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第2話 街の教会で
前編
しおりを挟む前回旅立ってから、既に数週間が過ぎた。
そんなときに、ふと思う。
何故吾輩には名前が無いのだろうか?
「魔王様は世界で魔王様ただ一人ですし。
名前なんて必要ないでしょう?」
えー、でもなぁ。
名前が無い寂しさ、お前だって分かるであろう?
側近にだって名前無いんだし。
「いえ、私にはカイン・ラドフォードという立派な名前がありますが」
何それかっこいい!?
なんで? なんでお前はそんなの持ってるの?
「そりゃもちろん、代々魔王様の片腕をやっているエリートの家系ですから。
相応の名前を頂いていますよ」
えー、ずるーい。
「まあまあ。
別にいいじゃないですかそんなこと。
……さて、今、勇者は村から少し離れた街に滞在中ですか」
うむ、その通りだ、側近よ。
次の街へ続く街道に崖崩れが起きてしまってな。
先に進みたくとも進めなくなったわけだ。
修復工事を進めるため、町長からの頼み事を引き受けたり、大工達の悩み事を解決したり、近隣の魔物を倒したりと、色々しておる。
「なるほど、既定イベントを消化している訳ですね」
おいおい、イベントとか言うなよ。
それじゃ、吾輩達がゲームや小説の中の登場人物みたいじゃないか。
「おっと、失礼しました。
そんなわけ無いですよね」
まったくだ。
はっはっはっはっはっは!
「はっはっはっはっはっは!」
はっは、は……
「はは、ははは……」
…………。
「…………」
……じゃ、勇者の様子を見るとするか。
「……そうですね、そうしましょう」
――――――――
「あ、セリムさん、おはようございます」
「――――」
お、のっけから美女が登場。
金髪の、なかなか美しい女性だ。
『勇者が今厄介になっている、教会のシスターですね。
名前は確か――メイアとかいいましたか』
うむ、そうだったそうだった。
宿は、勇者と同じくこの街で足止めを食らっていた旅人や商人で満杯になっていたからな。
『野宿の用意をし始めたところで、メイアが声をかけてきたんでしたよね』
それ以来、勇者は街の問題を解決しがてら、教会のお手伝いもしている、と。
『だいたい状況が理解できましたか』
そうだな、理解できた。
吾輩達、毎日勇者のこと観察してるのに、何故今更こんな確認をしたのかは分からぬが。
『……“都合”ってやつですよ』
……“都合”か。
『……はい』
……ど、どうした側近!?
その何もかも諦めきったような目は!?
『……なんでもありません。
勇者の観察を続けましょう』
そ、そうだな。
そうしよう。
『2人で朝食を取っているようですね』
ふむ。
手間のかからない料理ではあるが、美味しそうだ。
「どうです、セリムさん。
お口にあいますか?」
「――――」
「そうですか!
喜んで頂けて、嬉しいです」
「―――!!」
「うふふふ、褒め過ぎですよ。
そんなに褒められてしまうと、私、逆に困ってしまいます」
和気あいあいと朝食を楽しんでおるな。
『ええ、長閑な朝の風景ですね』
うむうむ――ただ、吾輩一つ思うことがある。
『なんでしょう?』
このシスターの服――ちょっとエロすぎない?
『あー、確かに、薄い生地の服なんで、ボディラインがかなり浮き出てますね』
スカートのスリットも結構えぐいところまで行ってるよ?
角度によってはメイアの脚線美がほとんど見えちゃうよ?
『タイツを履いているから生足ってわけでも無いのですが――』
それもまた逆にフェチ心を誘ってしまうよなぁ。
……いやまあ、根本的にはこの女がやたら豊満な身体しているのが悪いわけだが!
『勇者の姉――セリナもなかなかのスタイルでしたが、彼女はその上を行っていますね』
なんなの、このボン・キュッ・ボンっぷり。
綺麗な金髪のお姉ちゃんが、こんなエロい身体にエロい服着てりゃ、そりゃエロエロになりますよ!!
貴女、聖職者でしょ! 聖職者がこんな淫猥な雰囲気漂わせてちゃだめだってば!!
『そう言いながら、遠見の水晶にかぶりついてますよね、魔王様』
だってエロいんだもん!! 仕方ないだろう!?
