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第4話 クラスって、何?

【2】

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「ほうほう。その銃、少し触ってもいいだろうか?」

 単純な好奇心で、そんな提案をしてみる。しかしミナトは少し渋い顔をして、

「いいけど、オマエじゃ使えないと思うぜ」

「む? それはどうして?」

「この銃、<銃士>じゃないと扱えないから」

 そんな言葉と共に、ぽいっと銃を投げてよこした。相当な技術で作られた代物だというのに、えらくぞんざいな扱いだ。アスヴェルは丁寧にソレを受け取ると、まずはじっくり観察してみた。

「……やはり、よくできてる。この銃身の精密性はなんなんだ? 僅かな歪みすらないじゃないか」

「へへ、そうだろそうだろ」

 ミナトが自慢げに胸を張った。その際、2つの双丘がプルンっと柔らかく揺れたのを見逃すアスヴェルでは無い。

「それで、このトリガーを引けば弾が出る仕組みなのか」

「そうそう。試してみろよ。弾は入ってるから」

「……君は弾が装填されている銃を投げてよこしたのか」

 暴発したらどうするつもりだったのか。その度胸の良さに惚れ惚れしつつも、許可が出たので試しに引き金を引いてみる――が、銃はうんともすんとも言わない。弾倉を見れば、弾は確かに込めてあるようなのだが。

「何も出ないぞ」

「だから最初に言ったろ。<銃士>じゃないと使えないって」

 ドヤっとした顔で、ミナト。しかしアスヴェルは納得できない。

「おかしいじゃないか。詳細な機構は知らないが、銃は火薬を炸裂させて弾を飛ばす武器の筈。扱いの慣れ不慣れはあっても、ある職業に就いていないと使えないなんて――」

「いやまあ、現実としちゃその通りなんだけどさ……ファンタジー世界にリアルな事情持ってくんなよ。だいたい、その銃にしたってグロック17をモデルにしてるけど細部が大分違うと言うか、拳銃の構造的にあり得ない造りになってるし」

「……?」

 よく分からない単語が色々飛び出してきた。いったい何について彼女は語っているのか。不思議に思ったこちらの視線を感じたのか、少女は慌てた様子で首を振ると、

「ああ、いや、こっちの話こっちの話! あんまし気にしないでくれ。とにかく、銃を装備できるのは<銃士>だけの特性ボーナスなんだよ」

「むむむ、そうなのか……?」

「そうそう」

 なんだか勢いで押し切られているような感もする。

「だいたい、勇者だって色々職業特性クラスボーナス付いてるんだろ? それと同じさ」

「職業特性?」

 またしても聞きなれない単語。

「ほら、重い武器は<戦士ファイター>しか装備できないとか、<商人マーチャント>だとアイテムが安く買えるとか、そういうのだよ」

「いや、“そういうの”とか言われても」

 だいたい、戦士が重装備できるのは彼らが日々鍛錬しているからであるし、商人が値切り上手なのも彼らが市場に精通しているからだ。逆に、特訓すれば戦士でなくとも重装備は扱えるし、商人でなくとも値切れはする。

(ん? まさか――?)

 そこまで考えたところで、ある一つの閃きがアスヴェルに去来した。そういえばハルが先刻、口にしていたことだが――

「――この大陸では職業に就くことで何かしらの力を得る“加護”がある、ということなのか?」

「あー、そういう風に解釈したのか」

 軽く驚きの表情をするミナト。

「む。違うのだろうか」

「いや――寧ろ合ってる、のかも? うん、そういうことにしておこう」

「ふむ」

 やや煮え切らない態度ながら、こちらの意見は肯定された。まだ彼等も仕組みを解明しきれていないのかもしれない。

(しかしとんでもない場所だな、ロードリア大陸とは)

 精巧な銃を製造する技術を持ち、異なる言語を持つ者同士で会話が行え、その上ただ職業に就くだけで特殊な力が貰えるときた。
 至れり尽くせりとはこのことだ。

(幾つか持って帰りたい)

 アスヴェルがそんな考えを抱いてしまうのも、仕方ないことだろう。まあ、帰還する方法もよく分かっていない現状、それは優先順位の高い案件ではないが。

「で、もう一回確認するけど、アスヴェルのとこじゃそういう職業特性って無いんだな?」

 改まって、ミナトがそう尋ねてきた。そんな風に聞かれると何か意義のある言葉を放ちたいところだが、残念ながら返す言葉は一つしかない。

「聞いたことが無い」

「……そっか」

 難しい表情をする彼女。何かを考えているようだ。少ししてから横にいるハルの方を向いて、

「どう思う、ハル?」

「ぬむむむぅ。これは――ひょっとすると、新しい成長システムが導入される、ということなのではないですかな? 職業に依存しない能力値の上昇やスキルの獲得とか。現行のシステムですと、ぼちぼち上限が見え始めましたからなぁ」

「あ、なるほど」

 短い会話で、納得が得られたらしい。自分を除いての話し合いで了解に至る辺り、少々疎外感を感じてしまったりも。
 まあそもそも実のところ、職業云々で言うのならば――

「――私は別に勇者という職業に就いている訳でも無いんだよなぁ」

「え?」

 つい零してしまった呟きに、ミナトが反応した。彼女はこちらに身を乗り出しながら、凄い勢いで問い質してくる。

「オマエ、王様とかそういう偉い人に任命されて勇者になった訳じゃねぇの!?」

「任命された覚えは無いな」

「じゃあ、神様とか運命とかそういうのに選ばれて勇者になったとか」

「選ばれた覚えも無いな」

 無いものは無いのだから仕方ない。こちらの返答を聞いて、少女は神妙な顔つきになると――

「――ひょっとしてオマエ、ただ勇者って自称してるだけなん」

「ミナト」

 言い終わる前に、割って入る。

「いいか、よく聞くんだ。勇者というのはな、職業として就くものではないし、運命に決められるものでもない。勇者というのは――」

 一拍溜める。目線を斜め45度に上げると顔をビシッと決め、

「――生き様だ」

「カッコつけてるとこ悪いけど、結局自称勇者なとこ否定できてねぇぞ」

 ……ミナトの視線は、とても冷たかった。




◆勇者一口メモ
 自称疑惑発生……!?

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