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第1章 前編
凛音side ③ 中編
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凛音side ③ 中編
藤崎朱里に言われた事に従うのは不服だったけど、一応話だけは聞いてやろうと思った私は、着替えを済ませた後も更衣室で残っていた。
他の新入生や諸先輩たちが立ち去った後、着替えを済ませていた藤崎朱里がスポーツドリンクのペットボトルを二つ持って私のところにやって来た。
「はい。冷えてるから美味しいと思うよ」
そう言って一本を差し出してきたので、ありがたく貰うことにするわ。
「ありがとう。流石は先輩。敗者への情けの掛け方がお上手ね」
私はそう言うと、蓋を開けて中身を飲む。
よく冷えたスポーツドリンクは身体に染み渡るわ。
「アメとムチは使いようだからねぇ。そもそも、あんなことをさて『何クソ!!』て思えないなら要らないわ。高校の部活は遊びじゃないもの」
なんて言いながら、藤崎朱里もドリンクを飲む。
「で、南野さん。何に悩んでるの?」
「な、悩んでなんか無いわ!!」
私は上から目線の藤崎朱里に苛立ちを覚える。
「はぁ……あの幼馴染くんの事でしょ?」
「……っ!!」
幼馴染じゃない!!家族よ!!
と言おうとした私の口は、全く動かなかった。
「ちらっと聞こえたのは、あの男の子。桜井くんを『家族』だって言ってたわね?どうして?」
「…………幼稚園からずっと一緒に育って来たのよ。何をするのも一緒。お風呂だって共にしたこともあったわ。こんなのもう血の繋がった家族じゃない!!」
私のその言葉に、藤崎朱里は首を傾げる。
「え?それってただの家族同然に育って来た、仲の良い幼馴染ってだけだよね。血だって繋がってないよ」
「……え?」
な、何を言ってるの……
「その……南野さんは桜井くんの『恋人』かな?」
「ち、違うわよ」
恋人になってくれ。とは言われたけど突っぱねたわ。
その言葉に、藤崎朱里はため息を吐いたわ。
「あのね、南野さん。血の繋がりのない人同士が家族になるために必要なものってなんだか知ってる?」
「過ごした時間よ!!」
その言葉に、藤崎朱里は笑ったわ。
「な、何がそんなにおかしいのよ!!」
そんな私に、授業をする先生のような喋り方で藤崎朱里が言葉を返してきたわ。
「婚姻届に必要事項を記入して判子を押して、市役所に提出する。年齢などの条件を満たしていればこれで家族になれるわ」
「…………は?」
「結婚。と呼ばれる家族のなり方だね」
「ば、バカにしてるでしょ!!」
きっと今の私は顔を真っ赤にして怒鳴ってるわね。
そんな私を嘲笑うかのように藤崎朱里が言うわ。
「バカにしてるよ。だって、なんもわかってないんだから」
「な、何もわかってないってなによ!!」
「日本はね、重婚は認めてないの。だから、血が繋がらない人と家族になれる人は一人しかいないの」
「……そ、そうね」
「私は悠斗の『彼女』だよ。まぁ、恋人だね。詩織ちゃんは『とても大切な女性』だから、彼女でも恋人でも無い」
「そ、それがなんだって言うのよ」
「悠斗と結婚して、『家族』になれるのは私一人ってことよ。詩織ちゃんは何をどう頑張っても悠斗の家族にはなれない。これが私が悠斗の二股を許してる理由」
家族になれない女は他人と一緒だよ。
「た、他人……」
美鈴に言われた言葉。それがこの女からも吐き出された。
「私も三人でとか楽しんでるときもあるけど、まぁあれよ。風俗でセックスして帰ってくるみたいなもんだと思ってるわ」
「せ、せっ……」
あまりにも衝撃の大きな発言に、私の理解が追いつかない。
「さて、南野さん。あなたはあの桜井くんの『何』なのかな?」
「……か、かぞ……」
「家族では無いよ。家族同然に一緒に育って来ただけ」
…………………………。
「…………他人……だわ」
私は下を向いて、言葉を吐き出したわ。
「そう。あなたは『まだ』桜井くんの家族にはなれていない」
「…………え?」
顔を上げると、藤崎朱里はニヤリと笑っていた。
「これからの行動で家族になるのは可能だってことよ。だって、まだ桜井くんは結婚してないんだから」
「そ、そうね……」
そう言った私に、藤崎朱里はやれやれと手を広げたわ。
「でも無理よね。だってもう桜井くんの気持ちはあなたじゃなくて、北島永久さんに向いてるもの」
「そ、そんなことないわ!!だって!!昨日と一昨日の二回も霧都から恋人になってくれって告白されたわ!!」
「……え?マジで?じゃあなんで恋人じゃないの?」
目を丸くする藤崎朱里に私は言ったわ。
「だって、恋人なんて家族の前ではごっこ遊びだわ!!」
「……バカだなぁとは思ったけど、ここまでとは」
「し、失礼ね!!でもあれよ!!今からもう一度私から言えば全てが丸く収まるわ!!」
「……え?」
首を傾げる藤崎朱里に私は自信を持って告げたわ。
「二回も恋人になってくれって言われたのよ!!気持ちなんてそうそう変わらないわ!!ふん!!私からこんなことを言うのは癪だけど、家族になるためなら我慢してあげるわ!!」
「……え?南野さん……まさかとは思うけど……」
「礼を言うわ!!藤崎先輩!!ありがとう!!」
「い、いや……あー先輩をつけてくれたかー」
私はある決意をするとバックを掴んで更衣室を飛び出して、体育館から下駄箱に向かって靴を履き替えて、そこから駐輪場に停めてある自転車に飛び乗って家へと急いだわ。
仕方ないわね!!霧都!!
『弟』のわがままを聞くのは『姉』の務めよ!!
私があなたの『恋人ごっこ遊び』に付き合ってあげるわよ!!
自転車を飛ばすこと十五分。
私は家の前に辿り着いたわ。
時刻は十九時。藤崎先輩と少し長話が過ぎたわね。
霧都の家のアイツの部屋を見ると、電気が着いているのが見えた。
居るわね!!
私はスマホを取り出すと、アイツにメッセージを送ったわ。
『霧都!!話したいことがあるわ!!外に出なさい!!』
すぐに既読が着くと、窓からこっちを覗く霧都が見えたわ。
アイツはため息混じりに
「今から行くからそこで待ってろ」
と言ってきたわ。
そして、少しすると部屋着に着替えていた霧都がやって来たわ。
「何だよ、凛音。こんな時間に呼び出して」
少しだけ不機嫌そうな声だけど、気にしないわ!!
だって、これから私はあなたが飛んで喜ぶようなことを言ってあげるんだから!!
「ねぇ、霧都!!」
「なんだよ、凛音」
私はしっかりと、霧都に聞こえるように、こう言ったわ。
「アンタの恋人に、私がなってあげるわ!!」
藤崎朱里に言われた事に従うのは不服だったけど、一応話だけは聞いてやろうと思った私は、着替えを済ませた後も更衣室で残っていた。
他の新入生や諸先輩たちが立ち去った後、着替えを済ませていた藤崎朱里がスポーツドリンクのペットボトルを二つ持って私のところにやって来た。
「はい。冷えてるから美味しいと思うよ」
そう言って一本を差し出してきたので、ありがたく貰うことにするわ。
「ありがとう。流石は先輩。敗者への情けの掛け方がお上手ね」
私はそう言うと、蓋を開けて中身を飲む。
よく冷えたスポーツドリンクは身体に染み渡るわ。
「アメとムチは使いようだからねぇ。そもそも、あんなことをさて『何クソ!!』て思えないなら要らないわ。高校の部活は遊びじゃないもの」
なんて言いながら、藤崎朱里もドリンクを飲む。
「で、南野さん。何に悩んでるの?」
「な、悩んでなんか無いわ!!」
私は上から目線の藤崎朱里に苛立ちを覚える。
「はぁ……あの幼馴染くんの事でしょ?」
「……っ!!」
幼馴染じゃない!!家族よ!!
