学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第1章

第八話 ⑧ ~二回目のデート・彼女の自宅で愛を叫びました~

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 第八話  ⑧




『ごめん、雫。ちょっと朱里さんの自宅にお邪魔することになったから、帰宅が遅れる。帰る頃になったらまた連絡する』


 俺は雫にメッセージを送ると、目の前の男性に声を掛ける。

「すみません。お待たせしました」
「構わない。では立ち話もなんだから、家へ上がっていきなさい」

 そこで君のことを詳しく聞かせてもらおう。

「……ごめんね、悠斗くん」

 先導するお父さんの後ろを着いていくと、隣の朱里さんが耳打ちしてくる。

「大丈夫だよ、朱里さん。もともといつかは挨拶に伺うつもりだったし、まぁこんな形だったのは少し不本意だけどね」

 本当は手土産のひとつでも持って行きたかったが、仕方がない。

 だが、これはチャンスでもある。

 この機会を逃したら、いつ彼女の父親と話せるかも分からない。だとするならば、今ここでしっかりと自分との交際に対しての了承を得られるようにしたい。

「まぁ、見た感じ悪い人でも無いし。門前払いでは無く、こうして家に招いてくれてる時点で、しっかりと話を聞いてくれるって姿勢を見せてくれた」

 あとはそのお父さんの誠意にこちらが応えるだけだ。

「ここが自宅だ。まぁ、知ってるかもしれないが。入るのは初めてだろう?」
「はい。家の前までは朱里さんを送る際に来ていました。お邪魔させて頂くのはこれが初めてです」
「そうか。まぁ、何も無い家だがゆっくりしていくがいい」
「ありがとうございます。ではお邪魔します」

 俺は玄関の扉を抑える役目をお父さんから引き継ぎ、朱里さんを先に入れる。
 そして、その後自分が入り、扉を締める。
 きちんと鍵をかけ、靴を脱ぐ。靴はしっかりと揃える。

 靴下に穴が空いてるとかそんなことは無い。
 一日歩いた靴下は少しだけ蒸れていたが、気にするほどでは無い。

「ただいま、母さん」

 お父さんがそう言うと、廊下の先から女性が出てくる。

「おかえりなさい、お父さん。あら朱里も帰って……あらあらあらあらぁ」

 おそらく、朱里さんのお母さんは、俺の姿を見つけて笑みを浮かべる。

「あらぁ、朱里。そちらの彼が……」
「母さん。その話はあとだ。まずは居間へと彼を案内しようか」
「そうねー。こんなところで立ち話もあれよね」

 そう言うと、お母さんは居間へと消えていく。

 明日はお赤飯かしらー……

 お母さん、気が早いです……

「こっちだ。ついてきたまえ」
「はい」

 俺はお父さんに先導され、居間へと入るの。

 父母娘の三人暮らし。お父さんの稼ぎも良いのだろう。
 なかなか大きな家だと思っていた。
 それに、専業主婦だと言うお母さんの掃除もしっかりと行き届いた立派なリビングだ。
 何も無いだなんてとんでもない。

 最低限。このくらいの生活は朱里さんと結婚したら出来るようにしなければ。

「まぁ、座りたまえ」
「はい。では失礼します」

 俺はテーブルの横に置かれた来客者用の椅子に腰を落とす。

「はい。今日はデートだったのよね。良かったら飲んで」
「ありがとうございます。少し喉が渇いていたので助かります」

 俺はお母さんから頂いた氷の入った麦茶をいただく。

「いただきます」

 そう言ってひと口麦茶を口にする。
 緊張しっぱなしで口がもうカラカラだ。
 その乾きを冷えた麦茶が癒してくれる。

 少しだけ……落ち着いてきた。

「では、まずはお互い自己紹介と行こうか」
「はい」

 お父さんはそう言うと、まずは自分の事から話し始めた。

 名前は勇(いさみ)さん

 歳は三十八歳

 今は保険会社で働いているようだ。

「私のことは好きに呼んでくれて構わない」
「では、勇さんでよろしいでしょうか?」
「ふ……お父さんと呼んでいたら、例のセリフを言えるチャンスだったのだがな」

 と、勇さんはイタズラっぽく笑う。
 その笑顔は朱里さんとそっくりだった。
 なるほど、やはり親子なんだな。

「自分も小説や漫画を嗜むので、その言葉は知ってます」
「なるほど」

 では、今度は自分が話させていただきます。

 と、切り出す。

 よし、ここだ。気合いを入れろよ桐崎悠斗!!

「自分の名前は桐崎悠斗と申します。朱里さんと同じクラスの高校二年です。彼女とは去年から同じクラスで、共に学級委員をしてきました」
「ふむ」
「そうして、共に学級委員として彼女と過ごすうちに、朱里さんの持つ、明るさや優しさに触れ、恋愛感情としての好意を抱いて行きました」
「……悠斗くん」
「……ほう」
「……あらあらぁ」

 俺は麦茶をひと口飲む。

「しかし、今でこそこうして皆さんの前でそれなりに話せている自分ですが、当時は……まぁ目も当てられないような人間でした」
「……そんなこと!!」

 異を唱える朱里さんを手で制する。

「いいんだ、朱里さん。これは俺が思っていたことだからね。その時の自分は勉強はそれなりに出来ると自負していましたが、コミュニケーション能力も低く、身体も貧弱、オシャレにも気を使わず、ただ趣味の小説や漫画やゲームに没頭してるだけの陰キャなオタクでした」
「なるほど。だが、今の君は私の目にはそうは見えないがね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると努力したかいがありました。今から半年ほど前です。自分は、この魅力的な朱里さんに釣り合う自分になりたいと一念発起しました」
「あらぁ……恋する男の子っていいわねぇ」

