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第1章 前編
第十話 ~これだけ可愛い女の子をたくさん連れて来て、何も起きないなんてことはありえないって話でした~
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第十話
サイセリアで食事の会計を済ませたあと、俺たちは歩いてすぐのところにあるゲームセンターに来ていた。
「あの、良かったんですか?」
「え、何が?」
少しだけ申し訳なさそうな表情をしている北島さん。
「ポテトフライの代金は桜井くん持ちって」
「あぁ、その位はさせてよ。ほら、一応男だからさ。カッコつけたい年頃ってやつだよ」
と、俺は冗談ぽく笑って言った。
それに、アルバイトとかもしようと思ってるし、そこまで節約志向にならなくても良いのでは?と思ってはいる。
「良いのよ北島さん。男に奢られた時は、素直に『ありがとう』って言っとけば。女の特権よ特権」
凛音はそう言うとパタパタと手を振った。
そうだよな、これまで結構凛音の分も俺が払って来たよな。
「俺は凛音から『ありがとう』なんて言葉を聞いたことは一度も無いぞ」
「あら、そうかしら?心の中ではいつも感謝してるわよ」
「心の中かよ!!」
そんなやり取りをしながら、俺たちはゲームセンターへとたどり着く。
「わー凄い音ですね」
「うるさいくらいよ。何回来ても慣れないわね」
「結構明るいし綺麗だね。なんかもっとジメジメしてて陰気で不良の巣窟みたいなのを想像してたけど、そんなことないんだね」
なんて事を言っている三人。
どう見てもゲームセンターの中にいる野郎どもの視線を一手に集めていた。
あー……こりゃあ俺が頑張んないとな。
と、俺がちょっとだけ離れた隙にもう三人は絡まれていた。
「ねぇねぇ、君たちゲームセンター初心者じゃない?俺たち結構慣れてるから教えてあげようか?」
「ここって結構治安が悪いからさ、ボディーガードは必要だと思うよね。俺らと居れば安心だよ?」
そんなナンパを受けるまでの時間。およそ一分。
はぁ……俺の落ち度だな。
チラッと見ると凛音がものすごい不機嫌そうな顔をしてる。
北島さんは不安そうな顔をしてる。
桐崎さんは……やべぇ足を振り上げてる!!
あれは蹴り飛ばす気だ!!何をって??
わかるだろ!!大事なところだよ!!
「桐崎さんストップストップ!!それはやっちゃいけない!!」
俺は野郎二人と美少女三人の間に身体を入れる。
「なんだよお前、しゃしゃり出てくんじゃねぇよ」
「俺たちは彼女たちと話してんだよ。お呼びじゃねぇよ」
と言うので、俺背筋を伸ばし胸を張ってしっかりと声を出して相手に言葉を返す。
「彼女たちは俺の連れだ。あなたたち二人の世話にはならない。これで納得が出来ないと言うのなら、店員を呼ぶぞ?」
俺がそう言うと、二人は「ちっ!!」と舌打ちをしてゲームセンターから出て行った。
その後ろ姿を確認して、もう絡んでこないと確信してから、俺は三人に向き合って頭を下げる。
「はぁ……ちょっとでも目を離した俺のミスだ。嫌な気分にさせてしまってごめん」
「気にしてないわ。あんなのに絡まれるなんていつもの事じゃない」
「頭を上げてください、桜井くん。気にしてませんよ」
「そうだぞ桜井くん。まぁあと少し遅かったら私が蹴り飛ばしてたところだったけど」
俺は頭を上げると苦笑いをして、
「桐崎さん。今後のためにも言っておくけど、『暴力』はダメだよ」
と注意をした。
「え?なんで。正当防衛でしょ」
「男に力で勝てる。それは余程の実力差が無いと無理だよ。逆に相手を怒らせるだけ。桐崎さんがなにか護身術を体得してたとしても、それは本当にやばくなった時だけにしないとダメ」
俺の真剣な表情を見た桐崎さんは、質問をしてきた。
「じゃあどうすればいいの?」
「大声を出しながら走って逃げる」
俺は即答した。
「女の人の悲鳴や叫び声って言うのは最強なんだ。それだけで全ての男を倒せる必殺技だよ」
「なるほどねー。確かにそっちの方が安心安全だね」
桐崎さんはそう言うと、うんうんと首を縦に振った。
はぁ、納得してくれたようで良かったよ。
あそこで桐崎さんが蹴り飛ばしていたら、きっと事態はもっと面倒なことになってただろう。
下手をすれば、野郎側が被害者ヅラしてくることすら予想出来た。
そういう状況を未然に防げたのと、今後のための注意が出来たし、まあ及第点かな。
俺はそんなことを思いながら、今後はもう目を離さないぞ。
と心に誓った。
そして、ゲームセンターの中を進んでいくと、北島さんがUFOキャッチャーに興味を示した。
「あ、これは私が読んでるライトノベルのヒロインのぬいぐるみです!!」
彼女の指の先を見てみると、青い髪の毛のショートカットが可愛い。鬼の女の子のぬいぐるみがあった。
あーあの有名な。
「欲しい?」
俺は北島さんに聞いてみた。
「……え、取れるんですか?」
驚いた顔をしてるので俺はちょっとだけ筐体を見てみる。
…………うん。アームの強さにもよるけど、取れないことは無いな。
「うん。一発で取るのは無理だけど三回くらいで行けるかな」
欲しいならとってあげようか?
