Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

最終話 決戦・魔獣大氾濫から王都を救え その⑤

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 最終話  その⑤



 冒険者ギルドの前でルーシーさんを含むハーピーの羽根。リーファやエリック、豪鬼さんを見送った俺は西の門へと向かう仲間の二人に向き合う。


「さて、それじゃあ俺たちも持ち場に向かうとするか」
「そうね。時間も限られてることだしね」
「邪魔者のリーファは居なくなりました!!さぁベルフォード、共に向かうとしましょう!!」

 市街地を担当しているシルビアは既に担当場所へと向かっている。
 最後に残っていたのは俺たち三人だった。


「こうして見てみると本当に不思議よね。どう見ても人間の女性にしか見えないわ」

 西の門へと向かう途中。俺の右腕を抱きしめるようにして歩いているツキの姿をまじまじと見つめながら、ミソラがそう呟いていた。

「ふふん!!そうでしょう。この身体は私がベルフォードと結婚して子供を作って永遠に一緒に居るために力の全てを使って創り上げたものですからね!!」
「子供も作れるのね。それは驚きだわ……」

 ミソラはそう言うと、ツキの胸をワシっと掴んだ。

「んひゃぁああ!!??な、何をするんですか!!」
「や、柔らかいわね……なんて事よ……刀なのに……こんなことってないわよ……」
「や、辞めてください!!助けてくださいベルフォード!!」

 むにむにとツキの胸を揉みしだきながら、ミソラは絶望的な表情を浮かべている。

「その位にしろよミソラ。ツキが嫌がってるだろ……」
「わかったわよ……はぁ……羨ましい限りね……」
「と、とんでもない目に会いました……リーファより恐ろしい女です……」

 そして、そんなやり取りをしながら歩いていると、担当場所の西の門へとやって来た。


「さて、担当場所に着いたわね。でもここからはさらに奥地へと歩いて行く事になるわね」
「そうなんですか?ここで敵を迎え撃つんだと思ってました」

 ミソラのセリフにツキが意外そうな言葉を返していた。

「こんな場所でミソラが本気で魔法を撃ったら、逆に王都が危険だからな」
「……え?そのミソラさんは一体何者なんですか?冒険者を引退したギルドマスターでは無いんですか」
「冒険者を引退したギルドマスターであってるわよ。こんな事態でもなければエリックがいくら頭を下げても、前線に出ることなんかしなかったわよ」

 ミソラがそう答えると、ツキは少しだけ首を傾げながら質問をした。

「何故冒険者を引退したんですか?理由を伺っても良いですか?」

 その言葉にミソラは軽く笑いながら答える。

「あはは。冒険者ギルドの体制がゴミだったからよ。これを変えるためには私がギルドマスターになるしかないって思ったのよ」
「今でこそ普通になってるけど、冒険者を引退した時に出る退職金とか年金の制度はミソラが作ったものだよ。冒険者として活躍出来る時間は短い。それに何かあった時にも最低限の暮らしが出来るように。色々な制度をミソラは作ったんだよ」
「なるほど……すごい方だったんですね」

 ツキはそう言うと、納得してように首を縦に振っていた。

「さて、じゃあそろそろツキには刀に戻ってもらおうかな」
「はい!!」

 俺がそう言ってツキに微笑むと、彼女もそれに応えて月光の姿へと変化した。

 そして、光と共に俺の手に納まったツキを見てミソラがやはり驚いたように声を上げた。

「へぇ……こうして目の当たりにすると信じるしかないわね」
「まぁ、普通はそうだよな……おっと。ちょうどおあつらえ向きに魔獣の群れの気配がしたな」
「そうね。ちょっと肩慣らしでもしておこうかしら」

 ここから百メートル程のところで魔獣の気配を感じた。
 ホーンラビット十体ほどの群れだろう。
 ミソラの肩慣らしには調度良いかもしれないな。

 そして、しばらくすると俺たちの目の前にホーンラビットの群れが現れる。

 ホーンラビットは討伐レベルとしてはDランク。
 群れを作っていてもCランクと言ったところか。

「魔法の詠唱に入るわ!!敵が散らないようにまとめておいてちょうだい!!」
「了解だ!!」
『こんな敵でしたらいつもなら瞬殺ですけどね』

 俺はホーンラビットの群れに月光を手にして飛び込んで行く。

「守護の太刀 月天流 六の型 月華(げっか)の檻(おり)」

 群れの手前で地面に月光を突き立て、刀気を地面に込める。

 瞬間。ホーンラビットを囲むように土の壁が迫り上がる。


 六の型 月華の檻 は対象を土の檻で閉じ込める技だ。
 リーファのバインドと違い、身動きの全てを封じる訳では無いが、複数の敵を一箇所に集めるのには向いている。

「放つわよベル!!そこを退きなさい!!」
「了解だ!!」

 ミソラの声と共に、俺はその場を急いで離れる。

 そして、それまで俺がいた場所に小型の太陽かとも思えるような魔力の塊が落ちてくる。

『なぁ!!!???なんですかあれは!!??』

 頭の中に響くツキの声に、俺は答える。

「超上級魔法 堕ちる太陽 ミソラの撃つ魔法の一つだな」
『どう考えてもあんな雑魚に使うレベルの魔法じゃないですよ!!』

 膨大な熱量と共に、激しい光が辺りを包む。
 その熱と光が治まった時、ホーンラビットは塵一つ残さずに消滅していた。

『こ、こんなものを王都の近くて放ったら大変なことになりますよ……』
「まぁ、ミソラがこれから使う魔法はこんな威力じゃないけどな」
『も、もっと強い魔法を使うんですか……』

 と、とんでもない人だったのですね……

 頭の中でそう言うツキ。まぁ一撃の破壊力はとんでもないものがあるよな。

 そう思っていると、ミソラが俺のところまでやって来た。

「ふぅ……まぁこんなものね。本番前に軽く肩慣らしが出来て良かったわ」
「これで肩慣らしなんだから笑えるよな」

「それじゃあ少し魔力を使ってしまったから、ベルから補充をさせてもらおうかしら?」
「……え?」

 ミソラはそう言うと、俺の身体をギュッと抱き締める。

『はあああああああああああぁぁぁ!!!!????』
「み、ミソラ!!??」
「黙りなさい、ベル。これは必要なことよ」

 その言葉と共に、ミソラはかなり強く俺のことを抱きしめる。
 頭の中にはツキの甲高い叫び声が響いている。

『やはり!!やはり!!やはり!!女狐の仲間は女狐です!!ベルフォードから離れなさいミソラ!!』
「ふふふ。頭の中ではツキさんが叫んでるのでしょうけど、私は気にしないわ」
「……本番前からこんなんじゃ先が思いやられるよ」

 俺は軽く頭を抱えながら、天国のような感触と、地獄のような叫び声を耐えていった。
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