14 / 164
第1章 前編
第十話 ~これだけ可愛い女の子をたくさん連れて来て、何も起きないなんてことはありえないって話でした~
しおりを挟む
第十話
サイセリアで食事の会計を済ませたあと、俺たちは歩いてすぐのところにあるゲームセンターに来ていた。
「あの、良かったんですか?」
「え、何が?」
少しだけ申し訳なさそうな表情をしている北島さん。
「ポテトフライの代金は桜井くん持ちって」
「あぁ、その位はさせてよ。ほら、一応男だからさ。カッコつけたい年頃ってやつだよ」
と、俺は冗談ぽく笑って言った。
それに、アルバイトとかもしようと思ってるし、そこまで節約志向にならなくても良いのでは?と思ってはいる。
「良いのよ北島さん。男に奢られた時は、素直に『ありがとう』って言っとけば。女の特権よ特権」
凛音はそう言うとパタパタと手を振った。
そうだよな、これまで結構凛音の分も俺が払って来たよな。
「俺は凛音から『ありがとう』なんて言葉を聞いたことは一度も無いぞ」
「あら、そうかしら?心の中ではいつも感謝してるわよ」
「心の中かよ!!」
そんなやり取りをしながら、俺たちはゲームセンターへとたどり着く。
「わー凄い音ですね」
「うるさいくらいよ。何回来ても慣れないわね」
「結構明るいし綺麗だね。なんかもっとジメジメしてて陰気で不良の巣窟みたいなのを想像してたけど、そんなことないんだね」
なんて事を言っている三人。
どう見てもゲームセンターの中にいる野郎どもの視線を一手に集めていた。
あー……こりゃあ俺が頑張んないとな。
と、俺がちょっとだけ離れた隙にもう三人は絡まれていた。
「ねぇねぇ、君たちゲームセンター初心者じゃない?俺たち結構慣れてるから教えてあげようか?」
「ここって結構治安が悪いからさ、ボディーガードは必要だと思うよね。俺らと居れば安心だよ?」
そんなナンパを受けるまでの時間。およそ一分。
はぁ……俺の落ち度だな。
チラッと見ると凛音がものすごい不機嫌そうな顔をしてる。
北島さんは不安そうな顔をしてる。
桐崎さんは……やべぇ足を振り上げてる!!
あれは蹴り飛ばす気だ!!何をって??
わかるだろ!!大事なところだよ!!
「桐崎さんストップストップ!!それはやっちゃいけない!!」
俺は野郎二人と美少女三人の間に身体を入れる。
「なんだよお前、しゃしゃり出てくんじゃねぇよ」
「俺たちは彼女たちと話してんだよ。お呼びじゃねぇよ」
と言うので、俺背筋を伸ばし胸を張ってしっかりと声を出して相手に言葉を返す。
「彼女たちは俺の連れだ。あなたたち二人の世話にはならない。これで納得が出来ないと言うのなら、店員を呼ぶぞ?」
俺がそう言うと、二人は「ちっ!!」と舌打ちをしてゲームセンターから出て行った。
その後ろ姿を確認して、もう絡んでこないと確信してから、俺は三人に向き合って頭を下げる。
「はぁ……ちょっとでも目を離した俺のミスだ。嫌な気分にさせてしまってごめん」
「気にしてないわ。あんなのに絡まれるなんていつもの事じゃない」
「頭を上げてください、桜井くん。気にしてませんよ」
「そうだぞ桜井くん。まぁあと少し遅かったら私が蹴り飛ばしてたところだったけど」
俺は頭を上げると苦笑いをして、
「桐崎さん。今後のためにも言っておくけど、『暴力』はダメだよ」
と注意をした。
「え?なんで。正当防衛でしょ」
「男に力で勝てる。それは余程の実力差が無いと無理だよ。逆に相手を怒らせるだけ。桐崎さんがなにか護身術を体得してたとしても、それは本当にやばくなった時だけにしないとダメ」
俺の真剣な表情を見た桐崎さんは、質問をしてきた。
「じゃあどうすればいいの?」
「大声を出しながら走って逃げる」
俺は即答した。
「女の人の悲鳴や叫び声って言うのは最強なんだ。それだけで全ての男を倒せる必殺技だよ」
「なるほどねー。確かにそっちの方が安心安全だね」
桐崎さんはそう言うと、うんうんと首を縦に振った。
はぁ、納得してくれたようで良かったよ。