と、俺が提案すると北島さんは期待した表情で首を縦に振った。
「よし。じゃあ男らしいところでも見せようかな」
俺は財布から500円玉を取り出して、筐体の中に入れる。
200円で1回。500円で3回。そう言う金額設定だ。
俺はまずはアームの強さを見る為にぬいぐるみの横にアームを落としていく。
「あ、あれ……桜井くん。真上じゃなくて良いんですか?」
「うん。今のはアームの強さを見るのと、ぬいぐるみを取りやすい位置に動かすのが目的だから」
コロンと横に動いたぬいぐるみを見るに、アームの強さは絶望的では無いし、操作性も確認したけど確率機では無さそうだ。
タグに引っ掛けて取るか。
俺は二回目のアームでぬいぐるみをもう少し取りやすい位置に動かす。
そして、勝負の三回目。
俺はぬいぐるみの頭の部分にあるタグの輪っかにアームの先端を刺すように下ろす。
そして、俺の狙い通りにタグを引っ掛けてぬいぐるみはプラプラとぶら下がりながら出口へと向かい……
ポトリ
と落ちてきた。
「よっこいしょ……はい。狙い通りに取れて良かったよ。こんなに上手くいくのは珍しいくらいだから運が良かったね」
俺はぬいぐるみを手にして北島さんに渡す。
「わぁ……ありがとうございます!!一生大切にします!!」
彼女はそう言うと、ぬいぐるみを大切そうに胸に抱いた。
ぬ、ぬいぐるみになりたい……
はっ!!やべぇ本能が溢れそうだった。
「そう言ってくれるなら嬉しいよ。じゃあそろそろ中に進もうか。あの二人だと目を離すとまた絡まれそうだしね」
「はい。了解です!!」
そして、中へと進むと二人はバスケットボールのシュート対決をしていた。
中学時代はバスケの有力選手だった凛音に桐崎さんがかなり善戦してる。
ま、マジかよ……
凛音もかなり本気になってる。目がガチだ。
そして、タイムアップと同時に点数を見ると、凛音が三ゴール差で勝っていた。
「ね、ねぇ桐崎さん……あなた経験者?」
息を少し乱しながら、凛音が聞くと
「朱里ちゃんに教わってた感じかな……ふぅ、負けちゃったかぁ……」
「私相手にこれだけ善戦したのよ。誇りなさい」
と、凛音は握手を求めた。
「あはは。次は負けないからね」
そう答えて桐崎さんは握手に応じた。
「あんなん見たら俺も身体動かしたくなったな」
俺はそう呟くと、バッティングのゲージに向かう。
左打席は……空いてるな。120kmなら打てるし。
「桜井くんのバッティングを見せてもらえる感じですか?」
と後ろから北島さんが声を掛けて来た。
「そうだね。あんなん見たら身体動かしたくなったよ」
俺はそう答えると、制服の上着を脱いで、ネクタイを外して、ワイシャツの第一ボタンを外す。
「ごめん。北島さん、持っててもらってもいい?」
「はい。喜んで」
俺は北島さんに制服とネクタイを渡し、バッティングゲージに入る。
金属バットを手にすると、やはりかなり使い込まれた感じがした。
バットの重さもいい感じだし、これなら恥をかかないで済みそうだ。
軽くバットを構えて一回振る。
ブンッ!!
と鋭く空気を切る音がした。野球は辞めたけど素振りは続けてる。
やはり習慣というのは抜けないもんだよな。
俺は200円を機械に入れる。30球の勝負だ。
バットを構えて、金属のアームの動きに合わせてタイミングを取る。
そして、ビュンッと放たれた白球に狙いを定める。
バットは腕では無く腰と下半身の回転で振る。
カーーーーン!!!!
