・セーラくんにも。それだけではない。その後も銃を相手に負け続け、騎士としての誇りを完全に失ったのだ」
まあ、それだけ負けが込めば威厳も台無しになる。
「特に……銃なしでは私に敵いもしない相手。それが銃を持った途端、今度は私が敵わなくなる。その時の私の気持ちが分かるか?」
今の今まで雑魚だと侮っていた相手に完封される。
確かにショックではあるだろう。
「思い知らされたのだよ。これからは銃の時代だと。その結果が……この装備だ!」
ミランダが腰からサブマシンガンを取り外し構える。
「ここでミランダ選手。サブ選手から奪取したサブマシンガンを取り出したぞー! これは形勢逆転かー!」
「はっはっ。最新技術の銃と、伝統ある騎士による奇跡のコラボ。それがミランダ選手です。負けるわけあらしまへんがな!」
その引き金が引かれた。
パパパパパパパッンッ
瞬時。サブマシンガンを発した無数の弾丸。
秒間10発の連続射撃が憲伸に襲い掛かる。
「これが銃の力。騎士が銃により終わったように。憲伸くん。侍もまた銃の前に散るのが運命だよ」
筆頭騎士……なんと情けない奴。
銃に負けるのはやむをえないとしても。
銃の前に己の魂まで屈するなど……
自身に迫る無数の弾丸を前に。
憲伸は地に転がる大盾を拾い上げ、その背後に身を潜める。
カンカンカンカンカン
「おおーっと! これは超・天才剣士・改2選手。ミランダ選手の手放した大盾を利用した頭脳プレイです!」
「あんのクソガキキキキリキリキリ!」
撃ち終えたサブマシンガンから、ミランダが弾倉を取り外す。
その隙に。
大盾から身を乗り出した憲伸。
左手に構える拳銃を発砲した。
パン
カン
ミランダの鎧に当たるも、銃弾が弾かれる。
「ああっと。これは駄目です。ガトリングガンを手放した超・天才剣士・改2選手。拳銃はミランダ選手に通用していません」
「はっはっ。防弾鎧と言ったそばから馬鹿な男ですな」
通用するか。しないか。
それは、俺の技を見てから言ってもらおう。
「超・天才流剣術・改2。シューティング☆スター☆5連」
パン パン パン パン パン
連続発砲する。5発。
いずれも狙いは正確。
カン カン カン カン ドン
ミランダの右腕の同箇所へと着弾する。
「おあーっと! 通用しないかに見えた拳銃ですが……ミランダ選手。右腕から血を流しています! サブマシンガンを取り落しているぞー!」
「なんでや! 奴がコソ泥した拳銃は旧式。1発しか装填できんはずやがな!」
ゴミィの改造の結果。
6発の同時装填。連続発砲が可能となったこの拳銃。
精度も完璧。
いかに防弾鎧といえ、しょせんは人が身に着けるべき鎧。
身動きのためには重装甲にも限度があり、同箇所への連続被弾には耐えられない。
大盾を飛び出した憲伸。
サブマシンガンを取り落したミランダの元へと肉薄する。
「何が魂だ! 憲伸くん。君も剣を、刀を捨てたのだろう? それを!」
慌てたようにサブマシンガンを拾おうとするも、使い慣れない武器。
さらには、利き腕でない左腕。ミランダは銃を取り落していた。
馬鹿が!
とっさの時に身体が反応するのは。
それは使い慣れ親しんだ武器。
幾度も繰り返し身に染みた魂の動き。
俺は、何も捨ててなどいない。
腰に差す刀に手を掛け。
憲伸は一息に抜き放つ。
「超・天才流剣術。撫子流。居合い切り」
ズバーン
防弾鎧が真っ二つに両断され、地に落ちる。
新たに譲り受けた撫子の刀。
撫子一徹。
見事な切れ味。見事な武器。
俺は剣を捨てたのではない。
俺が、銃を取り込んだのだ。
返す刀をミランダの喉元へ突き付ける。
「筆頭騎士ミランダ。勝負あり。だ」
俺の剣術は我流。
放つ技は、いずれも他人の技を模倣した2流品。
だからこそ。刀も。重火器も。軽火器も。
全てを取り込み、自在に戦うのが超・天才流剣術。
超・天才剣士・改2というもの。
騎士である貴様が騎士を捨てた。その時点。
すでに勝負はついている。
「くっ……殺せ……」
「すでに殺している。貴様の邪念。剣士は、騎士は終わりだという。その心。今はどうなのか?」
「いや……銃に負けたのは騎士ではなく私……そういうことか……」
頭を垂れ、胸に手をあてる。
筆頭騎士は降参の意を示していた。
「勝負ありいいい! ミランダ選手。降参です。超・天才剣士・改2選手。決勝戦進出です!」
「まあ。やっと剣士らしいやん。つーか、ほんまに剣士やったんかいな……」
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