精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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23.亀裂

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 兵隊に連れられ、俺は無事にトータス村へ戻り着く。

 兵隊と別れて冒険者ギルドを目指すその道中。

「まったく。おっさん。手間かけないでよね。川は危ないってのに」

 ミーシャはグチグチ嫌味を言っていた。

 ……まさか俺の読みが外れるとはな。

 てっきり調子に乗ったミーシャが、手強いモンスター相手に苦戦していると予想したのだが。
 あろうことか、先に村へ帰っているとは……

 俺とした事が、ミーシャの知力30を甘く見つもっていたようだ。

「アリサ。冒険者ギルドへ行くわよ。イノシシマンに勝てるって証明できたのだから、あたしも冒険者でやっていけるわ」

 そう言ってミーシャはアリサの手を引っ張り、俺に見向きもせず歩き去ろうとしていた。

「ミーシャちゃん!」

「な、なによ? アリサ。びっくりするじゃない」

「マサキさんは……マサキさんは、ミーシャちゃんが戻らないから、モンスターに襲われたんじゃないかって」

「はあ? あたしが?」

「だから、危険でも川を捜索したんだよ。それが……それなのにミーシャちゃん。先に村へ戻っていただけだなんて」

「そ、それは。あれよ。お腹が空いたし……疲れたし……」

「謝って。マサキさんに」

「謝れって……嫌よ! おっさんが勝手に川へ行っただけじゃない。なんであたしが……」

 腕組みでそっぽを向くミーシャ。

 やれやれな少女だが、2人の友情を壊すのは俺の本意ではない。

「無事だったのなら、俺はそれで構わない」

 泥を被るのも大人の度量というものだ。

「ふん。当然でしょ? ほら。みなさい」

 当然ではないが。

「……もういいよ。私はマサキさんと一緒に行くから」

「はあ。バカなの? こんなおっさんと一緒って。正気なの?」

 俺の腕を掴んだまま、アリサは無言でミーシャを見返した。

「ふ、ふん。なら勝手にすれば? あたしも勝手にするから」

 そう言って、ミーシャは冒険者ギルドの方向へ走り去って行った。

「友達同士の喧嘩を見るのは好きではない。何とか仲直りできないか?」

「ミーシャちゃん次第だよ。ミーシャちゃんが謝るまで許さないもん」

 お互い、なかなか頑固なところがあるようだ。

 が、どちらにせよ、2人の間の問題。
 時間と共に解消することもある。
 今はアリサを取り込めただけで、良しとしておくとしよう。

 先行するミーシャを追い、俺たちも冒険者ギルドへ到着する。

「ひゅー。お嬢ちゃん1人でこのイノシシマンを?」
「聞いたぜ。すげー嬢ちゃんだ」
「これは期待の新人が現れたぜ」

 夜ということもあり、仕事を終えた冒険者が多数戻っているのだろう。
 ギルド内では、大勢の冒険者がミーシャを囲み盛り上がっていた。

「まあね。これならあたしも冒険者に登録できるでしょ?」

「ああ。子供だろうが、これだけの腕を持つなら大歓迎だ」

 ミーシャと相対。がっちり握手を交わす大柄な男。

「ギルドマスターだよ。前にミーシャが来た時は、子供だからって断られたの」

 誰だろうといぶかしむ俺に、アリサが囁いた。

 これでミーシャは子供ではない。
 正式な冒険者と認定された。
 村を出るにも1人で可能。
 俺の同行は必要なくなったというわけだ。

「ミーシャちゃん。俺たちのパーティにインしない?」
「いやいや。うちのパーティだろう」

 強くて可愛いとなれば引っ張りだこになるのも当然。
 そうなる前に唾を付けておきたかったのだが、仕方ない。

 ミーシャを取り囲み盛り上がる連中を余所に、俺は部屋の隅。
 受付へと向かうべく広間を横切り移動する。

「お? おっさんも聞いたぜ」
「川でモンスターに襲われて、兵隊に助けてもらったって?」
