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第2章
第五話 ㉓ ~激戦の予算会議~ 放課後 聖女様視点 その③
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第五話 ㉓
聖女様視点
「くだらない妄想話はそのくらいでいいか?」
「…………え?」
須藤さんの言葉に、蒼井さんはキョトンとした表情をしました。
……ダメですよ。生徒会長がそんな顔をしたら。もっと毅然としていないと。
そんな私の嘆息に被せるように、須藤さんが話し始めました。
「出来高制については異論は無い。今後もこの制度を細かく詰めて行けば、予算を作る時間は大幅に削減出来るだろう」
「新聞部に活躍を報道させる方法についても異論は無い。我々は昨年はあと一歩で甲子園を逃した。と言うのは学園では有名な話だ。しかし、それ以外の部活でも活躍を残しているものはある。そういう事に日の目を当てることは良い事だ」
……ふむ。やはりこの方は他の部長とは違いますね。
しっかりと理解した上で発言をしています。
野球部と言えばあの脳筋……武藤くんのイメージがありましたが、彼のような人物も居るのですね。
「……そ、そこまで理解していて、どうして妄想だ……」
そして、やはり彼は我々の案の『穴』について言及しました。
「部活動支援金。これが妄想だと言っている」
悠斗くんが隣で小さく「この人には言われたくなかった」と呟きました。
ふむ……きっと彼にとっても、この人はかなり手強い人物である。との認識があるようですね。
「も、妄想だなんて酷いじゃないか……みんなの頑張りが周知出来れば、学園のみんなだって……」
「俺が話しているのは、『部活動に対する募金』では無い」
「……え?」
……はぁ。蒼井さん。もう少し生徒会長らしい振る舞いをしてください。貴方が発言者に振り回されてどうするんですか。
「出来高制で増えた予算を支払う分まで、お前たち生徒会に、募金が集まると、本気で思っているのか?」
その言葉に、隣の悠斗くんが舌打ちをしました。
ふふふ……珍しいものを見れました。
「去年の予算総額が約九百万円。今年が八百万円。出来高を含めない基本の予算で七百万円。出来高で支払える余裕は百万円程ある。だが、この百万円はすぐに消えるだろう。そして、出来高を支払うのに追加で必要になる金は恐らく百万円は軽く超えることになると予想出来る」
「……な、なぜ」
はぁ……そんなこと言ったら『私はこの案についての理解が足りてません』と言ってるようなものじゃないですか。
「前年以上の予算を手にすることが出来ると思われる部活が多すぎると、何故分からない?野球部、サッカー部、バスケ部この三つは余裕で出来高をクリアし、更に出来高を積み上げることすら可能だろう」
「…………そうだね」
「そうした部活への出来高の支払いを、お前たち生徒会は『募金で賄える』そんなことを本気で考えているのなら、くだらない妄想話だと言いたくもなるだろう?」
そこまで言い切った須藤さん。
蒼井さんを見ると、情けなく項垂れていました。
そんな彼女に話しても『無駄』と思ったのか、須藤さんは悠斗くんにその矛先を向けました。
「桐崎悠斗生徒会副会長」
「はい。何でしょうか」
悠斗くんは須藤さんの鋭い視線を逸らすことなく受け止めます。
はぁ……かっこいい。上位者とはこうでなければいけません。
「この案は貴様の案のようだな?」
「ええ、そうです」
「うちの部員の武藤と違い、聡い貴様のことだ。自分の案の粗を知っていながら、話してはいなかったのだろう?」
「さあ?それこそ須藤部長の妄想では?」
ふふふ……悠斗くんが煽り返しています。
きっと冷静な須藤さんを、少しでも感情的にして、話を優位に進めようとしているのでしょう。
しかし、そこは須藤さんですね。悠斗くんの煽りもスルーして、しっかりと言い返してきました。
「先週発行された新聞を見た」
「なるほど、そうですか」
悠斗くんにとっては痛い部分ですが、彼は表情ひとつかえません。
「貴様はペテン師らしいな」
「その記事に関しては誠に遺憾だと思ってますがね」
やれやれ。と悠斗くんはため息をつきながらそう返します。
しかし、そんな彼に須藤さんは言い放ちました。
「貴様が俺たちをペテンにかけようとしているようにしか思えないんだよ」
そう。これが『表向きでは』悠斗くんが言われて欲しくなかったひと言です。
しかし、『本当の意味では』彼が求めていたひと言でもありました。
そして、悠斗くんはひとつ息を吐いて、手を挙げました。
「山野先生。発言の許可を求めます」
さあ、刮目の時間が始まります。
「いいぞ、桐崎。発言を認めよう」
悠斗くんはその言葉に頷いて、蒼井さんの元にマイクを取りに向かいます。
そして、蒼井さんからマイクを受け取った悠斗くんは、彼女に耳打ちしていました。
後は、俺に任せてください。
口の動きから、そう言っていたのでしょう。
……あ、堕ちましたね。
去って行く悠斗くんの背中を見る蒼井さんの表情は、もはや恋する乙女そのものでした。
全く、悠斗くんは罪な人ですね。
女たらしのハーレム王です。
私はそんなことを思いながら、悠斗くんに視線を向けました。
そして、
