傍観していたい受付嬢

湖里

文字の大きさ
上 下
17 / 55
受付嬢としての仕事?

番外編・過去 蝋人形

しおりを挟む
これは、私がまだ受付嬢になる前。学生の頃のはなしである。


学園内のバトルオリンピアで女子部門1位になった私と、男子部門1位になったレオディオ。そして、総合部門で1位になったコーリドの三人で殿下への謁見が決まった。

「なんか意外だよなー。優勝しただけで、殿下の謁見とか。」
ふわぁ、と欠伸をすればそれを見かねたレオディオが私たちに話しかけてきた。
「確かに…。」
「ホントだねー。」

今、私達は王の謁見の間で殿下が来るのを待っている最中である。
今の殿下は、ユリシア殿下で息子がひとりいるらしい。名前を確か.…グリウス王太子。
とても見目麗しいと聞いたことがある。

「ていうか、殿下と会ってどーすんだよ。その後のこと、俺はなんも聞いてねぇーぞ。」
未だこない殿下を待ちながら、三人は確かにと頷いた。実際、何も聞いていないのだ。不安になるのは仕方がない。

ガチャ_____
突然前にある扉が開き、殿下が入ってくる。
慌てて頭を下げれば、気にするなと声をかけられて顔を上げれば何度も肖像画でみた、ユグリフ殿下とその息子であろうグリウス王太子が立っていた。

ユグリフ殿下は、金髪碧眼の五十歳位の優しげな男性。
グリウス王太子は、金髪に紫色の目で二十歳程だった。
「この度の謁見、ありがとうございます。学生のコーリド、レオディオ、ミッシェル。只今参上いたしました。」

適当な挨拶をコーリドが言えば、ユグリフ殿下は嬉しそうにして、ともに夕食を食べることになった。
「ミッシェルは、見目麗しいのに加えお強いなんて……素晴らしいですね、私も見習わなければなりません。」

「そんなことをございませんわ。偶々、私の環境が良かった。それだけの事でございますの。」

私の隣は、グリウス王太子で年もあまり離れていなかった為楽しくお話をしていた。
少年時代から、優秀と聞いていたグリウス王太子と話せるとか最高!

「最近の研究でわかった、属性による威力の増加の件ご存知になりまして?」
「ああ!あれは素晴らしい。応用すれば、日常の中でも効率よく魔力を使えることになりますね。」

三人の中で最も魔法の研究を理解していた私は、なかなか理解して貰えなかった研究の内容でともに話すことができるのがとても嬉しい。
隣で、レオディオは頭にハテナを出してご飯を食べており、コーリドはあまりのレベルの高さに苦笑いをしている。
そんな顔しなくてもいいと思う。

「グリウス様、そろそろお時間です。自室に戻りますよ。」
楽しく話していれば、グリウス王太子の側近であったマルクが私達の話をぶった切った。

「そうだな、今日はとても楽しかった。夜も遅い、客室を用意しよう。」
そう言われて、私たちは一人一部屋をもらって夜を過ごすこととなった。
バトルオリンピアて疲れ切っていた私は、あっという間に寝てしまった。


ズ、ズ、ズ、ズ_____
耳おとでおかしな音が聴こえる。
聞き慣れない音を聞いて、目を覚ませば音は部屋の外から聞こえているのがわかった。
「?、なんの音かしら……。」
部屋を出て、探索してみても音の発信源はなかなか見つからない。
レオディオとコーリドも起こそうか?
そう思ってきた道を帰ろうと思えば、フッと蝋燭の火が消えた。
「やばっ。」

魔法で明るくしようとすれば、王城では魔法防止結界が貼ってあることに気づいた。仕方がない、月明かりもあるしこのまま自室に帰るか。

かすかな月明かりを頼りに帰れば、……帰れば、……
「帰れない、だと。」
迷子になった。
どうしようかと思い、周りを見てみれば月明かりではない、蝋燭の火が視界のすみにとらえた。
衛兵が見回りに来たのだ。丁度いい、火を分けてもらおう。

