Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

第三十二話 ~決戦に向けての準備。王都で過ごす大切な時間~ その⑤

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 第三十二話  その⑤




「じゃあね、ベル。とても良い時間が過ごせて満足よ。それじゃあ私はギルドの宿泊施設で今夜は過ごすわよ」
「そう言ってくれるのなら来たかいがあったな。わかった。明日はよろしく頼むよミソラ」

「ふふふ。貴方こそ『楽しみ過ぎて』寝坊するんじゃないわよ?」
「おいおい……スタンピードを楽しみにする。なんてことは無いと思うぞ?」
「……そういう意味じゃないんだけどね」

 冒険者ギルドでミソラとそんなやり取りをした後、俺は自宅へと帰っていた。

 辺りを見渡せばだいぶ暗くなっていて、時刻はすっかり遅くなってしまっていた。

 そんな中ギルドからはそう離れていない場所に建てている自宅を見ると、どうやら明かりが着いているようだ。

 リーファと一緒に過ごすと言っていたツキはもう家に帰っているようだった。
 まぁ恐らくだけどリーファも一緒に居るだろうな。

 あれだけぶつかり合ってる二人だ。俺とツキが二人きりになるような状態にリーファがするとは思えないし。

 そんなことを考えながら俺はたどり着いた自宅の扉の鍵を開けて中へと入った。

「お帰りなさい、ベルフォード。夕飯の支度は出来てますので手洗いを済ませたら居間に来てください」
「むぅ……悔しいけどツキの料理の腕前は本物ね。一体どこでそんなスキルを身につけたのかしら」

「ふふふ。『良妻スキル』と言うものを私は持ってますからね。家事全般を含めて夫を喜ばせる行為は全て最高レベルで行えます!!」
「羨ましい限りのスキルだわ……」

 家に帰るとやはりそこにはツキの他にもリーファが居た。
 どうやら今夜もこの三人で過ごす事になりそうだ。

 ……と言うより、もう今後ずっとこの三人で過ごしていくことになりそうだな。

「遅くなってごめんな。それとツキ夕飯の準備をありがとう。お腹も空いてるから手洗いを済ませたらすぐにご飯にしようか」
「はい。ベルフォード、了解です。今夜の夕飯はベルフォードの実家から貰った魚介類を使って作った『パエリア』です!!ふふふ。レオンさんにレシピを教えてもらいましたのでとても美味しく出来たと自負しています」

 なるほど。レオンさんにレシピを伝授してもらっていたのか。
 この様子だとパエリア以外にもそういった物がありそうだな。

「そうだったんだな。レオンさんのパエリアはとても美味しかったからね。今からとても楽しみだよ」

 俺はツキにそう言い残すと、洗面所へと向かって手洗いとうがいを済ませた。



「おーこれはとても美味しそうだね」
「ふふふ。そう言って貰えると嬉しいです。味見をしてみましたが、レシピ通りの美味しさが再現出来たと思ってます」

 彩り鮮やかな野菜とササンドラ特産の魚介類をふんだんに使ったパエリアは、とても美味しそうな見た目をしていた。

「わ、私もこのパプリカのカットをしたのよ」
「そうなのか。すごいじゃないかリーファ」

 彼女に言われて赤と黄色のパプリカを見ると、この二つの野菜だけは少しだけ大きさにバラツキがあった。
 でもまぁこんなのはご愛嬌だろう。

「ふふふ。私にもなにか手伝わせろ。とリーファが言ってきましたので、失敗の少ないところをやってもらいました」
「そうだったんだな。まぁ向上心があることは良い事だと思うよ。それに、リーファのメシマズは『変な隠し味』を入れようとするところだと思うし……」
「……そうですね。勝手にパエリアに変なものを入れようとしてましたからね」

 ミソラと冒険をしていた時に、リーファの作ったカレーの中に最中が浮いていた時にはどうしようかと思ったからな……

『カレーの隠し味にチョコレートを入れると聞いたわ。ならば最中を入れても美味しいはずよ!!』

 次の日から料理は俺とミソラの持ち回りになったからな……

「う、うるさいわね。冷めないうちにさっさと食べるわよ!!」
「あはは。そうだな、冷めないうちに食べようか」
「そうですね。食べて行きましょう」

 そして、俺たちは「いただきます」と声を揃えた後にツキお手製 (パプリカのカットはリーファ)のパエリアを口に運んだ。

「これは美味しいな。レオンさんが作ったパエリアと全く遜色が無い」
「ふふふ。そう言って頂けて嬉しいです。これを超えることが目標ではありますが、まずは並ぶことが出来てホッとしてます」
「レシピ通りにつくる。それが大切なことはわかったわ……」