「マジかよ。いい大人なんだから無茶するなよ」

 なかなかに情報が早い。
 だが、その情報には少々の誤りがある。

 襲われ、助けられたのは事実。
 しかし、襲われはしたが、俺はモンスターを返り討ちにしている。

 その証拠。
 提灯アンコウマンの魔石を受付へと差し出した。

「これは……オクトパスチョウチンアンコウマンの魔石。買い取りは15万ゴールドやな」

 手強い相手だっただけに、買い取り価格もかなりの額である。

「……もしかしてマサキはん。強いの?」

 これまで必要なこと以外は喋らなかった受付嬢。
 何を言うかと思えば、今さら当然のことである。

「それなりに腕に覚えはある」

「そんなら正式に冒険者ギルドに加盟。冒険者になるか?」

 ……俺は冒険者ではなかったのか?

「魔石を売りにきただけのおっさん。そんな扱いやな」

 言われてみれば、冒険者登録をした覚えもなければ、証明証なども貰っていない。

「冒険者になれば、ギルドの有するモンスターの情報が手に入るで。冒険者ショップでは格安で商品が買えるほか、魔石も高値買い取りしてる。モンスター退治で生きていくなら、冒険者になるのが一番や」

 なるほど。確かに。

「それじゃ記入して。魔力も測定するからさ」

 受付嬢が差し出す書類。
 ざっと内容を確認して記入する。

「……ふひ」

 ん? 気のせいか?
 おかしな声が聞こえたのだが……

「ふひひ。ふひー」

 何を思ったか、いきなり目の前の受付嬢が笑いだす。

「どうした? 気でも違ったか?」

「そうよ。って、そうやない。やっとうちの担当する冒険者に期待できるのが来てなあ」

 担当?

「誰でも彼でも冒険者になれるわけじゃないんよ。ギルドの人間が許可しないと駄目なんよ」

 それでミーシャはこれまで冒険者になれなかったわけだ。

「ほれで許可を与えた者がギルドの窓口を担当するわけや。マサキはんの場合、うちやね」

 これまでの一見の関係ではない。
 これからは仕事仲間というわけだ。
 これまでの営業口調から妙な口調に変わったのも、そのためか。

「受付は冒険者が稼ぎやすいよう情報を回したり依頼を回したり。担当する冒険者が功績を挙げれば受付の手柄ってわけで、持ちつ持たれつってやつよ」

 なるほど。
 冒険者は、個人事業主。

 野球でいうなら冒険者ギルドは球団。
 冒険者は所属する選手というわけだ。

 担当する受付は、監督でありコーチでありスカウトである。
 選手が活躍すれば、取り上げた監督コーチスカウトの手柄にもなるわけだ。

 ということはだ。
 俺にとって大事なのは、ギルド担当が誰になるのか。だ。

 いかに名選手であろうとも、監督がヘボでは。
 コーチがダメでは芽も出ず埋もれるというもの。

 そして、俺の担当はというと……

「あ、うち? マキナっていうんよ。よろしくー」

 小さく手振りで応えるマキナ。

「おいおい? マキナのやつ。おっさんをスカウトしたのか?」
「あいつまともな冒険者が見つからなくて、やけになったか?」
「まあ変わり者の受付には、ヘボ冒険者がお似合いってやつよ」

 どうにも評判は芳しくないようだ。

「それは、マサキはんもや。嫌われ者同士、仲良うしように」

 誰が嫌われ者か?
 俺は駄目な奴という烙印を押されているだけで、嫌われているわけではない。

「それを言うなら、うちは嫌われてるだけで、駄目なんて言われてないやん?」

 ……なるほど。
 能力はある。が、性格に難ありという奴か。
 厄介な。
 大方、冒険者に無茶なノルマや依頼を指示して、破滅させるパターン。

「え? マジで? あたしの担当。ギルマスなの?」

「ああ。ミーシャちゃんは特別だからな。その代わりバリバリ戦ってもらうぜ」

 片やギルマスが担当する期待の新人。

「しかしマサキはん。珍妙なモンスターを連れとるなあ……ちょっと解剖させてくれへん?」

 片や変人だと噂される女性。マキナが担当する俺。

 いったいどこで差がついたのか?

