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第2章
番外編 ⑭ ~星くんの恋愛相談~
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番外編 ⑭
詩織視点
昼休み。四時間目の終了と同時に、私は三年生の教室へと向かっていました。
朱里さんたちとご飯を食べてから向かおうかと思っていましたが、永瀬先輩から
『せっかくだから一緒にご飯を食べて親睦を深めませんか?』
とメッセージが来たので、そのようにしました。
『演劇部』
売店でカツサンドとお茶を買った私は、目的の教室へとやって来ました。
シャキシャキのカツ丼は玉ねぎがたくさん入っていることを知ったので、カツサンドにしました。
本当はご飯を食べたいのですが、我慢です……
件の永瀬先輩からは
『人払いをしてるから二人でのんびりと話をしながら食事が出来ますよ』
と言われてます、
人の目を集めやすい私です。
そのような配慮はとても助かります。
コンコンと扉をノックすると、中から
「どうぞ」
という澄んだ声が聞こえてきました。
私は「失礼します」と言ってから扉を開けて中に入ります。
「こんにちは、黒瀬さん。お時間取らせてしまってごめんなさいね」
「いえ、気になさらないでください。私も先輩とお話をしたかったので助かります」
私は中に居た永瀬先輩にお辞儀をする。
「そう言ってくれると助かります。では、時間も限られてますので食べながら話をしましょうか」
「はい。賛成です」
私はそう言って、机を挟んで反対側。先輩の対面にある椅子に座りました。
「いただきます」と言って私と先輩はお昼ご飯を食べ始めます。
「手作りのお弁当ですか?」
「えぇ、そうよ。と言っても昨日の夕飯の残りを詰めただけだけどね」
私がそう聞くと、永瀬先輩は少しだけ恥ずかしそうに笑って答えました。
「花嫁修業の一環として、最近は夕飯の準備とかを任されているのよ」
「そうだったんですね。ですが美味しそうですね。これなら未来の旦那さんも喜ぶと思いますよ?」
「あら、そうなの?ふふふ。だったら今度桐崎くんに振舞ってみようかな?」
「……本気ですか?」
私は少しだけ声のトーンを落として聞きました。
「冗談よ。彼のことは良いなとは思うけど、貴女たちの間に入ろうとは思わないわよ」
永瀬先輩は手をヒラヒラと振りながらそう言いました。
「それで、黒瀬さんの書いた台本を、演劇部で公演して欲しい。と言うのが話しよね?」
「はい。そうです。定期公演の台本は決まってますよね。ですので、学園祭の台本としてなら使えるかなと考えてます」
私の言葉に、永瀬先輩は首を縦に振りました。
「そうですね。学園祭の台本としてなら使えますよ。貴方が書いてきた台本の一部を読ませてもらったけど、とても良いクオリティでした。完成すれば採用しても良いと考えてます」
「ありがとうございます」
前向きな言葉を貰えた私は、先輩に頭を下げました。
ですが、私は思います。
『簡単に話が進み過ぎている』と
きっと、この先輩はもう少し踏み込んだことを要求してくるはずです。
そして、私のその予想は当たりました。
「ただし、条件がありますよ?」
「ですよね。話が上手く進み過ぎてると思ってましたから」
私がそう言うと、永瀬先輩は微笑みながら言いました。
「この台本のキャストとして、生徒会の面々と星明くんの首藤美月さんを指名したいと思ってます」
「この場で返事をするのは難しいとは思いますが、演劇部としては良いんですか?」
役者として舞台に立つ。という機会を奪ってしまうことに見えてしまいます。
「定期公演とは違って、学園祭の劇は『遊び』の要素が強いです。別にテキトーにやるという意味では無いですよ?それに、知名度の高い人達がキャストをするというのは、集客にもなりますから」
「なるほど……理解しました」
私はそう言うと、最後の一口のカツサンドを咀嚼してのみこみました。
「名言は出来ませんが、前向きな返答が出来るとは思います」
私はお茶を飲み、喉を潤したあとにそう答えました。
「ありがとう!!これをきっかけに演劇に興味を持つ人が増えてくれて、部員が増えてくれないかな。とも思ってるんだよね」
「そうですね。その可能性も大いにあると思います」
そして、私は先輩に言葉を続けました。
「とりあえず、舞台の上で恥をかかないように、練習はしっかりとやりますよ」
「その時は、演劇部の部員全員で演技指導に当たるからね!!」
「ありがとうございます。それは心強いです」
私はそう言うと、椅子から立ち上がります。
「それではこれで失礼します。永瀬先輩とお話が出来て良かったです」
「ううん。こちらこそありがとう、黒瀬さん。私も有意義な時間が過ごせて良かったよ」
私はお辞儀をひとつした後に、演劇部の部室を後にしました。
「ふぅ。とりあえず前向きな返事がもらえて良かったです」
私は廊下を歩きながらそう呟きます。
それにしても、学園祭で演劇をすることになるとは。
まだ決まってはいませんが、ほぼ決定だと思います。
ふふふ。去年は教室の隅でミステリー小説を読んでいた私が、随分と変わったものです。
それもこれも、悠斗くんに恋をしてからです。
「ふふふ……これから先の学園生活がどうなるのか、楽しみですね」
