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17.SSランク剣士

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翌朝。

「ケンシン。大丈夫なの?」

大丈夫ではない。が。

「ギプスで固定されている。問題ない」

折れた肩甲骨が痛い。
しかし、それ以上に。
ゴミィを1人で登校させたのでは、俺の心が痛くなる。

「でも……憲伸。本当に殺されるかもしれないの」

今さらの疑問。

「俺は超・天才剣士・改。だからだ」

留学生に対する不当な、いじめ。嫌がらせ。
いじめられる方にも、抵抗しない方にも問題があると世間はいう。
確かに一理あるが、それが全てではない。

ゴミィの相手は貴族クラブ。

相手は集団。
相手は強大。
味方は皆無。

ゴミィでなくとも、誰であっても。
超・天才剣士ですら抵抗は不可能。
この状況で抵抗できる者など存在するはずがない。

いや。存在するのである。
それが超・天才剣士・改。

「貴族クラブに見つかるの。やめたほうが……」

「ゴミィ。俺はいない方が良いか? 帰国した方が良いか?」

卑怯な疑問。質問。

「……うん。わたしだけの方が何とでもなるの……」

自分と同じように傷つく姿を見たくない。
心優しいゴミィであれば、そう言うだろう。

それが分かるから──

「シャラップ。黙れ。ゴミィが何と言おうが俺は行く」

俺はゴミィの腕を引っ張り、無理矢理にも先を行く。

今のゴミィに必要なのは、親身な相談相手ではない。
立ちはだかる敵。全てを斬り殺す、絶対の力。
超・天才剣士・改の力。





「……にゃん!?」
「け、憲伸さん?! なんで登校しているんですか?」

登校途中。
撫子とココロちゃんに挨拶する。

「なんでも何も。俺は留学の身。授業料を払っているのだから登校せねば損だろう」

白銀刀を質に入れてまで手にいれた金。
無駄には出来ない。

「まあ。そうなる気はしたにゃん」

奈美が逃げなかったのだ。
俺が逃げるわけにはいかない。

「いや。そんな落ち着いてる場合じゃなくて。構内は貴族クラブの方がたくさんですよ?」

落ち着くのは撫子。お前の方だ。
そもそもが、身の危険があるとしても、俺であって撫子ではない。

「!? 撫子? け、憲伸さん。私の名前。覚えてくださったんですね」

人を痴呆症か何かと思っているのか?

まあ良い。
とっとと講義に向かうとしよう。

「わ、私もご一緒します。2人の方が相手も手を出してこないんじゃ……」

「撫ちゃんは駄目にゃん」

「ですが」

「もう手打ちは無理にゃん。近寄ると、とばっちり受けるにゃん」

今さらの手打ちなど不要。
例え白旗を掲げようが、俺の方が取り合わない。

「ゴミィのことなら心配は必要ない」

「えっと、その謙信さんのほうが」

超・天才剣士・改となった今。
それこそ無用の心配である。





ゴミィに連れられたどり着く教室。

「えー三角関数がーサインコサインタンデントでー」

例によって何だかよく分からない講義が行なわれていた。

「ああ? またゴミ来てんのかよ」
「今日もゴミ掃除いっときますか」
「って、やべーよ。男も一緒やん」

貴族クラブの連中。
一昨日。あれだけ掃除したというのに、随分と数がいるものだ。

「へーきやって。あのギプスを見ろ」
「ココロさんに肩の骨折られとるんや」
「あの様子じゃ剣を振るのは無理や」

俺の姿を見て怯んだかに見えた連中だが、すぐに元の勢いで突っかかってきていた。

「おらおら。ゴミ掃除の時間や」
「今日はデカイゴミも一緒やん」
「まとめて掃除したるでー」

案外。綺麗好きな面があるのかもしれない。
その情熱を良い方向に生かせば良いものを。

俺たちの目前に立つ7人の男。
邪魔すぎる。講義が見えないではないか。

英下衆国は貴族と騎士の国。
貴族クラブの連中がデカイ顔をするのは仕方ないとしても。
真面目に講義を受ける人たちの邪魔である。

相変わらず誰も注意しないのであれば……

「そうだな……ゴミ掃除といくか」

ガタリ。座席を立ち上がる。

「ひっ。や、やる気か?」
「へっ。びびんなよ。見せかけだけや」
「おらおら。その怪我で、やれるもんなら、やってみんかい」

確かに俺の右腕は動かすのも痛い状態。
刀を抜いたとしても、かつての技の冴えは出せないだろう。

だが──言ったはずだ。
今日からの俺は、超・天才剣士・改であると。

カチャリ

「ひっ。な、なんで?」
「ちょ?! おま……それは」

左手で抜き放ち、目前の男に突きつける。

「それ……拳銃やないけ!」
「なんでお前がそんな物を?」

一昨日の乱闘の際。
槍男が落とした拳銃を回収しておいたもの。

右腕が動かなかろうが、関係ない。
懐にしまえる大きさで、左手1本で扱える。
この拳銃こそが、改型が改たる由縁。

「へっ。どうせ見せかけだけや」
「せやせや。あれだけ痛い目みたんや」
「もう貴族クラブに歯向かう気はないやろ」
「撃てるもんなら、撃ってみんかい。おお?」

ダーン

「ひぎゃー。いてえ!」
「撃たれた。撃たれたぞー」

何を騒ぐのか?
撃てというから撃ったまで。

左手1本で薬室を開き、薬莢を排出。
新たな弾丸を拳銃へと込め直す。

「てんめー。もう戦争や」
「ココロさんが何を言おうが関係ねえ」
「おうさ。ぶっ殺してやんよ!」

そして、なにが戦争か。
無抵抗のゴミィをいたぶり、奈美をリンチした貴様らとは。
すでにとっくに戦争状態。

「超・天才流剣術・改。シューティング☆拳銃発スター

ダーン

「ひぎやああ。撃たれたー」

銃を取り落し、男が腕を抱えてうずくまる。

「おらー。野郎の銃はもう弾切れや」
「しねー」

銃弾を撃ち切った憲伸を目がけて、男が躍りかかる。

勢い込んで向かって来る男に向けて。
ギプスのままの右腕。腰から刀を抜き放ち。

ズバーン

刀の背で叩き伏せた。

「ぎえー。頭が割れた」

負傷した右腕。叩き折られた肩甲骨。
銃弾を弾き返すような技は使えなくとも。
痛みを我慢するなら。人を叩き伏せる程度には動かせる。

「こ、こいつ。銃を使うくせに接近戦もやるとか」
「ココロさんの真似か?」
「こんのパクリ野郎が」

残念だが、ココロちゃんとは少し違う。
ココロちゃんは右手と左手。合計2丁の拳銃を持つ。

対する俺は左手に拳銃。
右手に刀を持つ、1刀1丁流。

近距離、中距離、遠距離。
全ての距離で戦うオールラウンダー。

超・天才剣士がSランクだとするのなら。
1ランク上のレアリティ。SSランクの剣士。

それが、超・天才剣士・改。
生まれ変わった俺に死角はない。
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