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第一話 ~人間から魔族への転生~
しおりを挟む第一話
薄暗い部屋。軽く辺りを見渡したところ玉座はあるが、人間界の王の間とはまるで違う場所であると一瞬で理解出来た。
だが、どうにも理解出来ない事が起きている。
「……何処だ……ここは。そもそも俺は死んだはずではなかったのか……」
ギルフォードの呼び出しにノコノコと応じた俺は、毒刃で生命を失ったと思っていた。
天国に行けるような行ないをしてきたとは思えない。
地獄と言われれば納得出来るような場所ではあるが、閻魔大王でも座って居そうな玉座は現在不在だ。
そして、何よりもこうして意識ははっきりとしている。
軽く身体に視線を落とすと、刃を突き立てられた跡はどこにも見つからなかった。
寧ろ、今までの身体とはまるで違う様相に俺は驚きを隠せない。
日に当たると赤くなるレベルの色白だった肌は、健康的な褐色の肌に。
肉付きも薄く骨ばっていた肉体は、筋肉質で鍛え抜かれた鋼のような肉体に。
下腹部の男根は雄々しくそそり立ち、孕ませられない女は居ないと確信出来た。
「……なるほどな。男の身体である事は間違いないな」
そして俺は軽く頭の部分に手を伸ばした。
腰まで伸びていた髪の毛は、短く刈り揃えられている。
角のような物も二本確認出来た。
顔の前に手を持っていき、軽く握りしめる。
手足の爪は鋭く伸びていて、鋼鉄すら引き裂けそうな硬度を有していた。
そして、背中からは翼が、腰の下からは尻尾の様な物が確認出来た。
明らかに『人間の身体』では無くなっていた。
「……目を覚ましたようですね」
自身の身体の確認を終えた頃。俺の背後から女性の声が聞こえた。
俺はその声に『聞き覚え』があった。
「何故お前がここに居る。魔王 レティシア・ミストガルド」
そう言って振り向いた俺の前には、ふわりと頬笑みを浮かべる魔王 レティシア・ミストガルドの姿があった。
「ふふふ。それは私が貴方の魂を『魔族へと転生』させたからですよ。エルランド・ハーウッド様」
「なるほどな。明らかに人間では無い肉体。魔族と言われれば納得だ」
俺はそう台詞を返したあと、彼女に向かってニヤリと笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「それで、俺は今『服すら着てない素っ裸』だ。この状態はお前の趣味なのか?」
「ち、違います!!勘違いしないでください!!」
生娘のように頬を赤く染めながら、レティシアは手を振って言葉を否定した。
何だ……可愛い反応をするじゃないか。
「ふ、服を用意してなかったのはこちらの不手際です。こ、これでどうですか」
レティシアがそう言ってパチンと指を鳴らすと、素っ裸だった俺の身体に服が着せらせた。
「ふむ……悪くないセンスだな」
「あ、ありがとうございます……」
服に身を包んだ俺は、軽く腕を組みながらレティシアに問いかける。
「それで、レティシア。お前は何故俺をこうして魔族に転生させた?お前たちにとって、俺は憎むべき敵では無かったか?」
「……そうですね。貴方の策略のお陰で沢山の魔族が死にました。我が軍でも貴方に対して悪感情を持つものは少なくありません」
「だろうな。だったら尚更じゃないか」
俺がそう答えると、レティシアは少しだけ視線を逸らして言葉を返す。
「ですが、密偵から貴方が死んだとの知らせを受けました。そして……その時に私は思いました。『この男の魂を魔族に転生させ、手駒にすれば人間界に一矢報いることが出来るのでは無いか?』と」
俺は彼女のその言葉に笑いが隠せなかった。
「ははは!!その考えには致命的な欠陥がある。何故俺がお前に力を貸すと思ったんだ?」
「貴方の死に様を私は確認しました。貴方はかなり強い恨みを人間界の王に対して持っているのでは無いですか?」
「……そうだな。俺はギルフォードに対してかなり強い恨みを持っている」
「貴方の望みは『王になる』との事でしたね?人間界を支配した暁には、貴方がその王座に座ることを許しましょう」
「くくく……悪くない提案だ。俺の望みを知っていることも評価してやる」
「貴方の魂を込めている『魔族の身体』は当代最強と言われた『先代魔王の身体』です。人間界の英雄五人がかりで魂のみが滅せられる形になったのは、貴方も知っていますね?」
「そうだな。俺が産まれる百年ほど前の話だな」
なるほど。先代魔王の身体か。
その言葉を受けて彼女に視線を向けて軽く思案する。
かなり若く見えるが、つまりレティシアは百歳を超え……
次の瞬間。俺の首元にヒヤリと刃物が押し当てられたような殺気を感じた。
「……私の能力の一つは『読心』です。殺しますよ?」
「すまなかった。反省しよう」
俺がそう言葉を返すと、レティシアからの殺気はハラリと解けていった。
「エルランド・ハーウッド。貴方には魔王軍の『参謀』の地位を与えます」
彼女はそう言うと、白い陶磁器のようなキメの細かな肌の右手を差し出してきた。
「レティシア・ミストガルド。お前が俺との約束を果たすのなら、俺の知略の全てをお前に与えよう」
俺はそう答えると、差し出された彼女の右手を握り返した。
「ふふふ。交渉成立ですね」
「ああ。まぁどのくらいの付き合いになるかはわからんがな」
俺のその言葉に、レティシアは軽く流し目をしながら言葉を返した。
「ちなみに、魔族には『寿命』と言う概念がありません。ふふふ……貴方が望むなら百年でも千年でも万年でも付き合いますよ?」
「魅力的な提案だな。お前を抱いて王になる。と言うシナリオでも俺は構わんぞ」
俺がそう言って、レティシアの身体を抱き寄せた時だった。
「私はお前を認めないぞ!!エルランド!!」
バタン!!と扉を開け放ち、これまた聞き覚えのある女性の声が部屋に木霊した。
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