十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第2章 前編

凛音side ③

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 凛音side  ③




 霧都が私の部屋を後にして、美鈴を連れて外に出ていくのが部屋の窓から見えた。

 私はそのことを確認してから、スマホで電話をしたわ。

 その相手は放送部の部長。三郷先輩ね。

 プルル……ピッ


『もしもし。三郷です。南野さんだね、こんな時間にどうしたのかな?』
「夜分に申し訳無いわね。ちょっと確認しておきたいことがあったのよ」

 夜分の電話に嫌な声一つさせない三郷先輩に、私は内心で感謝をしながら話を続けたわ。

「霧都との昔話の件。明日でも平気かしら?いきなりで申し訳ないとは思うけど」

 私がそう言うと、三郷先輩は笑いながら答えたわ。

『あはは。平気だよ。寧ろ、そう言うと思ったから貴女の為に昼の放送枠は空けてあるわよ。逆に明日の朝に私から、南野さんにメッセージを入れようかと思ってたくらいだから』
「あら、そうなの。だったら都合がいいわね」

『こういうのは早ければ早いほど情報漏洩の危険が少なくなるからね』
「そうね。話なんてどっから漏れるかわからないもの」

『話はそれだけかな?』
「そうよ。有意義な会話が出来て嬉しかったわ、ありがとう三郷先輩」

『あはは。こちらこそ、明日の放送を楽しみにしてるよ』

 私はね『他人の修羅場』が大好きだからね。

 三郷先輩はそう言って電話を切ったわ。

「さて、そろそろ寝ようかしら」

 私は寝る前に歯をみがこうと下に降りたわ。

 すると、

「凛音ちゃん。ちょっとこっちに来てお母さんの話を聞きなさい」

 とお母さんに呼び止められたわ。

「あら、珍しいわね。歯を磨いてからでもいいかしら?」
「構わないわよ」

 お母さんの返事を聞いた私は洗面台で歯を磨いてから、居間へと向かったわ。

「お待たせ。どうしたのかしら、お母さん?」
「ちょっと大事な話があるのよ。そこに座りなさい」

 ちょっとだけ険しい顔のお母さん。
 私は少しだけ驚きながらも椅子に座ったわ。

「先に聞いておくわね。凛音ちゃん。今の現状をどう捉えてるかしら?」

 今の現状。つまり『霧都と北島永久が恋人同士』って状況よね。

「はぁ……正直な話をすれば『絶望的』だと思ってるわ」

 黒瀬詩織の話を聞いて理解したわ。

 私は霧都にとってもう『終わった女』

 恋愛をする相手ですらない。

 このまま指をくわえて見ていれば、あの二人は何の問題も無く結婚して夫婦になって円満な家庭を築き上げるでしょうね。

「正攻法で攻めても無駄だと思ってるわ。あの二人の間に自分の存在をもう一度ねじ込むには相当な覚悟と努力が必要だと思ってるわ。それも、私一人の力じゃ無理よ。外堀から攻めてく必要があると思ってるわ」

 私がそう言うと、お母さんはため息をひとつついてから、額を抑えたわ。

「はぁ……ほんと、そこまでわかってるならどうしてあの時に、霧都くんの告白を受けなかったのよ……」
「仕方ないじゃない。あの時は自分の気持ちを真に理解してなかったんだから。まぁ、でも過ぎた過去を悔やんでも仕方ないわ。前を見て進むわよ」

「凛音ちゃんが現状を楽観視してるなら、忠告をしてあげようと思ってたけど、きちんと理解してるなら話は別ね」
「まぁ、現状を理解させてくれた先輩が居たのよ。とてもためになる話を貰えたわ」

「それで、凛音ちゃんはこの後どうするつもりなの?」

「昼の放送枠を使って私と霧都の仲を全校生徒にアピールして行くわ。桜井霧都には私と言う十年来の幼馴染が居る。北島永久より私と付き合った方が良いのでは?と言う派閥を作るわ」

