精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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35.迎撃その3

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「ここからは私が指揮をとらせてもらう」

 俺のパンチを受け、うずくまるギルドマスター。
 ようやく豪華な馬車に乗り込む領主とその取り巻き達。

 倒れたギルドマスターを抱え、俺は大股に馬車へと歩み寄る。
 ドアを開け放ち、領主の首根っこをつかんで引きずり下ろした。

「だ、誰じゃ! 朕を領主と知っての狼藉であるか?」

 何が朕か?
 貴様のような腰抜け。
 珍宝にすら劣る汚物。

「この馬車は徴収する。全員。降りろ。死にたくなければ走れ」

 領主の家族や取り巻きだろう者たち。
 その全員を馬車から追い散らす。

「マ、マサキさん? なんてことを……」

 呆気にとられたように呟くケイン。
 呆けている場合ではない。

「ケイン。怪我人を乗せて脱出しろ」

 今。馬車を利用するべきは、領主の家族やその取り巻きではない。
 怪我をした者たち。走れない者たちだ。

 女子供には気の毒だが、誰もが走るのだ。
 その代わり、走って逃げるだけの時間を。
 俺が稼いでみせる。

 領主の館。
 のどかな村にあって、豪勢にも5階建ての高層建築。

「ひぎっ。は、放せ。放すのじゃ」

 走って逃げようとする領主の首根っこをつかんで、館の中へ。
 最上階。5階のテラスへと俺は走り登る。

 階上から眺めるは、燃えゆく村。
 踏みつぶされた柵。潰れた家屋。

 平和だったトータス村は、もうどこにも存在しない。

 逃げる民を。抵抗する兵士を。
 追いすがり打ち付ける魔族の姿。

 見える景色は地獄絵図。

 これは指揮官の罪。
 戦場において判断を誤ったがための末路。
 その犠牲は、指揮官が償うべき責務。

 領主の館。
 その最上階から、俺は声高らかに宣言する。

「領主はここだ! ギルドマスターはここだ! 死にたい者だけ、かかって来い!」

 今回の魔族の動き。

 明らかに魔族の中のリーダーが。
 知能ある者が指揮する統制された動きをしていた。

 ならば、トータス村のリーダーである領主を。
 ギルドマスターを見て、逃がそうはずがない。

 戦場において、真っ先に討つべきは敵の指揮官。
 いくら戦闘に勝利しようとも。
 敵の指揮官を逃がしては意味がないからだ。

 無秩序に暴れる魔族たち。
 その群れが、領主の館を。
 領主を逃がすまいと、その動きが変化する。

「マサキ。どうするのだー。逃げ場がなくなったぞー」

 上等。
 いまだ気絶するギルドマスターを叩き起こす。

「はっ?! き、貴様! 俺に、ギルドマスターに歯向かうか!」

 元気なのは結構。だが……

「その元気は、魔族にぶつけていただきたい。見ろ」

 眼下に見える魔族の群れが、十重二十重に取り囲む。
 俺たちが居座る領主の館。
 決して逃がしはしないと。

「お、おい! どういうことだ! これでは死ぬではないか!」
「ち、朕は死にとうない!」

 誰だって死にたくはない。
 俺だって死にたくはない。
 稀に例外はいるが、普通はそうだ。

 だが、死にたくなくとも。
 まだ生きたくあろうとも。

 死ぬのが戦争。魔族の襲撃。

 貴様たちの指揮により、今日。
 どれだけの命が失われたのか。

 贅を尽くした領主の館。
 建造するにどれだけの領民の支援があったのか。

「死にたくなければ戦え。生き残れば英雄だ」

 今がその清算の時。

「ガガー!」

 空中から襲い来るバードマンの群れ。

「うおお!」

 剣を抜き放ち、切り捨てるギルドマスター。
 さすがの腕前。たいしたものだ。

「ぎゃあああ!」

 口ばしで突つかれ、悲鳴を上げる領主殿。
 情けない。時間稼ぎにすらならないとは。

「ああっ! 領主どのがー!」

 早くも死亡である。

「こ、これでは約束が……俺の出世が、褒美が、酒池肉林が……」

 余計なことを考えるから、指揮がぶれるのだ。
