学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第1章

第九話 ⑧ ~波乱の一日・昼~ 聖女様視点

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 第九話  ⑧



 聖女様視点



 四時間目を終えるチャイムが鳴りました。

 休み時間の度に私の席にたくさんのクラスメイト達がやってきました。

 ふふ、一度も話したこともないような人達ばかりです。

 人では無いですね、馬です。野次馬と言うやつですね。

 おっと、毒が過ぎましたね。この人たちがいるからこそ、あの場を作れたのですから。

 ふふふ、それにしても。色々聞かれましたね。

「付き合っては居ませんが、私の気持ちは、聡い悠斗くんのことです。気が付いてると思いますよ?」

「ふふふ。このライトノベルですか?えぇ、悠斗くんから借りた大切な宝物です。彼はいつも私に新しいことを教えてくれます」

「私も彼に『詩織』と呼んでもらいたいのですが、まだ照れているのか、呼んでもらえないんですよね。ですが、今日彼に『いずれ詩織と呼ばせてみせます』とお伝えしましたので」

「去年よりは交友関係が広がったと思います。ひとりで居るのも悪くは無いですが、悠斗くんと知り合ってからは彼と共に居るのは心地よいと感じてます」



 あはははははは……


 気持ちが高揚していきます。

 私の父親を母親から奪い取ったあの女は、こういう気持ちだったのでしょうか?

「山野先生に呼ばれてるから、進路指導室に行ってくるよ」

 悠斗くんは私たちにそう言うと、逃げるように教室から出ていきました。

 それを合図に、私は三人に切り出します。

「ふふふ。佐藤さん、藤崎さん、それに武藤くん。本日は悠斗くんが残念ながら居ませんので、この四人でご飯と行きませんか?」

「いいよ。黒瀬さん」
「私も賛成かな。黒瀬さんとは話したいことあるし」
「女三人に男一人ってのはなんとも気まずいが、まぁ悠斗が居ねぇなら仕方ねぇな。邪魔にならねぇようにするさ」

 と、三人が了承をしました。

「ありがとうございます。実は彼が居ないと『仲間外れ』にされてしまうかと思いましたが、杞憂でしたね。大変申し訳ありませんでした」
「……っ!!」
「黒瀬さん……」
「……なるほどな」

 私の言う『仲間外れ』という言葉に反応する三人。
 こうしておけば、三人は軽々に私を切り捨てることが出来なくなります。

「では、食堂へと向かいましょう。私は当然、肉増しの焼肉セットです」

 今日の焼肉セットは今まででいちばん美味しく食べられることでしょう。

 私はそう思いながら食堂へと歩いて行きました。










「さて、無事に皆さんお昼ご飯を買うことが出来ましたね?」

 食堂へと到着した私たちは、いつもの丸テーブルを確保し、お昼ご飯を買いに行きました。

 私は当然焼肉セットです。意外なことに、他の皆さんも焼肉セットでした。ふふ、何か意図がありそうですね?

 まぁ、どんな意図が合っても関係ありません。
 あなた方が三人がかりで来ても結構です。
 私はひとりで戦ってる訳ではありませんし。
 私は教室の空気を味方にして、戦いましょう。



 悠斗くんを朱里さんから奪い取るために。



「では、冷めないうちにいただきましょう」

 私たちはいただきます。と言うと焼肉を食べ始めました。

 食べてる間は終始無言でした。

 ふむ。意外ですね。何かしらの発言があるかと思いましたが。

 私は一旦箸を止めると、切り出してみました。

「皆さん。何か聞きたいことがあるのでは無いですか?」

 私のその言葉に、佐藤さんが反応しました。

「ねぇ、黒瀬さんは『どこまで』知ってたの?」

 ふふふ、『どこまで』ですか?

 それは、『悠斗くんと朱里さんの関係』のことですかね。

「いえ、私は『彼からは何も聞いてません』よ?」
「へぇ、いーんちょーは『黒瀬さんには』話してなかったんだ」

 ……なるほど、そう来ますか

 これは私を感情的にさせるためのもの。

「そうですね。話してはいただけてませんが、ある程度のことは察してましたよ?『何故あの時間に悠斗くんが教室に居るのか』ということに対して」

 そう言って私は藤崎さんに視線を向けます。

「彼としても気まずかったのでは無いでしょうか?仮にも交際相手が居る状況で、私のようなそれなりに見目の整った女性と一緒の時間を過ごしているという現状は」
「なあ……なんで黒瀬さんは、付き合ってる相手がいるのに悠斗にちょっかいかけたんだ?」

 と言う武藤くん。

 はぁ……わかってませんね。

 これだから脳筋は。

「結婚してる訳では無いのですから、別に交際相手が居ても意中の男性にアプローチをかけては行けないということは無いと思いますが?」

 あの愛人の女は、結婚してる私の父親にアプローチをかけていきましたがね。
 とは、言いませんが。

「別に性的な関係を迫った訳でもないですし。私がしていたのは、朝の教室で彼と本を読んでいただけですよ?それも、彼が自ら私に貸してくれたライトノベルです」

 これに何か問題でもありますか?

「倫理観の問題だと思うがな……」

 捨て台詞のように脳筋が言いました。

 倫理観?そんなものは今朝の段階で捨てました。

 誰に嫌われても構わない。

 悠斗くんが私の隣に居てくれるなら。

「さて、藤崎さんからは何かないのでしょうか?」

 私はそう言って、これまで口を塞いでいた藤崎さんへ言葉を投げます。

「ねぇ、黒瀬さんはさ、悠斗くんのこと好きなの?」
「えぇ、好きです。大好きです。愛してます。彼と一緒の将来を歩んで行きたい。そう考えています」
「……っ!!なんで、悠斗くんだったの」
「なんで?そんなの、藤崎さんが一番わかってるのではないですか?」

 悠斗くんがどれほど魅力的な男性か。
 表面しか見ない人間にはわからない、彼の奥底にある、他者への慈しみ。
 それを全て自分に向けて欲しい。
 女として生まれたならそう思うのは当然では無いですか?

「なので、現状彼の愛の向き先になってるあなたから、彼を奪おうかと思いました」
「う、奪…っ!!」

 私はコップの水を一口飲みます。

「今の教室には『私と悠斗くんが交際間近』と言う空気が出来つつあります。その空気を使って、彼の外堀を埋めて、あなたを彼女の座から追い落とし、私がその椅子に座ります」

 これは私の宣戦布告です。

「愛する人を手にする為なら、私は手段を選びません。覚悟してくださいね、藤崎さん?」

 私は残った焼肉とご飯を食べ終え、食器を戻すため立ち上がります。

「では、先に戻ります」
「待って!!」
「なんでしょう?」

 藤崎さんが私を呼び止めました。

「絶対に、悠斗くんは渡さない!!」

 彼の彼女は私だから!!

「ふふふ」

 私は笑いました。

 そう来なくては。

 相手に不足はありません。

「では、勝負ですね。藤崎さん」

 私も負けません。

 私はそう言って食器を戻しに行きました。


 宣戦布告も済ませました。
 もうここには要はありません。

 先に教室に戻り、お馬さんたちの質問に答える作業に戻りましょう。

 私はそう考えながら、教室へと向かいました。
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