最強勇者無双 ~異世界召喚された俺が勇者だ~

くろげブタ

文字の大きさ
上 下
50 / 96

50.勇者パワー

しおりを挟む

 100/7/15(金)15:00 ゴブリン獣の森


 ゴブリン獣の森で相対するゴブリン獣とハチ獣。

 モンスター同士による争い。
 どちらが滅びようと、俺にとっては関係ない。

 両者が傷つき、疲弊したところを仕留める。
 それが勇者の戦術というものだ。

 だが、辺りに漂う暗黒の煙。
 その煙の中、にやけた顔で虐殺を繰り広げる暗黒ゴブリン獣。

 ついには、ハチ獣の巣の中から女王ハチ獣を引きずり出していた。

「アルルーッッッ!」

「勇者パワー全開!!!」

 アルちゃんが叫ぶと同時に、俺は勇者パワーを解放する。
 俺の身体から放たれる金色の光。
 勇者のオーラが、森に立ち込める暗黒の煙を吹き飛ばす。

「行くぞ!」

 事前の作戦など関係ない。
 俺は真っ先にゴブリン獣の群れへと突撃する。
 間髪遅れず俺に続くのは、やはりサマヨちゃん。

「ええっ! な、なんでぇ? ユウシャさぁん!」

 モンスター同士の乱戦へ突入する俺たちの姿に、カモナーは慌てたような声を上げていた。

 無理もない。
 薬草を求めて森を開拓する俺たちと、森の縄張りを護ろうとするハチ獣。
 昨日、戦ったばかりの相手を助けようというのだ。

 地面に落ちたハチ獣を踏みつけるゴブリン獣。
 もがくハチ獣の羽に手をかけ、その羽を引きちぎった。
 素早さが自慢のハチ獣が、動きを封じられては戦いようがない。
 地面を這って逃げる姿を、楽し気に追い回しては蹴り飛ばすゴブリン獣。

 逃げる力もを失ったのか、身体を震わせて動きを止めるハチ獣。
 つまらなそうに眺めたゴブリン獣は、頭を狙って手に持つ棍棒を振り上げ──

 ズバッ

 そのままの姿で、ゴブリン獣は頭を吹き飛ばされ絶命する。
 俺は、振り抜いた剣先をハチ獣を護るかのように掲げ直した。

 カモナーには分からなくとも、ハチ獣と死闘を繰り広げた俺たち3人。
 昨日戦ったばかりの相手だからこそ、分かることがある。
 ハチ獣は殺しを楽しむような、遊びで生き物を殺すようなヤツラとは違うということが。

 俺が倒すべきは、勇者が倒すべきは、命を冒涜するゴブリン獣。貴様らだ。

「義によって助太刀する。勇者を恐れぬなら、かかって来い」

 昨日の敵は今日の友ともいう。
 強敵と書いて、友と読ませるともいう。

 なら、強敵の危機に立ち上がるのが勇者というもの。
 なにより、オスばかりのゴブリン獣。
 昆虫モンスターとはいえ、メスである女王ハチ獣に味方するのが勇者というものだ。

 突然の出来事に目を見開くゴブリン獣たち。
 剣先を翻して、その首を続けて斬り落とす。

 ゴブリン獣を切り飛ばし、暗黒の煙を吹き飛ばして、光のオーラが森を駆ける。

「ゴブブッ」

 騒めくゴブリン獣を押しのけて、俺の前に立ちはだかる黒い巨体。
 暗黒ゴブリン獣。
 面白い相手が現れた。そう言いたいのか、その目は愉悦に細められていた。

「退け。寄らば斬る」

 もっとも寄らずとも斬る。
 斬りかかろうとする俺の顔を目がけて、暗黒の煙が吐き出される。

 俺の身体を包み込む暗黒の煙。
 触れた相手の力を吸い取り、生命力をも蝕む暗黒の煙。
 生ける全ての生命にとって、天敵ともいえる暗黒の煙。

 その煙に包まれては、戦いようがない。
 あとは力を失った相手を、いつものようになぶるだけだ。

 口元を緩めて、嬉々とした調子で煙に近寄る暗黒ゴブリン獣。

 その顔へと、暗黒の煙を切り裂いて剣先が突き刺さる。

「ゴブギャー!!!」

 突き刺した剣先を引き抜き、振り払う。
 同時に俺の身体から溢れ出る光のオーラ。

「ゴブブッ! ゴブブッ!」

 なんだそれは? とでも言いたいのか?
 一斉に騒ぎ出すゴブリン獣。
 ならば教えてやろう。

「最強勇者パワー。俺に暗黒の煙は効かない」

 そんなん詐欺や。チートや。とでも言いたいのか?
 再び騒ぎ出すゴブリン獣。
 ならば答えてやろう。

「そうだ。チートだ。よって貴様らに勝ち目はない」

 俺の身体を中心に、周囲に放たれる金色の光。
 続けて暗黒の光が放たれた。
 俺の後に続くサマヨちゃんが、魔王パワーを解き放ったのだ。

 闇属性モンスターであるゴブリン獣は、暗黒の煙に抵抗力がある。
 そのため、暗黒の煙の中で動けない相手を、自由に仕留めてきた。

 だが、魔王の闇気。魔王パワーは、暗黒の煙の上位能力。
 暗黒の煙の中で動けるからといって、魔王のオーラの中で動けるとは限らない。

「ゴブゥ?! ゴブブッ!」

 自身の力を、生命力を徐々に奪われる魔王パワーに包まれ、恐怖の声を上げるゴブリン獣。
 抵抗する力を失ったところを、俺は逃さず叩き斬る。
 これまで一方的に抵抗できない相手をなぶってきた貴様らに、狩られる恐怖というものを教えてやる。