 指揮官が戦場において考えるのは、ただ勝つことだけ。
 勝利の美酒。それこそが最高の報酬。

 5階まで登りつめるモンスターの群れ。
 ドアを蹴破り、テラスへと押し寄せる。

 ドカーン

 テラスに入る端からモンスターを叩きのめす。

 狭い入口。狭い足場。
 この階上であれば、同時に襲い掛かることはできない。
 大型モンスターが、襲い来ることもできない。

 俺はギルドマスターと並び、襲い来るモンスターを打ち倒していく。

 魔族の群れが領主の館を取り囲む中。

 街道をひた走る避難民の群れ。
 負傷者を乗せて最後尾を守る馬車。
 民は、兵士は、冒険者は、村を駆け出し逃げ出していた。

 優秀な指揮官は、撤退戦でこそ輝くもの。

 おとり作戦。
 その目的は達成した。

 そして、どうやらここが潮時。

 ジジジ……

 立てこもる5階のテラスで耳鳴りがする。
 空気が、酸素が燃え、爆発するその予兆。
 炎精霊。奴が地上から魔法を詠唱したのだ。

「シルフィア様。妖精さん。頼む」

 飛びかかるサラマンダー男を叩きのめし、俺は5階から宙へ身を躍らせる。

「うにゅー!」

 宙を舞う俺の身体。
 その服をつかんで羽ばたくシルフィア様と妖精さん。

「お、おい! 貴様! どこへ行くのだ! お、俺を置いていくな!」

 許せ。戦争に犠牲はつきものなのだ。

 ドカドカドカーン

 直後。
 先ほどまでのテラスが粉みじんに砕け散る。
 大爆発。
 ギルドマスターの姿は炎の中にかき消えていった。

「ひー無茶だぞー重いぞー」

 いくら2人がかりとはいえ、その小さな身体で、俺を持ち上げ飛ぶことはできない。
 それでも、落下速度は大幅に減少。

 緩やかに地上を目指して降下する。

「ガアーカアー!」

 空中で俺たちを追撃するは、バードマン。

 ドガシャーン

 シルフィア様のウインド・ショットガンで弾け飛ぶ。
 しかし、このまま地上に降りるならば、そこは魔族のただ中。
 四方八方を取り囲まれ、なぶり殺しになるだけだ。

「吹け。風の突風。ウインド・ガスト!」

 吹きすさぶ突風。

 飛び越える。
 魔族の群れ。

 宙を滑空する俺たちの身体。

 落着する。
 村の外へ。

「うおー逃げるぞー」

 着地と同時。一目散に逃げ出す妖精さん。
 その頭を取り押さえる。

「うおーなにを考えているのだー」

 それはこちらの台詞。
 お前の分身。契約相手を忘れてどうする?

 掘る掘る。
 ザクザク
 一目散に掘り出す。

「アーウー。うらめしやー。お前の肉をよこせー」

 泥土に塗れ、穴から這い出るミーシャ。
 まるでゾンビそのもの。
 土に埋もれる間、思考までもがゾンビと化したか?

 ポカリ

「アイタッ……アウ? アタシなにを?」

「しっかりしろ。いいから逃げるぞ」

「うおーのん気に掘ってるから、もう追いつかれるぞー」

 いちいちうるさい奴だ。
 そもそも、天才軍師たるこの俺が。
 逃げ道を考慮せず、おとりとして残ろうはずがない。

 駆ける先は村の南。
 大陸を東西に流れる巨大な川。

 その流れの行きつく先は王都。
 迫る魔族を尻目に、俺たちは川へと身を躍らせる。

 ザブーン

「アガウガ。この、アタシ泳ぎは苦手なんだってバ」

 逃げる俺たちを追って、魔族どもが川に身を投げる。

 ザブーン

「ひーあいつら川にまで」

 馬鹿な連中だ。
 地上とは全く勝手が異なるのが水中。

「回れ。暴虐の大渦。ウオーター・サイクロン」

 俺が生み出すは大渦。
 回転する渦に巻き込まれ、水を飲み込み、溺れる魔物たち。

 無論。
 俺たちも渦に巻き込まれる。

「アガウガ。い、息が……溺れ死ぬって……このバカ」

 心配せずとも、すでに死んでいる。
 そもそもゾンビは息をしない。
 よって溺れ死ぬことはないという。

「アレ? 本当。よく考えれば苦しくも何ともないじゃなイ」

 以前の戦いで俺もまた皮膚呼吸を習得している。

 溺れるのは、追いかける魔物たちだけ。
 俺たちは川の流れに身を任せるだけで、労せずして王都まで逃げおおせるというわけだ。
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