Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

文字の大きさ
上 下
18 / 52
第1章

第十七話 ~馴染みの店で朝ご飯を食べながら、ツキに異世界転移者の話をした~

しおりを挟む
 第十七話



『小鳥の憩い場』

 温かみのある文字で書かれた看板が扉の前に掛けられている。
『営業中』と書かれた看板も一緒に出ていた。

「良かったわ。やっぱりこの店はこの時間からやっていたわね」
「クエストで忙しかったから、しばらく来てなかったけどやっぱりこの看板を見ると落ち着くな」
「ふふふ。私は今からどんな料理が出てくるのか楽しみです」

 そんな話をした後に、俺は馴染みの店の扉を開いた。

「おはようございます。チヒロさん」
「おはよう、おばぁちゃん」
『おぉ良く来たね、ベル坊。それにリーファちゃんも』

 前に見た時よりもシワの増えた顔を笑顔にして、チヒロさんは俺たちを出迎えてくれた。

『おや、ベル坊。リーファちゃんの隣に居るべっぴんさんは誰なのかえ?』
「お初にお目に掛かります。私はベルフォードの『妻』のツキと申します。夫が若い頃から慣れ親しんだ味を今日は楽しみにしてまいりました」

 首を傾げるチヒロさんに、ツキはそう言って自己紹介をした。

『おやおやベル坊、結婚したのかい?リーファちゃんのことはどうしたのさ』
「あはは!!おばぁちゃん。ベルは女たらしだから私のことも『妻』にしてるわよ。全く。こんな美女を二人も妻にするなんて幸せ者よね!!」
「俺にはもったいない位だけど、二人を幸せにする覚悟はあるよ」

 俺がそう言うと、チヒロさんは安心したように息を吐きながら言ってきた。

『はぁ……私たちが昔居た世界では珍しい事じゃったけど、この国では一夫多妻制?が認められておるからの。良かったのぉベル坊』
「あはは……」

「ベルフォード。私たちが昔居た世界とはどういう意味ですか?国とは違うのですかね?」
「あぁ、それはね……」

 少しだけ気になる発言だったようで、ツキが俺の耳元で聞いてきた。
 今は厨房に居るから姿が見えないが、チヒロさんの旦那さんはシュウゾウさんと言う。

 この二人は『異世界転移者(いせかいてんいしゃ)』と呼ばれている。

 この国ガルムや隣国のトウヨウ、西の大陸ウェストなどこの世界にはたくさんの国がある。だが、チヒロさん達はこの世界とは別の世界からやって来た人達だ。
 三十年ほど前に、いきなりこの店ごとこの地に突然現れたんだ。

 何年かに数人。そういった事例が確認されていて、チヒロさん達が初めてという訳でも無い。
 店ごと転移してくるのは珍しい事だったけど。

 俺たちが飲み食いしていた緑茶や最中や大福も、隣国の異世界転移者生み出したものと言われている。

 どうやらチヒロさん達と『同郷』のようで『ニホン』と呼ばれる国からやって来たようだ。

 その他にも『イタリア』や『アメリカ』や『チュウゴク』と呼ばれるところからも来ているようで、主にこの世界の食文化の発展に寄与している人材が多い。

 あとは大抵の異世界転移者は『スキル』と呼ばれるものを所持している。

 ちなみにチヒロさんとシュウゾウさんは『給仕者(きゅうじしゃ)』と『料理者(りょうりしゃ)』のスキルを持っているようだ。

 チヒロさんは『出来上がった料理をいちばん美味しい状態でお客に提供するスキル』

 シュウゾウさんは『作りたいと思った料理の材料と道具を生み出せるスキル』

 このスキルがあるからこそ、この店の料理は美味しいし、価格も手頃で提供する事が出来ているらしい。

 魔物の肉を焼いて調味料を掛けるだけ。

 だったこの世界の食事事情。ほんの百年の間に食文化が急速に進化して行ったのは、異世界転移者の功績が非常に大きいと思うよな。

 そんな説明を軽くツキにすると、かなり神妙な表情で頷いていた。

「なるほど。この世界に無い料理なのですね。やはり勉強になりそうです!!早く食べてみたいところですね」
「あはは。じゃあ椅子に座って待ってることにしようか」

 そして、椅子に座って待っていると、奥から料理を持ったチヒロさんとニヤニヤと笑みを浮かべたシュウゾウさんが俺たちの元にやって来た。

「おはようございます、シュウゾウさん。お久しぶりです」
『いよう、ベル坊!!美人の妻を二人も手に入れるなんてやるじゃないか!!昔からたくさんの女に好かれてたからな!!やっぱりとんだハーレム野郎だな!!』