 ゴブリン獣を蹴散らして進む俺の目に、女王ハチ獣を宙吊りにつかむ暗黒ゴブリン獣が見えてきた。

「ゴブ?」

 何事だとでもいうように俺たちを振り返るその手元では、羽をもがれた女王ハチ獣が力なく息をしていた。

 一刻の猶予もない……が、まだ距離がある。

「アルッ!」

 リュックの中から、俺の前へと飛び出したアルちゃん。
 その腕は、俺を手招きするよう動かされていた。

 アルちゃん行けるのか? だが、行けるというなら!

「勇者……シュートオオオオ!!!」

 宙を舞うその身体を、俺は渾身の力を込めて蹴り飛ばす。

「ギ、ギウゥゥ……アゥッ!」

 ボールと化したアルちゃんの身体を蹴り飛ばして、敵にぶつける荒業。
 しかも、いつもより速度がある。
 これは、アルちゃんの魔法。風魔法か?
 ボールとなった自分の身体に風をまとわせ、速度と威力を上げているのか?

 速度が上がれば上がるほど勇者シュートの威力は増す。
 反面、ボールとなるアルちゃん自身のダメージも跳ね上がるのだが……

 ドカーン

 緑の弾丸と化したアルちゃんの身体が、暗黒ゴブリン獣を直撃する。
 だが、絶叫はない。

 魔法に、絶叫に弱いハチ獣。
 今、絶叫したのでは、近くにいるハチ獣を殺しかねない。
 凄まじい速度でぶつかったにも関わらず、アルちゃんは悲鳴一つ上げることなく着地していた。

 吹き飛び倒れる暗黒ゴブリン獣の手元から、女王ハチ獣が地面に解放される。
 触覚を、羽をちぎられ、身体に大きな怪我をする女王ハチ獣。

 アルちゃんは身体から黄金水を排出、その口へと飲ませていた。

 黄金水に含まれる滋養強壮の効果。
 あれほどの怪我にも関わらず、女王ハチ獣の身体はみるみる治っていく。

 さすがはマンドラゴラ。薬草など比較にならない回復効果。
 女王ハチ獣は、これで一安心だ。

 後は残るゴブリン獣だが──
 勇者パワーによってハチ獣を苦しめる暗黒の煙が祓われた今、劣勢だったハチ獣は息を吹き返し、今や逆にゴブリン獣へと襲い掛かっていた。

 宙を飛び交うハチ獣を撃退しようと、魔法を詠唱するゴブリン獣。
 その詠唱が完了するより早く、ハチ獣は毒針を突き刺した。

「ゴブゥァッッッ」

 ハチ獣の動きは、以前に増して鋭さを増していた。
 今の俺はハチ獣に味方している。その影響だろう。
 俺の勇者パワーが、ハチ獣をパワーアップさせている。

 スピードを増したハチ獣に対抗しようと、必死に暗黒の煙を放出する暗黒ゴブリン獣だが、口から吐き出した煙は、即座に俺の勇者パワーによって打ち消される。

 しかも、魔法ゴブが詠唱する魔法。
 毒雲をも俺の勇者パワーは吹き飛ばしていた。
 勇者パワーは、いわば俺の魔力の塊。
 相手の魔法を妨害する、魔法障壁としての力もあるようだ。

 今、森を覆うのは金色の光。
 暗黒の煙を、敵の魔法全てを吹き飛ばす金色のオーラ。勇者パワー。

 完全に形成は逆転していた。

 次々とハチ獣に刺され、地面に倒れるゴブリン獣。
 ゴブリン獣優位に進められていた戦闘は、俺の介入により形勢は逆転。
 ハチ獣の勝利に終わる。

「ふええ……どうなってるのぉ?」

 戦闘の決した森で、ウーちゃんの背中に乗ったカモナーがやってきた。
 ウーちゃん。俺が乗る時は嫌がったくせに……

 ウーちゃんにとって、カモナーは薬草をたくさんくれる恩人。
 あれだけカモナーに薬草を貰ったのだ。
 ウーちゃんがカモナーを護ろうとするのは当然か。

「俺たちが倒すべき敵はあくまでゴブリン獣。ハチ獣は敵ではない。そういうことだ」

 巣の前で、女王ハチ獣は地面に頭を下げていた。
 その周囲に降り立った全てのハチ獣までもが同様に。

「アルル?」

 その前で、自分に頭を下げるハチ獣の姿に困惑するアルちゃん。

 女王ハチ獣の大怪我をあっという間に治療したのだ。
 そして、形勢不利な戦闘を、金色のオーラ一つで逆転させた。

 ハチ獣たちに崇められても不思議ではない。

 しかし、金色のオーラは俺の勇者パワーなのだが……
 まあ、どっちの功績でも良い。

 勇者は嫉妬しない。

 結果的にハチ獣が俺たちの味方になった。
 それだけで俺は満足だ。

 美少女ならともかく、昆虫に崇められても仕方がない。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...