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天族と国
番外編 初めての喧嘩
しおりを挟む森の奥で、ミッシェルは座り込んでいた。
目的のファイアーバートは倒したものの、大人になった頃とは違う。
何とか勝った、と言うだけで立っているのもつらい状態だった。
「っはぁ……、ふぅ。」
息切れを落ち着かせ、前を向けばミッシェルの動きは一時停止した。
(群れ?……何だか獣臭いわね。)
既にこのとき、ミッシェルの周りは群れに固められていた。
「まさか……っ!?」
その事に薄々ミッシェルもわかったのか、小走りに歩き出した。
しかし、顔からにじみ出る焦りは収まらない。むしろ酷くなるばかりだ。
(冗談じゃないわ。どうして今なの!?)
その時、ミッシェルの前にあった茂みから何かが飛び出して来た。
「っ!【シールド】」
地面に転がることで、ミッシェルは難を逃れた。が、相次いで他の茂みからも飛び出して来た。
「あっ!」パリンッ
シールドが弱かったのか、私のために貼ったシールドは壊された。
「……やっぱり、ダークネスウルフ。」
しかも、群れときた。
______アオーン!
______アオーン!
ダークネスウルフ
普通の狼が、憎しみなどによってダークウルフに変わる。更に、群れとなって子が生まれる。
その子はダークネスウルフと言われる。
近年、レベルの高いギルド員達が討伐したと聞いたがまだ残っていたのか。
走って逃げる中で、ミッシェルは決して小さくない舌打ちをした。
コリード視点
「ねぇ、ミッシェル遅くないー?」
ふと、空を見上げれば沈みかけの太陽が見える。おおよそ、3時間は経ったのだろうか?
目の前にいるレオディオも不安そうに眉を寄せた。
僕たちは、森の入り口でミッシェルの帰りを待っていた。
______アオーン!
______アオーン!
すると、何処からかウルフ系の魔獣がなく声がした。
たしか、この森にウルフ系は居なかったはずなのだが。不思議に思って首を傾げる僕をおいて、レオディオが走り出した。
「え、ちょっと、レオディオどこ行くの!?」
慌てて後を追えば、レオディオの焦った声が聞こえた。
「あいつ等の鳴き声の先はミッシェルが行った方角だ!」
「あ!」
ガサガサと体にぶつかる草木なんて気にせず走り回る。
僕達が助けに来たってことを知ってもらうには……。
「【ファイアーボール】」
空に向かって、青い火の玉を投げた。
すると、ミッシェルが気がついたのか走っている方角の方から同じものか飛んでいた。
段々と臭う。獣の血。もしこれが、ミッシェルのならば。
そうも思うと気が気でなくなってきて、より足を動かした。前に居るレオディオは何も話さない。
「「ミッシェル!!」」
あのウルフの遠吠えが聞こえてから、かなり経ったがようやくミッシェルを見つけた。
ボロボロの服で、大木に持たれて笑っていた。
周りはダークネスウルフの血で鼻を抑えたくなる。
「あー、あはは。」
ヘラリ、と笑ってゴメンと一言言った。
「っ………、お前は!」
レオディオがスタスタと近づいたかと思うとガツンと頭突きをした。勿論、ミッシェルに。
って!
「わあぁぁあ、何してんのレオディオ。」
今度は殴ろうとしてるレオディオを後ろから羽交い締めして、押さえつける。
ミッシェルは何が起こったのか、分からない。といった顔をした。
「どうして……?」
パチパチと頭を手で抑えていた。
「お前、何で頼らなかった!?」
レオディオが叫んだ。そして暴れるのをやめた。そっと、手を離すと地面に座り込んでしまった。
「女、だからとか、の前に。……仲間だろ!?どうして頼んねぇーんだっ!」
「え、は……頼る?」
「頼るためにあんだよ、仲間はっ!」
レオディオが怒っていた。きっと、今僕も怒ってる。何となくだけど、怒ってる。
ミッシェルが嫌いとかじゃなくて、どうしてって思いが溢れてる。
「…そっか。………そっかぁ、だから怒ったんだのね。」
けれども、僕達が怒っているのにミッシェルは笑いだした。
「どうして、笑うの?」
尋ねれば、嬉しそうに笑って手招きしてくれた。
レオディオと顔を見合わせて、そろそろと近づくと手を握られた。
「嬉しいなぁ、て思いましたの。」
「私は幸せ者ね。こんなにも、心配してもらえるんだもの。」
そう言って笑ったミッシェルは、フラリと倒れた。
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