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第1章 後編
永久side ②
しおりを挟む「王位継承権さえ残しておけば、アーサーの身に万が一のことが起きたときコーエンが王になれたのよ!
それなのに側近と妻を共有したですって! 王位継承権を手放してまで得ようとした真実の愛が妻を側近と共有することだったの? 真実の愛が聞いて呆れるわ!!」
ユリアを俺とマルクとゲオルグの三人で共有していたことは、母上にさえ理解されなかった。
「それからディアーナ嬢の処刑についてだが、コーエンお前の部屋からこんな計画書が出てきた」
「……それは!」
「バジリスクの毒を使用したものは、殺人未遂であれ殺人であれ、男も女も裸に剥かれ、民衆の前で火炙りにされる。それだけでも年頃の令嬢にとっては恥ずかしいことだ。高位貴族で王子の婚約者だったディアーナには相当辛い仕打ちだろう」
兄上が計画書に目を通し淡々と読み上げる。
「だがコーエン、お前はディアーナ嬢をさらに追いむ計画を立てた。卒業パーティーでの断罪ののち、牢屋に収容されたディアーナ嬢をならず者に襲わせようとした。
ディアーナが嬢が民衆の前で全裸にされたとき、体中に性行為による斑点があったら、ディアーナ嬢の品性は疑われ、誰も彼女に同情しない。
ディアーナ嬢は若く美しかった。うら若き乙女が婚約破棄され処刑されれば、令嬢に同情する者も出てくる。ディアーナ嬢を強姦することで彼女の品性を下げ、民衆に同情される可能性すら潰した。
お前はどこまでディアーナ嬢の尊厳を踏みにじれば気が済むんだ!!」
兄上が書類の束を投げつけた、書類は俺の頬に当たり床に落ちた。
何も物を投げつけることはないだろう! 苛立つ心で兄上を睨むと、絶対零度の視線で射抜かれ、失禁しそうになった。
「ディアーナ嬢の部屋からバジリスクの毒が見つかったとき、フリードは卒業後パーティーでディアーナ嬢を断罪したあと、自らの手で殺すことを決めた。ディアーナ嬢の裸体を民衆の前に晒すくらいなら自らの手で優しく殺そうと誓い卒業パーティーに挑んだ。
フリードはバジリスクの解毒剤の希少性を知らなかった。毒を見つけたときに相談してくれていれば、コーエンの罪を暴けたのに。
まさか実の弟が親友の義妹を嵌めていたとはな……恥ずかしくてフリードに顔向けできないよ」
兄上が自嘲気味に言い手で顔を覆った。
「ディアーナ嬢を殺した後フリードも死ぬ気だった。しかしディアーナ嬢の遺体に不審な点があるのに気づき、自殺を先送りにした。ディアーナ嬢の身に何が起きたのか、真実を知るまでは死ねないと、己を奮い立たせて……」
フリードがディアーナを殺した後自殺するつもりだった?
てっきりフリードもユリアに惚れていると思っていた。
ディアーナを殺した後、フリードがハーレムに入らないのが不思議だった。
もしかして兄上の近衛隊に入る話を蹴って俺の近衛隊に入ったのも、側でディアーナを見守るためだったのか?
そうか……フリードはユリアではなくディアーナに惚れていたのか。
俺はなんでそんな簡単なことにも気づかなかったんだろう?
学園に入学してから今日までの間、俺の全てはユリアで、ユリア以外見えなくなっていた。
「フリードはもともとディアーナ嬢と結婚するために、フォークト公爵家の養子に入ったんだよ。
それを【一目惚れした】と言って出会ったその日にプロポーズし、無理やりフォークト公爵家から引き離し、飽きたらお茶会にも出席もせず、パーティーでエスコートもせず、誕生日に贈り物の一つもせず放置してきた。挙げ句の果てに真実の愛を見つけて邪魔になったからと罠に嵌めて殺した……お前は本当に救いようのないゴミクズだね」
兄上が鬼の形相で睨んでくる。
罪悪感より、兄上を怒らせてしまった恐怖で体が震えた。
「王太后とコーエンの犯した罪を知ったフリードは、フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家を連れてグランツ国を去った。
ボクとしては親友に自害されるより、生きる意味を見つけてくれた方が嬉しい。だがフォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家を失ったのはグランツ国にとって大きな損失だ。
フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家があったから、今まで大国であるアイスフェルト帝国と対等に渡りあえた。しかしこの両家が抜け隣国についた今、グランツ国は窮地に陥っている」
フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家はグランツ国の剣と槍だ。良家のいないグランツ国は剣を取り上げられた兵士に等しい。大国であるアイスフェルト帝国に丸腰で勝てる訳がない。
「そこで隣国との同盟を強化するため、王太后とコーエンには人質としてアイスフェルト帝国に行ってもらう。
場所は旧フォークト公爵領フォークト公爵家預かりだ。両名の扱いは好きしていいと伝えてある」
「そんなっ……! あんまりです兄上!」
「ありえないわ! 生みの親を売る気なの!」
さぁーーっと音を立て、全身の血が引いた。
ディアーナをムチで打ち据え、麻薬漬けにし過労死寸前まで働かせた母上。
「一目惚れした」と言ってプロポーズし、王子妃教育の名目のもとディアーナを実家から切り離し、王宮に住まわせ厳しい王子妃教育を受けさせ、王子の仕事を押し付け、学園に入ってからは生徒会の仕事も押し付け、他に好きな女が出来たからと蔑ろにし、惚れた女に正妃の地位をねだられ、邪魔になったディアーナを罠に嵌めて殺した俺。
フォークト公爵家の人間に丁重に扱われるはずがない! 虐められる未来しか見えない!
「二人が何らかの理由で死んでも病死と発表していいと伝えてある、亡骸は丁重に葬ってくれるそうだ、安心して旅立っといい」
「「……っ!」」
それはつまり俺達が殺されても亡骸は引き取らない、どんな殺した方をしても構わないという意味。
旅立ったら最後、俺達は二度とグランツ国の土を踏めない……!
「ああ最後に伝えておく、マルクの実家ベーア侯爵家は子爵家に格下げ。ゲオルグの実家ホーナー伯爵家は男爵家に格下げした。マルク、ゲオルグ、ユリアの三人は車裂きの刑に処した」
「「…………っっ!!」」
車裂きの刑だと! 別名八つ裂きの刑! 四肢を牛に結びつけ、それらを異なる方向に前進させることで肉体を引き裂き死に至らしめる最も残酷な刑……!
「いやだ……! 嫌だ死にたくない! 助けて下さい兄上っっ!!」
「嫌よ! 私はどこにも行かないわ! 私は王太后よ! その私に他国に人質に行けと命令するなんてどうかしてるわ! 今すぐ取り消しなさい!!」
必死に懇願したが兄上は眉一つ動かさない。
衛兵を呼び「連れていけ」と冷淡に命じた。
「嫌だぁぁぁぁぁぉああああ!! 俺はまだ死にたくないぃぃぃぃいい!!」
「離してぇぇぇえええええ!! 離しなさいよ!! 王太后命令よーーーー
!!」
俺たちの願いは聞き入れられることはなく、玉座の間の扉は無情にも閉じられた。
「コーエンの人生から学園生活を送った三年間だけを切り取り、コーエンとユリアの視点から見たら、美しい絵巻物のように見えるのだろうね」
王太后と第二王子が連れ出されたあと、アーサーがボソリと呟いた。
その言葉は誰にも拾われることはなかった。
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