学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第1章

第六話 ④ ~黒瀬さんと距離が縮まりました(物理的に)~

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 第六話  ④




 数学の小テストが終わり、通常の授業が始まる。

 俺は、机の中にしまっていた二年からの数学の教科書と真新しいノートを取り出す。

 端がピンとしたまだまだ使い込まれていない教科書は指を切りやすい。俺は少しだけ気をつけながら教科書を扱う。

 すると、隣の黒瀬さんから少しだけ焦ったような雰囲気が伝わってくる。

 どうしたのかな?と隣を向くと、ノートは俺と同じ新しい物が出ていたものの、教科書の存在が無かった。

 なるほど。もしかして、予習をした際に教科書を持参するのを忘れてしまったのかな。

 俺も稀にやる行動なので、気持ちは凄くわかる。

「黒瀬さん、もし良かったら一緒に教科書を見る?」

 俺は黒瀬さんにそう声をかけると、数学の教科書を彼女に向ける。

「……すみません、桐崎くん。助かります。どうやら昨晩予習をした際に、教科書を家に忘れてしまったようです」

 と、少しだけ申し訳なさそうに彼女が言ってくる。

「わかるわかる。俺もたまにやるからさ。ほら、武藤みたいに全教科置き勉してて、予習何それ美味しいの?みたいなやつならそういうの無いんだろうけどね」

 と、少しだけ冗談ぽく聞こえるようにフォローを入れる。

「ふふ、確かに。予習や復習という習慣がなければ、家で教科書を開くなんてほとんどないでしょうから」

 良かった。少しは気が晴れたかな?

「じゃあ黒瀬さん、少し机寄せるよ?」
「はい。よろしくお願いします」

 そう言って俺は黒瀬さんとの机をくっつける。

 必然的に近くなった彼女との距離。
 とてもいい匂いが漂ってくる。

「なんだか、少し恥ずかしいですね」

 と、少しだけ頬を赤らめる黒瀬さんに

「言わないで。俺もそう思ってたから」

 と、俺も恥ずかしそうに返す。

「去年までなら考えられませんね」
「え?」

 黒瀬さんは前を向きながらそう言ってくる。

「去年はこうして教科書を忘れるなんて、一度もありませんでした。それに、万が一忘れていたとしても、隣の男の人にこんな距離を許すだなんてことはありえませんでした」
「うん」
「二年生になってから、こうして桐崎くんとよく話すようになって、なんでしょうか、いい意味で変わってきたのだと思ってます」
「そうなんだね」
「教科書を忘れなければ、桐崎くんとこんな話をすることもなかったでしょうし、こんな距離にあなたが居るということに、少しだけドキドキしています。ふふ、こんなことを言うのもあれですが、教科書を忘れて良かったです」

 黒瀬さんはそこまで言うと、俺の方を向き、あの時と同じように『微笑んだ』

「く、黒瀬さんあの……」

 そう言う表情はあまり男に向けない方がいいよ。

 と、俺が彼女に言おうとした時だった。

「では桐崎。先程の罰の件だ。この問題を前に来て解いてみろ」
「え?」

 突然、先生から指名された俺。

 そうだ!!回答を指名するって言ってたじゃないか!!

「わ、わかりました!!」

 俺は勢いよく返事をすると、黒板の前まで移動する。

 大丈夫。予習してあるし、大抵の問題なら難なく解け……は?なんだこれ????

 先生が俺に出した問題は、何が何だかさっぱりわからなかった。

 なんだこれ、どうやって解くんだ?そもそもこんなのまだ習って……

「なんだ桐崎。わからないのか?」
「すみません……わかりません」

 と俺が先生に言うと、

「そうか、この問題が、『授業とまるで関係の無い、まだ習ってもいない、大学受験クラスの問題』だと言う事も分からないのか?」
「え?」

 そこまで言うと先生ニヤリと笑う。

「隣の黒瀬と楽しそうにおしゃべりをするのは構わないが、授業はちゃんと聞いてろよ?」

 と、言ってくる。

 クラスが笑いに包まれる。朱里さんだけは頬を膨らませていたけど。

「ぐぅ……わかりました」

 悔しそうにそういう俺に、先生は

「では桐崎。こっちの問題を解け。これなら解けるだろう?」

 と、先生が指さしたのは予習していた範囲の問題。

「はぁ……最初からこっちを指定して下さいよ。先生、小テストもそうですけど、意地悪過ぎます」

 俺は先生にそう言いながら、指定された問題をしっかりと正解へと導いた。

「よし。正解だ。桐崎、黒瀬とのおしゃべりに戻っていいぞ」
「もうしません!!」

 俺は黒板に背を向けると、自分の席に戻る。

 そんな俺に朱里さんが

「もー……楽しそうにおしゃべりし過ぎだぞ。隣で見てたんだからねー」

 と恨めしそうに言ってくる。

「ごめんね、朱里さん。ちょっと気を付けるよ」

 俺は手を前で併せ、謝罪する。

 そして席に着くと、隣の黒瀬さんが顔を赤くしながら外を見ていた。

 やっぱり凄く恥ずかしかったんだな。

 その後は俺と黒瀬さん、お互いに一言も喋ることなく授業を終えたのだった。
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