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85.森の旅路

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 100/11/6(日)09:00 クランハウス

 最強勇者復活の日から3日が経過した。
 まだまだ俺を歓待する宴の予定がひっきりなしではあるが、これまでだ。
 少々宴会にも飽きがきたことだし、良い頃合いか。

「というわけで最強勇者、出陣する」

「何が、というわけなのぉ?」

 まったく話を聞いてくれない。

「カモナー。言っただろう? 最強勇者が最強たるためには、多数の信者が必要だと」

「僕がいるよぉ!」

「ああ……ありがとう。だが、カモナーだけでは足りないのだ」

「浮気だよっ!」

 いや。浮気も何も俺とカモナーはそんな関係ではない。
 まだお風呂を覗いた程度にすぎないのだ。

「すまないが、最強勇者にハーレムは必須。仕方のないことだと諦めてくれ」

「うゆ……」

 現代日本で暮らしていたカモナーは、ハーレムに抵抗があるようだ。
 俺のように順応せねばならないというのに……困ったものだ。

 まあ、幸いハーレム要員には困っていない。
 サマヨちゃん。グリさん。アルちゃん。ウーちゃん。イモちゃんなどなど。

 焦る必要は何もない。
 ハーレムが異世界の常識だと理解するまで、手を出すのはおあずけにしておく。
 貴重なスキルを持つカモナーに嫌われても困るからな。

「勇者様。出発準備OK」

 働かないカモナーに代わって準備を整えるのは、チェーンさん。
 まったく、どちらが副リーダーか分かったものではない。

「うむ。ご苦労。では行くぞ!」

 今回、ファーの街を発つのは、俺、サマヨちゃん、カモナー、グリさん、アルちゃん、ウーちゃん、ファンちゃん、イモちゃん、チェーンさん、ナノちゃんと少女10名。

 合計20名の大所帯。
 目的は、もちろんタローシュの抹殺だ。

 が、タローシュのいる王都まで。その道のりは遠い。
 道中の街に立ち寄り、最強勇者の信者を集めながらの移動である。
 都合。王都に着くころには、信者の数は5万人程度になるだろう。

 これならタローシュにも圧勝である。
 もちろん信者などなくとも圧勝ではあるが、最強勇者は用心深い。
 最強を維持するには、常日頃の用心が必須というわけだ。

 スマホから購入した高級馬車に乗っての旅。
 グリさん、ウーちゃん共に嫌がって引いてくれなかったため、引くのは適当に購入した高級馬。

 まあ、グリさんは戦闘。ウーちゃんは乳しぼり。
 どちらも本来の仕事があるので、強く言うわけにもいくまい。


 100/11/9(水)10:00 森の街道

 そんなわけで、旅を初めて3日が経過した。

 車窓から見えるは一面の森。さすがに景色にも飽きてきたころ。

 イジルべきカモナーはといえば、グリさんに乗り、適当に付近を飛んでいた。
 おのれ……あちらの方が面白そうである。

 だが、まあ、あれはあれで周囲の警戒という大事な任務……のはず。
 まさか遊覧飛行を楽しんでないよな? 付近の偵察だよな?

「勇者様。背後から何か近づいてくる」

 だが、俺の期待とは裏腹に警戒を告げるのはチェーンさん。

 馬車で移動する俺たちの背後から追いつくとなれば、かなりの速度。
 普通の旅人や行商人ではあるまい。

 折しも今は森を走る街道の真っただ中。
 このような森で出没するのは、山賊に決まっている。
 いや、森だから盗賊か?

 どちらにせよ、退治するのが勇者の役目。
 ちょうど退屈していたころだし丁度良い。

「我らに近づくのは何者か! コソコソせず姿をあらわせい!」

 俺の一喝に応えて、背後から近づく者が姿を現した。

「誰がコソコソしてるですって? あなた達こそ私たちの森をいつもコソコソ荒らしておきながら、よく言えたものね」

 近づくのは1人の人間。
 いや、この耳の長さ。美しさはエルフか?

