学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第1章

聖女様side ③ 前編 ~特別な彼と特別な学級委員~

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 聖女様side  ③  前編




「ただいま」

 明かりのないマンションの扉を開け、私は部屋に入ります。
 今日は色々なことがありました。

 朝。いつもなら小説に夢中になり乗り過ごしてしまう駅を、そのまま降りることが出来ました。

 恐らくですが、頭の片隅に
『学校へ行けば桐崎くんに会える』
 と言うのがあったのでしょう。
 そのため、学校へ行く駅に気が付くことが出来たのだと思います。
 だとすると、今後は乗り過ごすことは少なくなるかも知れませんね。

 学校へとたどり着けば、誰も居ないと思っていた教室に桐崎くんが居ました。
 これには驚きました。
 誰も居ない静かな教室で、ゆっくりと本を読もうと思っていたら、会いたいと考えていた人が居たのですから。

 私は、昨晩考えていたように、彼におはようございます。と挨拶をしました。
 彼は驚いていましたが、おはよう。と返してくれました。

 その時、私の心の中に何か暖かいものが入ってきたような感じがしました。

 その後。私は桐崎くんが読んでいた、『らいとのべる』に興味を持ちました。

 中を見せてもらうと……『えっちないらすと』が描いてありました。
 まぁ、彼も男の人なんだなと思いました。

 彼はその後、慌てたように違うイラストを見せてきました。最初からこのイラストを見ていたら……とは思いましたが、いつも冷静な桐崎くんの珍しく慌てた仕草や言動を見れたのは僥倖だと感じました。

 そして、桐崎くんと共通の話題が欲しいと思っていた私は、彼にオススメのらいとのべるを貸して欲しいです。と伝えました。

 桐崎くんは快諾してくれました。
 一体彼が何を私に勧めて来るのか、今から楽しみです。

 その後は他愛のない会話をしていると、次第にクラスメイトが増えてきました。

 クラスメイトの一人に、えっちな本を読んでいるんだろ?って聞かれるあたり、桐崎くんは実はえっちなのかもしれません。……まぁ、何故だかわかりませんが、他の人なら嫌悪しか抱きませんが、彼なら許せてしまう気がします。不思議なことです。

 あと、桐崎くんは意外と負けず嫌いみたいでした。
 ふふ、学年首席の座は今年も譲りませんよ?

 気配りが出来る桐崎くんは、その後、朝練を終えた武藤くんや佐藤さん、藤崎さんに飲み物を振舞っていました。
 私は知らなかったのですが、薄めたスポーツドリンクと言うのは運動後に良いそうです。
 皆さんが美味しそうに飲んでいたので、興味を持った私は飲み物をいただくことにしました。

『桐崎くんのお手製』

 と言うだけで薄味の冷えた水。みたいなものが美味しく感じました。
 ふふ、なんだかクセになってしまいそうです。

 ショートホームルームで、山野先生が桐崎くんを学級委員に任命してました。彼は口では驚いたようなことを言ってましたが、わかっているような感じでした。

 その後、彼は隣の藤崎さんと仲が良さそうに話していました。

 その姿を見て、私は少しだけ察しました。

 もしかしたら……いや、考えるのはやめます。
 何故だか分かりませんが、胸が痛くなってきました。

 話の内容は、二人で学級委員をやろうと言う話でした。

 学級委員。その役職には特に何かを感じることはありませんが、『桐崎くんと一緒に学級委員』となれば話が変わってきます。

 藤崎さんには申し訳ありませんが、私も立候補させていただきます。とその時は胸の内に秘めておきました。

 そして、授業が始まりました。

 最初の授業は数学です。

 私は昨晩。しっかりと予習を済ませて起きましたので、何が起きても大丈夫。と考えていました。

 まずは小テストからでした。

 問題を一瞥すると、第一問のみ、なかなか時間の取られそうな問題だと判断しました。
 今日の授業で習う公式を使った問題です。

 私はそれを飛ばし、二問目から解き進めます。

 残り時間が十分ほどのところで第一問に取り掛かります。

 残り時間があと少しと言うところで解き終え、ペンを置きました。

 隣の桐崎くんも同じようなタイミングで終わったようです。

 軽く視線が合いました。

 私は小さく、

 お疲れ様です。

 と言いました。
 少しだけ顔を赤くした桐崎くんが可愛かったです。

 テストの点数は満点でした。
 どうやら、満点は私と桐崎くんのみの様でした。
 他の皆さんは、第一問で躓いてしまったようです。
 藤崎さんも同様に躓いてしまったようです。
 あそこを無視していれば……とは思いましたが、数学の根岸先生も意地悪だなと思いました。

