精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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36.流れ着いた先

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 川を流れに流れた後、俺たちは河原に打ち上がる。

「プハー。で、どこなのよココ?」

 そのようなこと。
 異世界から来た俺が知るはずもない。

「おいらも分からんぞー」

 全く役に立たない妖精さん。

 困ったことにシルフィア様の知識にもない。
 そもそもが妖精の泉に引きこもっていたシルフィア様。
 世情に疎いのは仕方ない。

 ちょうど良く、川で釣りをする男を見つけた。

「すまないが、ここはどこだろうか?」

「うおっ? あ、あんたら川に流されたのか? ひどい恰好だな」

 魔族から逃れるため。
 万一を考えて丸1日は流されるまま川に隠れていた。

 せっかくの高級貴族御用達スーツも、ビショ濡れではただの汚い服。
 ミーシャなど、青白い顔色もあって土座衛門そのものといった様相だ。

「この先。街道を西に歩けば5日ほどで王都が見えるよ」

 どうやら計算通り、王都近くまで無事に逃げおおせたようだ。
 釣り人に礼を述べ、俺たちは王都を目指して移動する。

 と、その前に。
 俺は精霊ボックスからカジュアル服を取り出し着替えを終える。
 おまけに……

「ミーシャ。穴を掘ってくれ」

「ンア? アンタ。またアタシを埋めるつもりでショ?」

 当然である。
 ミーシャに求めるのは、ただその戦闘力。
 平時は居ない方が静かで良いというもの。

「アンタね……埋められると分かって、掘るわけないでショ?」

 ミーシャの癖にもっともな意見。
 だが、お前を王都に入れて騒ぎになるわけにもいかない。

 仕方がない。
 自分で掘るか。

 ザクザク

 ふう。すぐに大きな穴が掘れた。
 俺の体力もずいぶん増えたものだ。

「よし。それじゃミーシャ。入ってくれ」

「アンタが入れってノ」

 ドン

 哀れ。俺は生き埋めとなってしまった。
 何とかシルフィア様の助けで這い上がりはしたが……

「どういうことか?」

 妙に反抗的なミーシャの態度。
 シルフィア様の配下である妖精さん。
 その妖精さんと契約したからには、俺の配下でもあるはずだというのに。

「1週間も生き埋めにされたのよ? 反抗的なのも当たり前でショ」

「だが、ゾンビだぞ? 土の中に埋まっている方が落ち着くのではないか?」

「フン。アタシもうゾンビじゃないから」

 いったい何を言っているのか?
 精霊アイでミーシャを見つめる。

────────────────────────────────────
名前:アンデッドミーシャ+妖精さん
種族:グール(NEW)
LV:25  ↑5
体力:550 ↑150
魔力:600 ↑50

特殊スキル:
 食事(NEW):食べると体力回復。新鮮な肉ほど効果大。
────────────────────────────────────

───シルフィア様の豆知識───
 グール。
 食人鬼とも呼ばれるアンデッドモンスター。

 経験を積んだ(たくさん食べた)ゾンビが冬眠。
 地面の中で発酵、進化した姿といわれている。

 見た目は青白いだけの人間。身体が腐乱することもない。
 戦闘力も高く、ゾンビと間違えて近寄れば、熟練冒険者ですら食べられかねない危険な相手。
────────────────

