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22.VSドランク野郎Cチーム
しおりを挟む100/7/11(月)19:00 ギルド1F 受付前広場
ヨッパーとのいさかいから決定したクラン戦。
俺のクラン、ブレイブ・ハーツとドランク野郎Cチームの対戦だ。
メンバーは決まった。リーダーの俺とカモナー。
もっともカモナーは人数合わせのようなもの。
本人はやる気になっているようだが、武器を扱えないのでは戦えるはずもない。
「で、何を賭けるんだ? 100万ゴールドなどといった、ふざけた金額は無しだぞ」
後は勝負が決まった後の条件だ。
「何も賭けねえ。俺らのクランに魔法バッグと釣り合うアイテムなんざねえよ。ただ、お互いの名誉を賭ける。それで充分じゃねえか?」
汚名を挽回したい。そして俺を叩きのめしたい。
それが狙いというわけか。
元々俺の狙いはギルドでの名声だ。
「いいだろう。だが、その前に……払うものがあるだろう? ヨッパーの迷惑料だ」
ただし相手の不始末に対する請求は別だ。
ここで甘い顔を見せても、俺のクランが舐められるだけだ。
「……けっ。これでいいかよ?」
ドランクが投げて寄こした袋。
そこに入っているのは、わずか10万ゴールドでしかなかった。
俺を殺そうと武器を振りかざしておきながら、まさかこれっぽっちとは。
「あれだけ暴れておきながら、たった10万ゴールドとはな。もっとも、腐ったクランにはお似合いの額か?」
あえて大声で喧伝する。
周囲で推移を見つめる冒険者たちに、どちらのクランに非があるのか。
それを知らしめるためだ。
「ぺっ。街の闘技場でケリをつけようぜえ」
「必要ない」
「ああ? どういうことだあ?」
「どういうこともクソもない。このまま、このギルド内で勝負する」
「正気かあ?」
「当たり前だ。せっかくのギャラリーの盛り上がりに水を差す必要はない」
もっとも俺の狙いは別だ。
ラーイの扱う長剣なら室内で戦うにも問題ないだろう。
だが、ドランクの背負う大剣は、室内で取りまわすには大きすぎる。
対戦相手となるドランクとラーイ。
ドランクの方が危険となれば、ドランクが力を出し切れない状況。
狭い室内で戦う方が俺にとって都合が良い。
あとはギルドの許可さえもらえれば。
「お姉さん。この場所で決闘を続行することに問題はあるか?」
「あるに決まってます! ギルド内での決闘は禁止です。武器を振るえば問答無用で処罰しますよ」
だそうだ。残念。
「ですが、こちら。ギルドの訓練場なら今の時間は大丈夫です」
そう言ってお姉さんが指し示すのは、ギルドの左手。
ドアを抜けた先にあるという訓練場だ。
冒険者が訓練するのに使えるほか、定期的に冒険者への講習なども行っているという。
そんな施設があったのか。
「訓練場なら魔法障壁で覆われていますので、いくら暴れても外部への被害はありません。規定の料金を払っていだだければ決闘に利用もできます」
「問題ない。負けたクランが払えば良い」
つまりドランク野郎が払うということだ。
「おもしれえ。はじめようじゃねえか」
訓練場へと移動するドランク野郎。
あわせて周囲のギャラリーも続いて行った。
俺は椅子に座るサマヨちゃんに近づくと、袋に詰めていた下半身を取り出す。
時間の経過と共に破壊された骨は結合。すでに再生は完了している。
下半身を上半身に結合させ、サマヨちゃんと一緒に訓練場へと向かう。
移動した訓練場は大きな部屋だった。
壁はレンガで作られており、天井までの高さはざっと10メートルはある。
まるで体育館のような、これだけ広いのでは、室内といっても大剣を振り回すのに支障はない。
が、まあ問題ない。
俺が室内での戦いにこだわる理由は他にもある。
「先鋒は俺が行く。カモナーは後ろで応援を頼む」
訓練場の壁際に立ち並ぶ多くのギャラリー。
その中へとカモナーを下がらせる。
「分かったよ。もしユウシャさんが負けても僕が居る。安心して」
……誰だお前?