あそこで桐崎さんが蹴り飛ばしていたら、きっと事態はもっと面倒なことになってただろう。
下手をすれば、野郎側が被害者ヅラしてくることすら予想出来た。
そういう状況を未然に防げたのと、今後のための注意が出来たし、まあ及第点かな。
俺はそんなことを思いながら、今後はもう目を離さないぞ。
と心に誓った。
そして、ゲームセンターの中を進んでいくと、北島さんがUFOキャッチャーに興味を示した。
「あ、これは私が読んでるライトノベルのヒロインのぬいぐるみです!!」
彼女の指の先を見てみると、青い髪の毛のショートカットが可愛い。鬼の女の子のぬいぐるみがあった。
あーあの有名な。
「欲しい?」
俺は北島さんに聞いてみた。
「……え、取れるんですか?」
驚いた顔をしてるので俺はちょっとだけ筐体を見てみる。
…………うん。アームの強さにもよるけど、取れないことは無いな。
「うん。一発で取るのは無理だけど三回くらいで行けるかな」
欲しいならとってあげようか?
と、俺が提案すると北島さんは期待した表情で首を縦に振った。
「よし。じゃあ男らしいところでも見せようかな」
俺は財布から500円玉を取り出して、筐体の中に入れる。
200円で1回。500円で3回。そう言う金額設定だ。
俺はまずはアームの強さを見る為にぬいぐるみの横にアームを落としていく。
「あ、あれ……桜井くん。真上じゃなくて良いんですか?」
「うん。今のはアームの強さを見るのと、ぬいぐるみを取りやすい位置に動かすのが目的だから」
コロンと横に動いたぬいぐるみを見るに、アームの強さは絶望的では無いし、操作性も確認したけど確率機では無さそうだ。
タグに引っ掛けて取るか。
俺は二回目のアームでぬいぐるみをもう少し取りやすい位置に動かす。
そして、勝負の三回目。
俺はぬいぐるみの頭の部分にあるタグの輪っかにアームの先端を刺すように下ろす。
そして、俺の狙い通りにタグを引っ掛けてぬいぐるみはプラプラとぶら下がりながら出口へと向かい……
ポトリ
と落ちてきた。
「よっこいしょ……はい。狙い通りに取れて良かったよ。こんなに上手くいくのは珍しいくらいだから運が良かったね」
俺はぬいぐるみを手にして北島さんに渡す。
「わぁ……ありがとうございます!!一生大切にします!!」
彼女はそう言うと、ぬいぐるみを大切そうに胸に抱いた。
ぬ、ぬいぐるみになりたい……
はっ!!やべぇ本能が溢れそうだった。
「そう言ってくれるなら嬉しいよ。じゃあそろそろ中に進もうか。あの二人だと目を離すとまた絡まれそうだしね」
「はい。了解です!!」
そして、中へと進むと二人はバスケットボールのシュート対決をしていた。
中学時代はバスケの有力選手だった凛音に桐崎さんがかなり善戦してる。
ま、マジかよ……
凛音もかなり本気になってる。目がガチだ。
そして、タイムアップと同時に点数を見ると、凛音が三ゴール差で勝っていた。
「ね、ねぇ桐崎さん……あなた経験者?」
息を少し乱しながら、凛音が聞くと
「朱里ちゃんに教わってた感じかな……ふぅ、負けちゃったかぁ……」
「私相手にこれだけ善戦したのよ。誇りなさい」
と、凛音は握手を求めた。
「あはは。次は負けないからね」
そう答えて桐崎さんは握手に応じた。
「あんなん見たら俺も身体動かしたくなったな」
俺はそう呟くと、バッティングのゲージに向かう。
左打席は……空いてるな。120kmなら打てるし。
「桜井くんのバッティングを見せてもらえる感じですか?」
と後ろから北島さんが声を掛けて来た。
「そうだね。あんなん見たら身体動かしたくなったよ」
俺はそう答えると、制服の上着を脱いで、ネクタイを外して、ワイシャツの第一ボタンを外す。
「ごめん。北島さん、持っててもらってもいい?」
「はい。喜んで」
俺は北島さんに制服とネクタイを渡し、バッティングゲージに入る。
金属バットを手にすると、やはりかなり使い込まれた感じがした。
バットの重さもいい感じだし、これなら恥をかかないで済みそうだ。
軽くバットを構えて一回振る。
ブンッ!!