 森の住人と呼ばれるエルフ。
 俊敏な動きが特徴と聞くが、まさか徒歩で馬車に追いすがるとはな。

「いつもコソコソ荒らすとな? であれば、俺たちではない。何せこの森を通るのは今日が初めてだ」

「嘘をつきなさい! そのような高級馬車が他にあるわけないわ」

 スマホから購入しただけあって、高級馬車は特別に大型の馬車である。
 そのおかげで、俺たちだけでなく、牛のウーちゃんですら乗ることができる贅沢な造り。
 確かにこんな馬車。スマホから購入する以外、存在しないだろう。

 となれば、エルフ女の言葉を踏まえるに、スマホを持つ者。
 他の神の御使いが森をコソコソ荒らしているということだ。

「であっても、俺ではない。勘違いも程々にしておくことだ。いくら勇者が寛大とはいえ、濡れ衣を着せられて黙っているほど温厚ではないぞ?」

「いつも私のいない時を狙って森を襲うくせに! 私の前に姿を現したのが運の尽きよ。覚悟なさい。エルフの森を荒らす者は、森の英雄ウッディが許さない」

 ピシュッ

 瞬時に放たれた矢が俺を目がけて飛来する。

 弓の抜き打ちか?
 先ほどまで何も手にしていなかったというのに、かなりの早業。
 荒野のガンマンも真っ青になるレベル。

 だが──ここは荒野でもなければ俺はガンマンでもない。

「へやあー!」

 バシッ

 飛来する矢を、俺は二本の指で挟み取る。

「んえっ!?」

 驚いた声は可愛いが、なんだ? 
 矢を止められたのがそんなに驚くようなことか?

「たわけ! 人に向けていきなり矢を放つ奴があるか! どのような教育を受けている! 貴様は未開の蛮族か?」

「なっなっ!」

 俺の挑発に顔を赤くするエルフ女。

 さすがはエルフだけあって、赤らめた表情も可愛いもの。
 できれば恥じらいで赤くしてほしいものだが。

「勇者は暴力を好まない。だが、敵対するなら話は別だぞ?」

 エルフ女との距離は約10メートル。
 近づいて殴るには距離がある。となれば、遠距離攻撃。

 ゴソゴソ

「……アル?」

 俺は馬車の荷台から、くつろぐアルちゃんを拾い上げる。

「勇者七つの奥義の一つ。勇者スロー。味わってみるか?」

 相手はエルフ女。美人を怪我させる意味はない。
 楽しむにしろ売り払うにしろ、無傷でなければその価値は暴落する。
 ここはアルちゃんの悲鳴で気絶してもらうとしよう。

「なっ! そ、それはマンドラゴラ! しかもその大きさは……」

「ほう。エルフだけあって植物に詳しいようだな。なら、マンドラゴラの悲鳴を聞いた者がどうなるか分かるな?」

 驚きの声を上げるエルフ女に向けて、俺はつかんだアルちゃんを振りかぶる。

「待って! 待った! ストオォォップ!」

 残念ながら待てと言われて待つ男はいない。
 勇者は短気。直情径行でなければ、正義などという夢物語は成せないもの。

「しねえええええ! 勇者スロオォォッー!」

 ドカッ

「アンギャアアアァァッ!」
「ぎょえええええええっ!」

 森に響くのはアルちゃんの悲鳴とエルフ女の悲鳴。
 せっかく可愛い顔なのに、悲鳴は可愛くないようだ。
 とりあえず縛り上げて馬車に転がしておくとしよう。


 エルフ女を乗せてガタゴト馬車が移動する。
 あれから時間が経ったのに、なかなか目を覚まさないエルフ女。
 当たり所が悪くて怪我でもしたのだろうか?