武器も使えないのに何故そんなに強気なのか。
ヤバイ薬でも決めたようなカモナーの反応に、逆に不安になってくる。
「カモナーちゃん。ユウシャさんが負けたら、すぐに降参しなさい。あとは私が上手くやるから。ね」
どうやらギルドからはお姉さんが審判として立ち会うようだ。
受付の他にも色々と多芸だな。
そして、その心配は必要ない。
訓練場の中央。
ドランクと向き合うのは、俺とサマヨちゃん。
「ああん? どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、俺は魔物使い。モンスターと一緒に戦うのは当然だ」
「2対1たあ卑怯じゃねえか? おい! ギルドの女。どうなってやがる?」
「魔物使いが魔物なしでどうする? お前は戦士なのに武器もなしで戦うのか? 魔法使いは魔法を使わないで戦うのか? 頭だいじょうぶか?」
そうは言ったものの、これは確かに卑怯だ。
魔物使いは、魔物を制御するのに鍛錬の時間を費やすため、自身の戦闘能力は低くなるのが一般的だと聞く。
だが、魔物使いでも何でもない俺が、何の手間もかけることなく自由に扱える課金モンスター。
当然、俺自身の戦闘力は他の冒険者と変わりない。
「そうですね。魔物使いは魔物と一緒に戦うのが一般的です。問題ありません」
これでは現地冒険者は涙目な上に勝ち目がない。
今後のクラン戦は、俺たちプレイヤーの独壇場だな。
ま、俺は嫌な思いしてないから気にしない。
「けっ! ガキが。まとめてぶっ殺してやる」
ドランクが大剣を抜き放つ。
俺は山賊の剣をサマヨちゃんに手渡して、後方へと下がる。
「マジかよ。この勝負どうなるんだ」
「凄い戦いが見れそうだ」
「やっぱドランク野郎じゃね?」
「断然ブレイブ・ハーツだぜ」
「この戦い。見逃せないわね」
大剣を頭上に掲げるドランク。
その全身には立派な鎧をまとっていた。
腐ってもクランのリーダー。
金にまかせて良い装備を揃えたとみえる。
「へっ。おめえ俺のことを舐めてるだろ? スケルトンなんざ何百体来ようが、俺の敵じゃねえぞっ」
そのまま前に踏み込むと、サマヨちゃんめがけて大剣を斜めに振り下ろした。
ズバーン
その振りは、同じ大剣使いであるヨッパーに比べて格段に速い。
身長2メートルのドランク。そのさらに高い位置から振り下ろされた大剣が当たれば、1発で致命傷だろう。
しかし、大剣が音を上げて叩くのは床だけだ。
サマヨちゃんは大剣の脇をすりぬけ、後方へと回り込んでいる。
「ぬおっ! んだと? このスケルトン?!」
後ろに向けて振り返るように大剣を払うドランク。
その大剣を身を屈めてすり抜けるサマヨちゃん。
その動きに周囲のギャラリーから声があがる。
「マジかよ。あのスケルトン」
「凄いスケルトンが現れた」
「なんであの攻撃をかわすんだ?」
「こんなスケルトン見たことねーぜ」
「ただのスケルトンじゃなさそうね」
だが、俺はその様子を見ながら、同じく勝負を見守るお姉さんに話しかける。
(お姉さん。かなり強いんじゃないですか? あのドランクって)
なぜなら、サマヨちゃんが回避一辺倒に追いやられてるからだ。
つまり、ドランクの攻撃は、怒りで暴走したサイ獣に匹敵する鋭さを持つ。
(当たり前です。ドランクさんはBランク冒険者ですよ)
どうりで強いはずだ。
(ドランク野郎CチームなのにBランクって詐欺ですか?)