「すいませ……、あれ?グリウス王太子?」
声をかけるために近づけば、衛兵ではなくグリウス王太子が蝋燭の火を持っていた。
「おや?ミッシェル、どうかしましたか?」

私がいることに驚いていた様子で近くに行けば、納得したようにああ、とつぶやいた。
「迷い、ましたか?」
「はい、申し訳ありません。」

察しの良い王太子様である。クスクスと笑われたが背に腹は変えられない。客室の道を聞けば案内してくれた。

「___そう言えば、グリウス王太子。このようなところでどうかしたのですか?」
自分の客室につれていってもらい、入る前に質問すれば彼の瞳が怪しく揺れた。

「いえ、少し眠れなくて……。」
月明かりもキレイなので、散歩をしてたんです。そう言われて、納得しておやすみなさいと挨拶をした。
しかし、扉を開けて入る前に後ろから押された。

「なっ、」
ドサッ_____
床に倒れ込む形で入れば、中は私の客室ではなかった。
月明かりに照らせれたその部屋は、美しい女性の人形で溢れかえっていた。
いろんな大きさで、年齢も様々。でも、共通点があった。

すべて女性で、本当に生きているみたいなのだ。


「グリウス王太子?ここ、私の客室ではありませんの。」
ハッキリと申し立てれば、彼は愛おしい物を見つめるかのような目で私を見ていた。

「ああ、……ここは私の自室だよ。」
スルリと私の脇に手を入れて抱き上げたかと思えば机の上に横にさせられた。
慌てて起き上がれば、肩を持たれてぐっと力を込められる。
年齢も年上でその上、男性のちからである。抵抗する間もなく、机の上にむりやり横たわってしまった。

「ああ、綺麗。とても綺麗だよ、ミッシェル。学園のバトルオリンピアのときから思っていたんだ。君は美しい、そのなかでとても力強いんだ。こんな女性は見たことがないよ。私は君を見ていたい。君のことを独り占めしたい。君の瞳に私だけが映れば良いとさえ、思ってしまうよ。ああ、私は君を一生愛し続けるよ、神に誓おう。たとえどんな事があっても君を見続けるよ。」

私を真上から見上げながら、グリウス王太子は幸せそうな目で私の頬をなでた。
「___だから、僕だけの"人形"になって?」

体が先の方から冷たくなっていく。体の自由が効かなくなってきてようやくこれが魔法だと確信した。
「【我を照らす、火の神よ、我が身を熱く燃え上がらせよ。紅蓮】」

魔法を外に放つのではなく、自身の中に留めながら魔法をかければ冷たくなっていく事はなくなった。

「ど、うしてですの?」
グリウス王太子も私から離れたが、視線は変わらない。

いきなりのことで気が動転しているうちに私の魔法より、グリウス王太子の魔法が打ち勝った。
そのため、また体が冷たくなっていく。


死ぬ


その二文字が頭の中を駆け巡った。
「そこまでですよ、グリウス王太子。」
パッと明かりがついて、声の下ほうを見れば、側近のマルクが扉に持たれていた。 

「全く……、人形が好きだからと言って人を人形にしてはいけないと何度言ったらわかるのですかっ!?」
つかつかと歩み寄って、グリウス王太子から私をひッペがし私を俵持ちして部屋から出てった。

「わたしが、これで諦めることはないから……。」
さり際にボソリと言われた言葉。その言葉を聞いただけで、今までの恐怖とは比べ物にならない程の怖さを体験した。



「本当にすいませんでした、ミッシェル嬢。」
今度は本当の私の客室に連れて行って貰い、マルク様が頭を下げてきた。
「いえ、あの……あれが、王太子ですか?」

頭を下げたままの彼に何を聞けばいいのかわからず、取り敢えず確認をした。
「ええ……。小さい頃から人形が何よりも好きな人だったんですが……。その、最近度が過ぎましてね。」

これでも、止めている方なのですが…。と疲れた顔で言われた。
「ミッシェル嬢が、グリウス様に近づかないように私が配慮しますが、グリウス様のこと日頃から注意するようにこれからお願い致します。」

「あ、はい。」


次の日から私は、受付嬢になるまで一切グリウス王太子。もとい、グリウス殿下似合うことはないようにした。
それほど、私の中では恐怖対象になったのだった。

 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...