172 / 292
第2章
第五話 ㉔ ~激戦の予算会議~ 放課後 悠斗視点 その②
しおりを挟む
第五話 ㉔
「生徒会副会長の桐崎悠斗です。ここから先は、蒼井空生徒会長に代わり、自分が質疑応答を担当します」
俺は蒼井さんから受け取ったマイクで名乗りを上げた。
ここまでは、『想定内』の状況。そう言ってもいいだろう
怜音先輩の書いた新聞の影響。俺に対しての『ペテン師』のイメージ。
それを考えれば、この事態は十分想定内。
いや俺がマイクを握るために必要だった展開とも言える。
しかし、俺の相手は、野球部の須藤さんではなく、サッカー部の館山(たてやま)さんか、バスケ部の堀内(ほりうち)さん辺りを想定していた。
須藤さんはおそらく沈黙を貫くと思っていた。
いや、俺としては沈黙を貫くと願っていた。
理性的で頭がキレる。そして、どんな挑発にも冷静さを失わない。
それは、先程のやり取りでもわかった事だった。
野球部の馬鹿。もとい、エースの武藤健の相方にして、チームの扇の要。キャッチャーと部長を兼務する須藤さん。
彼を相手にするのは骨が折れる事だった。
しかし、逃げる訳には行かない。どの道彼を含めた全員の部長から了承を得ないといけないんだ。
やることは変わらない!!
俺は心の中で気合いを入れて、話し始める。
「まずは、蒼井生徒会長の話していた、出来高制と部活動支援金についてですが、これは自分の案で間違いありません。そして、この案の理解については、蒼井生徒会長より自分の方が深いと判断し、この場に立つことを決めました」
「そして、まずは、皆さまに話しておくことがございます」
俺はそう言うと、各部の部長を見渡す。
皆の視線が自分に集まったことを確認し、言い放つ。
「自分が提案した部活動支援金以外の方法で集金を行う。これは、自分が生徒会に入会した時に、蒼井生徒会長から話しをされました」
その言葉に各部の部長がざわついた。
あの須藤さんですら、目を細める。
「前年の繰越金が無く、百万円程の金額が足りない。その話の後に、蒼井生徒会長は自分に向かってこう言いました」
このままだと、足りないお金は、僕が夜の街で稼ぐことになるだろうね。と。
俺のその言葉に、辺りが騒然とする。
動画のコメント欄荒れている。
蒼井生徒会長も『なんでそれを言うんだい!?』とでも言いたげな驚愕の表情を浮かべている。
その表情が、俺の言葉が嘘でないことの証明にもなっていた。
「皆さんお静かにお願いします。驚きたい気持ちは良く分かります。自分もその言葉を聞いた時に、驚きました。まさか、蒼井生徒会長はそこまで思い詰めていたのかと」
俺は目を伏せながらそう言う。
そして、皆に問うように話を進める。
「蒼井生徒会長は真面目で優しい人柄です。人員不足とは言え、年下の自分に躊躇いもなく頭を下げる心の広さ。そして、予算会議の案内も、紙の張り出しが慣例でしたが、皆さまに直接頭を下げて連絡をしています。これは会長の意思で行っていることです」
そして、俺は会議資料を手に取る。
「この会議資料もそうです。会長と三輪先輩の二人で仕上げたものです。そして、この資料においても、皆さまに手渡しをしています。会長の気配り、心配りには頭が下がります」
俺は各部の部長を見渡す。
「見目麗しい我らの会長です。夜の街にひとたび出れば、『ヨルノソラ』として金銭を稼ぐのは容易いことかもしれません。……しかし、そんな心優しい蒼井生徒会長を、欲望にまみれた夜の街に送り出す訳には行きません」
俺は真剣な表情で続ける。
「自分には、蒼井生徒会長の言葉が、その場限りの冗談には聞こえませんでした。なので、考えました。どうしたらこの心優しい会長を守れるのかを!!」
俺はそこまで言うと、会議資料の部活動支援金のページを開く。
「それがこの部活動支援金の制度です」
更に俺は続ける。
「理想の生徒会長には、二種類の人物像があると思います。ひとつは、『圧倒的なカリスマで皆を引っ張る人柄』そして、もうひとつは『優しい心を持ちみんなに支えられる人柄』だと思います。そして、蒼井生徒会長は後者の人柄だと思います」
そこまで話した俺は、怜音先輩が回すカメラに身体を向ける。
「どうか皆さん、お願いします!!学園の生徒の為に、身体を捧げる覚悟すら決めている。そんな、心優しい蒼井生徒会長を、皆さんの手で!!支えてくれませんか!!よろしくお願いします!!」
俺はそう言うと、カメラの前で深く頭を下げた。
そう。ここが勝負の分かれ目だった。
頼む!!俺の言葉が響いてくれ!!
俺は頭を下げながら、祈った。
「生徒会副会長の桐崎悠斗です。ここから先は、蒼井空生徒会長に代わり、自分が質疑応答を担当します」
俺は蒼井さんから受け取ったマイクで名乗りを上げた。
ここまでは、『想定内』の状況。そう言ってもいいだろう
怜音先輩の書いた新聞の影響。俺に対しての『ペテン師』のイメージ。
それを考えれば、この事態は十分想定内。
いや俺がマイクを握るために必要だった展開とも言える。
しかし、俺の相手は、野球部の須藤さんではなく、サッカー部の館山(たてやま)さんか、バスケ部の堀内(ほりうち)さん辺りを想定していた。
須藤さんはおそらく沈黙を貫くと思っていた。
いや、俺としては沈黙を貫くと願っていた。
理性的で頭がキレる。そして、どんな挑発にも冷静さを失わない。
それは、先程のやり取りでもわかった事だった。
野球部の馬鹿。もとい、エースの武藤健の相方にして、チームの扇の要。キャッチャーと部長を兼務する須藤さん。
彼を相手にするのは骨が折れる事だった。
しかし、逃げる訳には行かない。どの道彼を含めた全員の部長から了承を得ないといけないんだ。
やることは変わらない!!