と鋭く空気を切る音がした。野球は辞めたけど素振りは続けてる。
やはり習慣というのは抜けないもんだよな。
俺は200円を機械に入れる。30球の勝負だ。
バットを構えて、金属のアームの動きに合わせてタイミングを取る。
そして、ビュンッと放たれた白球に狙いを定める。
バットは腕では無く腰と下半身の回転で振る。
カーーーーン!!!!
と澄んだ音がして、バットの芯で捉えた打球は『ホームラン』と書かれたボードを直撃した。
「よし。うまい棒をゲットだぜ」
ホームラン一本でうまい棒が貰える。
俺は空振りすることなく全ての球を弾き返し、二本のホームランを叩き込んだ。
店員さんから二本のうまい棒を貰い、
「はい。あげるよ」
そのうちの一本を北島さんに渡した。
「……カッコよすぎじゃないですか」
「……え?」
北島さんはそう言うと、俺の目を見て言う。
「サイセリアでは紳士的な対応をして、支払いではスマートさを見せて、ゲームセンターでは怖い男の人にも毅然とした態度で話をして、桐崎さんにはキチンと今後の対応も話をして、UFOキャッチャーではあっさりとぬいぐるみを取ってくれて、挙句の果てにはバッティングでホームラン二本って!!」
「あ、あはは……そんな大したことじゃ……」
「大したことです!!びっくりしましたよ!!」
そして、北島さんは少しだけ拗ねたような表情で続ける。
「南野さんとはいつもこんな感じだったんですか?」
「凛音?……あぁ、そうだね。あいつもよくナンパに絡まれたりしてたからね。あぁいう野郎には胸張ってしっかりと言わないとダメってのはわかってるし。それにUFOキャッチャーも凛音が『霧都。これが欲しいわ、取りなさい』とか良く言われたからね。バッティングに関して言えば、たまたまだよ。素振りは続けてたからアレだけどね」
俺はそう言うと、北島さんから上着とネクタイを受け取る。
「さて、そろそろ向こうと合流……」
「霧都!!こっちに来なさい。プリクラを撮るわよ!!」
「四人で撮ろうよ!!」
と、凛音と桐崎さんがこっちに呼び掛けてた。
「あはは。呼ばれてるみたいだし、行こうか」
「……はい!!私、南野さんには負けませんから!!」
北島さんはそう言うと、俺を追い抜いて、二人の方へと走って行った。
負けませんから。か。
凛音に振られたからって、直ぐにあの子と恋愛をするってのは、『不誠実』なんじゃないかな。
と、俺はそんなことを考えながら、三人の元へと歩いて行った。
サイセリアで食事の会計を済ませたあと、俺たちは歩いてすぐのところにあるゲームセンターに来ていた。
「あの、良かったんですか?」
「え、何が?」
少しだけ申し訳なさそうな表情をしている北島さん。
「ポテトフライの代金は桜井くん持ちって」
「あぁ、その位はさせてよ。ほら、一応男だからさ。カッコつけたい年頃ってやつだよ」
と、俺は冗談ぽく笑って言った。
それに、アルバイトとかもしようと思ってるし、そこまで節約志向にならなくても良いのでは?と思ってはいる。
「良いのよ北島さん。男に奢られた時は、素直に『ありがとう』って言っとけば。女の特権よ特権」
凛音はそう言うとパタパタと手を振った。
そうだよな、これまで結構凛音の分も俺が払って来たよな。
「俺は凛音から『ありがとう』なんて言葉を聞いたことは一度も無いぞ」
「あら、そうかしら?心の中ではいつも感謝してるわよ」
「心の中かよ!!」
そんなやり取りをしながら、俺たちはゲームセンターへとたどり着く。
「わー凄い音ですね」
「うるさいくらいよ。何回来ても慣れないわね」
「結構明るいし綺麗だね。なんかもっとジメジメしてて陰気で不良の巣窟みたいなのを想像してたけど、そんなことないんだね」
なんて事を言っている三人。
どう見てもゲームセンターの中にいる野郎どもの視線を一手に集めていた。
あー……こりゃあ俺が頑張んないとな。
と、俺がちょっとだけ離れた隙にもう三人は絡まれていた。
「ねぇねぇ、君たちゲームセンター初心者じゃない?俺たち結構慣れてるから教えてあげようか?」
「ここって結構治安が悪いからさ、ボディーガードは必要だと思うよね。俺らと居れば安心だよ?」
そんなナンパを受けるまでの時間。およそ一分。
はぁ……俺の落ち度だな。
チラッと見ると凛音がものすごい不機嫌そうな顔をしてる。
北島さんは不安そうな顔をしてる。
桐崎さんは……やべぇ足を振り上げてる!!
