十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第2章 前編

最終話 ~南野凛音の宣戦布告・十年来の幼馴染が本気で俺たちの仲を引き裂きに来ました~ 後編

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 最終話  後編



 凛音視点



「次期生徒会長と呼ばれてる桜井霧都は、私の十年来の幼馴染よ。これから彼と私の十年間の大切な思い出の話をしようと思うわ」

 三郷先輩は放送室から居なくなったわ。
 この部屋に残されたのはこの私だけ。

 機材の使い方は朝の段階で説明を受けている。

 あはは。さて、それじゃあ話してあげるわよ。

『私と霧都が過ごして来た十年間の蜜月の日々。その思い出』を……ね。



「私と彼が出会ったのは十年前の幼稚園の頃よ。二つ並んだ建売住宅に同じ日に引っ越してきたわ。運命的なものを感じてしまうわね」

「その頃の私は今とはまるで違う性格をしてたわ。そう、感情を表に出せない子供だったわ」

 そう。霧都と私の話をするなら、私の過去を話す必要がある。そして、その『私の過去の話』こそが、霧都と北島永久を引き裂く原動力になると思っている。



「血縁関係のある母親から、私は虐待を受けていたわ」



 きっと学園内は静寂に包まれてるはずよ。

 私のスマホがメッセージを受信する。

『皆。聞き入ってるよ。ふふふ……良い導入だね』

 三郷先輩だったわ。

 掴みは成功ね。

「笑えば叩かれる。泣けば叩かれる。感情を表に出せば叩かれる。縄で縛られるなんて日常茶飯事よ。そんな日々を過ごして来たわ。そして、私の血縁の母親は浮気癖もあったわ」

「私を縄で縛り付けた横で、浮気相手と性行為をしてる。そんなことすらあったわね」

「そしてある日。たまたま早く帰ってきた私のお父さんに、血縁の母親は浮気の現場と私の虐待の現場を見られたわ。その時にお父さんは離婚を決意してくれたわ」

「でも、仕事人間だった私のお父さんは仕事と子育てを両立させることが難しかったみたいね。その時に職場の女性に一日だけ私の面倒を見て欲しいと頼んだの」

「その人が私のお母さん。静流さんよ。お母さんは私を一目見て言ったわ」

『この娘の母親には私がなります』

「こうしてお父さんはお母さんと再婚したわ。そして、お母さんの意向で虐待の記憶がある家に住ませるのは可哀想。そう言って今の家に引っ越してきたのよ」


 私はそこまで話したところで、ペットボトルのお茶を一口飲んだわ。

 思った以上に緊張しているようね。私の喉は想像以上に乾いていたわ。

 ここで水分補給をして正解だったわね。

「最初に出会った頃から、霧都は明るい男の子だったわ。妹の美鈴と一緒に遊ぶことも多かったわね。でも、私は虐待の影響もあって笑うことが出来なかったわ」

「そんな私を笑わせてくれようと、霧都は色々な遊びをしてくれたわ。手を繋いで色々なところにも行ったわ。林の中には秘密基地を作ったわ。川では水切りをしたわね。ダンボールで土手を滑り降りたりもしたわね。そして、それはある日の事だったわね。この学園の近くにある公園で遊んでる時だったと覚えているわ」



『ほら、凛音!!次は砂場で遊ぼ……ぐふっ!!』
『……大丈夫、霧……』
『……ぶへ』
『ふふふ……霧都……砂まみれね……』


「……砂場で転んだ霧都が、砂まみれになって笑う姿に……私は……初めて……笑ったわ……」

 ポタリ……ポタリ……と機材の上に私の涙が落ちる。

 そう、この時からよ。私は彼に恋をしていた。

 でも、その恋に気が付いたのが今の今になってからだったのよ。

 もっと早くに気がついていれば、こんな思いはしないで済んだのに。

 こんな思いは全て、北島永久に押し付けられたはずなのに……っ!!

「その時からよ。私は少しずつ、感情を表に出せるようになったわ。嬉しい時は笑い、悲しい時は泣いて、怒ることも出来るようになったわ」

「全部……全部……霧都のお陰よ……」


 ふふふ……聞き入ってるでしょ?

 ここで少し、時間を空けるわ。

 そう言う『演出』よ。

「こうして、私と霧都は十年間の時を過ごして来たわ。でも、少しだけ……私と霧都の間に気持ちのすれ違いが起きてしまったわ」



『俺、お前のことがずっと好きだったんだ!!ただの幼馴染じゃなくて、お前と恋人同士になりたい!!だから俺と付き合ってくれ!!』
『アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!』


 この時に、
『私も貴方が好きよ霧都。夫婦を前提とした恋人にならなっても構わないわ』
 なんて言ってたら、運命は変わってたかもね……

「後悔してるわ。もう少し霧都の話をよく聞いていれば良かったと。そして、すれ違いで生まれたその隙間を埋める間もなく、彼には北島永久さんという彼女が出来たわ」

「…………ねぇ、霧都。私は寂しいわ」

「また、あの頃のように過ごせないかしら……もう、北島永久さんという彼女が出来てしまったら、私たちは昔のように過ごせないのかしら?」

「手を繋いで色々なところに遊びに行ったわ。同じベッドで並んで寝たわ。流石に高校生にもなってお風呂を共にするのは恥ずかしいわね……」

「別に貴方に北島永久さんという彼女が居ても構わないわ」

「でも、南野凛音と言う幼馴染の女の子を放って置かないで欲しいわ」

「霧都。貴方の気持ちを聞かせてちょうだい」

「私はいつでも貴方を待ってるわ」



 私はここまで話して、一つ間を開けた。


「以上が私と霧都の十年間の話しのほんの一部分よ。お昼の時間にこんな話をしてごめんなさいね。でも、もしもまだまだ私の話を聞きたいと言ってくれる人がいるのなら、私と彼の昔話をしようと思うわよ」

「なにせ、私と霧都は十年間も一緒に過ごしてきたんだから」

「では、失礼するわ」

 私はそう言って、ボリュームを下げたわ。


「ふぅ……」


 私は一つ息を吐いたわ。

 よし。やりきった。これで学園を二分させることが出来たはずよ。

『北島永久派』と『南野凛音派』

 ようやくあの二人と戦える体制が出来た。

 そう、勝負はここからよ!!

「ふふふ。覚悟しなさいよね北島永久!!二人の仲を引き裂いてでも!!最後に勝つのはこの私だってことを教えてやるわよ!!」


 誰も居ない放送室に、私の声が木霊したわ。



 最終話 ~南野凛音の宣戦布告・十年来の幼馴染が本気で俺たちの仲を引き裂きに来ました~


 ~完~


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