 と言うお母さん。

「ははは。なんの部活にも入っていなかった自分です。時間だけはありました。ですので、まずはコンビニでアルバイトをして苦手なコミュニケーション能力を鍛えようとしました。初めは色々な方に迷惑をかけてしまいましたが、今ではそれなりにこなせてると思っております」
「なるほど、客商売はコミュニケーション能力の向上には最適だ」
「はい。そして、野球部の友人に身体を鍛えるトレーニング方法を教わり、それも並行して行いました」
「そうなのー。だから結構身体ががっしりしてるのね」
「ありがとうございます。最近ようやく筋肉が着いてきたかなと思ってます。そして、妹に女性への対応や男としての身だしなみ、オシャレを叩き込まれました」
「……頑張ったのねぇ」
「ほう、努力は認めよう。それで、学業の方はどうなった。疎かにはしてないのだろう?」

 その問いは当然だ。

 俺ひとつ息を吐き、続ける。

「当然、自分磨きには勉学も含まれています。一応、去年一年間。学年では二番目の成績を残してきました」
「二番目!!」
「それは凄いな」

 素直に褒めてくれるお母さんと勇さん。
 いい両親だなぁ……

「ですが、この順位に満足はしていません。幸い、同じクラスの隣の席には学年首席が座っています。今年こそは彼女に打ち勝ち、首席を勝ち取って行こうと考えています」

 俺はそこまで言うと、麦茶をひと口飲む。

 ふぅ……大丈夫。しっかりと話せたはずだ。

「朱里さんには、終業式の後、自分から気持ちを伝えさせていただきました。そして、その場で良い返事を頂き、お付き合いをさせて頂くことになりました」

 黙っている彼女の両親と顔を赤くしてる朱里さん。

 俺は続ける。

「まだまだ高校二年生。子供の戯言と聞こえるかもしれませんが、遊びで付き合っているつもりは微塵もありません。彼女との将来もしっかりと考え、真剣なお付き合いを自分としてはしているつもりです」

 俺は両親に頭を下げる。

「自分たちの交際に前向きな意見を頂けるとありがたいと思います。よろしくお願いします」

 俺のその言葉に、勇さんが言う

「頭を上げなさい、桐崎くん」
「はい」

 その言葉で頭を上げる。

 勇さんの目を見ると、優しそうな色をしていた。

 先程会ったばかりの頃にあった険はもうなかった。

「君がうちの朱里と真剣な交際をしているのはよくわかった。そして、それに至るまで君がどれほど頑張って来たのかもね」
「恐縮です」

 勇さんはそう言うと、麦茶をひと口飲む。

「朱里はこう見えて男を見る目があるとは思っていたが、どうしてもバスケをしている男子はチャラチャラして見えて仕方なかった。そういう男に囲まれていると、少しばかり心配ではあってね」
「わかります」

 俺の言葉に軽く頷くと、

「そんな中で朱里が君のような男を選んで連れて来るとはね。なかなかに驚いたよ」

 勇さんはそう言うと、

「正直な話。変な男なら叩き出してやろうかとも思っていたが、礼儀もしっかりしてる。君を拒む理由が無いな」

 と笑顔を見せる。

「あ、ありがとうございます!!」

 俺は頭を下げる。

「それで、桐崎くん。夕飯はどうする?」
「あ、家で妹がご飯を作って待ってますので、本日はこのまま帰宅しようと考えてます」
「そうか、それは残念だ。だが、それはまたの機会にしようか」

 その時は私の秘蔵の朱里アルバムを見せて上げよう。

 お、お父さんっ!!??
 と驚く朱里さん

 え、何それめっちゃ見たい!!

「朱里さんの小さな頃の写真には興味がつきませんが……今日は……く」
「ははは。では外も暗くなってきている。気をつけて帰るんだよ?」
「はい。今日はお招きいただきありがとうございました。次回来る時は、手土産を持ってこようと思います」
「ははは、気にしなくても良いよ。と言いたいところだが、君がどういう手土産を持ってくるかも興味が有る。期待して待ってよう」

 こ、これは生半可なものは持って来れないぞ!!

「ご期待に添えるよう、頑張ります」

 俺はそう言うと、椅子から立ち上がる。

「では、失礼致します」
「朱里。桐崎くんを玄関まで送りなさい」
「うん!!当然だよ」
「ありがとう、朱里さん」

 玄関へと向かう俺に、朱里さんが着いてくる。

 そして、靴を履く俺に朱里さんが声を掛ける。

「今日はありがとう、悠斗くん」
「いろいろあったけど、こうして勇さんに認めて貰えてよかったよ」
「あはは。ちょーっとタイミング悪かったけど、考えてみたら良かったかも」

 初キスは逃したけど、彼女の両親に認めて貰えた。
 これはすごい前進だ。

「大好きだよ、悠斗くん」
「俺も大好きだよ、朱里さん」

 流石に彼女の自宅でキスする勇気なんかないので、お互いに手を振って別れを告げる。



 玄関の扉を開け、外に出る。
 外はもう暗い。時間を見れば七時を回っていた。

 上手く行った。認めて貰えてよかった。
 あぁ、頑張って良かった。

 俺は声を挙げずに大きくガッツポーズをした。
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