精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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19.アリサ将軍

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 なんだかんだとお昼ご飯は終わる。
 食べたばかりだというのに、ミーシャはモンスターを探して何処か走って行ってしまっていた。

 奴のことは、もう放っておこう。
 あのような野獣のことは忘れて、俺は俺の目的を果たすとする。

「マサキさん。どうするんです?」

「薬草を探す。アリサ将軍は生えている場所など分かるか?」

「噂だと山奥に生えているって聞くけど……危ないかも?」

 危険があるからこそお宝があるもの。
 こちらには五虎猛将軍 筆頭のアリサ将軍がいるのだ。
 恐れる必要など何もない。

「……だから将軍じゃないのに」

 まったく……
 謙遜も過ぎれば嫌味になるというもの。

 確かに精霊アイで見るアリサ将軍は雑魚。
 一般人にすら劣る体力魔力。
 ザ・村人といった能力でしかない。

 通常は、か弱い村人少女をモンスターと戦わせるなど、思いもつかない発想。

 だが、俺はその目で見たのだ。
 アリサ将軍が、ウサギマンとイノシシマンを解体する。
 包丁1本であっという間に肉を捌き上げる。その様を。

「お母さんがお店で忙しいから……わたしが家事を担当してるだけだよ!」

 シルフィア様の精霊アイ。
 熟練度がFと低いため、所有するスキルは確認できないが……この少女。
 きっと高ランクの剣術スキルを習得しているはず。間違いない。

「いえ。全く。剣なんて持ったこともないのに……」

 ……俺は天才軍師。
 人を見る目に間違いはない。

「というわけで山の中まで来たぞ」

「ひー。なんでわたしまで……」

 おっかなびっくり俺の服の裾をつかんで、背後に隠れるアリサ将軍。

 なるほど……
 やはり達人はポジション取りからして雑魚とは違う。

 自分はアタッカー。
 タンクは、攻撃を引き付ける役割は俺に任せると。
 そう言うことか。

 一般的なMMOにおいて、アタッカーは。
 攻撃を担当する者は防御面が不得手である。

 当然である。
 1人で攻撃も防御も出来たのでは、オンラインの意味がない。
 複数人で協力するため。
 各人が役割を持てるよう、得手不得手が設定されるもの。

 そして、今のアリサ将軍はアタッカー。
 おっさん。おめーは肉盾やってりゃいーんだよ。と言わんばかりの位置取り。

 俺も魔法使いでアタッカーなのだが……今回ばかりは仕方ない。

「分かった。それなら俺は敵を引き付ける。攻撃はアリサ将軍に任せよう」

「なんにも分かってないよ! こ、怖いだけなのに」

 人間。嫌。だろうが、止めて。だろうが、口では何とでも言えるもの。
 反面、身体は正直。
 こと、その時において、どのように身体が反応するか?

