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47.制服

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 100/7/15(金)11:00 クランハウス


 訓練で汗をかいた孤児たちを、お風呂に入れることにする。

 クランハウス1階に併設されたお風呂。
 孤児たち10人程度なら同時に入れる大きさだ。

 モンスターとの最前線に設置されたクランハウス。
 大きな食堂もあるなど、慰労施設が充実しているのが特徴だ。

 孤児たちはお風呂に入ったことがあるのだろうか?
 ケチな院長のこと。普段はお湯で身体を拭く程度だったのではないか?

 そうなると、孤児たちだけでお風呂に入れるのは危険だ。
 大きな浴槽。溺れることがあってはならない。

「ユウシャさーん。お風呂が沸いたよぉ。グリちゃんも入れるくらい大きなお風呂で凄いんだよぉ」

「ありがとう。カモナー。みんなー集まれー」

 俺の号令で道具の手入れを終えた孤児たちが集まった。

「朝からの訓練で疲れただろう。お風呂に入って疲れを癒すように」

「えーお風呂ー」
「すごーい」
「孤児院のお風呂、沸かすばかりで入らせてくれなかったの」

 孤児たちは大きなお風呂に騒いでいた。
 しかし院長の奴。
 孤児たちにお風呂を沸かせて、自分だけ入っていたとは。
 許せん奴だが、孤児たちが院長の毒牙にかかっていないだけ、良かったというべきか。

「よーし。小さな子には、お風呂の入り方を教えてあげるよ。おいでー」

 脱衣場のドアを開けて、孤児たちを中へと導く。
 はしゃぐ孤児たちは、人目も気にせず服を脱ぎ始めようとしていた。

「ええっ! ユウシャさん。彼女たちと一緒にお風呂に入るのぉ?」

「ああ。彼女たちはお風呂に入ったことがないのだろう? 大きなお風呂だ。溺れないよう見張る必要がある」

 今の俺は孤児たちの教師。
 その安全に責任を持たねばならない。

「で、でも、子供といっても女の子だよぉ? マズくないかなぁ?」

「そうか? だが、お風呂で子供が溺れるほうがマズイ。そうだろう?」

 仮に世間が俺をロリコンだの変態だの言おうが、俺が我慢すれば良い。
 大事なのは彼女たちの命。
 プライドより何より、それを優先するのが勇者というものだ。

「うぅ……確かにそうかも」

 とはいえ、俺はロリコンではない。
 可能であれば根拠のない噂で誹謗中傷されるのは避けたいところだ。

「でも、やっぱり男が一緒に入るのはなあ……彼女たちと一緒にお風呂に入ってくれる女の人がいれば、俺は入らないんだがなあ?」

 チラリとカモナーの顔をうかがう。

「うう……あの、ユウシャさんには内緒にしていたけど……実は僕、男じゃないんだ」

「な、なんだってえ! 本当なのか?」

 俺はマジマジとカモナーの顔を見つめる。
 知っていた。こんなに可愛い顔をした男の子がいるわけがない。

「う、うん。だって……女の子の恰好していたんじゃ危ないかと思って」

「そうだったのかあ。だとしたら、すまない。てっきり男だとばかり思って、カモナーには嫌な思いをさせたかも知れない。すまない」

 一緒の部屋で泊まったり、手を握ったり、抱き付いたり、色々だ。

「う、ううん……黙っていた僕が悪いから」

 色々思い出したのか、顔を赤らめてうつむくカモナー。
 とにかく悪いのはカモナーだと同意も得られたことで、俺のセクハラが罪に問われることもなくなった。

「それなら少女たちがお風呂に入るのを、カモナーが手伝ってくれるか?」

「うん。分かったよぉ」


 お風呂場での世話をカモナーに任せ、俺は脱衣場を後にする。

 教師と生徒。
 本来なら俺が一緒に入って、お互いの身体を洗いあうことで親睦を深めるべきなのだが、ここは我慢の時。

 今の俺にはやるべきことがある。
 孤児たちの、生徒たちの制服を用意するという大事な任務が。

 俺はスマホから【ショップ】をタッチ。
 販売されている服装一覧から、制服を検索する。

 ほうほう。なかなか種類があるではないか。
 【ショップ】には、現代の制服そっくりなものまで品揃えされていた。

 多数ある中から俺が選んだ制服は、いわゆるセーラー服。
 俺はブレザーよりも、セーラー服派だ。

 いや、俺の好みはどうでも良い。
 セーラー服は、元々、水兵の軍服として考案されたと聞く。
 軍服であれば、モンスターと戦う少女に着せるのにちょうど良いというだけだ。

 それならズボンの方が良いのではないか?
 いや、駄目だ。俺はスカート以外の制服は認めない。

 選んだセーラー服だが、どうやらカラーをオーダーメイドできるようだ。

 セーラー服といえば、白の上衣に黒いスカートが一般的なイメージ。
 勇者のイメージにも、白色はぴったりだ。
 神聖で高潔、清廉潔白な勇者には白色がよく似あう。

 問題は、白色は汚れが目立つという点だ。
 洗濯機のない異世界で白色を選ぶのは問題がある。

 ふむむ。どうする?

