上 下
13 / 164
第1章 前編

第九話 ~身の上話が終わったら親睦を深める為にゲームセンターに向かいました~

しおりを挟む
 第九話



 桐崎さんによる、

 母親が他界していて、片親です。
 からの
 お兄さんが二股してる。

 の二つの爆弾発言から始まった身の上話。

 二人目は北島さんだった。

「え、えーとですね。桐崎さんと違って私はごく普通の家庭です」

 そう言って始めた彼女の身の上話は確かに『普通』だった。

「お父さんとお母さんと私の三人家族です。お父さんはシステムエンジニアの仕事していて、お母さんは専業主婦です。仕事上、食事が不規則なお父さんの為に、お母さんは毎日お弁当を作ってます。夫婦仲が良い証拠ですね。ムカつくことがあったことが無いのかも知れませんね」

 と、北島さんは桐崎さんを見てイタズラっぽく笑った。
 それを見た桐崎さんも笑っていた。

 良かった。空気は良くなってきたかな。

「小学校の五年生まではここの近所に住んでいたのですが、引越しをして今の場所になりました。この海皇高校を選んだのは引越しして離れ離れになってしまった霧都くんに会えたらいいな。と思ったからです」
「……へぇ、言うじゃない」

 と、凛音が北島さんを睨む。
 そんな視線はお構い無しに彼女は話を続ける。

「まさか同じ高校に進学していて、クラスまで一緒で、更には席まで隣なんて、運命を感じてしまいますね」

 そう言うと、北島さんは俺にパチンとウィンクをする。

「それこそ、幼稚園からの幼馴染にも負けないくらいの運命を」

 そう言う彼女に、凛音が食いついた。

「私と霧都はただの幼馴染じゃないわよ」
「え?」

 ……え?

 疑問符を浮かべる北島さん。俺も良くわからなかった。
 そ、そういう関係を脱したくて告白したんだけど?

「私と霧都は『家族』よ。幼馴染なんてちゃちな関係じゃないわ」

 先程も凛音から出たその言葉。

『家族』

 いったいどういうつもりで言っているんだ?

「まぁ、あなたごときにはわからないわよ。高々同じクラスになって席が隣になった程度の女なんて敵じゃないわ」
「……へぇ、言うじゃないですか」

 一触即発。教室の時と同じような空気が立ち込めるが、

「はいはーい。そこまでだよー」

 と、ポテトフライをつまみながら桐崎さんが言う。

「ここ、お店の中ね?あと、ここに来たのは『親睦を深める為』だよ。『喧嘩をする為』じゃないよ?」

 プラプラとつまんだそれを振りながら注意を促す。

「……はぁ、そうね。私も大人げなかったわ。ごめんなさい、北島さん。謝るわ」

 め、珍しいこともあるもんだ……あの凛音が謝るなんて

「いえ、私も少しカッとなってしまいました。申し訳ございません」

 お互いに謝罪しあったところで、俺に白羽の矢がたった。

「さて、この空気を変える、素晴らしい身の上話を披露してくれるのは桜井くんだね?」

 と、桐崎さんがニコリと笑いながら言う。

「あはは。そんな面白いもんじゃないよ」

 そう言ってから、俺は自分のことを話し始めた。

「まぁ、凛音は俺の事を家族だって言ってたけど、まぁそうだね。家族同然に育ってきた。とは言えるよね」

 俺のその言葉に、凛音は満足そうに「ふん」と鼻を鳴らしていた。

「幼稚園の頃にこっちに引っ越してきてね、同じ建て売りの家に同時に隣の家に引っ越してきたのが凛音の家族だったんだ。そこからの付き合いだね」

「俺の両親も凛音の両親もアウトドアが好きでね、夏休みの時期なんかに小さい頃は良く一緒にキャンプに行ったりもしたよ。凛音は嫌がるだろうから言わないけど、結構恥ずかしい思い出話なんかもたくさんあるよ?」
「霧都……命が惜しいなら口を塞ぐ事ね?」