俺は心の中で気合いを入れて、話し始める。
「まずは、蒼井生徒会長の話していた、出来高制と部活動支援金についてですが、これは自分の案で間違いありません。そして、この案の理解については、蒼井生徒会長より自分の方が深いと判断し、この場に立つことを決めました」
「そして、まずは、皆さまに話しておくことがございます」
俺はそう言うと、各部の部長を見渡す。
皆の視線が自分に集まったことを確認し、言い放つ。
「自分が提案した部活動支援金以外の方法で集金を行う。これは、自分が生徒会に入会した時に、蒼井生徒会長から話しをされました」
その言葉に各部の部長がざわついた。
あの須藤さんですら、目を細める。
「前年の繰越金が無く、百万円程の金額が足りない。その話の後に、蒼井生徒会長は自分に向かってこう言いました」
このままだと、足りないお金は、僕が夜の街で稼ぐことになるだろうね。と。
俺のその言葉に、辺りが騒然とする。
動画のコメント欄荒れている。
蒼井生徒会長も『なんでそれを言うんだい!?』とでも言いたげな驚愕の表情を浮かべている。
その表情が、俺の言葉が嘘でないことの証明にもなっていた。
「皆さんお静かにお願いします。驚きたい気持ちは良く分かります。自分もその言葉を聞いた時に、驚きました。まさか、蒼井生徒会長はそこまで思い詰めていたのかと」
俺は目を伏せながらそう言う。
そして、皆に問うように話を進める。
「蒼井生徒会長は真面目で優しい人柄です。人員不足とは言え、年下の自分に躊躇いもなく頭を下げる心の広さ。そして、予算会議の案内も、紙の張り出しが慣例でしたが、皆さまに直接頭を下げて連絡をしています。これは会長の意思で行っていることです」
そして、俺は会議資料を手に取る。
「この会議資料もそうです。会長と三輪先輩の二人で仕上げたものです。そして、この資料においても、皆さまに手渡しをしています。会長の気配り、心配りには頭が下がります」
俺は各部の部長を見渡す。
「見目麗しい我らの会長です。夜の街にひとたび出れば、『ヨルノソラ』として金銭を稼ぐのは容易いことかもしれません。……しかし、そんな心優しい蒼井生徒会長を、欲望にまみれた夜の街に送り出す訳には行きません」
俺は真剣な表情で続ける。
「自分には、蒼井生徒会長の言葉が、その場限りの冗談には聞こえませんでした。なので、考えました。どうしたらこの心優しい会長を守れるのかを!!」
俺はそこまで言うと、会議資料の部活動支援金のページを開く。
「それがこの部活動支援金の制度です」
更に俺は続ける。
「理想の生徒会長には、二種類の人物像があると思います。ひとつは、『圧倒的なカリスマで皆を引っ張る人柄』そして、もうひとつは『優しい心を持ちみんなに支えられる人柄』だと思います。そして、蒼井生徒会長は後者の人柄だと思います」
そこまで話した俺は、怜音先輩が回すカメラに身体を向ける。
「どうか皆さん、お願いします!!学園の生徒の為に、身体を捧げる覚悟すら決めている。そんな、心優しい蒼井生徒会長を、皆さんの手で!!支えてくれませんか!!よろしくお願いします!!」
俺はそう言うと、カメラの前で深く頭を下げた。
そう。ここが勝負の分かれ目だった。
頼む!!俺の言葉が響いてくれ!!
俺は頭を下げながら、祈った。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説


十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~
味のないお茶
恋愛
「お腹が空きました。何か食べさせてください」
春休みの最終日。俺、海野凛太郎(うみのりんたろう)の部屋に同年代くらいの一人の女が腹を空かせてやって来た。
そいつの名前は美凪優花(みなぎゆうか)
今日。マンションの隣の部屋に母親と一緒に引っ越して来た奴だった。
「なんで初対面の人間に飯を振る舞わなきゃなんねぇんだよ?」
そう言う俺に、
「先程お母さんに言ったそうですね。『何か困り事があったら言ってください。隣人同士、助け合いで行きましょう』と」
と笑顔で言い返して来た。
「まさか、その言葉を言って数時間でこんな事になるとは思いもしなかったわ……」
「ふふーん。こんな美少女にご飯を振る舞えるのです。光栄に思ってくださ……」
パタン
俺は玄関の扉を閉めた。
すると直ぐに
バンバンバン!!!!
と扉を叩く音
『ごめんなさい!!嘘です!!お腹ぺこぺこなんです!!助けてください!!隣人さん!!』
そんな声が扉を突きぬけて聞こえて来る。
はぁ……勘弁してくれよ……
近所の人に誤解されるだろ……
俺はため息をつきながら玄関を開ける。
そう。これが俺と彼女のファーストコンタクト。
腹ぺこお嬢様の飯使いになった瞬間だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる