十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第1章 前編

第十五話 ~学校にやって来た凛音が不気味な程に静かでした~

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 第十五話



 自転車に乗って学校に辿り着いた俺と北島さんは、駐輪場に自転車を置いて教室へと向かう。

 不思議なことに、駐輪場には凛音の自転車は無かった。

 ……まぁ、それほど気にすることでもないか。

「あ、あの……桜井くん」

 教室へと向かう途中。北島さんが少しだけ恥ずかしそうに俺に話しかけてきた。

「なに?どうかしたの」

 俺は彼女に問い掛けると、

「……手を繋いでもいいですか?」
「……おぅ」

 周りを見ると、人の気配は無かった。
 つまり、俺の覚悟さえあれば、なんの問題も無い行為だ。

「そ、その……今度のデートでは、手を繋いで歩きたいと思ってまして、その練習を……」
「そ、そうか……」

 人目のある所でいきなり手を繋ぐより、まずは人目の無い所で手を繋ぐ練習をしよう。そういう事か。

 俺は少しだけ思案して、

「わかった。手を繋ごう」
「あ、ありがとうございます!!」

 俺は利き手の左手を差し出すと、北島さんも左手を差し出してきた。

 握り合う二人の手。

 握手だった。


「違うよね!!こうじゃないよね!!」
「は、はい!!すみません!!」

 俺たちは真っ赤になってテンパりながら、手を繋ぎ直す。

 キチンと俺は左手を、北島さんは右手を、前を向いて握り合う。

「れ、練習しておいて良かったね」
「そ、そうですね」

 俺たちはそう言うと、手を繋いで歩く。

 小さい頃は凛音や美鈴と手を繋いで歩くことは多かった。

 でも、大きくなればそんなことは滅多に無くなった。

 手汗なんてかいてないかな……

 俺は人の目よりも自分の手の方が気になりながら、教室の前まで手を繋いで歩いた。


『一年二組』


 目的の場所へと辿り着いた俺たちは、どちらともなく手を離した。

 やはり少しばかり汗ばんでたのか、離した瞬間、手が少しだけスーッとした。

「名残惜しいです……」

 そんなことをボソッと呟く北島さん。
 最近聞き漏らしが多かった女の子の声を、今回は聞けた気がした。

 俺はそんな彼女を可愛いと思いながら、教室の扉を開ける。

「おはよう、ご両人!!朝からラブコメの波動がビシビシ来てるよ!!」

 教室の中には、桐崎さんが既に来ていて、俺たちのことをからかってきた。

「おはよう、桐崎さん。ラブコメの波動って何かな?」

 俺が彼女にそう問掛けると、彼女はニヤリと笑った。

 ……なんて言うか、桐崎先輩と兄妹だなって良くわかるな。その笑い方、そっくりだ。

 桐崎さんは教室の端へと移動すると、俺と北島さんを手招きする。そして、

「ここからだと駐輪場の様子が良く見えるんだー」

 あとは、わかるよね?

 そう言ってニヤニヤ笑ってる桐崎さん。

 俺と北島さんは顔を赤くする。

「手を繋いで歩こうとして握手するのはラブコメラノベだけにしてよね?」

 そんな彼女のからかいも、今の俺にはなんて言うか嬉しいものだと思ってしまった。


 そして、しばらくすると教室にだんだんと人が増えてくる。

 ……あれ?そう言えば、凛音がまだ来てないな。

 そんなことを思っていると、アイツにしては珍しく、登校時間ギリギリに教室に来た。

 足元を見ると、何故か少しだけ傷がついているように見えた。

 どっかで転んだか?

 あんな出来事があったとは言え、幼稚園からの幼馴染だ。
 別に俺はアイツを『嫌い』になった訳じゃない。
『好き』で居ることを辞めただけだ。

「おはよう凛音。どっかで転んだんか?」

 さすがに教室で『お姉ちゃん』なんて言うつもりは微塵も無い。
 凛音は俺の声にビクッと身体を震わせると、こちらを振り向く。

「き、霧都……おはよう」
「……は?」

 どうしたんだコイツ。いつもの凛音らしくない怯えたような声。さすがに朝のあのひと幕だけでこんなになるとは俺には思えなかった。

 俺の知らないところで何かあったのか?

 そんな疑問が頭に浮かんだが、

 ガラリ

「そろそろ時間だぞ。みな、席に座りなさい」

 根岸先生が教室に来て、着席を促したことで、聞きそびれてしまった。

 俺は訝しげに思いながら席へと戻る。

「南野さんと何かありました?」

 凛音の様子がおかしいと思ったのか、北島さんも俺に聞いてきた。

「まぁ……何かあったか?と言われれば、『あった』だけど、あそこまでなるのはちょっと気になると言うか」

 俺のその言葉に、桐崎さんが反応する。

「だったら今日は昨日の四人でご飯を食べようか」
「「え?」」

 俺と北島さんは、桐崎さんにされた提案に驚く。

「今日から一日授業だからね。お昼は四人で学食に行こうよ」

 俺は桐崎さんのその提案に乗る事にした。

「うん。俺はOKかな。北島さんは?」
「はい。私も大丈夫です。南野さんはライバルではありますが、敵ではありませんので」

 彼女の性格が良くわかるその言葉。

 北島さんのこういう所は本当に好感が持てる。

 そして、SHRの始まりを告げるチャイムが鳴った。





 ホント、何があったんだよ、アイツ。

 凛音とは長いこと一緒にいるが、流石にあんな状態なのを見るのは初めてだ。

 まぁ、アイツの性格上。素直に話すとは思えないけど、飯を一緒に食うくらいは別にいいだろ。

 俺はそんなことを思いながら、根岸先生の言葉に耳を傾けた。
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