Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

リーファside ①

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 リーファside ①



 ベルを自室へと向かわせた後、私は彼の『自称妻』のツキと向かい合ったわ。

 ……ふん。見れば見るほど綺麗な容姿をしてるわね。

 この国では珍しい艶やかな漆黒の髪の毛は腰まで伸ばして、女性らしい膨らみはしっかりと持ち合わせながらも下品には感じないわ。それに、隣国では良く着られている着物もかなり似合っているわね。

 ベルの愛刀の月光は『刀』と呼ばれるガルムではまず見ない形状の武器だったわ。
 隣国で過去に使われていた武器だと聞いていたから、きっと彼女の容姿もそれに準じるものになったのかもしれないわね。

 まぁ、そんなことはどうでもいい話しよ。

 大切なことは、この女は、私の、敵だという話なのだから!!

「ベルも居なくなった事だし。当事者同士で話をしましょうか?ツキさん」
「ふふふ。そうですね。私も貴女とは話をしたいと思っていましたよ、リーフレットさん」

 私の言葉に微笑みながら言葉を返すツキ。
 ある程度の『殺気』を込めた言葉だったけど、意にとめていなかった。

「リーフレット。なんて他人行儀な呼び方はしなくていいわよ。リーファで構わないわ」
「そうですか。ではリーファも私のことは、ツキと呼んでいただいて構いませんよ」
「わかったわよ、ツキ」

 私たちはお互いの呼び名を定めた後に本題に入ることにしたわ。

「それで、ツキ。私は貴女に聞きたいことがあるわ」
「そうでしょうね、リーファ。貴女が私に聞きたいのは私がベルフォードと交わした『契約』の事では無いですか?」
「……その通りよ」

 そう。私が聞きたかったのはあのベルがこの女と一体どんな『契約』をしたのか?ということ。

 私と『婚約』をした時はこの女は居なかった。

 つまり、私が彼の家に居なかった時間で何かがあったということ。
 何となく嫌な予感がしたから今日もベルの家に来たけど、こんなことになってるとは思いもよらなかったわ。

「私がこの姿でベルフォードの前に現れた時、リーファは既に彼と『婚約』を交わしている状態でした。ですが、貴女と婚約よりも先に、ベルフォードは私に『人の身を得たら結婚する』と約束をしてくれていました」
「そうなのね……」

 あのバカ。迂闊に変な約束なんかしてるんじゃ無いわよ!!

 そう思ったけど、後の祭りね。私はツキの話の続きを聞くことにしたわ。

「ですので、私がその約束を彼に話したところ『リーファとも結婚する許可をくれないか?』と言われました。当然ですよね。私の方が『先』にベルフォードと婚約を交わしたのですからね」
「……ち」

 まぁ、とんでも理論だとは思うけど、筋は通ってるわね。

「だから私はベルフォードに言ったのですよ。『貴方の初めてを全部私にください。そしたら許してあげますよ』と」
「ははは。理解したわ。そんな契約を結んでいたのね」

 なるほどね。その契約だったら『大したことでは無い』わね。

 私はツキの言葉を聞いて安堵を覚えたわ。
 だって、彼女がベルと交わした契約は『絶対に叶わない』

「早速今朝ベルフォードから『初めてのキス』をいただくことが出来ました。私とした行為なら貴女としても構わない。ベルフォードにはそう話をしてますので、リーファもしたければ彼とキスをしても構いませんよ?」

 二番目の女。として。

 勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、ツキは私にそう言ってきたわ。
 でもそんな表情を見ても、私には何も響かない。

 だってそうでしょ?

 ベルの『初めて』は全て私が奪っているんだから。

「ははは。なかなか可愛いことを言ってるのねツキは」
「……何がそんなにおかしいんですか。そんな余裕でいられるような話の内容では無いと思いますが?」

 余裕の表情を崩さない私に、ツキは少しだけ苛立ちながら言葉を返してきたわ。
 そうでしょうね。彼女としては少なくとも私が激昂するなり、嫉妬に狂うなりの反応があると思っていたと思うわ。

「余裕なのは当然でしょ?だってベルの初めては全て私が奪ってるんだからね」
「…………ち。だから私は貴女のことを『女狐』だと言ったのですよ」

 私の言葉にツキの表情が忌々しそうに歪んだわね。

 ……なるほどね。どうやら彼女は人の姿を得る前から意志を持っていた。
『あの行為』の最中も刀の姿で見ていたのかもしれないわね。

「私は若い頃は今の二人ではなく、ベルとミソラとパーティを組んでクエストをしていたわ。それは貴女も知ってることよね?」
「……そうですね。エリックさんとシルビアさんが参加したのは十年ほど前からですね」

