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第1章
第九話 ⑭ ~波乱の一日・夜~ 前編 聖女様視点
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第九話 ⑭
聖女様視点
斉藤さんと別れたあと、私は一度家に帰宅しました。
時刻は十九時少し過ぎでした。
これなら、一度ゆっくりとお風呂に入ってから、髪の毛を乾かして、悠斗くんのバイト先に向かえばちょうど彼があがるタイミングになるでしょう。
思えば、私の住んでいる場所の近くのコンビニが、悠斗くんのバイト先だったとは。なかなか運命を感じます。
斉藤さんにお願いしたことは、
バイトが終わったあとに、私が彼に家まで送って貰うので、それを写真に撮って、グループラインに投稿して欲しい。
と言うことでした。
斉藤さんの自宅から、悠斗くんのバイト先へは自転車で二十分程の距離だったので、少し難しいかと思いましたが、了承して頂けました。
ふふ、今度彼女にはなにかお礼をしないと行けませんね。
さて、私はお風呂の準備と着替えの支度を始めました。
鼻歌交じりで準備を行う私。
ここに住み始めてからもう一年以上経ちますが、この部屋で鼻歌なんて歌ったのは初めてですね。
私はそうして着替えの支度を終え、悠斗くんから借りた大切なライトノベルを読み始めました。
ふふふ、ありがとうございます悠斗くん。
こうすることで、恋する乙女がどうやって男の子にアプローチをしたら良いかがよくわかります。
教室で悠斗くんの名前を呼ぶ。と言うのはやはり効果的でしたね。
ライトノベルを読んでいたからこそ出来た行為ですね。
そうしているとお風呂が湧いたことを知らせるメロディがなりました。
私は読みかけのライトノベルに栞を挟み、お風呂へと向かいました。
長めのお風呂につかり、髪の毛を乾かしたところで、二十一時半頃でした。
私は着替えを済ませ、お化粧はせずに悠斗くんのお店に向かうことにしました。
お風呂に入ったのにお化粧をするのは変ですからね。
すっぴんでも十分に戦えるはずです。
マンションを出て、十五分ほど歩くと悠斗くんの働くコンビニが見えてきました。
ふふ、今日は来ないかもしれない。なんて油断してそうな顔ですね?大丈夫です。キチンと来てますから。
あなたが働く日は毎日来ますから。私。
そして、私はコンビニの自動ドアから店内に入りました。
「いらっしゃいま……」
「ふふふ。少し遅くなってしまいましたが、今日も夕飯を買いに来ました。」
驚いた顔をしている悠斗くん。
私の髪の毛を見ています。お風呂に入ってきたことがわかったみたいですね。
「やぁ、いらっしゃい。今日はもう来ないのかと思ってたけどこんな時間に来るとは珍しいね?」
と、私に馴れ馴れしく話しかけてきた女性は、悠斗くんが司さんと呼ぶ方でした。
たしか、北原さんでしたね。
何やらこちらを探るような目をしています。
なるほど。悠斗くんから話を聞いていそうです。
彼から相談を受けるレベルの間柄。
ライバルとは言いませんが、なかなかに厄介そうですね。
私は余所行きの笑顔を浮かべながら答えました。
「いえ、今日は学校で色々ありまして、少し汗をかいてしまいました。せっかく悠斗くんと会えるのに、汚れた格好は嫌だと思ったのでお風呂で身を清めてから来ました」
「……へぇ」
間違ったことは言ってない。
汗はかいていたし、彼の前では常に美しい私で居たい。
私はくるりと踵を返し、ご飯を選びに行きました。
まぁ、選ぶと言ってもカルビ弁当一択ですが。
私がお弁当を見ている後でなにやら話してるようです。
内容までは聞き取れませんが、まぁ良いでしょう。
私はカルビ弁当を手に、悠斗くんのレジへと向かいます。
「温めは結構です。ですが、店員さんをお持ち帰りでよろしくお願いします」