ああー、見てぇ!! この身体を生で見てぇ!! 勇者が羨ましー!!
『……私はもっと豊満なのが好きですがねぇ。
ミノタウロスとか』
それ本物の牛ですやん。
……側近、お前のゲテモノ好きも相変わらずよのぅ。
『魔物としては正しい趣向では?』
そうやもしれぬが。
……まあいい。
2人の話を引き続き観察するぞ。
「――――」
「……でも、最初セリムさんに会ったときは驚きました。
まさか勇者様が街の中で野宿しようとしているとは」
くすくすと笑って、勇者をからかうメイア。
「―――!?
――――!!」
「ふふ、そんな一生懸命言い訳をしなくても分かっていますよ。
あの時は街が旅人で溢れていましたからね。
でも、それももうすぐ解決するのでしょう?」
「――――」
「流石は勇者様です。
セリムさんがいなければ、街道の通行止めはどれ程長引いてしまったことか……」
この街に滞在中の勇者の頑張りは目を見張るものがあったからな。
『工事を妨げている要因の排除のみならず、工事に必要なお金まで溜めましたからね』
他の連中も少しは協力しろよ!って感じだが。
『まあ最初はともかく最後の方は結構協力者も多くなったじゃないですか。
今じゃ、ほとんどの町人が勇者を褒め称えていますよ』
これが勇者の人格のなせる業――カリスマかのう。
見習いたいもんじゃわい。
「……でも」
「――――?」
メイアが俯きだした。
「……街道の工事が終わったら、セリムさんはもう行ってしまうんですよね」
「――――」
「ご、ごめんなさい!
別にセリムさんを引き留めたいわけじゃなくて!!
……ただ、こう、いざお別れの日が近づいてくると寂しさを感じてしまい――って私何を言ってるのでしょう!?」
慌てて取り繕おうとするメイア。
くくく、無理をせず――行かないで、勇者様♪――とか言えばいいのにのぅ。
『うわっキモっ!?
今の物真似、背筋が凍りましたよ!?
流石は魔王様です!!』
吾輩を貶すのもたいがいにせいよっ!?
「――――」
「……え?
また、立ち寄って下さいますか?
……ふふ、ありがとうございます、セリムさん。
期待してお待ちしておりますね」
にっこりと笑うメイア。
セクシーな要素が詰め込まれているのに笑うと可愛らしいとか、ずるいなこの女性。
『勇者もちょっと鼻の下伸ばしてるくらいですからねぇ』
ふっふっふ、勇者よ、色を知る年齢か!!
……まあ、最初の村での出来事が尾を引っ張っていないようで何よりだの。
『……そう、ですね』
時は進んで、真昼間。
今日特にすることが無かった勇者は、教会の掃除などを行っておる。
『庭の草むしりや垣根の手入れ、窓拭き……なかなか手際が良いですね』
元々田舎暮らしだったからな、セリムは。
この程度お手の子さいさいなのだろう。
「セリムさん、お仕事お疲れ様です」
メイアが水の入ったポットとコップを持ってやってきた。
どうやら休憩のお誘いのようだな。
「もうこんなに終わらせて頂いたんですね。
やっぱり男手があると違います」
メイアの表情に一瞬だけ陰がよぎった。
……この教会、もともとはメイアの家族が営んでいたものなのだが、彼女の親は数年前、馬車の事故で亡くなってしまったらしい。
『それ以来、一人で切り盛りしていたわけですね』
勇者は、そんな彼女に久しぶりにできた同居人、というわけだ。
色々想いが募るのも無理はないか。
「――――」
「ふふ、ご謙遜を。
さ、お水をどうぞ。
休憩いたしましょう」
「――――」
「……あ、セリムさん、ちょっと動かないで下さい!」
「―――?」
ん、どうした?
勇者が動かないでいると、彼の顔にメイアは顔を近づけて――
『ちょっ、ちょっとちょっと! これはまさか!?』
ひょっとして!!――――んむ?
メイアの奴、セリムの口ではなく目に口づけをしたぞ。
「――んっ――ん、んん――」
そして彼の瞳を舌で舐め出した。
……な、なんなんだこれは!?
