十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第1章 前編

第三話 ~教室では彼女と中学生の時の話をしました~

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 第三話



 前の日に告白して振られた女の子に、違う女の子と抱き合ってる現場を見られた。なんてめちゃくちゃ気まずい状況の凛音と少しでも距離を取りたくて、俺は北島さんの手を引いてその場を逃げ去っていた。

『幼稚園の頃からの幼馴染だよ。………………それ以上でも以下でも無い』

 そんなことを、自分で言って起きながら、その言葉で自分が傷ついてる。

 本当ならそういう関係からの脱却を目指していたけど、昨日の告白でそれは叶わなかった。
 盛大に振られてしまった。

 結局のところ。俺と凛音はただの幼馴染でしかないし、凛音もきっとそれ以上なんて望んでないんだ。

 ……それを俺が勝手に勘違いしてただけなんだ。

 いいとこ、仲の良い友達。くらいの距離感でいるのがベスト。

 恋人同士になって、キスしたりなんだりなんてのは…………望んでないんだ…………

 なんてことを考えながら教室へ向かっていると、突然北島さんが俺の手を引いてきた。

 あ、やべ……どさくさに紛れてこんな可愛い女の子の手を握ってた!!!!
 今更だけど通報とかされない!!??

 冷や汗が背中にびっしり流れてくる。

「桜井くん。さっきの告白の返事ですが、いつでもいいですよ?」

「…………え?」

 ど、どういう事!?

 ……正直に言えば、ぶっちゃけありがたい。

 十年間片思いしていた凛音に振られて、新しい恋を探そうとは思ってたけど、そんなすぐに気持ちなんか切り替えられない。

 めちゃくちゃ可愛い北島さんが、ずっと俺のことを好きで、彼女にしてください。って言ってくれたのはすごく嬉しいし、光栄だけど、だからと言ってホイホイ彼女と付き合うほど軽い恋愛を凛音にしてきたつもりは無い……

 そんな俺の手を引いて、腕を抱きしめる。

 む、胸!!胸が当たってます!!

 失礼だけど、凛音より余裕で大きいそれが俺の理性をガリガリ削ってくる。

 そして、北島さんも恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながら俺に言う。

「こ、これからいっぱいアプローチをかけて行きますので、覚悟してくださいね?」

 あ、アプローチ!!??

 こ、こういう事を日常的にやっていきますよ?って事ですか!!??

 欲望に流されないように、理性を強くして生きて行こう……

 高校生活の初日から、大変なことになってしまったと、俺は思った……




『一年二組』


 そんなこんなでやって来た自分たちの教室。

 教室の扉を開けると、やはり俺たちが一番乗りだった。

 前の黒板には名前と席順が記載されていた。

「こうして教室に入ると、高校生になったんだな。という気持ちが高まりますね」
「うん。俺もそう思うかな」

 そんな会話をしながら席順を確認すると、

『桜井霧都』・『北島永久』

 隣同士の席になっていた。

 ……マジか。『さ』行と『か』行なので隣合う可能性はあるとは思ってたけどね。
 北島さんでは無いけど、運命的なものを感じてしまう部分はある。

 ちなみに凜音は『ま』行なので結構離れていた。

 まぁ、十年間違うクラスだったので、同じクラスってだけで近くなったなぁとは思うけど。

「桜井くんと同じクラスになれただけでなく、席まで隣なんて……私は幸せ過ぎてどうかしてしまいそうです」
「あはは……俺も全く知らない人が隣だったりするよりは良いかな」

 とりあえず、机の横にカバンをぶら下げ、俺と桜井さんは椅子に座る。

 ……やべぇ、思ったより近く感じる。

 こんなこと言ったら変態丸出しだけど、なんかいい匂いがしてる気がする。

「お、思ったより近いですね」
「そ、そうだね……」

 なんだよこれ、お見合い会場かよ。

「そ、そう言えばさ、北島さん!!」
「は、はい!!」

 俺は空気を変えようと、声を上げる。

「中学校では何かしてたのかな?」
「あ、はい。本を読むのが好きなので、文芸部に入ってました。桜井くんは?」
「俺は野球部だったよ。こんなんでもエースで四番だったんだよ」
「え!?それってすごいですよね!!!!」