 俺の勇者パワー。放つ光の色は金色だ。
 金色。黄色か……
 アクセントには良いが、メインにしたのでは目が痛くなりそうだ。
 黄色味を帯びたベージュ色にしよう。

 組み合わせる色は、無難に黒色。
 黒色は、魔王であるサマヨちゃんのイメージカラーでもある。

 季節は夏。
 夏服ということで、上衣は黄色がかったベージュ色に黒色のスカート。
 冬服は上下ともに黒色で、アクセントに黄色を使用する。

 これで決定だ。

 ん? 材質なんかも選択できるのか?
 なら、洗っても形が崩れない形状記憶素材。
 布の質感のまま皮のように頑丈な素材を選択する。

 これなら、十分戦闘に耐えられる。

 そして俺の服だが、さすがに学生服というには年齢に問題がある。
 黄色がかったベージュのシャツに黒のスラックスで、サラリーマン風、いや教師風で良いだろう。

 全員の制服をスマホから購入した俺は、脱衣場へと移動する。
 ドアの向こう、お風呂場から孤児たちだろう声が漏れ聞こえている。

「うわーカモちゃん。柔らか-い」
「すごーい」「わたしもさわりたーい」

 ふむむ。カモナーの奴。いちおう一番の年長だからな。
 何が柔らかいのか分からないが、年齢的にも当然だろう。

 興味はあるが、勇者は覗くような破廉恥な真似は犯さない。
 どちからといえば、俺は着衣派。
 着衣の隙から見えそうで見えない。やっぱり見える。これが良い。
 いや、俺のことはどうでも良い。
 勇者は犯罪を犯さない。それだけだ。

 俺は全員の着替えを置いたところで、脱衣場を後にした。
 その際、カモナーも含めて全員の服装を回収している。
 汚れているので洗濯しないといけない。
 といっても、孤児たちの服はボロボロなので廃棄する。

 洗うのはカモナーの服だけ。
 普通のシャツにズボン。そして、これは下着。
 ブラとおパンツ。ともに白色だ。

 やはり下着は白色に限る。
 スマホから制服と一緒に孤児たちの下着も購入、脱衣室に置いてきている。
 もちろん白色だ。これも汚れが目立つが、それもまた味があって良い。

 さて、カモナーの下着だが、年頃の少女は他人が下着にふれるのを嫌がると聞く。
 本来なら俺がさわるのはマズイのだろうが、洗濯機のない異世界では洗濯するのも一苦労。

 孤児たちを風呂に入れる、そのあと洗濯までさせたのでは、働かせすぎというものだ。
 代わりに俺が洗濯してやるのが、優しさというものだろう。

 俺はカモナーの服、そして下着をゴシゴシ丁寧に手洗いする。
 最後に屋外へ干して洗濯完了だ。

 ふー。良い仕事をした。

 そろそろ孤児たちが風呂からあがるのだろう。
 脱衣場から声が聞こえてきた。

「あれーわたしの服がないよう?」
「なにこれー綺麗な服」
「わたしたちが着てもいいのかなー?」

 ふふ。驚いてる驚いてる。
 カモナー。説明してやると良い。

「あれぇ? なにこれ? なんでセーラー服? 僕の服がないよぉ。うわーん」

 うわーんじゃない。
 お前が着て良いと言わなければ、孤児たちが服を着れないだろう。
 夏とはいえ、いつまでも裸のままでは風邪をひきかねない。
 仕方がない。俺が説明するとしよう。

 バーン

「その服は俺からのプレゼントだ。セーラー服という」

 俺はドアを開けて脱衣場へと侵入する。

「ちょっ! ユ、ユウシャさんっ。なんで入ってくるのぉ!」

 脱衣場では、全裸の孤児たち。そしてカモナーがいた。
 まだ幼いからか、孤児たちは隠すということをしない。
 もっとも、まだ膨らみも何もない幼女。見て楽しいものでもない。

 いや、一番年長の幼女。
 少女と呼ぶべき孤児は、少し膨らんできているな……
 だが、俺はロリコンではない。
 あくまで、チラ見するに留めておく。

 カモナーはといえば、さすがにこの年頃、14、5歳くらいか? となれば、裸を見られるのは恥ずかしいのだろう。

 セーラー服を手に、必死で身体を隠そうとしていた。
 俺へのサービスなのか? 
 見えそうで見えない。でも見える。
 カモナーの奴、やるではないか。

「すまない。だが、少女たちがいつまでも服を着ないようだからな。そのセーラー服は君たちへのプレゼント。クランの制服だ。みんな着替えるように」

「うわーすごーい」
「この服やわらかーい」
「これ着ていいの? やったー」

 裸のまま大いにはしゃぐ幼女たち。
 この年頃ならこんなものだろう。
 見られても恥ずかしがらないということは、見ても良いということ。
 チラ見で我慢する必要はないということか。

「ええぇ? これ僕も着るのぉ? スカートだよぉ」

「当然だ。それともカモナーは彼女たちとお揃いの服は嫌か?」

 えーといった表情で孤児たちがカモナーを見つめていた。
 まさか孤児たちとお揃いが嫌などとは、口がさけても言えまい。

「ううぅ。着る。僕も着るよぉ!」

 よし。これでカモナーも正真正銘の美少女になるだろう。
 最後に全員の姿を見回した後、俺は脱衣室を後にする。

 脱いでいくのも良いが、徐々に服を着ていく、それもまた良いものである。
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