(クラン名と個人の技量は関係ありませんから)
もっともだ。が、問題ない。
ドランクと対峙するサマヨちゃんが、口から暗黒の煙を吐き出していた。
サマヨちゃんを中心に立ち込める煙が、周囲を黒く染めていく。
もっともMPの消費量から、それほど大量の煙は吐き出せない。
せいぜい腰までの高さでしかないため、視界に影響はない。
「ぬお? これは暗黒の煙かあ? なんでスケルトンが?」
だが、広いとはいえここは室内。
風のない室内で立ち込めた暗黒の煙は、晴れることがない。
サマヨちゃんに近づくには、攻撃するには必然的に暗黒の煙の、その渦巻く中へと進まざるをえない。
「ぐぬうっ」
暗黒の煙に触れ、身体の動きを鈍らせるドランク。
いくら魔法防御の壁があろうと、煙の効果全てを防げるわけではない。
しかも、瞬間的に触れるだけならともかく、暗黒の煙が立ち込める室内。
その中で戦い続けるのだ。
触れる煙は、時間と共に徐々に力を奪っていく。
バシーン
ドランクの振るう大剣をかわした直後、サマヨちゃんが反撃する。
バシーン
これまで回避一辺倒だったサマヨちゃんだが、ドランクの動きが鈍った今は、回避の直後にカウンターを当てる余裕が生まれていた。
バシーン
手に持つ野盗の剣。その剣の平でドランクを打ちすえる。
バシーン
鎧に刃を立てる隙間がないなら、その上から殴れば良い。
バシーン
いくら立派な鎧をまとっていようと、これだけ打たれては堪らない。
それでも、暗黒の煙に包まれながらも、大剣を振り回すドランク。
なかなか見上げた根性だ。
バシーン
しかし、その剣撃がサマヨちゃんを捉えることはない。
逆に攻撃すればするほど、サマヨちゃんの反撃は音を立ててドランクの身体を、身に着けた鎧を叩いていく。
振るわれる大剣を、繰り出される蹴りを、掴みかかろうとする腕を、巧みに飛び越えくぐり抜けて縦横無尽に戦うサマヨちゃん。
まさにバレエダンサーの面目躍如といった素早い、美しい動きは、観ているギャラリーをすっかり魅了していた。
「マジかよ。あの動きを見ろよ」
「凄いってレベルじゃないスケルトンが現れた」
「むっちゃ強くね? 凄くね?」
「ドランクはBランクだぜ? なんであんなに戦えるんだぜ?」
「華麗だわ。私ですら見惚れるわね」
さすがは俺のサマヨちゃん。
結論、サマヨちゃんの実力はBランク、それより上ということだ。
なら、これ以上時間をかける意味はない。
後方。安全な場所から見守っていた俺も、そろそろ攻撃に参加するとしよう。
「どうした? たかがスケルトンと言っていたが、そのスケルトンにすら歯が立たないのか? 図体ばかりで情けない奴だ」
「はあっはあっ。こ、ころしてやる!」
案の定、挑発に反応したドランクは、前に出て来た俺に狙いを変える。
無謀にも俺の元へ一直線で走り寄ろうとするドランク。
俺はスマホからナオンさんの骨を取り出し、魔力を込める。
その単調な突進に向けて、骨の魔力を解放した。
「勇者・サンダー」
バリバリバリ
「ぐわあっ。なっ、ま、魔法だとお?」
俺の元へ近寄ろうとする、その身体を雷魔法が打ち抜いた。
魔法防御の壁に阻まれ致命傷にはほど遠いが、ドランクの足を止めるには十分の威力だ。
「ぐぬうう」
ドランクの背後には、すでにサマヨちゃんが張り付いている。
振り払うように繰り出された大剣を身をかがめて回避したサマヨちゃん。
ドランクの顔に向けて直接、暗黒の煙を吐き付けた。
「ごほっごほっ」
暗黒の煙を吸い込み、咳き込むドランク。
「ごほっごほっ。ちきしょう」
触れるだけでも力が抜ける煙を、肺一杯に吸い込んでしまったのだ。
涙を流して咳き込むドランク。
さらにダメ押しといくか。
「勇者パワー解放」
俺の身体が発光する。
あふれ出るのは勇者の輝き。勇者のオーラ。
仲間に勇気を与える神なる波動。
まあ、ぶっちゃけ味方を強化するのだ。
勇者オーラを身に受けたサマヨちゃん。
パワーアップしたサマヨちゃんが攻勢に出る。
バシーン
手首を叩いた剣が、ドランクの腕から大剣を弾き飛ばす。
バシーン
頭から兜を弾き飛ばす。
バシーン
胴を打つ剣が、鎧をヘコませる。
「ごほっごほっ」
痛みに顔をしかめるドランク。
さらに黒い煙を吸い込み、ますます身体の動きを鈍らせていく。
俺はスマホから野盗の剣を取りだして右手に握ると──
バシーン
サマヨちゃんの反対側から、ドランクに剣を叩きつけた。
バシーン
弾かれたドランクにサマヨちゃんが剣を叩きつける。
弾かれたドランクに俺が剣を叩きつける。
バシーン バシーン
ついに床に倒れ伏したドランクへ、2人並んで剣を叩きつける。
バシーン バシーン
ピクピクと身体を震わせるドランク。
その下半身からは様々な液体が漏れ出していた。
バシーン バシーン