「来るぞ。前方にモンスター。1秒後に接敵。援護を頼む」

「い、1秒後とか急すぎるから。無理ですってば!」

 木立からのっそり姿を現すのは、豚男。
 キノコでも探して山を徘徊しているのか?
 フガフガ鼻を鳴らして周囲を探っていた。

────────────────────────────────────
名前:オークマン

体力:180
魔力:150
────────────────────────────────────

 オークマンなどいっちょ前の名前を持つが、所詮は豚が2足歩行しているだけに過ぎない。
 イノシシでもないのなら、楽勝である。

「ま、まだ気づいてないみたい。は、早く逃げましょうよ!」

「来い! 豚男。その不細工な面。張った押してくれようぞ!」

 ブモ? とばかりに俺たちへ向き直る豚男。

 その間抜け面に魔法を打ち込むのは容易い。
 だが、俺はあえて大声を上げ豚男を挑発する。

「な、なんで呼んでるのー! き、気づいたよ! こっちに来るよー」

 アリサ将軍の武器は包丁。
 いや。血に飢えた殺戮包丁。ブラッディ・ナイフ。
 接近しなければ意味は無い。

 俺は片手で槍を構える。
 片手用の短槍だが、相手を牽制する。距離を保つには十分。

 奇しくも豚男が手にする武器も槍。
 俺と槍の突き比べをしようと。そういうわけか?
 豚の分際で舐めた真似を。

「ブモー!」

 近寄るなり槍を素早く突き出す豚男。

 危ない。
 身を捻り、なんとか寸前で槍を回避する。

 馬鹿め槍を突き終えた今の貴様は隙だらけ。
 今度は俺の番──と言いたいところだが。

 豚男が持つ槍は両手用。
 俺のものよりリーチがある。

 今のこの距離は豚男の距離。
 ここで槍を振るったのでは、俺の槍は届かない。
 かといって、これ以上に距離を詰めたのでは……

「ブモー!」

 豚男のくせに槍の振りが鋭い。
 豚男のくせに武器の扱いが上手い。
 近づいたのでは、豚男の槍に貫かれるだけだ。

「ブモー!」

 まさに豚男の独壇場。
 必死に身をかわすのが精いっぱいで、反撃の暇がない。

 だが、まあ。
 槍の扱いで負けたからといって、勝負に負けたわけではない。

 俺は軍師。
 俺が誇るべきは武力ではない。
 マックス100の知力にある。

 今の俺は時間を稼ぐのが役目。
 俺はただ豚男を引き付け、待てば良い。

 豚男の背後に回るであろうアリサ将軍。
 将軍のブラッディ・ナイフが、豚男の首を一撃で跳ね落とすであろう。
 その時を。

「……あの。ただの包丁だから……無理ですってば……」

 何故か俺の後方から聞こえる声。
 チラリ振り返る俺の後方で、アリサ将軍はブラッディ・ナイフを手に立ち尽くしていた。

 なぜだ。知力100の俺が考案した完璧な作戦が……

 背後で震えるアリサ将軍を見て、ブヒブヒ更に意気上がる豚男。

 男を倒したら、女を俺の長槍で突きまくってやるぜー。ぶひー。
 とでも言わんばかりの鼻息の荒さ。

 そうか!
 豚男といえば、女が大好物。
 いわば女の天敵。
 アリサ将軍が力を発揮できないのも無理はない。
 実際。以前に俺を豚男と見間違えたアリサ将軍は、あっさり白旗を上げていたのだ。

 となると、俺が1人で倒すしかないわけだが──

「ブモー!」

 槍先が俺の身体を掠め取る。
 いくら槍のリーチの差があるとはいえ、体力に勝る俺が押されるのだ。

 もはやお互いの技量差は明らか。
 間違いない。この豚男。
 槍スキルを習得している。

 おのれ。豚男の癖に……
 長さだけでなく、テクニックまで負けるなど。
 人間として。男としてあってはならない屈辱。

グサッ

 豚男の突き出す槍が、俺の腹を深く突き刺した。

 痛い。
 だが、これでお互いの距離が縮まった。
 その上、槍を引き抜くまで豚男は動けない。
 俺の槍も届く、当たるというわけだ。

グサッ

「ブモッ!?」

 俺の突き出す槍が、豚男の腹を深く突き刺した。
 突くのは得意でも、突かれるのは苦手だろう?

「ブモー! ブモモー!」

 何を興奮しているのか、大きな鳴き声を上げる豚男。

グサッグサッ

 お互いを突き合う。
 俺と豚男は、血で血を洗う血みどろの突き合いを開始する。

グサッグサッ

 この豚ヤロウ。
 豚男というだけあって、脂肪が分厚い。
 突かれる方も得意なのか?

グサッグサッ

 半面。モデル体型の俺に余分な脂肪はない。
 それでも、突かれるのが得意なのは俺の方だ。

 今は日の差す時間帯。真昼。
 俺のスキル。光合成が最も活発に活動する時間帯。
 太陽を浴びる毎に俺の体力は回復する。

 加えてスキル。体力自動回復。
 貴様の突きなど。気持ち良いくらいだ。

グサッグサッ

 嘘だった。
 いくら傷が治るといっても、やはり痛いものは痛い。

グサッグサッ

 突きつ突かれつ。
 死闘を繰り広げる俺と豚男。
 いい加減に死んでくれ。

ズバシュッ

 肉が断ち切られる音と共に、そのひと時は終わりを告げる。
 豚男の目は、俺の目を見たまま。

ゴトリ

 豚男の首は、静かに地面に落ちていった。

「はあ……はあ……マ、マサキさん。大丈夫です?」

 頭を無くした身体から、盛大に血が噴き出した。
 包丁を片手にその血に染まるのは、アリサ将軍。

 ブラッディ・ナイフ。
 まさに首切り包丁。

 強固な脂肪を誇る豚男の首を、一撃で落としていた。

「ありがとう。アリサ将軍。助かった」

「わ、わたし必死で……でも、良かった。良かったよー」

 ブラッディ・ナイフを手に、泣き出すアリサ将軍。
 心は怯えていても、身体は正直なもの。
 俺の危機に際して、助けようと身体が動いたのだ。

 アリサ将軍は天然のアタッカー。
 やはり俺の見立てに狂いはない。
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