精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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32.避難

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「おいら……なんだかとっても──怒っているんだ! ウインド・カッター!」

 妖精さんが詠唱するウインド・カッター。
 唸りを上げた風の刃が、狼男の身体へと吸い込まれる。

 カキーン

 唸りは静まり、風の刃は微風へと散らされる。

 魔力バリア。
 魔力にも秀でるのがワーウルフマン。
 妖精さんの魔法で、狼男の魔法バリアを打ち抜くことは出来ない。

 いくら泣こうが。
 いくら怒ろうが。

 妖精さんの魔力に変化はない。
 感情は戦う原動力とは成りえても、戦いを決定づけるものではない。

 戦いを決定づけるのは、軍師の知略。

「妖精さん。接近戦だ。いけ!」

 宙に浮かぶ妖精さん。
 その身体をつかんで投げつける。

「うお? やめ……ひええええー!」

 戦いとはリアリズム。

 可愛そうなどという感情に左右されない。
 ただ勝つための戦術。
 必勝の作戦こそが戦いのすう勢を決定する。

 魔力バリアは近寄る魔法を。
 飛来する全ての物体を弾き、受け止める魔法の障壁。

 打ち砕くには、相手の魔力を上回る魔法の一撃。
 相手の魔力を枯渇させる魔法の連撃。

 そして、接近戦。

 ドカーン

 魔力バリアをすり抜け、妖精さんの身体が。
 その足先が、狼男の顔を直撃するドロップキック。

「アギャー!」
「いてえー」

 生身の肉体は、魔力バリアの影響を受けず透過する。
 お互い魔力を生み出す者同士。中和能力があるのだろう。

 そして、魔力バリアの半径およそ1メートル。
 その内側に入り込んだ今。

「痛がっている場合か! 今だ。撃て! 妖精さん」

「お? うぐおーウインド・カッターだー!」

 何の障害もなく魔法は直撃する。

 ズバーッ

「ギャーン」

 至近で魔法を受け怯む狼男。
 もちろん妖精さんだけで倒せる相手ではない。

 体力再生能力を持つワーウルフマン。
 一撃で仕留めねば、戦いが長引くばかり。

「加速する。風の力。ウインド・ブースト!」

 槍を手に俺は風の力で一気に加速する。

 ズドスーン

 ランスチャージ。
 槍と1つとなった俺の身体が、ワーウルフマンに突き刺さる。
 胸を貫き魔石を突き刺し、その穂先に掲げ取る。

「ギャイーーーーン!」

 魔石はモンスターの心臓。
 魔石を抜き取られワーウルフマンは即死した。

────────────────────────────────────
体力:510 ↑55
魔力:390 ↑160

月を見た:D ↑
────────────────────────────────────

 翌日。
 一箇所に集められた死体に火が灯される。

 ワーウルフマンの襲撃。
 昨晩の夜襲により、多数の村人が犠牲となっていた。

 その多くは子供。
 闇に乗じて侵入。
 力に劣る子供ばかりを狙った襲撃。

 悪辣非道と言わざるを得ないが、それだけに効果的。
 子供は未来の希望。
 いずれ英雄になるかもしれない将来の可能性。
 それらが未然に摘み取られたのだ。

「やつら……許さねえ!」
「敵討ちや。みなごろしや!」
「行こうぜ!」

 行ってどうなるものでもない。
 魔族が集まる今。
 奴らの根城たる野外へ乗り出しても、殲滅されるだけ。

 そのような見え透いた挑発。
 乗る奴はよほどの馬鹿である。

「うおーおいらも行くぞー。つづけー」

 ポカリ

 馬鹿は死なねば治らないとはいうが、妖精さんに死なれても困る。
 しばらく寝ていてもらうとしよう。

 しかし、想像以上に魔族の勢力は強大。
 もう少し互角の戦いをしているのかと思えば、そうではなかった。

 魔族に目を付けられた今。
 トータス村の命運は、もはや風前の灯。

 魔族の襲撃に備えて、ギルドマスターは援軍を要請。
 援軍の到着まで、防衛を固めると言っていたが……

