十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第2章 前編

第二十四話 ~駅前で永久さんの『覚悟』を聞きました~

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 第二十四話



 交渉の時間。三十分を使い切った頃。
 凛音は意気揚々とこちらに戻ってきた。

 流は途中から自分のお兄さんの彼女さんが少し気になっていたようで、そちらをチラチラと伺っていた。
 向こうもこちらを気にしていたようで、『南野さんとくじを交換したんだよね』と言って話しかけてきた。

 お兄さんの話で二人は楽しく話しているのが見えたので、良かったと思っていた。

「お待たせ。無事に目的は果たしてきたわよ」

 凛音はそう言うと、
『グラウンドのトラック』と『バトン』
 のくじをヒラヒラとこちらに見せてきた。

「我儘を通すのが得意なお前だから、上手いことやってくるとは思ってたよ」

 俺が笑いながらそう言うと、

「ふん。交渉上手と言って欲しいわね」

 凛音は薄い胸を反らせながらドヤ顔でそう言ってきた。

「ですが、南野さんは流石ですね。私ならこうはいきませんから」
「まぁ、適材適所ということよ。運の無い私じゃろくなくじを引けなかったかもしれないわよ」

 そんな二人のやり取りを見て、まぁ少しは話せる関係にはなったのかな?なんて思っていた。

「じゃあ俺は司会の方に戻って会議の終了を告げてくるよ」
「はい。霧都くん、最後まで頑張ってください」
「最後にとちって噛むんじゃないわよ」

「あはは。最後まで気を抜かずに頑張るよ」

 俺はそう言って教壇へ向かう。

 そこには桐崎先輩が椅子に座って待っていた。

「お疲れ様、桜井。あとは会議の終了を告げて終わりだ」
「はい。何とかこなせて良かったですよ」

「南野凛音の交渉内容を聞いていた。桜井霧都。これから大変になるとは思うが、頑張れよ」
「……え?」

 首を傾げる俺に、先輩は笑って答える。

「何かあったら修羅場の先輩として相談には乗ってやるよ。それだけは覚えていてくれ」
「わ、わかりました。ありがとうございます」

 そして、心にしこりを残したまま、俺は会議の終了を告げたのだった。



『私はこのあと部活があるから体育館へ向かうわ。霧都、さっきも言ったけど今夜は私の家でご飯を食べなさい。美鈴も呼んでくるのよ、わかったわね?』
『わかったよ。七時半にそっちに行くわ』

『霧都お疲れ様。俺はこの後はゲームショップに行ってから帰るよ。今夜は新作のゲームをやるから、ライジンはお休みしようと思う』
『OK。了解だ』

『じゃあ永久さん。一緒に帰ろうか』
『はい!!』

 そんなやり取りをして、俺と永久さんは一緒に帰っていった。





 他愛の無い会話をしながら一緒に自転車を漕いで、永久さんの駅まで送る。

 そして、しばらくすると彼女が使う駅へと到着した。

 俺は、少しだけ彼女と話したいことがあったので、

「永久さん。ちょっと話したいことがあるからさ、自転車を置いてきたらそこのベンチで少し話さないか?」

 と切り出した。

「はい。構いませんよ。私も霧都くんに話しておきたいことがありますので。こうして貴方から切り出さなければ、私から言ってたと思います」
「あはは。そうか。だとすると、同じ話になりそうだ」

 俺はそう言って、先にベンチに腰かける。
 少しすると、自転車置き場から永久さんが歩いてこちらに来る。

「あまり遅くなると変な人が増えるからね。本題に入ろうと思う」
「はい。霧都くんの配慮が嬉しいです」

 彼女が隣に座ったのをきっかけに、俺は話を始めた。

「何で、凛音の家でご飯を食べることを了承したのかな?少なくとも俺は『あいつとは一定の距離を置く』そういう心でいた。だからあいつに何かを誘われることがあっても『余程のことが無い限り』断るつもりだったよ」
「はい。霧都くんがそういう心でいることは私もわかってました」