超エロいんですけど!!
「――ん、ん――んっ!
ああ、取れました」
セリムから顔を離すと、ぺっと口から何かを吐き出すメイア。
「ほら、セリムさんの目にゴミが入っていたんですよ」
あー、なるほど。
ゴミか。
ゴミね。
ゴミを取るためだったのね。
それであんなことを――――おいおい、どこの土地の風習だよ。
教えろよ、今すぐ吾輩そこに行くから!!
『すごかったですね。
見て下さい、勇者の奴、完璧に固まっちゃってますよ』
そりゃ美女にいきなりあんなことされたらなぁ……
「――――」
「あれ、勇者様?
どうしたんですか、急に黙り込んで?」
「――――」
いや、どうしたもこうしたもお前のせいだよ。
……と、そんな2人の微笑ましいシーンに、突如闖入者が登場した。
「あーっ!
姉ちゃんと兄ちゃん、はっけーん!!」
「あの二人、またいちゃついてるぞー!!」
「おあついですなー、おあついですなー!!」
「――――!!!?」
「れ、レブ君!?
ワウル君やジン君まで!!」
現れたのは、3人の少年達。
この辺りを遊び場にしている、近所のやんちゃ小僧どもだ。
よくよく教会にも遊びに来て、セリムやメイアにちょっかいをかけている。
「も、もう!
大人をあんまりからかうんじゃありません!!」
「えー、オレらと兄ちゃんってそこまで歳変わんなくない?」
「そーだそーだー、差別だー、ジンケンシンガイだー」
「ちょっと酷い言いぐさですなー。
そうは思いませんかー、セリムさーん」
メイアが小言を言うも、暖簾に腕押し糠に釘。
まるで応えた様子が無い。
「そんなことより兄ちゃん、今日は仕事ないんだろ!
オレらと遊ぼうぜー!」
「おーう、あそぼー、あそぼー」
「この日のために色んな遊びを考えたいたのですよー」
3人が勇者にじゃれついてくる。
セリムは困ったように笑った。
「3人とも!
セリムさんが困ってらっしゃるでしょ!?」
「うるさいなぁ!
そんな姉ちゃんには、こうだっ!」
「こうだーっ!」
「パーフェクトなコンビネーションですぞー!」
子供達は、メイアの周囲を取り囲むと――
一斉に、彼女のスカートを捲りあげてきた!
「きゃ、きゃぁああああああっ!?」
――う、うぉおおおおっ!!!!
周囲に彼女の叫び声が響き渡る。
だけどそんなの気にしてられない!
見えた!
今、はっきり見えた!!
『白いレースですか。
清楚で上品な感じの下着ですが……いや、彼女が着けてるとこれまた』
最高だね!
むっちりしたお尻の形も見えたしね!
あれ、この水晶に録画機能ってなかったかな!
無かったね! 今度つけておこう!!
『大興奮ですね、魔王様。
……あ、勇者、鼻血だしてる』
慌てて拭き取っとるな。
いや、今のは仕方ないが。
眼福眼福!!
「な、何するんですかぁあっ!!?」
今度はメイアの怒鳴り声が鳴り響く。
それを聞いた、素晴らしいお子様達――もとい、けしからんガキ共は、
「わーい、姉ちゃんが怒ったー!!」
「おこったー」
「逃げましょう逃げましょう。
さ、セリムさんもご一緒に」
何故かセリムの腕を引いて走り出したのだった。
結局、勇者は夕方まで子供の遊びにつきあってしまった。
「あー、楽しかった!」
「たのしかったー」
「最高の時間をありがとうございましたー」
発言は、最初から順にレブ・ワウル・ジンだ。
というかこの3人、大体同じ順で喋りだしてるのな。
セリムも含めた4人は、散々遊んで泥んこになってしまっている。
勇者も、ついつい童心に帰ってしまったようだ。
「もう暗くなってきちゃったなー。
今日は姉ちゃんのところでご飯を貰おう!」
「もらおーっ!」
「食費は親が払ってるんで、問題はないはずですよ」
いや、問題はあるだろう。
少しは遠慮せんか、お前等。
「――――」
しかし勇者は困った笑顔を浮かべるばかり。
ううーむ、こういうのはガツンと言ってやらにゃならんよ、ガツンと。
『意外と気にするんですね、そういうところ』
礼儀というのは小さいころから教え込んでおくに越したことなないからな。
吾輩も苦労したものだ――お前の教育。
『…………え?』
さ、そろそろ勇者達が教会に着く頃だぞ。
『ちょっと待ってください、今、なんだか聞き捨てならないことを言われたような――』
気のせいだよ。
……む、教会が何か騒がしいな。
「――あ、また怖い人がいる!」
「いるー!」
「声がここまで聞こえてきますな!」
「―――!?」
メイアの声を耳にした勇者は、子供達を置いて教会へ急ぐ。
教会の扉を開けた先、そこで目にしたのは――
「なぁ、メイアよ。
今日こそ耳を揃えて金を払って貰えるんだろうな?」
「す、すみません、サジさん。
も、もう少し待って頂けませんでしょうか……?」
「それでこっちはどんだけ待ったと思ってるんだ?