あれは蹴り飛ばす気だ!!何をって??
わかるだろ!!大事なところだよ!!
「桐崎さんストップストップ!!それはやっちゃいけない!!」
俺は野郎二人と美少女三人の間に身体を入れる。
「なんだよお前、しゃしゃり出てくんじゃねぇよ」
「俺たちは彼女たちと話してんだよ。お呼びじゃねぇよ」
と言うので、俺背筋を伸ばし胸を張ってしっかりと声を出して相手に言葉を返す。
「彼女たちは俺の連れだ。あなたたち二人の世話にはならない。これで納得が出来ないと言うのなら、店員を呼ぶぞ?」
俺がそう言うと、二人は「ちっ!!」と舌打ちをしてゲームセンターから出て行った。
その後ろ姿を確認して、もう絡んでこないと確信してから、俺は三人に向き合って頭を下げる。
「はぁ……ちょっとでも目を離した俺のミスだ。嫌な気分にさせてしまってごめん」
「気にしてないわ。あんなのに絡まれるなんていつもの事じゃない」
「頭を上げてください、桜井くん。気にしてませんよ」
「そうだぞ桜井くん。まぁあと少し遅かったら私が蹴り飛ばしてたところだったけど」
俺は頭を上げると苦笑いをして、
「桐崎さん。今後のためにも言っておくけど、『暴力』はダメだよ」
と注意をした。
「え?なんで。正当防衛でしょ」
「男に力で勝てる。それは余程の実力差が無いと無理だよ。逆に相手を怒らせるだけ。桐崎さんがなにか護身術を体得してたとしても、それは本当にやばくなった時だけにしないとダメ」
俺の真剣な表情を見た桐崎さんは、質問をしてきた。
「じゃあどうすればいいの?」
「大声を出しながら走って逃げる」
俺は即答した。
「女の人の悲鳴や叫び声って言うのは最強なんだ。それだけで全ての男を倒せる必殺技だよ」
「なるほどねー。確かにそっちの方が安心安全だね」
桐崎さんはそう言うと、うんうんと首を縦に振った。
はぁ、納得してくれたようで良かったよ。
あそこで桐崎さんが蹴り飛ばしていたら、きっと事態はもっと面倒なことになってただろう。
下手をすれば、野郎側が被害者ヅラしてくることすら予想出来た。
そういう状況を未然に防げたのと、今後のための注意が出来たし、まあ及第点かな。
俺はそんなことを思いながら、今後はもう目を離さないぞ。
と心に誓った。
そして、ゲームセンターの中を進んでいくと、北島さんがUFOキャッチャーに興味を示した。
「あ、これは私が読んでるライトノベルのヒロインのぬいぐるみです!!」
彼女の指の先を見てみると、青い髪の毛のショートカットが可愛い。鬼の女の子のぬいぐるみがあった。
あーあの有名な。
「欲しい?」
俺は北島さんに聞いてみた。
「……え、取れるんですか?」
驚いた顔をしてるので俺はちょっとだけ筐体を見てみる。
…………うん。アームの強さにもよるけど、取れないことは無いな。
「うん。一発で取るのは無理だけど三回くらいで行けるかな」
欲しいならとってあげようか?