「ユウシャさん。そこまでです! ドランクさんは戦闘続行不能です」
バシーン バシーン
「まだドランクは降参するとは言っていない。それでもか?」
「それでもです。すでにドランクさんは気を失っています」
バシーン バシーン
「狸寝入りの可能性もある。念には念を入れるのが勇者だ」
「これはギルド立ち合いの元での決闘です。ギルドの、私の指示に従ってください」
仕方がない。
「分かった。サマヨちゃん」
俺は振るう剣を止め、サマヨちゃんに声をかける。
バシーン
だが、サマヨちゃんは、倒れるドランクをなおも叩き続ける。
「ちょっと。ユウシャさん! 早く止めなさい!」
「すまない。俺の使い魔は凶暴でな。たまに主人の言うことを聞かずに暴走する癖がある。すまないが、他のクランの人たちも注意してくれ」
ズドスッ
最後にドランクのお腹へと、鎧の隙間から剣先を突き刺して、ようやくサマヨちゃんは攻撃を停止した。
「リ、リーダー! た、たいへんだ。はやく薬を、治療魔法を!」
倒れて血を流すドランクの元にメンバーが集まり、治療魔法、薬草、傷薬といった治療をはじめていた。
俺は片手を上げて、サマヨちゃんを迎え入れる。
パンッ
お互いの手を打ち合わせる。
ナイスだ。俺の指示がないにも関わらず、見事な追撃。
以心伝心とは、今の俺とサマヨちゃんのためにあるような言葉だ。
俺たちブレイブ・ハーツに手を出せばどうなるか。
良いデモンストレーションになっただろう。
パンッ
いつの間にか片手を上げたカモナーが居たので、ついでに手を打ち合わせる。
「やるね。ユウシャさん。僕も負けていられないよ」
だから、誰だよ。お前。
ちょっと間抜けで可愛い、俺のカモナーを返してくれ。
それはともかく──
「2戦目の邪魔だ。早く片付けてくれ」
ドランクの元で騒ぎ続ける連中に声をかける。
この勢いのまま2戦目に突入する。時間を開ける必要はない。
「ラーイと言ったな。そろそろ2戦目といくか?」
「ひいいいいっ」
リーダーであるドランクの姿を見て恐れをなしたのか、ラーイは遠巻きに見るだけで俺に近寄ろうとしない。
「確かお前は……決闘では降参は許さないと言っていたな。それと死亡事故も多いと。ふーむ。これ以上、無駄な戦いはやりたくないが、降参が駄目だというなら仕方がない。来ないなら、こちらから行くぞ?」
俺はサマヨちゃんと一緒に並んでラーイへの距離を詰めていく。
「何を言っているのですか! 降参は認められたルールです。ラーイさん、どうしますか? 降参しますか?」
が、残念ながら邪魔者が入った。
俺を押しとどめるようにラーイとの間に押し入り、降参を促している。
おのれ。邪魔だてするならお姉さんでも容赦はしない。
お姉さんの背中をグイグイ押しながら、ラーイへと近寄って行く。
「こ、降参だ。参った。俺たちの負けだ。もう許してくれ……」
残念ながら降参するようだ。
「はい。勝負ありました! クラン戦は、ブレイブ・ハーツの勝利。終了です」
そう言って、俺の右腕を高々と持ち上げるお姉さん。
勝負が決着したというなら仕方がない。
「そうか。ところで、そちらのリーダー。ドランクは大丈夫か?」
俺は倒れたままのドランクに治療を続ける、ドランク野郎のメンバーに声をかける。
「な、な、なに言ってやがるっ。て、てめえがボコボコにしたくせに」
「当然だ。決闘だからな。だが、決着がついた今は、同じ冒険者仲間でしかない。ならば、その身を案じるのもまた当然だろう?」
敵に情けは無用。
だが、無益な殺生は勇者の好むところではない。
味方には、冒険者には優しく頼れるクラン。
それが、ブレイブ・ハーツというものだ。
「マジかよ。なんて寛大な男だ」
「仏のような男が現れた」
「あれだけ因縁のある相手に凄くね?」
「俺らには真似できねーぜ」
「これが男の友情ね。良いものを見せてもらったわ」
例え演技であろうとも、心配する振りをするのが大人の対応というもの。
これで人気を得られるなら安いものだ。
「よ、余計な心配はいらねーよ。い、いいからあっち行ってくれ」
「そうか。もしも治療を終えて冒険者に復帰するようなら教えてくれ。挨拶に行きたいからな」
仮に今回のクラン戦。
何も賭けないとはいうものの、俺が負けていれば事故にみせかけて殺され、魔法バッグは奪われていただろう。
そのような相手だ。
もしも冒険者に復帰するつもりなら、釘を差す必要がある。消えろと。
だが、俺のいないところで普通に暮らす分には、俺の知ったことではない。
命を狙ったにも関わらず追い払うだけで済ますとは、何て寛大な対応だろう。
やはり勇者は格が違った。
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