と言おうとした私の口は、全く動かなかった。
「ちらっと聞こえたのは、あの男の子。桜井くんを『家族』だって言ってたわね?どうして?」
「…………幼稚園からずっと一緒に育って来たのよ。何をするのも一緒。お風呂だって共にしたこともあったわ。こんなのもう血の繋がった家族じゃない!!」
私のその言葉に、藤崎朱里は首を傾げる。
「え?それってただの家族同然に育って来た、仲の良い幼馴染ってだけだよね。血だって繋がってないよ」
「……え?」
な、何を言ってるの……
「その……南野さんは桜井くんの『恋人』かな?」
「ち、違うわよ」
恋人になってくれ。とは言われたけど突っぱねたわ。
その言葉に、藤崎朱里はため息を吐いたわ。
「あのね、南野さん。血の繋がりのない人同士が家族になるために必要なものってなんだか知ってる?」
「過ごした時間よ!!」
その言葉に、藤崎朱里は笑ったわ。
「な、何がそんなにおかしいのよ!!」
そんな私に、授業をする先生のような喋り方で藤崎朱里が言葉を返してきたわ。
「婚姻届に必要事項を記入して判子を押して、市役所に提出する。年齢などの条件を満たしていればこれで家族になれるわ」
「…………は?」
「結婚。と呼ばれる家族のなり方だね」
「ば、バカにしてるでしょ!!」
きっと今の私は顔を真っ赤にして怒鳴ってるわね。
そんな私を嘲笑うかのように藤崎朱里が言うわ。
「バカにしてるよ。だって、なんもわかってないんだから」
「な、何もわかってないってなによ!!」
「日本はね、重婚は認めてないの。だから、血が繋がらない人と家族になれる人は一人しかいないの」
「……そ、そうね」
「私は悠斗の『彼女』だよ。まぁ、恋人だね。詩織ちゃんは『とても大切な女性』だから、彼女でも恋人でも無い」
「そ、それがなんだって言うのよ」
「悠斗と結婚して、『家族』になれるのは私一人ってことよ。詩織ちゃんは何をどう頑張っても悠斗の家族にはなれない。これが私が悠斗の二股を許してる理由」
家族になれない女は他人と一緒だよ。
「た、他人……」
美鈴に言われた言葉。それがこの女からも吐き出された。
「私も三人でとか楽しんでるときもあるけど、まぁあれよ。風俗でセックスして帰ってくるみたいなもんだと思ってるわ」
「せ、せっ……」
あまりにも衝撃の大きな発言に、私の理解が追いつかない。
「さて、南野さん。あなたはあの桜井くんの『何』なのかな?」
「……か、かぞ……」
「家族では無いよ。家族同然に一緒に育って来ただけ」
…………………………。
「…………他人……だわ」
私は下を向いて、言葉を吐き出したわ。
「そう。あなたは『まだ』桜井くんの家族にはなれていない」
「…………え?」
顔を上げると、藤崎朱里はニヤリと笑っていた。
「これからの行動で家族になるのは可能だってことよ。だって、まだ桜井くんは結婚してないんだから」
「そ、そうね……」
そう言った私に、藤崎朱里はやれやれと手を広げたわ。
「でも無理よね。だってもう桜井くんの気持ちはあなたじゃなくて、北島永久さんに向いてるもの」
「そ、そんなことないわ!!だって!!昨日と一昨日の二回も霧都から恋人になってくれって告白されたわ!!」
「……え?マジで?じゃあなんで恋人じゃないの?」
目を丸くする藤崎朱里に私は言ったわ。
「だって、恋人なんて家族の前ではごっこ遊びだわ!!」
「……バカだなぁとは思ったけど、ここまでとは」
「し、失礼ね!!でもあれよ!!今からもう一度私から言えば全てが丸く収まるわ!!」
「……え?」
首を傾げる藤崎朱里に私は自信を持って告げたわ。
「二回も恋人になってくれって言われたのよ!!気持ちなんてそうそう変わらないわ!!ふん!!私からこんなことを言うのは癪だけど、家族になるためなら我慢してあげるわ!!」
「……え?南野さん……まさかとは思うけど……」
「礼を言うわ!!藤崎先輩!!ありがとう!!」
「い、いや……あー先輩をつけてくれたかー」
私はある決意をするとバックを掴んで更衣室を飛び出して、体育館から下駄箱に向かって靴を履き替えて、そこから駐輪場に停めてある自転車に飛び乗って家へと急いだわ。
仕方ないわね!!霧都!!
『弟』のわがままを聞くのは『姉』の務めよ!!
私があなたの『恋人ごっこ遊び』に付き合ってあげるわよ!!
自転車を飛ばすこと十五分。
私は家の前に辿り着いたわ。
時刻は十九時。藤崎先輩と少し長話が過ぎたわね。
霧都の家のアイツの部屋を見ると、電気が着いているのが見えた。
居るわね!!
私はスマホを取り出すと、アイツにメッセージを送ったわ。
『霧都!!話したいことがあるわ!!外に出なさい!!』
すぐに既読が着くと、窓からこっちを覗く霧都が見えたわ。
アイツはため息混じりに
「今から行くからそこで待ってろ」
と言ってきたわ。
そして、少しすると部屋着に着替えていた霧都がやって来たわ。
「何だよ、凛音。こんな時間に呼び出して」
少しだけ不機嫌そうな声だけど、気にしないわ!!
だって、これから私はあなたが飛んで喜ぶようなことを言ってあげるんだから!!
「ねぇ、霧都!!」
「なんだよ、凛音」
私はしっかりと、霧都に聞こえるように、こう言ったわ。
「アンタの恋人に、私がなってあげるわ!!」
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