学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第1章

第一話 ③ ~親父との会話・初彼女の報告~

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 第一話  ③




 コンビニでのアルバイトを決めた理由は、陰キャでコミュ障気味の自分を変えようと一念発起したためだ。

 始めのうちはタバコの銘柄を始めとしたレジ周りの業務など覚えることも多く、覚えきれないことや手間取ったことなどで、先輩、特に司さんには迷惑をかけた。

 あとは、レジのお金がちょっと合わないとか結構あった……

 こっそり財布からお金を入れたことも少なくない。

 だが、半年も続けてくればそれなりに仕事も掴めてきており、司さんにかける迷惑も大分減ってきたと自負している。

 まぁ、こういう時にこそミスが起こりやすいと思っている。特に今日は浮かれるような出来事があったからこそ、いつもより緊張感を持って働こう。

 いつも以上に気を張りながら働いた結果。たまに五円とか十円くらいブレるレジもしっかりと合い、どこから聞いたのか俺に彼女が出来たと知った店長から、廃棄のシュークリーム(廃棄かよ!!)を貰った。
 まぁ……廃棄って言っても美味しく食えるし。気にしないけどね。

 司さんに、お疲れ様と言い、夜間のアルバイトさんに頑張ってくださいと伝えると、店を出た俺はヘルメットを被り愛車のポチで家へと帰った。

 二十分程で自宅へと到着すると、合鍵を出して家のドアを開ける。

 新築五年目。沢山ローンの残ってる一軒家。

 まだまだ働き盛りの三十代後半の親父にはたくさん残業をしてもらって稼いでもらいたい。

 そんなことを考えながら居間へと向かうと、残業をして帰ってきていた親父と鉢会った。

「お疲れさん親父」
「おう、お前もバイトご苦労さん」

 ビール片手にニラレバを摘んでいた親父はニヤリと笑う。どうやら今日は機嫌が良さそうだ。

 俺はラップのかかっている夕飯のカツ丼を電子レンジに入れ、タイマーをセットする。

「爆発させんなよ?」
「酔っぱらいじゃねぇから大丈夫だよ」

 ケラケラと笑う親父に言い返すと、何を思ったか親父がコップに注がれたビールを突き出してきた。

「飲むか?」
「おい、俺未成年だよ」
「馬鹿野郎。俺が初めて酒飲んだのは中坊だぞ」
「……時代が違うんだよ」

 呆れたように言い返す俺に興味を失ったのか、親父は少しつまらなそうにビールを煽った。

「はぁ……一口だけだぞ」

 そんな姿にちょっとだけ不憫さを感じた俺は、親父からコップを奪うと一口だけ煽った。

「……まぢぃ」

 口の中に広がる苦味に顔を歪めると、親父は少しだけ嬉しそうに笑った。

「まだまだおこちゃまだな」
「うるせぇ」

 電子レンジが温め終了の音楽を奏でると、俺は程よく温まったカツ丼を取り出す。
 ラップを破り、七味をふりかけた所で麦茶を出すのを忘れたことに気が付く。
 俺が立ち上がり、冷蔵庫を開けた瞬間。親父の手が俺のカツをひとつつまんでいた。

「おい、親父!!ふざけんじゃねぇ!!」

 俺の声も虚しく、カツを手にした親父はひょいと口の中に放り込んだ。

「この世は弱肉強食。食べ物から目を離してはダメだぜ……ってあ!!」

 カツの恨みを晴らすべく、親父がちまちま食べていたニラレバをごっそりと箸で攫って口の中に放り込んだ。

「にらへばもふめぇな(ニラレバもうめぇな)」

 口の中に入れたニラレバを麦茶で流し込み、ひとつカツの減ったカツ丼を食べていく。

「……割に合わねぇな」

 ボソリと呟いた親父の背中は少しだけ寂しそうに見えた。

「あぁそうだ、親父」

 カツ丼を咀嚼しながら俺が親父に話しかける。

 何だ?と言って顔を上げた親父に俺は続ける

「彼女が出来た」
「……ほぅ?『嫁』では無く彼女なんだな」

 少しだけ興味深そうに言う親父。

「『嫁』は数え切れないくらい作って来ただろうが、彼女は初めてだな。一応聞いておくが、次元はいくつだ?」
「三次元だ」
「なるほどそいつは良かったな」

 嬉しそうに笑う親父は続ける。

「最近のお前は精力的だったからな。ランニングに筋トレにバイトの金でオシャレしたり。まぁオタク趣味は相変わらずだが、自分なりに頑張ってきた結果だろう」
「知ってたんだな」
「そりゃそうだ。俺はお前の父親だぞ?息子の成長はなによりも酒の肴だ」

 親父はそう言うとビールを煽る。
 空になったコップに、俺がテーブルの上に置いてあった瓶に残ったビールを注ぐ。
 たまにはこのくらいしてやってもいいだろう。

「若くて可愛い女の子にお酌して貰いたかったな」
「黙れクソ親父。ビール瓶で叩くぞ?」

 ビール瓶をペシペシと手に打付ける俺に、親父が言う。

「気が向いたら連れてきなさい。うちはいつでも大歓迎だからな」
「あぁ、親父。ありがとうな」

 そして、親父は少しだけ真面目な顔をしながら俺にこう続けた。

「避妊はちゃんとするんだぞ?」

 ……あぁ言われると思ったけど、本当に言うとは思わなかったよ。

 俺は手にしたビール瓶で親父の頭を軽く叩いた。

 頭を擦りながら呻く親父を見ながら、少しだけ冷めてしまった残ったカツ丼を胃に収めた。
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