悪いが俺も商売なんでね。
あんまり待たされると、おまんま食えねぇんだよ、分かるか?」
メイアに詰め寄る、いかつい顔の男であった。
察するに、彼女はこの男に借金でもしているのか?
勇者は二人の下へと近づいた。
「――――!」
「ん、なんだお前は?」
「せ、セリムさん!!」
「……ああ、お前が噂の“勇者様”か。
引っ込んでな、今俺はこっちのお嬢さんと話をしているんでね」
「――!! ――――!!」
「ああ、うるせぇな。
こいつの親父がな、昔俺から金を借りたんだよ。
それの請求をしにきただけだ、何か問題があるか?」
サジとかいう男はご丁寧に、借金の証文を懐から出して勇者へと見せる。
……確かに、彼の言っていることに間違いは無いようだ。
書かれている金額もなかなかのもので、とてもではないが教会の経営で集められるような金額ではなかった。
「――――」
「分かっただろう。
俺がここに来てるのは正当な理由があるわけだ。
部外者は黙っててくんな」
「……ごめんなさい、セリムさん。
本当に、この人の言う通りなんです……」
「――――!」
だが、勇者はなおも抗議する。
「おいおい、メイアのいうことを聞いてなかったのか?
あんたの出る幕じゃ――」
「――! ――――!!」
「せ、セリムさん……」
「……ちっ、うるさい奴だ。
分かった分かった、今日は帰ってやる。
……じゃあ、またな、メイア」
そう言うと、サジは軽く手を振って教会から立ち去る。
だが口振り的に、近いうちにまた来るだろう。
例えば――勇者がこの街を去った後に。
「……セリムさん。
お見苦しいところをお見せしてしまい、なんて言ったらいいか……」
「――――」
「借金の理由、ですか?
分かりません、父は何も言ってくれませんでした……」
「――――」
勇者は黙り込んだ。
何かを考え込んでいるようだ。
そこへ、子供達が入ってくる。
「……怖い人、もう行った?」
「いったー?」
「僕ら、怖くて外で震えていたわけですよ」
「……は、はい、もう大丈夫ですよ。
ああ、夕食は今から準備しますから、すこし待っていて――」
そこで、セリムは外に向かって歩いていく。
「――せ、セリムさん?
どちらへ……?」
「――――」
「さ、散歩、ですか?
……本当に?」
「――――」
「わ、分かりました。
夕飯を用意して、待っています」
短くメイアとやり取りをすると、勇者は教会を出ていくのだった。
……無論、散歩が目的なわけがない。
「――どうした、兄ちゃん。
何か用か?」
夜道を歩いているサジを見つけ、話しかける。
「――――」
「あんたが払うってのか?
冗談はよせよ、そうすぐに払える金額じゃ――」
セリムは、中身の詰まった重そうな袋をサジに放り投げる。
「……!?
あんた、こりゃあ……」
「――――!」
「……ああ、足りる。
こんだけ貰えりゃ文句はねぇ」
サジが袋の中身を確認すると、そこには金貨が詰まっていた。
これだけあれば、先程提示した金額には十分のはずだ。
『……魔王様、あれは』
うむ、街道工事の資金として貯めていたものだろうな。
『いいのでしょうか、あれが無ければ、旅はさらに遅れて――』
側近よ、勇者の顔を見るがいい。
あれが後悔している男の顔か?