 尊敬の眼差しで見てくる北島さん。
 でも本当に申し訳ない。万年一回戦負けの野球部のエースで四番なんて、ギャグ漫画でしかないよ……

「いや、万年一回戦負けだったから大したことないよ……」
「いえ、それでもすごいです!!だからさっき抱きしめた時、すごくがっしり…………あ」

 先程の出来事を思い出して顔を赤くする北島さん。
 やべぇ、めちゃくちゃ可愛い。

「す、すみません……先程ははしたない真似を……」
「い、いや……俺も役得だなぁと思ってたから」
「はぅ……」

 顔を真っ赤にして下を俯いてしまう北島さん。

「…………そ、その桜井くん」
「な、なにかな?」

 少しだけ立ち直った彼女は俺に聞く。

「高校では野球部に入るんですか?」

 うん。もしかしたら聞かれるかな?と思ってたかな。

「いや、入らないよ。俺の野球は中学までだよ」
「……え。どこかケガとかしたんですか?」

 その言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

「……怖いんだ」
「……怖い?」

 こんな情けない理由を話すのは本当にいやだけど、言っておこう。彼女にはしっかりと『俺のかっこ悪いところ』も知って貰いたい。そう思ったから。

「中学までは軟球って言ってね、ゴムボールでやるんだ。高校では硬球って言って、ぶっちゃけ石の球みたいなめちゃくちゃ硬いやつでやるんだ」
「……はい」

 俺は息を吸って、吐き出す。

「試合で一度だけ。バッターの頭にデッドボールを当ててしまったことがある。もちろん、わざとじゃ無い。ストレートが指に引っかかって当てちゃったんだ」
「…………はい」

 その時の光景は、今でも覚えてる。
 ゴムボールだったから良かった。
 当てた相手も「気にすんな」って笑ってくれてた。
 そっから先の投球は覚えてない。
 気が付いたら試合が終わってて、大量点差で負けていた。
 それが俺の中学野球の最後の試合だった。

「その時俺は思ったんだ。もしこれが『硬球』だったら……あんな硬い球を頭に当てたら人なんかすぐに死んじまう……」
「…………桜井くんは、それが怖いんですね」

 北島さんの言葉に俺は首を縦に振った。

「イップスなんて言うかっこいいもんじゃない。投げようと思えばいくらでも投げられる。それにうちの高校は去年、甲子園に行くような強豪野球部だ。俺ごときが投手なんか任されるはずなんか無い。……でも、やっぱり怖いんだ。だから、俺の野球は中学までで終わりにしようと思った」

 そこまで話して、俺は笑った。

「かっこ悪いだろ?ごめんな。君が好きになった男は、こんなにも情けない男なんだよ」

 その言葉に、北島さんは首を横に振った。

「かっこ悪いだなんて思いません」
「…………なんで?」

 俺の問いに、北島さんは俺の目を見て言った。

「小学生のときに、私を虐めから助けてくれた、優しい桜井くんはあの時から何も変わっていません。とても優しい人のままです。相手を傷つけたくないと思う心は、かっこ悪いなんて言うものでは決してありません」
「…………そうか」

 俺はそう言うと、ひとつ息を吐いた。
 そして、少しだけ笑いながら言う。

「ありがとう、北島さん。少しだけ気持ちが晴れたよ」
「…………っ!!そ、それは良かったです」

 どうしたのだろうか、一瞬様子が変だったけど……

「まぁでも高校ではアルバイトとかしたいなぁって思ってるし、新しいことをしてみたいと思ってるんだ」

 だから、どの道野球をやるつもりは無いんだ。

「そうなんですね」
「……でも、ありがとう。北島さん」

 俺は彼女にお礼を言う。

「野球から『逃げて』違うことをする。のと野球と『向き合って』違うことを選ぶ。のでは違うからね」
「それは良かったです。お役に立てて光栄です」







「……で、話は済んだか?」






「「……はい??」」


 俺と北島さんはその声に顔を上げる。

 俺と彼女の前には、初老の男性が立っていた。
 先生……かな?

「君たち二人が話に夢中になっているから、入学式の案内が出来ないんだが?」

「「えぇ!!??」」

 俺たち二人は周りを見渡す。
 もう既に教室には生徒が座っていた。

 凛音は……冷めた目でこっちを見てる。

「仲が良いのは結構だが、ほどほどにな?」

 ニヤリと笑う先生に、俺と北島さんは頭を下げながら、

「「すみません。気を付けます」」

 と、言うのだった。
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