と、俺が提案すると北島さんは期待した表情で首を縦に振った。
「よし。じゃあ男らしいところでも見せようかな」
俺は財布から500円玉を取り出して、筐体の中に入れる。
200円で1回。500円で3回。そう言う金額設定だ。
俺はまずはアームの強さを見る為にぬいぐるみの横にアームを落としていく。
「あ、あれ……桜井くん。真上じゃなくて良いんですか?」
「うん。今のはアームの強さを見るのと、ぬいぐるみを取りやすい位置に動かすのが目的だから」
コロンと横に動いたぬいぐるみを見るに、アームの強さは絶望的では無いし、操作性も確認したけど確率機では無さそうだ。
タグに引っ掛けて取るか。
俺は二回目のアームでぬいぐるみをもう少し取りやすい位置に動かす。
そして、勝負の三回目。
俺はぬいぐるみの頭の部分にあるタグの輪っかにアームの先端を刺すように下ろす。
そして、俺の狙い通りにタグを引っ掛けてぬいぐるみはプラプラとぶら下がりながら出口へと向かい……
ポトリ
と落ちてきた。
「よっこいしょ……はい。狙い通りに取れて良かったよ。こんなに上手くいくのは珍しいくらいだから運が良かったね」
俺はぬいぐるみを手にして北島さんに渡す。
「わぁ……ありがとうございます!!一生大切にします!!」
彼女はそう言うと、ぬいぐるみを大切そうに胸に抱いた。
ぬ、ぬいぐるみになりたい……
はっ!!やべぇ本能が溢れそうだった。
「そう言ってくれるなら嬉しいよ。じゃあそろそろ中に進もうか。あの二人だと目を離すとまた絡まれそうだしね」
「はい。了解です!!」
そして、中へと進むと二人はバスケットボールのシュート対決をしていた。
中学時代はバスケの有力選手だった凛音に桐崎さんがかなり善戦してる。
ま、マジかよ……
凛音もかなり本気になってる。目がガチだ。
そして、タイムアップと同時に点数を見ると、凛音が三ゴール差で勝っていた。
「ね、ねぇ桐崎さん……あなた経験者?」
息を少し乱しながら、凛音が聞くと
「朱里ちゃんに教わってた感じかな……ふぅ、負けちゃったかぁ……」
「私相手にこれだけ善戦したのよ。誇りなさい」
と、凛音は握手を求めた。
「あはは。次は負けないからね」
そう答えて桐崎さんは握手に応じた。
「あんなん見たら俺も身体動かしたくなったな」
俺はそう呟くと、バッティングのゲージに向かう。
左打席は……空いてるな。120kmなら打てるし。
「桜井くんのバッティングを見せてもらえる感じですか?」
と後ろから北島さんが声を掛けて来た。
「そうだね。あんなん見たら身体動かしたくなったよ」
俺はそう答えると、制服の上着を脱いで、ネクタイを外して、ワイシャツの第一ボタンを外す。
「ごめん。北島さん、持っててもらってもいい?」
「はい。喜んで」
俺は北島さんに制服とネクタイを渡し、バッティングゲージに入る。
金属バットを手にすると、やはりかなり使い込まれた感じがした。
バットの重さもいい感じだし、これなら恥をかかないで済みそうだ。
軽くバットを構えて一回振る。
ブンッ!!
と鋭く空気を切る音がした。野球は辞めたけど素振りは続けてる。
やはり習慣というのは抜けないもんだよな。
俺は200円を機械に入れる。30球の勝負だ。
バットを構えて、金属のアームの動きに合わせてタイミングを取る。
そして、ビュンッと放たれた白球に狙いを定める。
バットは腕では無く腰と下半身の回転で振る。
カーーーーン!!!!