冗談ぽく言ってみました。
「店員のデリバリーは行っていないんですがね……」
悠斗くんは苦笑いをしています。
そして、言いました。
「送るよ」
あら?私から誘わずとも、悠斗くんから送ると言ってくれました。
「いいのですか?」
思わず私は聞き返してしまいました。
「……まぁ、こんな時間に一人で帰宅させる訳には行かないでしょ?」
なんとお優しい悠斗くん。いえ、甘い悠斗くん。
あなたのその甘さが、自分を苦しめるのに。
ですが、今はその甘さに助けられてます。
「なるほど。では安心です」
私はそう言うと、自動ドアへと向かいます。
「外で待ってます。よろしくお願いしますね、悠斗くん」
悠斗くんにそう告げて、外で待つことにしました。
時刻は二十二時。そう待たずとも、彼は来てくれるでしょう。
そして、しばらくすると悠斗くんが原付バイクを手押し車しながらやって来ました。
なかなかに重そうです。
ちぇ……それだと手が繋げません。
ちょっとプランを変更する必要がありますね。
「送って頂いてありがとうございます」
私はそう言って、彼に頭を下げます。
「まぁ、そんなに遠くない距離なんだよね?」
「歩いて十分程の距離ですね。自転車を使うよりは、美容と健康のために歩いています」
「毎日カルビ弁当を食べる人が、美容と健康ね」
彼には珍しく、小馬鹿にしたような言い方。
バイトの後で疲れているのか、少しだけ気が緩んでるように見えますね。
「あ、悠斗くん。今、私をバカにしましたね?美味しいお肉は健康の秘訣ですよ」
「ははは。まあ、健康はともかくとして、育ちは良くなるのかもしれないね」
そう言って悠斗くんは私の、おっぱ……うぅん!!、む、む、胸の部分を見ています!!
え、え、え、えぇ!!!!!?????
ふ、普段の彼からは考えられないようなセリフと視線に私は戸惑いますが、何とか気持ちを落ち着けて切り返します。
「……悠斗くんは、えっちですね?」
何とかそれだけ返すと、これは自分の失言を恥じるように、
「いや、そんなことは……あるのか」
と言いました。
ですがその様子に、私はかなり嬉しさを感じます。
彼は、私に女性としての魅力を確かに感じているのですから。
「まぁ、他の男の人には絶対に嫌ですが、悠斗くんになら少しなら良いですよ?」
夜のテンションとでも呼ぶのでしょうか。
私もかなり大胆な発言をしていました。
「黒瀬さん……そういうこと言わない」
悠斗くんが少し困ったように笑いました。
いい雰囲気です。
私はその時、視界の端に斉藤さんを見つけました。
そろそろですね。
と私が考えた時、カシャリと音がなりました。
静寂に包まれた夜闇の中。意外にその音は耳に残りました。
「……今、なんか鳴った?」
「……え?悠斗くん……やめてくださいよ。私怖いのダメなんです」
どうやら、悠斗くんも気が付いたようです。
ですので、私はプランを変更し、あたかも幽霊が出たかのようなリアクションで彼の腕にしがみつきました。
そして、優秀な斉藤さんはその瞬間も写真に残してくれました。
「……はぁ。気のせいかもしれないから、離れてくれる?」
「いえ、悠斗くんのせいで怖くなってしまいました。責任問題ですよ?」
私はそう言って、せっかく触れ合えた悠斗くんの腕を離してなるものか。とそのまま歩くようお願いしました。
そして、それから五分程歩くと、私のマンションが見えてきました。そして、入口の前まで来たところで、彼にお礼を言います。
「ありがとうございます。悠斗くん」
「いや。まぁいいよ」
おかしいですね。もうそろそろだと思ったのですが。
すこし、時間を稼ぎましょう。
「少しお茶でも飲んでいきませんか?」
私は断られるのを承知でそう言いました。
重要なのは悠斗くんが家に来ることではない。
今この場に、もう少しだけ彼を……
と、思ってた。その時でした。
彼のスマホに着信を告げる音がしました。
着た!!