 ニヤリと笑いながらそんなことを言う初老の男性がシュウゾウさんだ。
 穏やかなチヒロさんとは対照的に、とても賑やかな人だ。

「ハーレム!!やはりベルフォードはハーレムを目指しているんですか!!ベルフォードは女たらしですからね!!」
「目指してないし、そんな事実も無いから……シュウゾウさん。本当に勘弁してください……」

『ははは!!まぁリーファちゃんとキチンとくっついたのは良かったぜ!!さぁ!!しっかりと食べていってくれ!!』
「はい。ご馳走になります」

 シュウゾウさんたちが持ってきてくれたのは『和食(わしょく)』と呼ばれる料理だった。

『白米(はくまい)』と呼ばれるものを炊きあげた真っ白なご飯が主食で、卵をかき混ぜないでそのまま焼く『目玉焼き』。
 そして、『焼き魚』に『煮物(にもの)』や『味噌汁(みそしる)』が着いている。

 そして、俺が大好きだけどリーファがめちゃくちゃ嫌いなものがコレだ。

「やっぱりここに来たら『納豆(なっとう)』を食べないとな!!」
「私、これは本当に無理なのよ……貴方が食べた匂いは我慢するわ。でもこれは譲るわよ」
「納豆……なかなか強烈な匂いをしてますね。私は挑戦してみますよ!!」

 表情を歪めているリーファは小さく拳を握っているツキに言う。

「完全に好き嫌いが別れる食材よ。無理だと感じたらベルに渡しなさい。この男とシルビアは大好物だったけと、私とエリックは無理だったわ」
「まずは食べる前にこの『箸(はし)』を使って小皿の中で二十から三十回かき混ぜるんだ。持ち方はこんな感じだな。そしてこの『醤油(しょうゆ)』と『辛子(からし)』を少し垂らして食べるといい」
「はい!!ではかき混ぜますね!!」


 ツキはそう言うと、箸を俺の持ち方を器用に真似て初めてにも関わらず手際よくかき混ぜ始めた。

『おぉ!!嬢ちゃん、箸の使い方が上手いな!!』
「お褒めいただいてありがとうございます」

 シュウゾウさんの褒め言葉に返事をしたあと、白くなった納豆にツキは醤油と辛子を垂らす。

「そしたら少しだけかき混ぜて、一口食べてご覧。美味しかったらご飯にかけてるのが主流だな」
「はい!!ではいただきます!!」

 ツキはそう言うと、食べ頃になった納豆を一口食べる。

 そして……


「………………なるほど。そうですか」


 神妙な顔でそう言ったあと、ツキは俺に納豆を差し出してきた。

「やっぱりダメだったか?」
「いえ……納豆は大丈夫だと思います。ですが、私はコレがダメだったみたいです」

 ツキはそう言うと辛子を指さした。

「か、辛いです……」
「あはは、そうか。これを入れたらもう取り返しがつかないからな」

 俺はそう言うと、まだ手を付けてない納豆をツキに渡す。

「今度は辛子を入れないで作るといい。それなら食べられるだろ?」
「はい!!ありがとうございます、ベルフォード」

 そして、俺はツキが作ってくれた食べ頃の納豆をご飯にかけて食べていく。

「この匂いとネバネバがたまんねぇよな」
「……いつもの事だけど、食事が終わったら『消臭』の魔法を掛けるわよ」
「ははは。助かるよ、ありがとうリーファ」

 こうして、俺たちは『小鳥の憩い場』での食事を楽しんでいった。

 ツキは辛子を入れない納豆はお気に召したようで、美味しそうに食べていた。
 煮物や味噌汁にも興味を示したようで、作り方の研究をするとも言っていた。

 彼女の料理レパートリーを増やす旅。みたいなのを新婚旅行も兼ねてするのも悪くないな。

 そんなことを考えながら、俺は煮物の蓮根(れんこん)を口に運んだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比の狂った世界は、今以上にモテるようです。

狼狼3
ファンタジー
花壇が頭の上から落とされたと思ったら、男女比が滅茶苦茶な世界にいました。

処理中です...