と澄んだ音がして、バットの芯で捉えた打球は『ホームラン』と書かれたボードを直撃した。
「よし。うまい棒をゲットだぜ」
ホームラン一本でうまい棒が貰える。
俺は空振りすることなく全ての球を弾き返し、二本のホームランを叩き込んだ。
店員さんから二本のうまい棒を貰い、
「はい。あげるよ」
そのうちの一本を北島さんに渡した。
「……カッコよすぎじゃないですか」
「……え?」
北島さんはそう言うと、俺の目を見て言う。
「サイセリアでは紳士的な対応をして、支払いではスマートさを見せて、ゲームセンターでは怖い男の人にも毅然とした態度で話をして、桐崎さんにはキチンと今後の対応も話をして、UFOキャッチャーではあっさりとぬいぐるみを取ってくれて、挙句の果てにはバッティングでホームラン二本って!!」
「あ、あはは……そんな大したことじゃ……」
「大したことです!!びっくりしましたよ!!」
そして、北島さんは少しだけ拗ねたような表情で続ける。
「南野さんとはいつもこんな感じだったんですか?」
「凛音?……あぁ、そうだね。あいつもよくナンパに絡まれたりしてたからね。あぁいう野郎には胸張ってしっかりと言わないとダメってのはわかってるし。それにUFOキャッチャーも凛音が『霧都。これが欲しいわ、取りなさい』とか良く言われたからね。バッティングに関して言えば、たまたまだよ。素振りは続けてたからアレだけどね」
俺はそう言うと、北島さんから上着とネクタイを受け取る。
「さて、そろそろ向こうと合流……」
「霧都!!こっちに来なさい。プリクラを撮るわよ!!」
「四人で撮ろうよ!!」
と、凛音と桐崎さんがこっちに呼び掛けてた。
「あはは。呼ばれてるみたいだし、行こうか」
「……はい!!私、南野さんには負けませんから!!」
北島さんはそう言うと、俺を追い抜いて、二人の方へと走って行った。
負けませんから。か。
凛音に振られたからって、直ぐにあの子と恋愛をするってのは、『不誠実』なんじゃないかな。
と、俺はそんなことを考えながら、三人の元へと歩いて行った。
サイセリアで食事の会計を済ませたあと、俺たちは歩いてすぐのところにあるゲームセンターに来ていた。
「あの、良かったんですか?」
「え、何が?」
少しだけ申し訳なさそうな表情をしている北島さん。
「ポテトフライの代金は桜井くん持ちって」
「あぁ、その位はさせてよ。ほら、一応男だからさ。カッコつけたい年頃ってやつだよ」
と、俺は冗談ぽく笑って言った。
それに、アルバイトとかもしようと思ってるし、そこまで節約志向にならなくても良いのでは?と思ってはいる。
「良いのよ北島さん。男に奢られた時は、素直に『ありがとう』って言っとけば。女の特権よ特権」
凛音はそう言うとパタパタと手を振った。
そうだよな、これまで結構凛音の分も俺が払って来たよな。
「俺は凛音から『ありがとう』なんて言葉を聞いたことは一度も無いぞ」
「あら、そうかしら?心の中ではいつも感謝してるわよ」
「心の中かよ!!」
そんなやり取りをしながら、俺たちはゲームセンターへとたどり着く。
「わー凄い音ですね」
「うるさいくらいよ。何回来ても慣れないわね」
「結構明るいし綺麗だね。なんかもっとジメジメしてて陰気で不良の巣窟みたいなのを想像してたけど、そんなことないんだね」
なんて事を言っている三人。
どう見てもゲームセンターの中にいる野郎どもの視線を一手に集めていた。
あー……こりゃあ俺が頑張んないとな。
と、俺がちょっとだけ離れた隙にもう三人は絡まれていた。
「ねぇねぇ、君たちゲームセンター初心者じゃない?俺たち結構慣れてるから教えてあげようか?」
「ここって結構治安が悪いからさ、ボディーガードは必要だと思うよね。俺らと居れば安心だよ?」
そんなナンパを受けるまでの時間。およそ一分。
はぁ……俺の落ち度だな。
チラッと見ると凛音がものすごい不機嫌そうな顔をしてる。
北島さんは不安そうな顔をしてる。
桐崎さんは……やべぇ足を振り上げてる!!
あれは蹴り飛ばす気だ!!何をって??