 少し具合を見てやるとするか。
 敵対した相手を気づかう度量も、勇者に必要な資質。
 俺は、仰向けに寝転がるエルフ女の胸元を確認する。

 すー。すー。

 ふむ。大きからず小さからず。
 さすが美しさに定評あるエルフ……やるな。

「うゆー! 寝ている女性を視姦するのは変態だよぉ」

 遊覧飛行に飽きたのか、いつの間にやらカモナーが馬車に戻っていた。
 しかし、帰ってきての第一声が勇者を変態扱いとはな……

「何を誤解している? 俺は呼吸の有無を確認しているだけだ」

「そうなの?」

 俺には救命の知識がある。
 医療ドラマで学んだ知識が。

「敵とはいえ怪我をしているなら治療する。それが勇者の優しさだ。それとも、お前は見殺せとでも言うのか?」

「うゆ」

 知識がないなら見殺すのもやむをえない。
 だが、知識があってなお見殺したのでは、勇者が殺人鬼になり果てる。

「ふむ。少し呼吸が弱いな……これは心臓マッサージが必要か?」

「うそだっ!」

 まずは衣類を緩めて、呼吸を楽にする。
 エルフ女の上着のボタンを外して、前面をはだけさせる。

「変態だっ!」

 まったく……これだから子供は困る。
 カモナーの年頃だと、何をするにも性的行為につなげて考えるきらいがある。

「いいか? カモナー。非常時においては何より生命が優先される。恥ずかしいとためらっている場合ではない」

 服装を緩め終えたところで、俺は右手をエルフ女の左の胸へ。
 左手を右の胸へと押し当て、両手を使い乳房の圧迫を開始する。

「なんか僕がドラマで見たのと違うよっ!」

 生意気にも俺と同じ医療ドラマを見ていたのか?
 確かに本来は、両手を一つに重ねて胸の中央を圧迫するのが基本。
 断じて乳房を圧迫する行為ではない。

 だが、ここは異世界。
 地球の常識にとらわれては、助かる命も助からない。

「相手はエルフだぞ? お前は犬猫が相手でも人間と同じ方法で動くのか? 臨機応変。相手にあわせて手法を変えるのが勇者の作法だ」

「うゆ」

 モミモミ

 ふう。すっかりエルフ女の胸は堪能した。
 ならその次は──

「……ううっ……ごほっごほっ」

 心臓マッサージで意識を取り戻したのか、エルフ女は咳と共に目を覚ましていた。
 まったく……これからが本番だというのに……エルフは我慢というものを知らないのか?

「やれやれ。無事か?」

 寝起きの直後。
 自身の置かれた状況が分からないのか呆けるエルフ女。
 しかし、はだけられた胸元から何かを察したのだろう。

「よ、よくも……殺してやるっ!」

 後ろ手に縛られたまま、身体ごと俺に飛びかかるエルフ女。

 ドカッ

 その腹部へと拳が突き刺さっていた。

「静かにしてよ? ユウシャさんが治療してくれたのに……まだ怪我したいの?」

 俺が反応するより前に、カモナーがエルフ女を殴り飛ばしていた。

 派手に血を吐き、吹き飛ぶエルフ女。
 お腹の形が、明らかに変わる程の衝撃。

 カ、カモナーさん?
 いきなり女性を殴るとか、いったい何を?!

「げっ、げほっ……ちっ、治療って?」

「戦場で気絶した君が生きてるのは何故? ユウシャさんが治療してくれたからだよね。そうでなければ、とっくに死んでるよ?」

「でっ、でもっ……こ、この服の乱れはっ?」

「お前のようなビッチにユウシャさんが欲情したっていうの? 身の程をわきまえてよ?」

 ……すみません。欲情しました。
 が、ここで場を荒立てても意味はない。無難に黙っているとしよう。

 それにしてもカモナーが殴った箇所。
 口から血を吐いていたが、内臓は大丈夫か?

「……はい。高級治療薬。振りかければ治るよぉ」

 エルフ女を気づかう俺の視線に気づいたのか、カモナーはスマホから高級治療薬を取り出し手渡した。

 本来。魔法も治療薬もある異世界で心臓マッサージの必要はない。
 それは、カモナーも知っていて当然。
 なにせクランでのカモナーは、治療薬の調合。販売を担当しているのだ。

 だが、もしも魔法も使えず、治療薬も切らした時はどうする?
 その時に備えて、俺はあえて基本的な治療を行ったのだ。

「その……違うぞカモナー! これはだな……」

 そう口を開こうとする俺より先に、カモナーは言った。

「うゆ? まだ人工呼吸する? それとも……お注射?」

 もしかして、カモナーさん。
 分かった上で、俺の演技に乗っていたのだろうか……?

「……いや。治療はここまでにしよう。エルフ女。気分はどうだ?」

 高級治療薬を手渡されたエルフ女は、縛られた手で身体に振りかける。

「貴重品の高級治療薬か……本当に私に危害を加えるつもりはないの?」

 全くもってその通り。
 危害を加えるつもりはない。
 淫行を加えるつもりなだけだ。

「その……すまない。人間はエルフを見かけるとすぐ淫行をしようとするから、つい」

「そんなクズ共とユウシャさんを一緒にするなっ」

 やっぱり淫行も危害に入るのだろうか……?

 まあ、お互いが了解のもとでの行為なら、それは愛情行為に変貌する。
 最強勇者の求愛行動。嫌がる者など皆無だろうから、そこは安心だ。

 そして、エルフ女の言葉から推察するに、付近にエルフの集落があるはずだ。
 そういうことなら、最強勇者。
 最初の布教先は、エルフの集落に決定だ。
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