「そして、私は当時からベルに対して『非常に大きな恋慕の感情』を抱いていたわ」
「刀の姿でいた時から見ていましたよ。貴女がベルフォードに向ける視線が異常だと言うことは」

 ……異常とは失礼な女ね。
 恋する乙女の純真な視線よ。

「ははは。異常かどうかはこの際どうでもいいわ。当然だけどベルと一緒に寝る事なんて日常茶飯事だったわ。その時に私は思ったのよ」

 ベルの『初めて』は誰にも渡したくない。ってね

 私がそう言った瞬間、ツキの表情が殺気を孕んだものに変わったわ。
 ははは。良いわね。貴女のその表情はとても魅力的よ。

 取り繕ったこれまでのものではなく、ツキの『真の姿』にも思えたわ。

「ベルは気が付いていなかったけど、当時から彼を慕う女性は少なくなかったわ。あのミソラだって少なくない感情を抱いているとわかってた。だから、私はある時から『ベルフォードの初めて』を一晩に一つずつ奪うことにしていったわ」

「最初は『初めてのキス』よ。とても刺激的だったのを覚えているわ。寝ている彼にこんなことをしてる。私は背徳感と優越感でいっぱいだったわ」

「次に奪ったのは『初めての性処理』よ。彼の味はとても幸せなものだったわ。まだまだ若かったベルは一回だけじゃ収まらなくて何度も何度も私に味あわせてくれたわ」

「そして、最後に奪ったのは『彼との性行為』よ。寝ていても反応してくれるのはわかっていたわ。何度も何度も彼のモノを私の中に注いでくれたわ。避妊の魔法を掛けていなければ、今頃はベルの子供を授かっていたのは間違いないわね」

 この間で話したあとに、私は冷めきった紅茶を一口飲んだわ。

「ツキがベルと何をしても構わないわ。だって……貴女の方こそ『二番目の女』なのだからね」

 私がそう言うと、ツキはニヤリと笑ったわ。

「……やはり。貴女は私の『最大の敵』ですね」
「それに関しては私も同じ気持ちよ、ツキ」

「リーファがベルフォードから『初めて』を奪っているのは知ってましたよ。刀の姿のときから、歯噛みして見てましたから」
「貴女に視覚があることには驚いたわね」

「ですが、結局貴女がした行為は『寝ているベルフォードとしただけ』ですよね?彼が初めてと認識している訳ではありません」
「……そうね」

 私が少しだけ表情を歪めると、ツキは余裕を取り戻した感じで言葉を返してきたわ。

「だったら私は『ベルフォードが初めてと認識している行為』を貰うことにしますよ」
「ははは。それで構わないわよ」

 そう。彼女ならそう言ってくると思ったわ。

「ベルの本当の『初めて』は私が奪っているわ」
「ベルフォードが『初めてと認識している行為』は私が貰います」

 私はそう言い合ったあと、彼女に手を差し出したわ。
 ツキは私の手を取って握手をしたわ。

「ベルの妻として私は貴女と一生戦い続けるわ」
「私もベルフォードの妻として貴女と一生戦い続けます」

 そして、私は彼女に笑いかけたわ。

「とりあえず、婚姻届は一緒に役場に持っていくことにしましょう」

 私がそう言うと、ツキは私の言葉に微笑んで答えたわ。

「意外ですね。私が国籍を得るまで待ってくれるんですか?」
「私もベルから指輪を貰いたいからよ。きっと貴女が国籍を得るのと彼が指輪を用意するのは同時だと思うわ」
「そうですか。でしたらお言葉に甘えましょう」

 そして、ツキは台所に向かう為に椅子から立ち上がったわ。

「貴女の分の夕飯も用意してあげますよ。『飯マズ』のリーファは実力の差を感じて絶望してください」
「……ち。そんなことまで知ってるのね」
「ふふふ。刀の姿の時から見てましたからね」

 悔しいから花嫁修業として料理を勉強しようかしらね。

「じゃあ私はベルを呼んでくるわ」
「部屋でキスまでならしていいですからね?」
「あらそう。じゃあベルからそれ以上を求めて貰えるように頑張るわね」
「…………女狐め」

 忌々しそうにそう呟いたツキを尻目にしながら、私はベルの部屋へと向かったわ。

「ははは。これから楽しくなってきたわね。絶対に負けないわよ、ツキ」

 私はそう呟いて居間を後にしたわ。

 さて、まずはベルとキスをしましょう。
 寝ている彼とではなく、起きている彼と。

 今からとても楽しみだわ!!

 そして、部屋の前に来た私は意気揚々と彼の部屋の扉をノックしたわ。
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