 人を殺せそうな視線で睨みつけてくる凛音。
 あはは……言わないよ。
 だってこれは『俺とお前だけの大切な思い出』にしたいから。

「そうやって大きくなってきたからね、面白いのは俺と凛音の家にあるアルバムは全く同じ写真が納められてるってところだよね。まぁ、お互いに中学になったらそう言うのは無くなったよ。親の仕事が少し忙しくなってきたから。てのが大きいかな」
「桜井くんのご両親はなんの仕事をしてるんですか?」

 北島さんの質問に、俺は笑って答える。

「親父は作家だよ。それもライトノベルの。お袋は編集。そう言えば、どんな出会いだったかは想像が難しくないよね」

「ライトノベル作家さんだったんですね!!その、書いてるタイトルを聞いても良いですか!?」

 …………だよねぇ。
 聞かれるよね。

「そ、その。あんまり良いタイトルじゃないんだ……」

 と俺は少しだけ言葉を濁す。
 その俺の表情から、北島さんは『違う意味で』察したように言う。

「もしかして、『なろう系』みたいなタイトルですか?私も良く読むので気にしませんよ?」

 あーーーそうじゃないんだ。

 そんな俺の態度を見た凛音が口を開く。

「『私は愛人でも構わないから』」

「……え?」

 凛音の言葉に、北島さんが疑問符を浮かべる。

「霧都のお父さんが書いてるライトノベルのタイトルよ。全く、ふざけたタイトルよね」

 凛音はそう言うと、やれやれと手を広げる。

「そんなんでもね、売れてるのよ。今何巻まで出てるんだっけ?四巻くらい?」
「今は四巻。次は五巻が出ることも決まってる。半年後にはコミカライズが待ってるかな」

 俺はそう言うと苦笑いを浮かべる。

「北島さんが好きなラブコメとはちょっと外れてるかな」
「そうですね。ですが、そのタイトルは見たことも聞いたこともあります。読んだことは無いですが、ライトノベルコーナーで平積みされるレベルの作品ですよ」

 そんな会話をしていると、桐崎さんが口を挟む。

「ねぇ、桜井くん。あなたのお父さんが書いてるライトノベルの事、『絶対に』詩織さんには言わないでね?」

 詩織さん……あ、黒瀬先輩のことか

「え?どうしてかな。特に話す機会があるとは思えないけど」
「詩織さんがとても好きで読んでるライトノベルがそれなのよね。あなたのお父さんが書いてるなんて知ったら、どうなるかわからないわ」

 こんな身近にファンがいたのか……
 てかあのめちゃくちゃ美人な先輩が、ライトノベルを読むなんて意外すぎるな。

「うん。わかったよ。まぁ話すことなんか無いとは思うけど、黙ってるよ」

 と、俺はそう言ったところで提案する。

「身の上話も悪くなかったけど。こうして話してるだけだと飽きると思うし、隣にゲームセンターもあるから少し遊んでく?」

 その言葉に桐崎さんが食いついた。

「お!?良いねぇ。私さぁ、あんまりゲームセンターって行ったことが無いんだよね」
「そうなんだ。なんか理由があったの?」

 と、俺が聞くと彼女にしては意外な理由が返ってきた。

「おにぃが過保護だからねー。一人でなんてもってのほか。女友達だけでも行くなって言ってたんだよね。あそこには『変なおじさん』が居るからって」
「私もあまり……と言うか、初めてです」

 北島さんは何となく、そういうのは行ったことが無いような感じがしていた。

「じゃあみんなで行こうか。そんな危ないところじゃないし、万が一のときは男の俺が居るから平気だよ」

 と笑って言っておいた。

「そうね。霧都は図体がデカいし、筋肉質な身体をしてるから、中身はともかくとして見た目の威圧感はあるわね」

「万が一の時は期待してるぞー桜井くん」

「桜井くんが守ってくれるなら安心ですね」

 ……やべぇ、責任重大じゃねぇか。

 俺は残ったポテトフライをつまんで食べながら、何回も行ったことがあるゲームセンターなのにものすごい緊張感を持って行くことになったなぁと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

処理中です...