私はある種の確信を持っていました。
「こんな時間に電話?」
悠斗くんは訝しげにスマホを取り出しました。
チラリと見えたその画面には、
『藤崎朱里』
と出ていました。
私は、
笑みを、
堪えきれませんでした。
聖女様視点
斉藤さんと別れたあと、私は一度家に帰宅しました。
時刻は十九時少し過ぎでした。
これなら、一度ゆっくりとお風呂に入ってから、髪の毛を乾かして、悠斗くんのバイト先に向かえばちょうど彼があがるタイミングになるでしょう。
思えば、私の住んでいる場所の近くのコンビニが、悠斗くんのバイト先だったとは。なかなか運命を感じます。
斉藤さんにお願いしたことは、
バイトが終わったあとに、私が彼に家まで送って貰うので、それを写真に撮って、グループラインに投稿して欲しい。
と言うことでした。
斉藤さんの自宅から、悠斗くんのバイト先へは自転車で二十分程の距離だったので、少し難しいかと思いましたが、了承して頂けました。
ふふ、今度彼女にはなにかお礼をしないと行けませんね。
さて、私はお風呂の準備と着替えの支度を始めました。
鼻歌交じりで準備を行う私。
ここに住み始めてからもう一年以上経ちますが、この部屋で鼻歌なんて歌ったのは初めてですね。
私はそうして着替えの支度を終え、悠斗くんから借りた大切なライトノベルを読み始めました。
ふふふ、ありがとうございます悠斗くん。
こうすることで、恋する乙女がどうやって男の子にアプローチをしたら良いかがよくわかります。
教室で悠斗くんの名前を呼ぶ。と言うのはやはり効果的でしたね。
ライトノベルを読んでいたからこそ出来た行為ですね。
そうしているとお風呂が湧いたことを知らせるメロディがなりました。
私は読みかけのライトノベルに栞を挟み、お風呂へと向かいました。
長めのお風呂につかり、髪の毛を乾かしたところで、二十一時半頃でした。
私は着替えを済ませ、お化粧はせずに悠斗くんのお店に向かうことにしました。
お風呂に入ったのにお化粧をするのは変ですからね。
すっぴんでも十分に戦えるはずです。
マンションを出て、十五分ほど歩くと悠斗くんの働くコンビニが見えてきました。
ふふ、今日は来ないかもしれない。なんて油断してそうな顔ですね?大丈夫です。キチンと来てますから。
あなたが働く日は毎日来ますから。私。
そして、私はコンビニの自動ドアから店内に入りました。
「いらっしゃいま……」
「ふふふ。少し遅くなってしまいましたが、今日も夕飯を買いに来ました。」
驚いた顔をしている悠斗くん。
私の髪の毛を見ています。お風呂に入ってきたことがわかったみたいですね。
「やぁ、いらっしゃい。今日はもう来ないのかと思ってたけどこんな時間に来るとは珍しいね?」
と、私に馴れ馴れしく話しかけてきた女性は、悠斗くんが司さんと呼ぶ方でした。
たしか、北原さんでしたね。
何やらこちらを探るような目をしています。
なるほど。悠斗くんから話を聞いていそうです。
彼から相談を受けるレベルの間柄。
ライバルとは言いませんが、なかなかに厄介そうですね。
私は余所行きの笑顔を浮かべながら答えました。
「いえ、今日は学校で色々ありまして、少し汗をかいてしまいました。せっかく悠斗くんと会えるのに、汚れた格好は嫌だと思ったのでお風呂で身を清めてから来ました」
「……へぇ」
間違ったことは言ってない。
汗はかいていたし、彼の前では常に美しい私で居たい。
私はくるりと踵を返し、ご飯を選びに行きました。
まぁ、選ぶと言ってもカルビ弁当一択ですが。
私がお弁当を見ている後でなにやら話してるようです。
内容までは聞き取れませんが、まぁ良いでしょう。
私はカルビ弁当を手に、悠斗くんのレジへと向かいます。
「温めは結構です。ですが、店員さんをお持ち帰りでよろしくお願いします」
冗談ぽく言ってみました。
「店員のデリバリーは行っていないんですがね……」
悠斗くんは苦笑いをしています。
そして、言いました。
「送るよ」
あら?私から誘わずとも、悠斗くんから送ると言ってくれました。