わかるだろ!!大事なところだよ!!
「桐崎さんストップストップ!!それはやっちゃいけない!!」
俺は野郎二人と美少女三人の間に身体を入れる。
「なんだよお前、しゃしゃり出てくんじゃねぇよ」
「俺たちは彼女たちと話してんだよ。お呼びじゃねぇよ」
と言うので、俺背筋を伸ばし胸を張ってしっかりと声を出して相手に言葉を返す。
「彼女たちは俺の連れだ。あなたたち二人の世話にはならない。これで納得が出来ないと言うのなら、店員を呼ぶぞ?」
俺がそう言うと、二人は「ちっ!!」と舌打ちをしてゲームセンターから出て行った。
その後ろ姿を確認して、もう絡んでこないと確信してから、俺は三人に向き合って頭を下げる。
「はぁ……ちょっとでも目を離した俺のミスだ。嫌な気分にさせてしまってごめん」
「気にしてないわ。あんなのに絡まれるなんていつもの事じゃない」
「頭を上げてください、桜井くん。気にしてませんよ」
「そうだぞ桜井くん。まぁあと少し遅かったら私が蹴り飛ばしてたところだったけど」
俺は頭を上げると苦笑いをして、
「桐崎さん。今後のためにも言っておくけど、『暴力』はダメだよ」
と注意をした。
「え?なんで。正当防衛でしょ」
「男に力で勝てる。それは余程の実力差が無いと無理だよ。逆に相手を怒らせるだけ。桐崎さんがなにか護身術を体得してたとしても、それは本当にやばくなった時だけにしないとダメ」
俺の真剣な表情を見た桐崎さんは、質問をしてきた。
「じゃあどうすればいいの?」
「大声を出しながら走って逃げる」
俺は即答した。
「女の人の悲鳴や叫び声って言うのは最強なんだ。それだけで全ての男を倒せる必殺技だよ」
「なるほどねー。確かにそっちの方が安心安全だね」
桐崎さんはそう言うと、うんうんと首を縦に振った。
はぁ、納得してくれたようで良かったよ。
あそこで桐崎さんが蹴り飛ばしていたら、きっと事態はもっと面倒なことになってただろう。
下手をすれば、野郎側が被害者ヅラしてくることすら予想出来た。
そういう状況を未然に防げたのと、今後のための注意が出来たし、まあ及第点かな。
俺はそんなことを思いながら、今後はもう目を離さないぞ。
と心に誓った。
そして、ゲームセンターの中を進んでいくと、北島さんがUFOキャッチャーに興味を示した。
「あ、これは私が読んでるライトノベルのヒロインのぬいぐるみです!!」
彼女の指の先を見てみると、青い髪の毛のショートカットが可愛い。鬼の女の子のぬいぐるみがあった。
あーあの有名な。
「欲しい?」
俺は北島さんに聞いてみた。
「……え、取れるんですか?」
驚いた顔をしてるので俺はちょっとだけ筐体を見てみる。
…………うん。アームの強さにもよるけど、取れないことは無いな。
「うん。一発で取るのは無理だけど三回くらいで行けるかな」
欲しいならとってあげようか?
と、俺が提案すると北島さんは期待した表情で首を縦に振った。
「よし。じゃあ男らしいところでも見せようかな」
俺は財布から500円玉を取り出して、筐体の中に入れる。
200円で1回。500円で3回。そう言う金額設定だ。
俺はまずはアームの強さを見る為にぬいぐるみの横にアームを落としていく。
「あ、あれ……桜井くん。真上じゃなくて良いんですか?」
「うん。今のはアームの強さを見るのと、ぬいぐるみを取りやすい位置に動かすのが目的だから」
コロンと横に動いたぬいぐるみを見るに、アームの強さは絶望的では無いし、操作性も確認したけど確率機では無さそうだ。
タグに引っ掛けて取るか。
俺は二回目のアームでぬいぐるみをもう少し取りやすい位置に動かす。
そして、勝負の三回目。
俺はぬいぐるみの頭の部分にあるタグの輪っかにアームの先端を刺すように下ろす。
そして、俺の狙い通りにタグを引っ掛けてぬいぐるみはプラプラとぶら下がりながら出口へと向かい……
ポトリ
と落ちてきた。
「よっこいしょ……はい。狙い通りに取れて良かったよ。こんなに上手くいくのは珍しいくらいだから運が良かったね」
俺はぬいぐるみを手にして北島さんに渡す。
「わぁ……ありがとうございます!!一生大切にします!!」
彼女はそう言うと、ぬいぐるみを大切そうに胸に抱いた。
ぬ、ぬいぐるみになりたい……