『――あ』
金などまた稼げばいい、奴の目は雄弁にそう語っている。
ふっ、セリムは勇者なのだ。
当然の行動だな。
『自分のことよりも、他人のこと、ですか』
それでこそ、勇者よ。
「――――」
「……分かった。
ほらよ、借金の証書だ。
好きにしな」
サジが勇者に証書を渡す。
……これで、メイアがこの男に着け狙われることは無くなるわけだ。
勇者はそれを受け取ると、もう用は無いとばかりにサジに背を向けた。
「……待ちな、兄ちゃん」
「――?」
「これじゃちょっと多すぎる。
釣りを受け取ってくんな」
そう言うと、サジは袋から金貨を1枚取り出し――
「――!?」
――“袋の方”をセリムに放り返した。
「――――!?」
「いちいち騒ぐなよ、兄ちゃん。
釣りは釣りだ、素直に受け取れ」
「――――」
「……お節介な奴だ。
――いいだろう、今から“作り話”をしてやる」
そう断ってからと、サジは話し始める。
「昔、俺は親に捨てられた。
この街の路地裏に。
まあ、子供心に親から見放されたってのは分かったから、孤児として――ストリートチルドレンとして生きてきたわけだ。
来る日も来る日も、小銭拾ったり残飯漁ったりしてな。
――メイアの親父さんに拾われるまでは」
「――!」
「身元もよくわからねぇ、素行だってよくなかった俺に、あの人は本当によくしてくれた。
おかげで俺は――まああんま人に誇れるような職じゃねぇが――真っ当に生活できるようになったのさ」
「――――」
「ただ、あの人は本当にお人好しだったからな……人助けのために、あっちこっちから金を借りちまった。
中には、ほとんど騙されたような形で負った借金もあった。
なんとか工面しようとあっちこっち走り回ってたところで――死んじまったのさ」
「――――」
「……殺されたってのは無いだろう。
そんな恨みを買う人じゃなかったし、金貸し側にしたってあの人が死んで得することは何もないからな。
まあ、しかしそこからが大変だった。
どでかい借金が、いきなりメイアに転がり込んできた。
当然返す当てなんざ無い」
「――――」
勇者は、黙ってサジの話を聞いている。
「だがな、メイアは見ての通り、あの風貌――ぶっちゃけ、美人だろう?
見てくれの良い女には、“簡単に大金を稼ぐ方法”がある。
金を貸した連中は、メイアにそれをやらせようとしたのさ」
「――――!」
「……ああ。
俺もそれを知ったときは焦ったよ。
急いでなけなしの金握って、金貸し達のところを走り回った。
拝み倒して脅しつけて逆にふっかけられて――まあ、どうにか親父さんの借金を全部俺の手元に集めることができたのさ。
それから、俺の借金返済な毎日が始まっちまったわけだが……つい最近、そっちの方も終わった。
だから、もうその金は必要ねぇのさ」
「――――」
「ん? ああ、金貨一枚は“手間賃”だ。
それ位は貰ってもいいだろう?」
「―――!!」
「メイアに説明しろ?
バカ言え、俺がそんな柄の人間に見えるか?
……メイアのとこにちょこちょこ行ってたのも、金貸し共が気が変わっちゃいないか確認するため――それだけさ」
「――――」
「だからいらねぇっつってんだろ!
これは俺の――あの人への恩返しにやった、ただのお節介なんだよ!
……それに、“勇者様”の旅路の資金を奪ったとあっちゃあ、人様に顔向けできないからな」
ニヤっと笑いながら、サジは言う。
「――最後にもう一度言うが、“作り話”だからな。
兄ちゃんの同情を買うための――俺の自己満足のための――“作り話”だ。
くれぐれも、信じるんじゃねぇぞ」
最後にそう吐き捨てて、サジは去って行った。
勇者は、ただその後ろ姿を見送るのみ。
『……魔王様、あの男は――』
詮索はするな。
無粋だ。
『はっ、申し訳ありません』
その後、勇者は少し嬉しそうな顔をしながら、教会への帰路へとついた。
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