 そして、事件が起きました。

 まさか、私が教科書を忘れるだなんて……

 昨晩。予習をした際に机の上に忘れてきてしまったようです。

 私が慌てた様子だったのを隣の桐崎くんが気が付いたようで、一緒に見ることになりました。

 必然的に机をくっつけることになりました。

 少しだけ近くなる彼との距離に恥ずかしさと、嬉しさが込み上げてきました。

 その気持ちを誤魔化すように、桐崎くんとお話をしていると、お互いに少しそれに夢中になってしまったようです。突然、先生から桐崎くんが指名されました。

 指定された問題を見ると、どう考えても今の自分では解けないような内容の問題でした。

「わかりません」

 と言う桐崎くん。大丈夫です、私もわかりません。

 すると、根岸先生はすごく意地悪そうな笑顔でこう言いました。

「そうか、この問題が、『授業とまるで関係の無い、まだ習ってもいない、大学受験クラスの問題』だと言う事も分からないのか?」

「え?」

 戸惑う桐崎くん。

「隣の黒瀬と楽しそうにおしゃべりをするのは構わないが、授業はちゃんと聞いてろよ?」

 見られていた……。
 私は顔が熱くなるのを感じました。

 私は確実に赤くなっているであろう顔を、桐崎くんに見られないように外を向いていました。

 その後は、お互い恥ずかしさもあり、会話は無くずっと黙ったままでした。

 私が教科書を忘れたのは数学だけで、他の教科書はしっかりと持ってきていました。

 そして、四時間目が終わりました。

 私は読書と並んで楽しみにしている昼ごはんの『肉増し焼肉セット』を食べに学食に行こうと席を立とうとした時です。

 桐崎くんから、一緒に昼ごはんを食べないか?と誘われました。

 いつもはひとりで食べている私ですが、こんな仲良しグループに交ぜてもらっても良いのでしょうか?

 私がそう尋ねると、皆さん快諾してくれました。

 佐藤さん、桐崎くんは軟派な人ではありませんよ?

 さて、食堂に着いた私たちですが、武藤くんが『雫ちゃん』と言う人の名前を出しました。
 桐崎くんに尋ねると、妹さんのようです。
 なるほど。昨年、学食でいつも食べていたお弁当は妹さんのお手製だったのですね。

 そして、何を食べるか?と言う話になったので、私は肉増しの焼肉セットと話しました。

 意外です。皆さん驚かれたようです。

 私はお肉とご飯の魅力を語ると、皆さん目の色が少し変わりました。

 聞くと、どうやら皆さん焼肉セットを頼むようです。

 ふふ、仲間が増えてしまいましたね。

 焼肉に舌鼓を打っていると、桐崎くんから話しかけてきました。

 私は昨年食べた珍しい味のヤンニョムチキン焼肉の話をしました。

 食堂のおねぇさまがた(おばさんと呼んだらお肉が減らされました……)が韓国俳優にハマった時に、その俳優がヤンニョムチキンを食べていたようです。

 そして、とても苦手な体育の時間です。

 その日はバスケットボールでした。

 私のチームには佐藤さんと藤崎さんと言うバスケ部レギュラーが二人いました。
 私と言う最大のお荷物がいても、この二人が居れば大丈夫です。

 私はいつものように相手陣地のリング前に陣取ります。

 この位置だけはシュートを半分くらいは外さないポジションです。

「黒瀬さん!!」

 守備を捨て、ずっとこの位置に立っていた私に藤崎さんがパスを出しました。

 自分で決めてもいいのに、授業なので私にも活躍の機会をくれたのでしょう。

 私はそれを両手で受け止め、狙いを定めてボールを放ちます。

 パスン!!

「やったね!!黒瀬さん!!」

 五割で決まるシュートを運良く決めた私は、藤崎さんからハイタッチを求められました。

「いえーい!!」
「はい」

 ……手が痛くなるくらいの強さでした。

 その後は二人の活躍と、私の五割シュートを確率以上に決め、試合に勝つことが出来ました。

 なんか、武藤くんの叫び声が聞こえてましたが、外は外で盛り上がっていたのでしょう。







 そして、ロングホームルームの時間がやって来ました。







 学級委員に選出されていた桐崎くんが、山野先生に呼ばました。
 彼は、自分が学級委員でいいかの採決を取りました。

 賛成多数で承認されました。

 私も拍手してました。

 そして、女子の学級委員を決める時が来ました。

 希望者の挙手を、桐崎くんが求めました。

 大変申し訳ございません。桐崎くん、藤崎さん。

 私は、女子の学級委員に立候補するため、手を挙げました。

 隣の藤崎さんと教壇に居る桐崎くんが驚いた目で私を見てきます。

 私は、立候補した『表向きの理由』を口にしました。

 とりあえずの納得はいただけたようです。

 そして、くじを引く時が来ました。

 私は残り物には福がある。という言葉を信じて、後に引くことにしました。
 藤崎さんは先手必勝と言って先に引くことに決めたようです。
 ふふ、私はそう言うひと。嫌いじゃありません。

 くじを引く際、藤崎さんは桐崎くんに何かを話していました。
 彼はそれに頷いていました。
 その関係性に、私はまた少し胸が痛くなりました。

 負けたくない。

 そう思いました。

 彼女が引き終え、私は残ったくじを引きに席を立ちます。

 箱を持った桐崎くんに謝罪をすると、彼はどっちが選ばれても全力でやる。と言ってくれました。

 私は残ったくじを引き抜きました。

 私は席に戻り息をひとつ吐きました。

 そして、藤崎さんと同時に中を確認しました。





『学級委員』







 私の引いたくじには、そう書いてありました。
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