 ゾンビよりさらにタチが悪いではないか……

 だが、確かにゾンビのように腐っているわけではない。
 変な匂いもしなくなっている。
 目が血走っており不気味ではあるが、誤魔化せないこともないかもしれない。

「……分かった。それなら一緒に行こう」

 食人鬼。グールを使役するなど人道にもとる行為。
 もしも見咎められては、妖精キングダムの恥である。

 まあ、要はバレなければ良いのだ。

「ごめん。そちらの魚籠を売っていただけないだろうか?」

 俺は先ほどの釣り人の元まで戻り、竹で編まれた魚籠を売ってもらう。

「ナニヨ? アンタ魚でも釣るっていうの?」

 何を言っている?
 貴様がグールだとバレないよう──こうするのだ。

「モガッ?! モガモガモガー!」

 竹で編まれた魚籠を、ミーシャの頭へスッポリ被せる。
 その外見は、誰が見ても編み笠を被る虚無僧。
 怪しさは皆無である。

 万が一。仮にミーシャの正体がバレタ場合でも、成仏させるため僧として連れている等。
 いくらでも言い訳がつくというもの。

 冴えわたる軍師の知能。
 知力100は半端ではない。

「嫌よアタシ。こんなダサイ恰好!」

 だというのに……
 あっさり魚籠を脱ぎ捨て、地面に叩きつけるミーシャ。

 完璧な作戦も、机上の空論。
 実行されないのでは全くの無意味に終わってしまう。
 ……やむをえない。

「……シルフィア様」

「にゅ!」

「ア……ハイ……被ります」

 いかにミーシャが反抗的であろうとも、本来の主であるシルフィア様。
 精霊様の命令に歯向かう事は不可能なのだ。

 大人しくなったミーシャを連れ、俺たちは王都への街道を歩み出す。

「クサッ……魚クサイじゃない。何ヨこれ? 鼻が曲がるわよ」

 被りはしたが……全く大人しくなっていない。

 この女には気づかいというものがないのか?
 せっかく俺がミーシャのために用意した魚籠。

 お世辞であっても、まあ素敵。どう? 私に似合うかしら?
 といった愛想も、生きていく上では必要だというのに……ボロカスである。

「クサッ。なにその臭い台詞? アンタ。頭が腐ってるんじゃない?」

 腐っているのはお前だ。
 まあグールとなった今は腐っていないが、ゾンビだった頃のミーシャ。
 相当、腐敗臭がしたものだ。

 それでも、少女に臭いなど言おうものなら一生もののトラウマ。
 心優しい俺はミーシャを気づかい、黙っていたというのに……
 そちらがそのつもりなら、俺も気づかいを捨てさせてもらう。

「……シルフィア様」

「にゅ!」

「ア、ハイ。すんませんした……エ? 言わなきゃダメなの? ……マア素敵……ドウ、アタシに似合うかしら……屈辱だわ!」

 しょせんはシルフィア様の下僕である妖精さん。
 そのさらに下僕であるミーシャ。
 主に歯向かおうなどというのが誤りである。

「こんの卑怯者! アンタ。今も。これまでも。まったく。これっぽちも。気なんて使ってないじゃナイ」

 卑怯でも何でもない。
 上司の威光。権力。パワハラ。
 持てる戦力を最大限に行使するのが軍師。
 俺に歯向かおうというのなら、俺より出世してからにすることだ。

 大人しくなったミーシャを連れ、河原を抜け街道に出る。
 王都が近いのだろう。
 街道を進む大勢の人々。

 中には、みすぼらしい恰好をした者も多く見受けられる。

 おそらくは俺たちと同じ。
 王国各地から、魔族の襲撃より逃れてきた人たち。

 全員が隊列を組み、一路王都を目指していた。
 この中に紛れ込めば、楽に王都に辿りつけそうである。

「あんさんたちも魔族から逃げてきたのかい?」

 隊列に近づく俺たちの姿を、目ざとく見つけた男が言う。

「そんじゃ……あんさんたちは、そちらの隊列に入りな」

 避難民たちのリーダー格なのだろう。
 俺たちの姿をいちべつすると、後方の集団を指さした。

 見れば怪我をした人たち。
 すでに朽ちるだけであろう老人たち。
 そのような者が固まり、馬車に同乗。共に移動していた。

「片腕を失ったのか。大変だったなあ」
「そちらの変な被り物をした子は? 顔を怪我したのか?」
「可哀そうに。まだ子供なのに」

 確かに俺は片腕を失っている。
 だが、その戦闘力は抜群。
 確かに俺たちの身なりは薄汚い。
 だが、見る者が見れば、知性溢れる顔から俺が高貴な生まれであることは一目瞭然。

 それを、このような連中と同じ馬車に入れるとは……

────────────────────────────────────
名前:アヤシーン
LV:30
体力:300
魔力:300
────────────────────────────────────

 精霊アイは相手を読み取る能力。
 未だ練度不足ではあるが、こちらへの反応を、ある程度は読み取ることが出来るのだ。

 精霊アイで見る男の反応はイエロー。
 ブルーは友好的。
 レッドは敵対的。
 グリーンは無関心。

 では、イエローはといえば、怪しい思考を巡らす人物である。
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