一年前には考えもしなかったことを思いながら、私は教室へと歩きました。
詩織視点
昼休み。四時間目の終了と同時に、私は三年生の教室へと向かっていました。
朱里さんたちとご飯を食べてから向かおうかと思っていましたが、永瀬先輩から
『せっかくだから一緒にご飯を食べて親睦を深めませんか?』
とメッセージが来たので、そのようにしました。
『演劇部』
売店でカツサンドとお茶を買った私は、目的の教室へとやって来ました。
シャキシャキのカツ丼は玉ねぎがたくさん入っていることを知ったので、カツサンドにしました。
本当はご飯を食べたいのですが、我慢です……
件の永瀬先輩からは
『人払いをしてるから二人でのんびりと話をしながら食事が出来ますよ』
と言われてます、
人の目を集めやすい私です。
そのような配慮はとても助かります。
コンコンと扉をノックすると、中から
「どうぞ」
という澄んだ声が聞こえてきました。
私は「失礼します」と言ってから扉を開けて中に入ります。
「こんにちは、黒瀬さん。お時間取らせてしまってごめんなさいね」
「いえ、気になさらないでください。私も先輩とお話をしたかったので助かります」
私は中に居た永瀬先輩にお辞儀をする。
「そう言ってくれると助かります。では、時間も限られてますので食べながら話をしましょうか」
「はい。賛成です」
私はそう言って、机を挟んで反対側。先輩の対面にある椅子に座りました。
「いただきます」と言って私と先輩はお昼ご飯を食べ始めます。
「手作りのお弁当ですか?」
「えぇ、そうよ。と言っても昨日の夕飯の残りを詰めただけだけどね」
私がそう聞くと、永瀬先輩は少しだけ恥ずかしそうに笑って答えました。
「花嫁修業の一環として、最近は夕飯の準備とかを任されているのよ」
「そうだったんですね。ですが美味しそうですね。これなら未来の旦那さんも喜ぶと思いますよ?」
「あら、そうなの?ふふふ。だったら今度桐崎くんに振舞ってみようかな?」
「……本気ですか?」
私は少しだけ声のトーンを落として聞きました。
「冗談よ。彼のことは良いなとは思うけど、貴女たちの間に入ろうとは思わないわよ」
永瀬先輩は手をヒラヒラと振りながらそう言いました。
「それで、黒瀬さんの書いた台本を、演劇部で公演して欲しい。と言うのが話しよね?」
「はい。そうです。定期公演の台本は決まってますよね。ですので、学園祭の台本としてなら使えるかなと考えてます」
私の言葉に、永瀬先輩は首を縦に振りました。
「そうですね。学園祭の台本としてなら使えますよ。貴方が書いてきた台本の一部を読ませてもらったけど、とても良いクオリティでした。完成すれば採用しても良いと考えてます」
「ありがとうございます」
前向きな言葉を貰えた私は、先輩に頭を下げました。
ですが、私は思います。
『簡単に話が進み過ぎている』と
きっと、この先輩はもう少し踏み込んだことを要求してくるはずです。
そして、私のその予想は当たりました。
「ただし、条件がありますよ?」
「ですよね。話が上手く進み過ぎてると思ってましたから」
私がそう言うと、永瀬先輩は微笑みながら言いました。
「この台本のキャストとして、生徒会の面々と星明くんの首藤美月さんを指名したいと思ってます」
「この場で返事をするのは難しいとは思いますが、演劇部としては良いんですか?」
役者として舞台に立つ。という機会を奪ってしまうことに見えてしまいます。
「定期公演とは違って、学園祭の劇は『遊び』の要素が強いです。別にテキトーにやるという意味では無いですよ?それに、知名度の高い人達がキャストをするというのは、集客にもなりますから」
「なるほど……理解しました」
私はそう言うと、最後の一口のカツサンドを咀嚼してのみこみました。
「名言は出来ませんが、前向きな返答が出来るとは思います」
私はお茶を飲み、喉を潤したあとにそう答えました。
「ありがとう!!これをきっかけに演劇に興味を持つ人が増えてくれて、部員が増えてくれないかな。とも思ってるんだよね」
「そうですね。その可能性も大いにあると思います」
そして、私は先輩に言葉を続けました。
「とりあえず、舞台の上で恥をかかないように、練習はしっかりとやりますよ」
「その時は、演劇部の部員全員で演技指導に当たるからね!!」
「ありがとうございます。それは心強いです」
私はそう言うと、椅子から立ち上がります。
「それではこれで失礼します。永瀬先輩とお話が出来て良かったです」
「ううん。こちらこそありがとう、黒瀬さん。私も有意義な時間が過ごせて良かったよ」
私はお辞儀をひとつした後に、演劇部の部室を後にしました。
「ふぅ。とりあえず前向きな返事がもらえて良かったです」
私は廊下を歩きながらそう呟きます。
それにしても、学園祭で演劇をすることになるとは。
まだ決まってはいませんが、ほぼ決定だと思います。
ふふふ。去年は教室の隅でミステリー小説を読んでいた私が、随分と変わったものです。
それもこれも、悠斗くんに恋をしてからです。
「ふふふ……これから先の学園生活がどうなるのか、楽しみですね」
一年前には考えもしなかったことを思いながら、私は教室へと歩きました。
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