Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

第二十八話 ~トウヨウの最優冒険者の豪鬼さんと邂逅を果たしたあと、朝食を共にすることになった~

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 第二十八話




 早朝。いつもと同じ様な時間に目を覚ました俺は、ベッドを抜け出して外で軽く身体を動かしていた。

 寝間着姿のミルクはベッドでまだすやすやと寝息を立てているはずだ。
 それに、リーファやツキもまだ寝ているだろう。

 冒険者を引退する前から、誰よりも早く起きていたのは俺だったからな。
 まぁ、習慣というものは抜けるものでは無いよな。

 そんなことを考えながら、キンと冷たい朝の空気を吸い込みながら少しだけ眠気の残る身体を目覚めさせていく。

 そうしていると、俺の耳にザッザッと足音が聞こえてくる。まだそんなに近くでは無いが、手練の足運びだと感じ取れる。

 なるほど。恐らく『彼』かも知れないな。

 そう思っていると、俺の目の前に二メートルは余裕で超える身体の持ち主が姿を見せた。

 短く刈り揃えられた髪の毛。鍛え上げられた鋼のような筋肉質な身体。そして背中には身の丈程の大剣を背負っている。

 トウヨウの最優冒険者『剛剣』の豪鬼(ごうき)さんだった。

「おはようございます。Sランク冒険者のベルフォード・ラドクリフ氏でよろしいですか?」
「おはようございます。冒険者は先日引退をしたので、Sランク冒険者ではありませんが、私がベルフォードです」

 俺がそう答えると、彼は少しだけ意外そうな表情をして言葉を返す。

「なんと。冒険者を引退されていましたか。失礼ですが理由を伺っても?」
「ははは。情けない話ですがもう歳ですからね。Sランクとしての実力では無い。そう感じての引退です。それと、貴方はトウヨウの最優冒険者。『剛剣』の豪鬼さんですか?」

 俺がそう問いかけると、彼は首を縦に振って肯定した。

「はい。ですが剛剣なんて呼び名は名前負けしてしまう気もしますがね」

 そう言ったあと、彼は少しだけ目を細めながら言葉を続けた。

「それに貴方も衰えたなどと嘯(うそぶ)いていますが『剣聖』の名に恥じない実力を持ってるのはわかりますよ」

『剣聖』

 過ぎた二つ名だとは思ってしまうが、俺の事をそう呼ぶ人は少なくなかった。
 本当に勘弁して欲しい。そんな大層な名前で呼ばれるような人間じゃない。

「ははは。お互いに二つ名には苦労してしまいますね。ここに来たのは私と手合わせをする為。そう伺ってますが?」
「はい。自分の剣を一つ上のレベルに上げるために、貴方と手合わせをと思って来ました」

 最優冒険者と呼ばれ、『剛』の剣の極みに辿り着きながらも更に上を目指す。
 彼の向上心には頭が下がるな。

「私も貴方と手合わせ出来るのは光栄です。もしよろしければ朝食を共にしませんか?」
「ありがとうございます。ラドクリフ氏の好意に甘えさせてもらいます」

 こうして彼からの了承を貰い、俺は屋敷の中へと案内した。


「おはようございます、レオンさん。勝手なお願いになって申し訳ないですが、こちらの豪鬼さんの分の朝食を用意してもらいたいのですが可能ですか?」
「おはようございます、ベルフォードさんに豪鬼さん。はい。豪鬼さんの朝食を用意することは可能ですよ」

 良かった。流石に客人の前でベル坊ちゃんとは呼ばれなかった……
 そして、レオンさんの言葉を受けた豪鬼さんは頭を下げて感謝の言葉を言う。

「昨日に引き続き急に押しかけてしまい申し訳ないです。それに朝食まで用意していただけるとは」
「いえいえ、こちらこそ昨日いただいた抹茶は美味しくいただきました。もてなしが出来なかったことを悔いていたところですので」
「そう言っていただけるとこちらとしても助かります」

 そんなやり取りをしてから、俺たちは豪鬼さんを居間へと案内する。

「おはようございます、ベルフォード。おや?そちらの方はどちら様ですか?」
「おはよう、ベル。今日も早かったのね。それと隣に居る方はトウヨウの最優冒険者の豪鬼さんかしら?」
「なるほど。彼があの有名な剛剣ですか」

「おはよう、ツキにリーファ。そうだねリーファの言うように彼は豪鬼さんだよ。朝の運動をしていたら顔を合わせてな。朝食を一緒に取ろうと言う話になったんだ」
「おはようございます。アストレアさんとツキさん。自分はトウヨウの豪鬼と申します。あの有名な千の魔法使いにお会い出来て光栄です」

「ふふふ。お世辞はいいわよ。それに貴方の剛剣の名前も有名よ。それと私のことはリーファで構わないわよ」
「そうですか。それではお言葉に甘えてリーファさんと呼ばせていただきますね」

「私はベルフォードの愛刀であり『正妻』のツキと申します。本日は夫と手合わせをする為に来たのですよね?ふふふ。私もとても楽しみです」
「なるほど。ツキさんは『受肉(じゅにく)』を果たした愛刀でしたか。ラドクリフ氏も中々やりますね」
「ははは。ツキがこの姿を得たのはつい先日の事ですけどね」

 なるほど。トウヨウではツキのような事例を『受肉』と呼ぶのか。

「おはよう、ベルにリーファにツキ。あら、貴方は昨日やって来られた方ですわね」

 寝間着から部屋着に着替えてから居間へとやって来たミルクが豪鬼さんを見てそう言葉を放つ。

「おはようございます、クラウゼルさん。ラドクリフ氏の好意に甘えさせていただき、朝食を共にすることになりました」
「あらそうでしたの。私としても断る理由はありませんわ」

 そして、少しすると俺の親父とお袋も居間へとやって来た。
 同じように豪鬼さんに挨拶をして、朝食を共にすることに了承を示してくれた。

 よし。これで全員が居間に揃った形だな。

「それじゃあ全員揃ったことだし、椅子に座ってレオンさんの朝食を待つことにしようか」
「そうね。一体何が出てくるのか楽しみだわ」
「台所からはとても良い匂いがしますからね。私はとても期待していますよ」

 そんな話をしながら、俺たちはレオンさんが作る朝食を椅子に座って待っていた。
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