はっ!!やべぇ本能が溢れそうだった。
「そう言ってくれるなら嬉しいよ。じゃあそろそろ中に進もうか。あの二人だと目を離すとまた絡まれそうだしね」
「はい。了解です!!」
そして、中へと進むと二人はバスケットボールのシュート対決をしていた。
中学時代はバスケの有力選手だった凛音に桐崎さんがかなり善戦してる。
ま、マジかよ……
凛音もかなり本気になってる。目がガチだ。
そして、タイムアップと同時に点数を見ると、凛音が三ゴール差で勝っていた。
「ね、ねぇ桐崎さん……あなた経験者?」
息を少し乱しながら、凛音が聞くと
「朱里ちゃんに教わってた感じかな……ふぅ、負けちゃったかぁ……」
「私相手にこれだけ善戦したのよ。誇りなさい」
と、凛音は握手を求めた。
「あはは。次は負けないからね」
そう答えて桐崎さんは握手に応じた。
「あんなん見たら俺も身体動かしたくなったな」
俺はそう呟くと、バッティングのゲージに向かう。
左打席は……空いてるな。120kmなら打てるし。
「桜井くんのバッティングを見せてもらえる感じですか?」
と後ろから北島さんが声を掛けて来た。
「そうだね。あんなん見たら身体動かしたくなったよ」
俺はそう答えると、制服の上着を脱いで、ネクタイを外して、ワイシャツの第一ボタンを外す。
「ごめん。北島さん、持っててもらってもいい?」
「はい。喜んで」
俺は北島さんに制服とネクタイを渡し、バッティングゲージに入る。
金属バットを手にすると、やはりかなり使い込まれた感じがした。
バットの重さもいい感じだし、これなら恥をかかないで済みそうだ。
軽くバットを構えて一回振る。
ブンッ!!
と鋭く空気を切る音がした。野球は辞めたけど素振りは続けてる。
やはり習慣というのは抜けないもんだよな。
俺は200円を機械に入れる。30球の勝負だ。
バットを構えて、金属のアームの動きに合わせてタイミングを取る。
そして、ビュンッと放たれた白球に狙いを定める。
バットは腕では無く腰と下半身の回転で振る。
カーーーーン!!!!
と澄んだ音がして、バットの芯で捉えた打球は『ホームラン』と書かれたボードを直撃した。
「よし。うまい棒をゲットだぜ」
ホームラン一本でうまい棒が貰える。
俺は空振りすることなく全ての球を弾き返し、二本のホームランを叩き込んだ。
店員さんから二本のうまい棒を貰い、
「はい。あげるよ」
そのうちの一本を北島さんに渡した。
「……カッコよすぎじゃないですか」
「……え?」
北島さんはそう言うと、俺の目を見て言う。
「サイセリアでは紳士的な対応をして、支払いではスマートさを見せて、ゲームセンターでは怖い男の人にも毅然とした態度で話をして、桐崎さんにはキチンと今後の対応も話をして、UFOキャッチャーではあっさりとぬいぐるみを取ってくれて、挙句の果てにはバッティングでホームラン二本って!!」
「あ、あはは……そんな大したことじゃ……」
「大したことです!!びっくりしましたよ!!」
そして、北島さんは少しだけ拗ねたような表情で続ける。
「南野さんとはいつもこんな感じだったんですか?」
「凛音?……あぁ、そうだね。あいつもよくナンパに絡まれたりしてたからね。あぁいう野郎には胸張ってしっかりと言わないとダメってのはわかってるし。それにUFOキャッチャーも凛音が『霧都。これが欲しいわ、取りなさい』とか良く言われたからね。バッティングに関して言えば、たまたまだよ。素振りは続けてたからアレだけどね」
俺はそう言うと、北島さんから上着とネクタイを受け取る。
「さて、そろそろ向こうと合流……」
「霧都!!こっちに来なさい。プリクラを撮るわよ!!」
「四人で撮ろうよ!!」
と、凛音と桐崎さんがこっちに呼び掛けてた。
「あはは。呼ばれてるみたいだし、行こうか」
「……はい!!私、南野さんには負けませんから!!」
北島さんはそう言うと、俺を追い抜いて、二人の方へと走って行った。
負けませんから。か。
凛音に振られたからって、直ぐにあの子と恋愛をするってのは、『不誠実』なんじゃないかな。
と、俺はそんなことを考えながら、三人の元へと歩いて行った。
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