「生徒会副会長の桐崎悠斗です。ここから先は、蒼井空生徒会長に代わり、自分が質疑応答を担当します」
毅然とした表情でそう言い放ちました。
聖女様視点
「くだらない妄想話はそのくらいでいいか?」
「…………え?」
須藤さんの言葉に、蒼井さんはキョトンとした表情をしました。
……ダメですよ。生徒会長がそんな顔をしたら。もっと毅然としていないと。
そんな私の嘆息に被せるように、須藤さんが話し始めました。
「出来高制については異論は無い。今後もこの制度を細かく詰めて行けば、予算を作る時間は大幅に削減出来るだろう」
「新聞部に活躍を報道させる方法についても異論は無い。我々は昨年はあと一歩で甲子園を逃した。と言うのは学園では有名な話だ。しかし、それ以外の部活でも活躍を残しているものはある。そういう事に日の目を当てることは良い事だ」
……ふむ。やはりこの方は他の部長とは違いますね。
しっかりと理解した上で発言をしています。
野球部と言えばあの脳筋……武藤くんのイメージがありましたが、彼のような人物も居るのですね。
「……そ、そこまで理解していて、どうして妄想だ……」
そして、やはり彼は我々の案の『穴』について言及しました。
「部活動支援金。これが妄想だと言っている」
悠斗くんが隣で小さく「この人には言われたくなかった」と呟きました。
ふむ……きっと彼にとっても、この人はかなり手強い人物である。との認識があるようですね。
「も、妄想だなんて酷いじゃないか……みんなの頑張りが周知出来れば、学園のみんなだって……」
「俺が話しているのは、『部活動に対する募金』では無い」
「……え?」
……はぁ。蒼井さん。もう少し生徒会長らしい振る舞いをしてください。貴方が発言者に振り回されてどうするんですか。
「出来高制で増えた予算を支払う分まで、お前たち生徒会に、募金が集まると、本気で思っているのか?」
その言葉に、隣の悠斗くんが舌打ちをしました。
ふふふ……珍しいものを見れました。
「去年の予算総額が約九百万円。今年が八百万円。出来高を含めない基本の予算で七百万円。出来高で支払える余裕は百万円程ある。だが、この百万円はすぐに消えるだろう。そして、出来高を支払うのに追加で必要になる金は恐らく百万円は軽く超えることになると予想出来る」
「……な、なぜ」
はぁ……そんなこと言ったら『私はこの案についての理解が足りてません』と言ってるようなものじゃないですか。
「前年以上の予算を手にすることが出来ると思われる部活が多すぎると、何故分からない?野球部、サッカー部、バスケ部この三つは余裕で出来高をクリアし、更に出来高を積み上げることすら可能だろう」
「…………そうだね」
「そうした部活への出来高の支払いを、お前たち生徒会は『募金で賄える』そんなことを本気で考えているのなら、くだらない妄想話だと言いたくもなるだろう?」
そこまで言い切った須藤さん。
蒼井さんを見ると、情けなく項垂れていました。
そんな彼女に話しても『無駄』と思ったのか、須藤さんは悠斗くんにその矛先を向けました。
「桐崎悠斗生徒会副会長」
「はい。何でしょうか」
悠斗くんは須藤さんの鋭い視線を逸らすことなく受け止めます。
はぁ……かっこいい。上位者とはこうでなければいけません。
「この案は貴様の案のようだな?」
「ええ、そうです」
「うちの部員の武藤と違い、聡い貴様のことだ。自分の案の粗を知っていながら、話してはいなかったのだろう?」
「さあ?それこそ須藤部長の妄想では?」
ふふふ……悠斗くんが煽り返しています。
きっと冷静な須藤さんを、少しでも感情的にして、話を優位に進めようとしているのでしょう。
しかし、そこは須藤さんですね。悠斗くんの煽りもスルーして、しっかりと言い返してきました。
「先週発行された新聞を見た」
「なるほど、そうですか」
悠斗くんにとっては痛い部分ですが、彼は表情ひとつかえません。
「貴様はペテン師らしいな」
「その記事に関しては誠に遺憾だと思ってますがね」
やれやれ。と悠斗くんはため息をつきながらそう返します。
しかし、そんな彼に須藤さんは言い放ちました。
「貴様が俺たちをペテンにかけようとしているようにしか思えないんだよ」
そう。これが『表向きでは』悠斗くんが言われて欲しくなかったひと言です。
しかし、『本当の意味では』彼が求めていたひと言でもありました。
そして、悠斗くんはひとつ息を吐いて、手を挙げました。
「山野先生。発言の許可を求めます」
さあ、刮目の時間が始まります。
「いいぞ、桐崎。発言を認めよう」
悠斗くんはその言葉に頷いて、蒼井さんの元にマイクを取りに向かいます。
そして、蒼井さんからマイクを受け取った悠斗くんは、彼女に耳打ちしていました。
後は、俺に任せてください。
口の動きから、そう言っていたのでしょう。
……あ、堕ちましたね。
去って行く悠斗くんの背中を見る蒼井さんの表情は、もはや恋する乙女そのものでした。
全く、悠斗くんは罪な人ですね。
女たらしのハーレム王です。
私はそんなことを思いながら、悠斗くんに視線を向けました。
そして、
「生徒会副会長の桐崎悠斗です。ここから先は、蒼井空生徒会長に代わり、自分が質疑応答を担当します」
毅然とした表情でそう言い放ちました。
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