「いやいや! 言うてはなんやが、マサキはんの魔力で冒険者登録しようと思っても、普通は無理やから」

 確かに魔力51というのは、そこらの子供に匹敵する数値。
 だが、別に冒険者が弱かろうと受付には関係ないことでは?

「いやいや。なに言うてはるん? 担当する冒険者が不始末をしよったら、その担当も同罪や。モンスターに勝てないような冒険者を雇用してたら、ギルドの信頼もガタ落ちやん? 誰も依頼を回してくれんよ」

 なるほど一理ある。
 一社員の不祥事が、会社全体の不祥事として取り沙汰されるのは常識。
 下手な人間を雇おうものなら、何をしでかすか分からない。

「その魔力51の俺を、君はよく採用したな?」

「そらそうやん? チョウチンアンコウマンなんて、いくら魔力あっても普通の冒険者なら倒せんよ? 水の中で戦うってのはそういうもんや。マサキはんには特殊なスキルがある。そやろ?」

 なかなかなの洞察力。
 小太りな外見とは打って変わって、切れ者のように思える。

「うちの外見は関係あらへんやろ!」

 おまけに人の心情をも読み取るとはな。
 切れすぎる人間は嫌われるとも言う。
 心強い反面やりづらい。厄介な相手が担当になったものだ。

 俺の言うことをホイホイ聞いてくれる。
 操り人形にできる人間が良かったのだがな……

 悲嘆に暮れる俺を余所に、アリサが手を上げ発言する。

「……あの。わたしも冒険者になりたいです」

「お嬢ちゃんが? そら無理やろー。全然強そうに見えへんもん。魔力も……70やって。こらアカン。無理や。無理」

 そう言って手を振り追い払うマキナ。

「そ、そんなことないです! わたし。オークマンを倒しましたもん」

 それにもめげず、珍しく食い下がるアリサ。
 それ程まで冒険者になりたいのだろうか?

 今朝までモンスターと戦うのを嫌がっていたとは思えない。

「ほー。オークマンをね……ほなら、課題や」

 ニヤリ。黒い笑みを漏らすマキナ。

「オークマンのな……あれや。陰茎を持ってきてや」

 ……やはり変人。
 いきなり純真無垢なアリサに何を言いだすのやら……

「陰茎? それってなんなんです?」

「ほんなカマトトぶらんでもええがな。珍宝や。チンポちょん切って持ってきてーや」

「ち、ち、珍……宝……」

「せや。冒険者やるからには、汚いとか言うてる場合やないで? どや?」

「ち、ち、珍……宝……」

 顔を赤くして、意味不明な言葉を繰り返すアリサ。
 真意を確かめるべく、その耳元に声をかける。

「アリサ将軍。やるなら俺も協力は惜しまない。だが、いいのか?」

「……やります。ミーシャちゃんに負けてられないから」

 見つめる先に映るのはミーシャ。
 ギルマスから装備を手渡され、多くの冒険者に祝福されるその中心。

「ミーシャちゃん。前から冒険者になるって1人で訓練してたから、認められるのは嬉しいよ。でも、他人を蹴落としてまでなんて……だから、わたしがミーシャちゃんに謝らせる」

 成功して出世するには、他人を蹴落とすのは常道。
 俺がミーシャとアリサを利用しようとしているように、ミーシャもただ俺を利用したに過ぎない。
 別に怒るようなことではないが、それがアリサの考え。
 冒険者を目指す原動力なのだろう。
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