 俺の言葉に、永久さんは微笑みながら首を縦に振った。

「君と恋人同士になった。君にとっては南野凛音と俺が一緒にいることは面白くないはずだよね。そんな君が、どうして俺が凛音とご飯を共にするなんて行為を了承したんだい?」

 その問いかけに、永久さんの微笑みは崩れない。

「きっと聞かれると思ってましたし、私からも話すつもりでした」

 彼女はそう前置きをした後に、言葉を続けた。

「私には『正妻としての覚悟』が足りていなかったんです」
「……『正妻としての覚悟』?」

 良く分からない単語に、俺は疑問符を浮かべる。

「黒瀬先輩に言われました。そして、私は先輩に話を聞きに行ったんです」
「……うん」

 彼女が黒瀬先輩を、尊敬……いや、敬愛しているのは良く知っている。
 そして、その先輩の言葉がどれ程彼女に影響を与えるかも……

「黒瀬先輩は、昨年の予算会議の日。藤崎先輩に言われたそうです」



『私は悠斗を信じてる。詩織ちゃんと仮にどっかに出掛けたり、デートしたり、キスしたり、えっちな事をしたり、もし仮にそういう事をする事態になったとしても、彼の中の『一番』は私』

『あなたは何をしても彼の中では『二番目の女』』

『あなたに敗北を教えるためにも、悠斗には詩織ちゃんの誘惑には全部乗ってもらう。そして、頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って……詩織ちゃんがもうこれ以上無いってくらいに頑張っても、悠斗が私のことを一番だって言うなら……あなたは諦めるでしょ?』

『私が言いたいのはそれだけ。いっぱい悠斗を誘惑していいよ?詩織ちゃんがしたいことを全部悠斗にしても構わない。そして、私はあなたに教えてあげるよ。絶対にあなたは私に勝てない。ってことをね』




「……そんなことを言われたそうですよ」
「……なんて言うか……その……凄いね」

 何が凄いって、一年前に言われたことを一字一句覚えてるあの先輩が……

「藤崎先輩には『正妻としての覚悟』が備わってるんです。黒瀬先輩が何をしても、自分の彼氏はそれに靡かない。一番は自分だ。そういう自負があるんです」

「そして、私にはそれが足りてませんでした。貴方を信じる。それが出来ていなかったんです」

「だから、今回私は貴方が南野さんと食事をすることを了承しました。それは貴方がどんな事があっても私の彼氏だということを信じているから。何があっても貴方の『一番』は私だと思っているからです」

 永久さんはそこまで言うと、俺の目を見て告げる。

「南野さんがこれから何をしてきても私は揺らぎません。正妻としての覚悟を持って臨みます。桜井霧都の彼女は北島永久です。南野さんが望むことは全てさせてあげるつもりです。ですので……霧都くんは揺らがないでくださいね?」

 そう言うと、永久さんの瞳が、昏く……光る……

「揺らいだら……刺しますから……」
「……はい」

 息を飲み、俺は首を縦に振った。

 それを見た永久の瞳の色が元に戻る。

「ふふふ。それでは帰ります。ここまで送ってくれてありがとうございます」
「いや、俺も君と一緒に居られて良かったよ」

「大好きです、霧都くん」
「俺も大好きだよ、永久さん」

 そう言って俺と永久さんはキスをする。
 誰かに見られても構わない。俺は彼女を愛してる。

 そして、唇を離した後に、彼女は俺の耳元で囁いた。

『食事が終わったら連絡をください。待ってますから』

「では、霧都くん!!さようなら!!」

 永久さんは笑顔で手を振って、駅の方へと歩いて行った。

 それを見送ったあと、俺は下を見て呟いた。

「……何をしても揺らがない。そうだな、そのくらいの覚悟は無いとダメだよな」

 距離を置くことで心の安寧を保とうとしていた。
 でも、それは逃げだったのかもしれない。

 本当に彼女を愛しているのなら、凛音が何をしてもそれを全て受けきってもなお気持ちは変わらない。そういう姿勢でないとダメなんだな。

「……とりあえず、静流さんと雅紀さんには永久さんと交際を始めたことを話さないとな」

 それもまたなんか気まずいけど、仕方ない。

 俺はそう思いながら、自宅に向かって自転車を走らせた。
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