「いいのですか?」
思わず私は聞き返してしまいました。
「……まぁ、こんな時間に一人で帰宅させる訳には行かないでしょ?」
なんとお優しい悠斗くん。いえ、甘い悠斗くん。
あなたのその甘さが、自分を苦しめるのに。
ですが、今はその甘さに助けられてます。
「なるほど。では安心です」
私はそう言うと、自動ドアへと向かいます。
「外で待ってます。よろしくお願いしますね、悠斗くん」
悠斗くんにそう告げて、外で待つことにしました。
時刻は二十二時。そう待たずとも、彼は来てくれるでしょう。
そして、しばらくすると悠斗くんが原付バイクを手押し車しながらやって来ました。
なかなかに重そうです。
ちぇ……それだと手が繋げません。
ちょっとプランを変更する必要がありますね。
「送って頂いてありがとうございます」
私はそう言って、彼に頭を下げます。
「まぁ、そんなに遠くない距離なんだよね?」
「歩いて十分程の距離ですね。自転車を使うよりは、美容と健康のために歩いています」
「毎日カルビ弁当を食べる人が、美容と健康ね」
彼には珍しく、小馬鹿にしたような言い方。
バイトの後で疲れているのか、少しだけ気が緩んでるように見えますね。
「あ、悠斗くん。今、私をバカにしましたね?美味しいお肉は健康の秘訣ですよ」
「ははは。まあ、健康はともかくとして、育ちは良くなるのかもしれないね」
そう言って悠斗くんは私の、おっぱ……うぅん!!、む、む、胸の部分を見ています!!
え、え、え、えぇ!!!!!?????
ふ、普段の彼からは考えられないようなセリフと視線に私は戸惑いますが、何とか気持ちを落ち着けて切り返します。
「……悠斗くんは、えっちですね?」
何とかそれだけ返すと、これは自分の失言を恥じるように、
「いや、そんなことは……あるのか」
と言いました。
ですがその様子に、私はかなり嬉しさを感じます。
彼は、私に女性としての魅力を確かに感じているのですから。
「まぁ、他の男の人には絶対に嫌ですが、悠斗くんになら少しなら良いですよ?」
夜のテンションとでも呼ぶのでしょうか。
私もかなり大胆な発言をしていました。
「黒瀬さん……そういうこと言わない」
悠斗くんが少し困ったように笑いました。
いい雰囲気です。
私はその時、視界の端に斉藤さんを見つけました。
そろそろですね。
と私が考えた時、カシャリと音がなりました。
静寂に包まれた夜闇の中。意外にその音は耳に残りました。
「……今、なんか鳴った?」
「……え?悠斗くん……やめてくださいよ。私怖いのダメなんです」
どうやら、悠斗くんも気が付いたようです。
ですので、私はプランを変更し、あたかも幽霊が出たかのようなリアクションで彼の腕にしがみつきました。
そして、優秀な斉藤さんはその瞬間も写真に残してくれました。
「……はぁ。気のせいかもしれないから、離れてくれる?」
「いえ、悠斗くんのせいで怖くなってしまいました。責任問題ですよ?」
私はそう言って、せっかく触れ合えた悠斗くんの腕を離してなるものか。とそのまま歩くようお願いしました。
そして、それから五分程歩くと、私のマンションが見えてきました。そして、入口の前まで来たところで、彼にお礼を言います。
「ありがとうございます。悠斗くん」
「いや。まぁいいよ」
おかしいですね。もうそろそろだと思ったのですが。
すこし、時間を稼ぎましょう。
「少しお茶でも飲んでいきませんか?」
私は断られるのを承知でそう言いました。
重要なのは悠斗くんが家に来ることではない。
今この場に、もう少しだけ彼を……
と、思ってた。その時でした。
彼のスマホに着信を告げる音がしました。
着た!!
私はある種の確信を持っていました。
「こんな時間に電話?」
悠斗くんは訝しげにスマホを取り出しました。
チラリと見えたその画面には、
『藤崎朱里』
と出ていました。
私は、
笑みを、
堪えきれませんでした。
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