「そのための味方は既に確保してるわ。あとは私から霧都に『本気の告白』をするつもりよ」

「まぁ、十中八九どころじゃなく、100%振られるでしょうけど、もう一度霧都に南野凛音の存在を刻み付けてやるわ。これが私が先輩から授かった助言よ」

 私のその言葉に、お母さんは少しだけ思案したあとに言葉を返したわ。

「まぁ、悪くないわね。少なくともその位はしないとあの二人の仲を揺らすことすら出来ないわよ」
「お母さんは反対しないのかしら?こういうの、嫌いだと思ったけど」

 私がそう言うと、お母さんはニヤリと嗤った。

 ……そんな嗤い方をする人だとは、初めて知ったわ。

「私が雅紀さんと結婚する為に、何もしなかったと思ってるのかしら?」
「……そうね。あぁ見えてもお父さんは『モテる』男よね」

 そう。お父さんはモテる男の人よ。仕事も出来るし見た目だって悪くない。中年太りや加齢臭なんかもしてない人よ。

 なんであのクソ女が浮気なんかしたのか理解不能だけどね。

「雅紀さんと知り合って、彼を好きになったのは『既婚者』だった時からよ」
「…………え?」

「職場の同僚としてあの人と知り合って、どんどん彼に惹かれたわ。でも、あの人は結婚して妻が居る人だった」

 そう言うと、お母さんは少しだけ遠くを見たわ。

「あの人を調べていくと、私にもチャンスがあるとわかったわ。一つ『妻は浮気癖がある』二つ『その妻は娘を虐待してる』これを使えばあの人を離婚させられると思ったわ」

 昏く澱んだ瞳で話しを進めるお母さん。

 十年目で初めて見た、この人の『女』としての顔。

 私はお母さんの話を聞いていることしか出来ない。

「私は貴女の血縁のお母さんと近づいたわ。そして『浮気のセッティング』をしてあげたわ。そして、あの女が貴女の自宅で事に及んでいる時に、雅紀さんを半休であがってもらうように私が仕事を請け負ったのよ」

「ちょうど浮気と虐待の現場に立ち会った雅紀さんは、離婚を決意してくれたわよ。そして、仕事人間の雅紀さん一人では、貴女を育てるのには限界が来るとわかっていたわ」

「そして、仕事をしながら雅紀さんの信頼を少しづつ獲得して行った私は、あの日貴女の面倒を見て欲しいと頼まれたわ。そこで私は言ったのよ『この娘の母親には私がなります』ってね」

「こうして私は貴女のお母さんになって、雅紀さんと結婚出来たわ。さて、凛音ちゃん。この話を聞いてどう思ったかしら?」

 そうね、考え方によれば『お母さんは私を利用した』とも取れるわね。

 でも、それがどうしたと言うのかしら?

 恋は戦いよ。利用出来るものはなんでも利用する。

 そのお母さんの『女』としての強さに私は尊敬するわ。

 だから、お母さんの問いに、私は答えたわ。

「たとえあの二人が結婚しても、勝負はまだ終わってない」
「違うわよ。それだと50点よ」
「……え?」

 疑問符を浮かべる私にお母さんが言ったわ。

「恋人や夫婦の状態の二人の間に自分をねじ込むのは難しいわよ。でも『別れさせれば』それは簡単になるわ」
「で、でも……どうやって別れさせるのよ」

 その問いに、お母さんは呆れたような表情で答えたわ。

「肉体関係のひとつでも持ちなさい。霧都くんとキスの一つでもすればヒビが入るわよ」
「…………そ、そんなこと」

 狼狽する私。お母さんはそんな私を強い言葉で責め立てる。

「やるのよ、凛音ちゃん。正攻法では無理と言ったのは貴女よ。告白するだけじゃ生ぬるいわ。キスの一つでもして霧都くんに『北島永久さんへの隠し事』を作らせなさい」

 本当ならセックスの一つでもしなさいと言いたいけど、そこまでは求めないわよ。

「凛音ちゃん。貴女は『終わった女』よ」
「……っ!!」

 お母さんのその言葉に私は息を飲む。

「もう、失うものなんて何も無いんだから、何だって出来るわよね?」
「……わ、わかったわ」

 お母さんから放たれる強力なプレッシャー……

 か、覚悟が足りなかったのは……私の方ね……

「貴女が霧都くんとそういう事が出来るようにするための場所は作って上げるわよ。その位のことはしてあげるわ」
「……そう。ありがとう、お母さん」

「凛音ちゃん。頑張りなさい。私は霧都くん以外の男を『息子』と呼ぶ気は無いわよ」
「は、はい……」

 私はそう答えて自室へと戻ったわ。



 ベッドの中で布団にくるまりながら、私は呟いたわ。

「霧都と……キスをする……」

 こ、告白よりも難易度が高いわね。
 でも……やるしか無いわ。

 そ、そうよ!!私にはもう失うものなんか何も無い!!

 だったら好きな人に嫌われても構わない!!
 キスくらいしてやるわよ!!

 私はそう決意して、部屋の明かりを落として眠りについたわ。
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