と澄んだ音がして、バットの芯で捉えた打球は『ホームラン』と書かれたボードを直撃した。
「よし。うまい棒をゲットだぜ」
ホームラン一本でうまい棒が貰える。
俺は空振りすることなく全ての球を弾き返し、二本のホームランを叩き込んだ。
店員さんから二本のうまい棒を貰い、
「はい。あげるよ」
そのうちの一本を北島さんに渡した。
「……カッコよすぎじゃないですか」
「……え?」
北島さんはそう言うと、俺の目を見て言う。
「サイセリアでは紳士的な対応をして、支払いではスマートさを見せて、ゲームセンターでは怖い男の人にも毅然とした態度で話をして、桐崎さんにはキチンと今後の対応も話をして、UFOキャッチャーではあっさりとぬいぐるみを取ってくれて、挙句の果てにはバッティングでホームラン二本って!!」
「あ、あはは……そんな大したことじゃ……」
「大したことです!!びっくりしましたよ!!」
そして、北島さんは少しだけ拗ねたような表情で続ける。
「南野さんとはいつもこんな感じだったんですか?」
「凛音?……あぁ、そうだね。あいつもよくナンパに絡まれたりしてたからね。あぁいう野郎には胸張ってしっかりと言わないとダメってのはわかってるし。それにUFOキャッチャーも凛音が『霧都。これが欲しいわ、取りなさい』とか良く言われたからね。バッティングに関して言えば、たまたまだよ。素振りは続けてたからアレだけどね」
俺はそう言うと、北島さんから上着とネクタイを受け取る。
「さて、そろそろ向こうと合流……」
「霧都!!こっちに来なさい。プリクラを撮るわよ!!」
「四人で撮ろうよ!!」
と、凛音と桐崎さんがこっちに呼び掛けてた。
「あはは。呼ばれてるみたいだし、行こうか」
「……はい!!私、南野さんには負けませんから!!」
北島さんはそう言うと、俺を追い抜いて、二人の方へと走って行った。
負けませんから。か。
凛音に振られたからって、直ぐにあの子と恋愛をするってのは、『不誠実』なんじゃないかな。
と、俺はそんなことを考えながら、三人の元へと歩いて行った。
11
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説

シスター☆クライシス【2】~完全無欠のS級美少女である妹は、実兄の俺のことが好きらしい。~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「妹を愛でてくれないお兄ちゃんはおかしいよ?」「お前が一番おかしいよ」
高校2年生の沢越彩華は、誰もが認める完璧な美少女。容姿端麗で成績優秀。運動神経も抜群。そんな三拍子も揃った上に、人当たりも良くて誰とだって仲良くなれる。そんな彼女にはある秘密がある。それは……。
登場人物
名前:沢越 冬也(さわごえ とうや)
年齢:18歳。高校3年生。
外見:身長185cm。黒髪のショートヘア―。切れ長の目をしたイケメン。
性格:真面目だけどどこかぶっきらぼうな性格。不器用なので想いが伝わりにくい。
趣味:部活でやっているバレーボール。それと昼寝。
名前:沢越 彩華 (さわごえ いろは)
年齢:17歳。高校2年生。
外見:容姿端麗の美少女。身長163cm。髪はセミロングの黒髪。
性格:周りに対しては社交的で明るい性格。誰とでも打ち解けられる完璧人間。
趣味:人間観察、料理
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


シスター☆クライシス~完全無欠のS級美少女である妹は、実兄の俺のことが好きらしい。~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「妹を好きにならないお兄ちゃんはおかしいよ?」「お前が一番おかしいよ」
高校2年生の沢越彩華は、誰もが認める完璧な美少女。容姿端麗で成績優秀。運動神経も抜群。そんな三拍子も揃った上に、人当たりも良くて誰とだって仲良くなれる。そんな彼女にはある秘密がある。それは……。
登場人物
名前:沢越 冬也(さわごえ とうや)
年齢:18歳。高校3年生。
外見:身長185cm。黒髪のショートヘア―。切れ長の目をしたイケメン。
性格:真面目だけどどこかぶっきらぼうな性格。不器用なので想いが伝わりにくい。
趣味:部活でやっているバレーボール。それと昼寝。
名前:沢越 彩華 (さわごえ いろは)
年齢:17歳。高校2年生。
外見:容姿端麗の美少女。身長163cm。髪はセミロングの黒髪。
性格:周りに対しては社交的で明るい性格。誰とでも打ち解けられる完璧人間。
趣味:人間観察、料理
クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~
いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。
橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。
互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。
そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。
手段を問わず彼を幸せにすること。
その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく!
選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない!
真のハーレムストーリー開幕!
この作品はカクヨム等でも公開しております。

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。
しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。
ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。
桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる