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第2話 街の教会で
後編
しおりを挟む教会の扉を開けると、メイアの声がセリムを出迎える。
「あっああっ! あっあっあんっ! あ、あんっあっあぁあんっ!!」
出迎え――――え?
「兄ちゃん遅ーい!
どこまで歩いてたんだよ!」
「おそーい!」
「長いお散歩でしたな」
子供達が勇者に次々と文句を言う。
……いや、そうじゃなくて!!
『ま、魔王様?
な、な、何が起きているんですか?
何なんですかこれ!?』
ええい、落ち着け!
魔王軍は慌てない!!
い、今起こっていることは――!
「あぅ、あぁんっ! あっあっあっ!
ああっ! おぉおっ! おっおっおっおっおっ!!」
スカートを捲られ、服を開け。
大きなおっぱいと、丸いお尻を丸出しにして、四つん這いになって喘いでいるメイア。
「おおおー! やっぱ姉ちゃんのまんこはいいなぁ!
あったかくて、ぎゅっと締めてくれて!」
彼女の下に潜り込み、膣内に自分の男性器を埋めているレブ。
「きもちいーっ!!」
彼女の後ろに立ち、尻穴にペニスを突っ込んでいるワウル。
「いつやっても最高ですな」
そして彼女の前に立ち、おっぱいでパイ擦りさせているジン。
つまり――メイアは、3人の少年に囲まれ、輪姦されていた。
「――――?」
勇者は、まだこの状況を理解できていない。
それはそうだろう、なんなんだこれはいったい!?
「あっあっあっあ――――せ、セリム、さんっ!?
……あっあっあっ……ごめんなさい、夕飯の支度はまだで……あっあぁぁああっ……
ちょ、ちょっと待ってて下さ――あっあっあっあぁぁあああっ!!」
メイアがセリムに気付き、話しかけてくる。
が、その最中にも少年達は動きを止めない。
各自が、腰をかくかくと振ってメイアを責め立てている。
彼女の乳がプルンプルンと揺れ、ムチムチの尻が跳ねる。
「うあっ!
やべ、そろそろ出るっ!」
「あっあんっ! ま、待って下さいレブ君っ!
出すなら外に――!」
「もう遅いよっ!
ああああ、出るっ! 出るっ!!」
「あ、あぁぁああああっ!!」
レブが、メイアの膣内に射精した……ようだ。
「はぁぁぁぁ……おしっこしてるみたいで気持ちいいなぁ……」
「あ、あ、あ、あ……だ、駄目ですよ、レブ君……中に赤ちゃんの種を出しちゃったら……」
「オレの赤ちゃんができるんだろ?
いいじゃんいいじゃん、育ててよ。
姉ちゃん、いつも寂しそうだし、子供作った方が楽しいって!」
笑いながら、とんでもないことを口にするレブ。
……い、いいじゃんとか楽しいとか……女をなんだと思ってるんだこのガキ…!?
『ていうかですね、魔王様!
このガキ共、なんか手つきがやたらと手慣れてるんですけど!
これって、これってつまり――』
――今日のこれが初めてではないということなのか!?
今までも、ずっとやり続けてきたっていうことなのか!?
「――――」
勇者は未だに微動だにしない。
……村を出る前に起きた“あの事件”が、フラッシュバックしているのか。
「レブ君?
出し終わったのなら交代して欲しいのですが?」
「お、悪い悪い!
今交代するよ――っと」
レブはメイアのまんこからちんこを引き抜く。
「―――あんっ!」
抜くときの刺激で、メイアが小さく喘いだ。
彼女の膣口からは、白濁した液体がとろりと流れた。
「いやー、出した出した!
じゃ、ジン、代ろうぜ!」
「待ち遠しかったですよー」
レブとジンが体勢を入れ替える。
そして――
「あっ! あっあっあっあっあっ!!
ジン君のが――あぁぁあああああっ!!」
「おお、おっぱいもいいですが、やはりこちらの方が絶品ですな」
今度はジンが彼女の女性器へと肉棒を挿入する。
なお、この間もワウルは、ずっと彼女の尻へと自分の股間をぶつけていた。
「うーん、おっぱいじゃなくて、口でして欲しいなぁ。
姉ちゃん、俺のちんちん、しゃぶってよ!」
「んっんっんんっ! あ、はい、分かりまし――あぁぁああっ!」
「おい、ワウル、腰振り過ぎだぞ!
姉ちゃんが俺のしゃぶれないじゃないか!!」
「だってー! きもちいーっ!」
レブが文句を言うも、ワウルは変わらず腰を振り続ける。
「しょうがないなぁ。
姉ちゃん、噛まないでよ?」
「あっあっあっ……んぶぅううううっ!?」
レブが無理やり彼女の口内へイチモツを突っ込んだ。
そのままメイアの頭を、金色の髪を掴み、無理やり前後に振る。
イマラチオというプレイだ。
……って冷静に解説してどうする吾輩!?
『で、でも、どうしましょう!?
どうすればいいんでしょう、魔王様!?』
ざ、残念だが今吾輩達は手が出せぬ。
勇者よ、いつまで呆けておるのだ!
ガキ共を叱り飛ばせ!
「――――!」
そんな吾輩の言葉が届いたわけでもあるまいが、勇者がはっと正気に戻る。
「――――!!」
「え、何、兄ちゃん?
なんでこんなことって?
だって気持ち良いじゃん、こんな気持ち良い“遊び”、他に知らないし」
「――――!!」
「そんなこと言われても。
オレ達、ずっとこの“遊び”してるしなー。
姉ちゃんだって、喜んでくれてるし。
……お、舌絡んできた!
いいよー、姉ちゃん!!」
勇者の質問に答えながらも、メイアへのイマラチオを止めないレブ。
「んぶぅっ! んんんぅうっ! んっんっんっんっ!! んぉおおおおっ!!」
3穴を同時に責められて、嬌声を口から漏らすメイア。
……確かに、彼女には嫌がる素振りが無い。
「――――」
セリムが、黙り込んだ。
『あ、諦めてしまったんでしょうか……?』
そんな!?
……い、いや見ろ側近、奴の拳を!
『おお、ぶるぶると震えている!?』
勇者の怒りが頂点に達しようとしているのだ!!
「――――!!」
「な、なんだよ、兄ちゃん――ぎゃあっ!?」
レブに近づいた勇者が、彼を殴りつける!
『おお、やった!』
生意気なガキめに一矢報いてやったな!
「い、てててて、何すんだよ、兄ちゃん!!」
殴られ転がったレブが、すぐさまセリムに反論する。
……勇者め、手加減したか。
奴が本気で殴って、子供がこの程度のダメージで済むはずがない。
『いくら頭に血が上っても、子供相手に本気にはなれない、ということですね』
……勇者として、いや、人として仕方ないことか。
「――――」
セリムは倒れたレブに、なお説教をしようと歩み寄る。
と、そこへ――
「何をしているんですか、セリムさん!!!!」
――“メイアからの平手打ち”が、勇者を叩いた。
「―――!?」
信じられない、という顔をする勇者。
……吾輩も信じられない。
「こ、子供を殴るだなんて!
なんて、なんて酷いことを!!」
メイアが怒る。
いつもニコニコとほほ笑んでいた彼女が。
皆に優しく接していた彼女が。
……メイアを助けようとした、セリムを。
「子供は、純粋な存在なんです!
何よりも、大事にしなければいけない相手なんです!!
そんな、子供に対して――」
興奮した彼女は、そこで一旦言葉を切る。
呼吸を少し整えてから――
「――確かに、貴方は勇者ですよ?
その魔王を倒すという使命は立派だと思います。
だからって……だからって、何をしてもいいと思っているんですか!?
“こんな横暴”が、許されると思っているんですか!?」
……お、横暴ってお前。
吾輩、開いた口が塞がらぬ。
『……私もです、魔王様』
何言ってんの、この女?
本気で何言っちゃってるの?
「セリムさん、貴女のこと、尊敬していました。
信頼できる人だって、思ってました。
なのに……こんなことをする人だったなんて!」
――そっくりそのままその台詞を返すよ。
吾輩、メイアのことをもっと清純な――そうでなくとも、まともな女だと思っていたのに。
なんだ、この糞淫乱ぶりは。
「――――」
勇者は弁明しようとするも、メイアは耳を貸さず。
「……今すぐ、出て行って下さい。
貴女が、子供に暴力をふるったことは誰にも言いません。
ですから――即刻、この教会から立ち去って下さい!!」
「―――!?」
彼女からの明確な拒絶に、勇者の顔が歪む。
……メイアは気付いていないようだが、その表情は泣き顔のようであった。
「あーあ、バカだなぁ、兄ちゃん。
せっかくオレらの仲間に入れてやろうと思ってたのにさ」
「ばーか、ばーか!」
「浅慮という他ありませんねー」
追い打ちをかけるように、ガキ共が勇者を煽り立てる。
そんな状況に勇者は――
「――――!!!」
――彼らに背を向けて、そこから走り去った。
「ばいばーい!!
……よし、じゃあ姉ちゃん!
“邪魔者”もいなくなったから、続きやろうぜ!」
「やろー、やろー」
「今夜も頑張りますよ!」
「ああっ!? 急にそんなっ!!
あぁぁぁあああああああっ!!」
……後ろから、そんな声を聞きながら。
――――――――
…………ビッチ。
「魔王様?」
……ビッチ、ビッチ!
「魔王様!」
ビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチ!!!!
「……お怒りですね」
当たり前だぁ!!!
なんだ、あの女!
本気でなんなんだ!!
教会のシスターだろうが!!
神に仕える聖職者だろうが!!
あの淫乱っぷりはなんなんだ!!
あの勇者に対する態度はなんなんだ!!!
勇者がお前のためにどんだけ頑張ったと思ってる!!
勇者があの町の人々のために、どれだけ尽くしたと思ってる!!
勇者がお前を――どれ程心の支えにしていたと思ってる!!
……あの糞女がぁ!!
……あの糞餓鬼共がぁ!!
「……魔王様」
…………。
「……行かれますか」
……うむ。
――――――――
時は深夜。
彼らの“行為”は、終わりを迎えていた。
「あー、やったやった!
すっきりしたー!!」
レブが伸びをしながらそう言う。
彼の足元には、精液塗れになったメイアが転がっている。
「おなかすいたー」
「確かに、小腹がすきました。
そういえば夕飯を食べていませんでしたよ」
「そういや、そうだったなー。
おい、姉ちゃん!
さっさとご飯の用意してくれよ!
オレら、それまで休んでるから!」
身勝手な台詞をメイアに投げつけるレブ。
だが彼女は――
「……は、はい、分かりました。
……ちょっと、時間かかってしまいますけど、待っていて下さい」
幾度も絶頂したためか、恍惚とした表情のまま、そう答える。
「早くやれよなー?
じゃ、行こうぜ、皆!」
レブは他の2人を引き連れ、礼拝の間を出ようとする――が。
「あ、あれっ!?」
「どうしたのー?」
「何か不具合でも起きましたか?」
「ど、ドアが開かないんだよ!
どうなってんだコレ!?」
いくら扉を引こうと押そうと、開く気配はない。
「そ、そんな馬鹿なことが……」
他のガキ達が試してみるも、結果は同じ。
「そうだ、他の扉なら!」
一人がそう言いだすと、3人は手分けして部屋中の扉を開けようと試みる。
しかし、外に出ることは叶わなかった。
「ど、どうなってるんだ、これ……?」
「!! み、みんな、あれー!!」
「どうしましたか、ワウル……ななっ!?」
彼らは見た。
教会内の影が、蠢いているのを。
影一つ一つが意思を持つかのように、一つに集まろうとしているのを。
「な、何が起きているんですか…?」
遅れて、メイアもまた異常に気付く。
――影が集まる。
――黒い球体が生まれる。
――そして。
「あ、ああ、ああああっ!?」
「……ば、化け物だぁ!!!」
“吾輩”が現れた。
「な、何者です!」
毅然とした態度で――精液に濡れ、衣服が開けた状態では威厳も何もあったものではないが――メイアが吾輩に問うてきた。
『……何物?
何者とな?
いかんな、教会に仕える者が吾輩を知らぬとは。
吾輩はな――』
ニヤリと邪悪に口元を歪める。
『――魔王だよ』
「……ひっ!?」
「……う、うそっ!?」
「……ま、魔王!?」
吾輩の言葉に、ガキ共が怯える。
しかし女はなお態度を崩さず。
「……そ、即刻に立ち去りなさい!
ここは神聖なる間!
魔の者が立ち入っていい場所ではありません」
『ほう……その神聖なる場所とやらで、お前達はいったいナニをしていた?』
「……うぐっ!?」
口を詰まらせるメイア。
一応、“そういう”意識はあったようだ。
だからといって彼女が許されるわけがなかろうが。
『あんな“淫猥なこと”をしでかしておいて、神聖も糞もあったものではないわ。
それとも、お前達の教義には神の御前で性交すべしとでも書いてあるのかな?』
「……だ、黙りなさい!
立ち去らぬとあれば、強硬手段に出るまでです!」
メイアは祈る姿勢で聖言を唱える。
すると、彼女の身体から光が溢れてきた。
神官が用いる、神聖魔法だ。
通常の魔物であればひとたまりも無いだろう。
だが――吾輩は魔王であるからして。
『……ふんっ!』
鼻息一つで光をかき消してやる。
彼女の顔が驚愕に染まった。
「……そ、そんな、神の加護が効かないなんて!?
――ほ、本当に、魔王なのですか……」
『そう言ったであろう。
まさか信じていなかったとは――見抜けていなかったとはな!
教会も地に落ちたものだ!!』
「あ、ああ、あああ―――」
ぺたん、とメイアは尻もちをついた。
彼女に代わって、レブが口を開く。
「ま、魔王が、オレ達に何のようなんだよ……?」
『何の用か、だと…?
くっくっく、大人達から習っていないのか?
魔王が現れる理由など、一つしかあるまい』
吾輩はさらに醜悪に、笑みを深めていった。
『――お前達を、食べるためだよ』
「ひぁっ!?」
「ひぃっ!?」
「ひゃあっ!?」
ガキ達が恐怖に染まる。
「や、やだ、オレ、食われたくないっ!?」
「やだー、やだー!!」
「え、遠慮願いたくっ!!
……ああ、そうだ、セリムさんっ!!」
ジンが、勇者の名を口にした。
「セリムさんは勇者ですっ!
彼なら魔王を倒せますっ!!」
「ああ、そうだー!!」
「そうだった!!
兄ちゃんを呼べば!!」
思いついた解決策に、顔をほころばせるガキ共。
……バカか、こいつら?
『勇者ならばとうに街を出たわ。
……お前達が追い出したのだろうが』
「――あ」
一転、彼らの顔が絶望に染まる。
そして、
「ね、姉ちゃんのバカ!!
なんで兄ちゃんを追い出したりしたんだ!!」
「ばかー、ばかー!!」
「セリムさんが居れば、助かったというのに!!」
メイアに対して、罵り出す3人。
自分たちのことは棚にあげ、清々しいほどの屑っぷりだ。
「……え、あ……そんな……私、こんなことになるなんて……」
ガキの言葉を真に受けて、弱々しく呟くメイア。
……このままでは埒が明かないので、吾輩は彼らに“提案”した。
『ガキ共を助けたいか、女』
「――は、はい、当然です!」
メイアは頷き返す。
吾輩は続けた。
『ならば――自ら命を絶て』
「――え?」
『分らぬのか?
お前が死ねば、ガキ共の命を見逃してやると言ったのだ』
「――そ、そんな」
口では立派なことを言う聖職者も、自分の命をすぐに差し出すことには抵抗があるらしい。
……こんな女を聖職者として扱うのは、他の聖職者達に対してあまりに失礼か。
だが、そんな彼女と対照的に、レブは明るい声を出す。
「なーんだ、そんなことか!」
「――え?」
彼の発言をメイアは聞き返した。
レブは、彼女に喋りかけた。
「ほら、こう言ってることだしさ、姉ちゃん、死んでよ!」
「――何、言ってるんですか、レブ君?」
「え? だって、姉ちゃんが死ねばオレら助かるんだよ?
姉ちゃんって、人を助ける仕事してるんでしょ?
オレらを助けるためなんだから、早く死んでくれよ」
「――え、え、え?」
レブが何を言ってるのか理解できないのか――あるいは、理解したくないのか。
メイアはただ、戸惑うばかりであった。
「私、貴方達の世話を、いっぱい、しましたよね?
貴方達のお願いを、全部、聞いてきましたよね?
――なのに――なのに――?」
「うんうん、感謝してるってば。
だから最後のお願いを聞いてほしい、って言ってんの!」
「いってんのー!」
「そうですねー、メイアさんが死ねば3人助かるのですから、貴方が死ぬのが当然なんじゃないかとー」
レブの発言に乗っかって、ワウルとジンも次々と彼女の死を要求し出す。
メイアはガクガクと震えだした。
「――そんな――そんな――?」
「なあ、姉ちゃん。
振るえてないで早く死んでくれよ!
魔王の気が変わったらどうすんのさ!」
「しーね! しーね!」
「覚悟を決めて貰いたいものです」
なおも躊躇する彼女に、ガキ共は次第に罵声を浴びせ始める。
「ほらっ!
早く死ねって!!
オレらを見殺しにする気かよ!!
いざって時に使えない奴だな!!」
「!!」
そのレブの一言がダメ押しになったのか――メイアから震えが消えた。
「お、やっとその気になったのか!
じゃあ――」
「――黙りなさい」
「……え?」
普段のメイアとは違う低い声色に、ガキ達の口が止まった。
立ち上がり、彼女は冷たい目線を彼らに浴びせながら、告げた。
「……ようやく分かりました。
貴方達は、悪魔だったのですね。
ずっと、私を誑かしていたのでしょう!」
おお、“純粋な存在”から一転して“悪魔”か。
凄い発想の飛躍だ。
「ね、姉ちゃん、どうしちゃった――」
「黙れと言ったでしょう!
よくも私をずっと騙してくれましたね!!
悪魔を助けるために命を絶つ――?
そんなこと、できるわけがない!!」
彼女の中では“そういう風に”自己完結したらしい。
よくもまあこんなんで、セリムにあんな暴言が吐けたものだ。
……こんなんだから、吐けたのか。
『残念だったな、ガキ共。
お前達は、悪魔だったらしいぞ』
「あ、あひっ」
「ひ、やっ」
「ど、どうするんですか……」
『悪魔であれば――悪魔が居る場所に帰らなくちゃなぁ?』
吾輩はパチンっと指を鳴らす。
すると、3人の足元から黒い炎が立ち上った。
「ぎゃあああああっ!!?」
「あついー!! あついぃいいっ!!」
「うぁああああっ!!」
三者三様に苦悶の声をあげるガキ共。
『くくく、それは地獄の業火。
熱いには熱いが――死にはせん』
「ああああ、じ、地獄――?」
『そうだ。
お前達の足元はな、今、地獄と繋がっておる。
ほれ、自分達の脚を見ろ、ずぶずぶと沈んでおるであろう?』
「あああああ……」
「しずんでるぅ……!?」
「ど、どうなるんですか……?」
『決まっているだろう。
これから地獄に行くんだよ、“生きたまま”でなっ!』
「「「――!!!?」」」
3人の顔が、恐怖により引きつる。
「やだっ!! いやだぁああああっ!!!」
「たすけてー!! たすけてーーっ!!!」
「メイアさぁんっ!! メイアさぁんっ!!!」
泣き喚くガキ達。
そんな彼らを一瞥し、メイアは、
「……酷い演技ですね。
自分達がいた場所に戻るんでしょう?
好きにして下さい」
さっくりと見捨てた。
……3人は、黒い炎の中に沈み続ける。
「あぁぁぁああぁぁぁ……助けてぇ……パパぁ……ママぁ……」
「いい子にするぅー……いい子にするからぁ、たすけてぇー……」
「嫌です……地獄になんか、行きたく――」
……そして、彼らの声は消える。
同時に、地獄と繋がっていた黒い炎も消え去った。
まあ、実際問題として地獄に落ちたところですぐ死ぬわけではない。
散々足掻き、苦しみぬいて――いつか、地獄に適合することもあるだろう。
そうなれば……人間達への尖兵として扱ってやるのも一興。
しばししてから、吾輩はメイアへ話しかけた。
『さてと、女よ。
お前に言うことがある』
「……なんでしょうか」
警戒をながら吾輩に向き直るメイア。
『あのガキ共はな。
立派な人間だぞ?』
「――え?」
メイアの動きが止まる。
『考えてみろ。
あいつらが悪魔だったとして――何故魔王である吾輩が処分せねばならぬ?
協力して、お前を殺すのが筋であろう?』
「……う、嘘です」
『嘘をつく理由などあるか?
