学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第1章

聖女様side ⑤ 前編 ~あなたの後を追って~

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 聖女様side  ⑤ 前編



 その日、私はいつもとは違う格好で彼を待っていました。

 彼が彼女と日曜日に水族館でデートをするという情報は、隣の席にいれば嫌と言うほど耳に入ってきます。

 この辺りで水族館と言えばひとつしかありません。
 駅からバスが出てるあの水族館でしょう。

 確かあの水族館は十時開園です。
 そこから逆算すれば、彼がどの電車に乗るかなんてすぐにわかります。

 私は髪を後ろに一本で縛り、胸が目立たなくなる下着を着用します。帽子を目深に被り、黒のTシャツにジーンズを履きます。

 流石にサングラスにマスクをつけたら不審者ですので、そこまではしませんが、この姿を見てすぐに私とは気が付かないと思います。

 彼が使うであろう電車に乗り、彼が乗ってくるであろう車両に移ります。

 移動を終え、しばらくすると彼の最寄り駅に到着します。

「……居ました、桐崎くん」

 見つけました。彼です。

 春休みで見た時と同じように、とてもオシャレをした彼が電車に乗ってきました。

 私は彼をじっと見ていました。

 しかし、その視線に気が付いたのでしょうか?

 彼は突然顔を上げると、周りを見渡し始めました。

 私はゆっくりと彼から視線を切ります。

 彼はその後一度首を傾げたあと、またスマホに目を落としました。

 良かった。気が付かれなかったようです。

 そして、しばらく電車に揺られていると、目的の駅に到着しました。

 電車を降りる彼を、一定の距離で追いかけます。

 すると、バスターミナルがある駅口に向かいます。

 そこには、

「……っ!!藤崎さん……」

 ピンクのトップスにデニムのスカート。手首にはブレスレットを着けてます。
 とてもオシャレな格好をしたクラスメイトがそこにはいました。

 二人が少しだけお喋りをしてるとバスがやって来ました。

「…………」

 二人が手を繋いで乗りました。

 私も少し間を開けてバスに乗り込みました。

 乗客の少ないバスの中では二人の楽しげな声が聞こえてきました。

 どうやら、藤崎さんはお弁当を用意してきたようです。

 ……なるほど。

 そして、バスは水族館へと到着しました。

 二人から少し間を開けて、私も降ります。

「……ち」

 二人で手を繋いで仲良く水族館へと歩いて行きます。

 さっきから胸が痛くて仕方ありません。

 胸を小さく見せる下着のせいでしょうか?

 私は事前に用意していた水族館のチケットを取りだし、二人の後を追いかけます。

「…………っ」

 さっきから私は何を見せられているのでしょうか?

 仲良く手を繋ぎながら海の生物を見る二人。
 楽しそうに会話を弾ませてます。

 私は海の生物ではなく地上の二人を見てます。

 そして、ある程度時間が経った頃でしょうか。

 藤崎さんが化粧直しにお手洗いに行きました。

 彼が一人になりました。

 その時でした、

「あの人かっこよくない?」
「ねー私タイプかもー」
「でも彼女居るでしょー?」

 なんて女性ふたりの会話が聞こえてきました。

 これはチャンスです。

 私は女性ふたりに耳打ちします。

「あの人、先程まで男友達といましたよ」

 と。

 それを聞いた女性ふたりは少しだけ笑いながら、

「えーそうなの?」
「なんでそんなの教えてくれたのー?」
「いえ、おふたりの話し声が聞こえたのですこし言わせてもらっただけですので」

 失礼致します。と言ってその場を離れると、女性ふたりは彼に向かって行きます。

 隠れてみてるとナンパをしてるようです。

 彼はにべも無く突っぱねてますが、

「ふふ……」

 後ろに藤崎さんが居ます。見られてますよ、桐崎くん……

 彼氏がデート中にナンパされて気まずくなる。と言うライトノベルを読みましたから。

 藤崎さんのひと言で女性ふたりは去っていきました。

 しかし、ここからです。

 ほら、藤崎さんがかなり不機嫌そうな顔をしてます。
 桐崎くんもかなり気まずそうです。
 喧嘩のひとつでもしてもらい……

「……え?」

 期待して二人を見ていると、特に大きな諍いも無く、そのまま休憩スペースへと向かって行きました。

「…………失敗ですね」

 私はそう呟くと、しばらくは二人は休憩スペースに居るだろうと当たりをつけ、お手洗いを済ませて、軽く昼ごはんを取りました。


















 はい。そうです。
 私、黒瀬詩織は。
 桐崎悠斗と藤崎朱里のデートを
 覗き見てます。
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