 リーファ……その事を二十年前に理解して欲しかったな……

 こうして、俺たち三人は美味しい夕飯に舌鼓を打ちながら全てのパエリアをペロリとたいらげた。


「それで、リーファとツキはあの後何をして過ごしてたんだ?」

 夕飯の食器洗いを終えて、俺が居間に戻るとリーファとツキは冷えた水を飲みながらなにやら談笑をしていた。
 その様子に少しだけ安堵の気持ちを持ちながら、おれは少しだけ疑問に思っていたことを聞いてみた。

「そうですね……それは『この後』のお楽しみと言ったところでしょうか?ねぇリーファ」
「そうね。まぁ一つだけ言えるとしたら『ベルは幸せ者よね』ってことかしら」
「ふふふ。リーファは良いことを言いましたね。確かにベルフォードはとても幸せな人間だと思います」

「一体何が待ってるんだよ……」
「まぁ、ベルフォードはまずはお風呂に入ってきてください」
「私たちは食事前にもう済ませてるからあとは貴方だけよ」

 その言葉の通りに、リーファとツキからは帰ってきた時からとても良い匂いがしていた。
 夕飯の支度とお風呂も済ませていた。

 どうやら『夜の時間』の確保にすごく力を入れてるような気がする……

 そんなことを考えながら、俺は自慢の風呂で今日の疲れと汚れを落としていった。




「ちょっと待ってくれ!!そんな話は聞いてないぞ!!」

 お風呂を終えて寝間着に着替えた俺は、自室の扉を開けて中を見て言葉を荒らげた。

「あら?これほどの美女が二人で貴方を待っていたのよ?喜びこそすれ、嫌がるなんて失礼じゃないかしら?」
「そうですよ、ベルフォード。リーファからは『ベルが喜ぶようなネグリジェを教えてあげる。だから今夜は一緒にさせてもらうわよ』と言われております。この洋装はお嫌いでしたか?」
「い、いや……嫌いじゃない……」

 シースルーと呼ばれる下着が透けて見えるタイプのネグリジェ。
 透けて見える。と言うのが好きと言うのは誰にも教えていなかったはずなのに何で!!??

「なんで貴方の性癖を知ってるか教えてあげましょうか?貴方が私やミソラが濡れてしまった時の目線を見ればわかるわよ?ふふふ。何年一緒に冒険者をやって来たと思ってるのよ」
「……き、気付かれてたのかよ」
「好きな人の視線よ。敏感になるのは当たり前じゃない」

 ニヤリと笑いながらそんなことを言うリーファに、俺の心臓が大きく跳ね上がる。

 やばい。どうしよう。こんな格好をした二人を前にして、理性を保つのは無理だと言える。
『一線』を超えるのは結婚をしてからと決めている。

 でも、こんな据え膳を用意されて何もしないのは無理だろ……

「ど、どうしてこんなことをしたんだよ……」
「まぁ、多分大丈夫だとは思ってはいるけど。明日のスタンピードはそれなりに危険だと思っているわ」

 俺の質問に、リーファが少しだけ視線を逸らしながら話を始めた。

「英気を養う意味でも貴女とこうしたかったというのが本音ね」
「お、俺は吸い取られそうな気がするよ……」
「ふふふ。一線は超えるつもりはありませんが『その手前』まではさせてもらいますよ」

 そ、その手前って……

「まぁベルが我慢出来なくなって、超えたくなったら何時でも私たちは構わないわよ?」
「ふふふ。では部屋の明かりを落としましょうか」

 ツキはそう言うと、部屋の明かりを落とした。

 オレンジ色の光に照らされて、二人の姿がより蠱惑的になる。

「まずは私からベルフォードに『御奉仕』させていただきますね」
「…………はい。よろしくお願いします」
「ツキが終わったら私だから。今夜は寝かさないわよ、ベル」

 そ、それって男のセリフじゃないのかよ……



 こうして、俺は二人の妻と眠れない夜を過ごしていった。


 な、何とか……一線は超えずに済んだ。と言うのをここに記しておく。
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