だいたいな、魔王である吾輩ならばともかく、ただの悪魔では教会の中に立ち入ることなどできぬ。
シスターであるお前が知らぬはずがあるまい』
「あ……あ……で、でも、あの子達の言動は、人間のものとは……」
『あれが人間なのだよ。
女、お前自身が言っていた言葉よな、“子供は純粋な存在”であると。
全くもってその通りだ。
子供は純粋な存在――それであるが故、教育によって、天使にも悪魔にもなる。
奴らが悪魔に見えたというのならそれは――』
メイアへと顔を近づけ、囁く。
『――お前が、あいつらを“悪魔”に育てたのだよ』
「――あ」
彼女が震えだした。
最初は唇、腕、肩――そして、全身へと震えが伝わっていく。
「う、嘘よぉおおおおおおおおおっ!!!」
教会に、メイアの絶叫が木霊した。
自分がしでかしたことに対する絶望と恐怖に満ちた叫び声だ。
……息のある限り叫び続けた彼女は、その場にへたり込む。
「……私を、どうするつもりですか……?」
『どうもせん』
「……え?」
不思議そうにするメイア。
なんだこの女、気づいていないのか。
吾輩は彼女に説明してやることにした。
『“吾輩は”どうもせんよ。
お前の処理は“人間が”やってくれる』
「……な、何を言っているのです…?」
『察しの悪い女だ。
いいか、今宵起きたことを並べてやろう。
血相を変えた勇者が教会から逃げ出し。
邪悪な気配を放つ魔物が教会を襲来し。
その場に居たはずの子供達の姿は消え。
魔物を倒し、子供達を守らねばならぬお前だけが、無傷で残るのだ。
……さて、第三者がこれを見た場合、どう考えると思う?』
ちなみに今回、街の連中にもわかるように、派手に教会へ舞い降りてやった。
『お前が魔物へと子供を捧げる、邪教徒だと考えるだろうよ。
くくく、邪教徒に対する人間の仕打ち……聖職者のお前であればよく知っておるだろう?
――ガキ共は地獄で責め苦にあい、お前はこの世で地獄を味わうわけだ』
「そ、そ、そんな……
そんなこと、ありません。
皆さん、信じてくれます、魔王が全てやったんだって、皆さん、信じてくれるに決まってます――」
そう言う割に、声は余りに弱々しい。
まるで、“信じてくれない”と考えているかのように。
『まあ、好きにするがいいさ。
もう吾輩はお前に用は無い故にな。
くくく、はーっはっはっはっは!』
高く笑い声をあげ、吾輩は教会かあら姿を消した。
「……大丈夫です、皆さん、信じてくれます……大丈夫、大丈夫……信じてくれますよ……」
魔王の姿がなくなった後もなお、メイアはそう呟き続けた。
――――――――
“魔王に仕える邪神官メイア。
勇者セリムの冒険譚に出てくる登場人物の中で、最も忌まわしい者として後世に語られている。
街に住む多くの子供達を誑かし、その魂を魔王へと捧げていたのだ、無理もないだろう。
セリムにも数多くの罠を張り、彼を堕落させようと試みたが――勇者の強靭な精神は、その悉くを跳ね除けたという。
彼女について特筆すべきは、その最期であろう。
邪神官メイアを倒したのは、勇者ではなかった。
彼女の正体を知った街の住人達の手によって、打倒されたのだ。
メイアと住人達との戦いは、一か月にも及んだらしい。
激しい戦いの末、住人達は彼女を街から追い払うことに成功したのである!
当時に街の有識者達は、こう語る。
「勇者セリムの正義心に感銘を受けたからこそ、我々は立ち上がれたのだ」、と。
セリムは、多くの者に己の正義を、勇気を、受け継がせていたのだ。
……と、凡百の英雄譚であれば、ここで話は終わっていただろう。
邪神官メイアの話にはまだ続きがある。
街から追放され、魔王からも見捨てられたメイアは、様々な地を放浪した。
歳月が流れ、その命がとうとう朽ちようとした時……彼女は再び勇者セリムと相見えたのである。
そして――おお、勇者のなんと寛大なことか!
変わり果てた邪神官メイアの姿を見たセリムは、彼女を許し給うたのだ!
メイアはその言葉に感謝の涙を流し、以降、生涯をかけて勇者のために祈ることを誓ったという。
強き肉体、気高き魂に加え、深き度量まで兼ね備えた勇者セリム。
現代を生きる我々が、彼から学ぶべきことは多い”
後世の歴史家 ネトラ・レーダ・メイヨウ 著
「勇者セリムの冒険」より
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