「みんな。落ち着いて」

 威勢を上げる村人をなだめる1人の冒険者。
 あれは……ケインか。

 俺が片腕を失った時、俺を助けてくれた冒険者。

「みんなが怒るのは分かる。でも、耐えなきゃいけない」

「はあ? おめーは子供がやられてないからや」
「そうや。そうや」

 遺族の気持ちは遺族にしか分からない。
 他人の。しかも、別世界の住人である俺に分かろうはずがない。
 だから、俺はただ俺の考えだけを述べるのだ。

「行っても返り討ちにあうだけだ。やめておいた方が良い」

「は? 誰やおめー? 関係ない奴は引っ込んでろ!」

 残念ながら俺の言葉は誰の耳にも届かない。
 それも当然。どこの誰とも分からない者が、何を言おうが。
 怒りに燃える彼らの胸に届こうはずがない。

 だからといって、ここで彼らを見送れば、ただ彼らの死に手を貸すだけのこと。
 俺は家屋の裏まで移動すると、高級貴族御用達スーツへ着替えを終える。
 貴族以外が着てはいけないというが、生きるか死ぬかというこの時に、もはや関係ない。

「行っても返り討ちにあうだけだ。やめておいた方が良い」

「は? 誰やおめー……って、その服装。貴族さんか?」

 汚いボロを纏った浮浪者の言葉と。
 身なりに優れた眉目秀麗の言葉と。

 同じ言葉であっても、その内容は異なる。

「ただ自殺してどうする? 弔いというなら仇を討たねば意味はない」

 ケイン。
 優れた冒険者なのだろうが、所詮は一介の冒険者。
 貴族である俺の発言力とはわけがちがう。

「くっ……しかたねえ」
「その変わり、こんど奴らが来たら皆殺しにしてやる」

 平民など貴族の一言があれば、軽く治まるというもの。
 軍師として兵を導く俺にとって、この服こそが最強の装備。

「ありがとう。君は? 確か村の外で会ったよね? もしかして貴族だったの?」

「ああ。あの時は助かった。で、これからどうする?」

「……正直。防衛も無理だと思う。ギルドマスターに撤退するよう頼んでみるよ」

 同感である。
 いくら夜襲とはいえ、こう好き放題される時点で戦力差は明らか。
 しかも、今後は夜も満足に眠れなくなる。
 援軍の到着まで、とうてい持つとは思えない。

「撤退しろだって? 正気か?」

 だが、ギルドマスターの考えは異なるようだ。

「ケイン。お前は勇敢な戦士だと思ったのだが……」

「ですが、ギルドマスター。このままではさらに被害が……」

「ならん。領主殿からも厳命されている。徹底抗戦あるのみ。ケイン。お前もだぞ」

 まあ。兵士や冒険者が真っ先に逃げるわけにもいかない。

 俺も希望して冒険者となった身。
 宮仕えであるからには、上司の。
 ギルドマスターの判断に従う義務がある。

 しかし、冒険者でないのなら。
 民間人であれば、逃げようが何しようが。
 それは勝手というもの。

 昨晩の襲撃。
 アリサの自宅も襲われたという。

 アリサを庇い盾となった両親。
 救援に訪れた冒険者のおかげもあって、その後、ワーウルフマンを撃退したと聞くが……

「お父さんお母さんが怪我で……お店も滅茶苦茶……もう営業できないよ」

────────────────────────────────────
体力:575 ↑65
魔力:410 ↑20

光合成: D ↑
草食 : D ↑
肉食 : D ↑
────────────────────────────────────

 翌日。
 避難を希望する村民。
 総勢100名が集まり、村の門へと集合する。

 その中には、怪我した両親に付き従うアリサの姿。
 依頼された珍宝を届けていないのだから、アリサはまだ冒険者ではない。

 領主とて、ギルドマスターとて。
 避難する村民を押しとどめることは出来ない。

 ごく少数の冒険者だけが付き従い、避難民は村を後にする。

 子供は未来への希望。将来の英雄。 
 しかし、今はただ弱点でしかない。
 今はただの足手まといでしかない。

「マサキさん。ミーシャちゃんのこと……お願いします」

 アリサとは……ここでお別れだ。
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