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第6話 賢者の孫娘
⑤ 魔法の属性※
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その日、イーファ・カシジャスは実に憂鬱な朝を迎えた。
「――ううぅ。
今日もあの人の講義が始まるんですね……」
気分が沈む。
今更、魔法が使えるようになるとは期待しておらず、祖父の紹介だから一応付き合おうという程度の認識だったのだ。
イーファは、賢者の孫として生まれてしまった。
父や母も高名な魔法使いであったという。
なのに自分は魔法が使えず。
まぐれで発動したことすらない。
無論、努力した。
人の十倍はやったと、胸を張って言える。
なのに、ダメ。
全然ダメ。
祖父の影響もあってか“賢者の学院”へ入学を許されたものの、ここでも芽はでなかった。
(……ま、そんなもんですよ)
そのことに悔しさを感じた時期もあったが、もう何とも思っていない。
別に、全ての人が魔法を扱えるわけでは無いのだ。
寧ろ、使える人間の方が少数派であるとすら言える。
そして、自分は多数派に所属する人間だった、と。
――ただ、それだけ。
今は祖父の手前、まだ“学院”に在籍しているが、いい加減そろそろ出ようとも考えている。
魔法の才能がない人間が長く居て良い場所ではないし、イーファだって新しい道を探したい。
そんな風に考え、毎日をただ消化していった。
今回の特別訓練もその一環としか捉えていない。
(――なのに)
怒りがわいてくる。
あの男の厳しさと言ったら!
魔法の訓練らしきことをしたのは午前中だけ、午後はひたすら身体を動かされていた。
『気を失って倒れるまで走れ』と言われた時は、何の冗談かと思ったものだ。
それが本気だと分かって、こいつは頭がおかしいんだと確信した。
「なんでお爺ちゃんはあんな奴を……」
尊敬する偉大なる祖父に対し、ついつい愚痴を零してしまう。
「……うぐぐっ!
か、身体がっ――関節がっ――筋肉がっ――!!」
少し体を動かしたら、コレだ。
普段あまり動いていないところへ、死にそうになる程動いたのだから凄まじい筋肉痛になるのも当たり前。
今日は一日中休んでいたい位なのだけれど――
「はあぁぁぁぁ……
行かなくっちゃ、ダメなんですよねぇ……」
何せ、学長である祖父の頼みなのだ。
聞かない訳にはいかない。
たとえそれが、まったく意味のない行為であったとしてもだ。
その程度の恩は、祖父から受けている。
イーファは最後にもう一度大きくため息をついて、自室を後にした。
自分と講師、2人だけしかいない教室。
「君が魔法を使えないのは、属性のせいだ」
開口一番、講師ヴィルにそんなことを言われた。
「――属性、ですか?」
「ああ。
魔法の属性は知っているな?」
「勿論ですよ。
火・水・土・風の4系統でしょう?」
当たり前の知識である。
こんなこと、魔法使いでなくとも知っているだろう。
「違う」
「へ?」
が、講師はあっさり否定してきた。
「それは昔の考え方だ。
現在、属性は火・氷・土・風・天・霊の6系統とされている」
「――聞いたことないんですけど」
良くないと思いつつ、講師を疑わしい目で見てしまう。
確かに4つの系統以外にも属性は存在するという噂はあるが、ほとんどが眉唾物だ。
「……本当に何も教えてないんだな、エゴールの奴」
ぼそっとヴィルが何事か呟く。
何のことかと聞く前に、青年講師は話を開始した。
「信じられないかもしれないが、信じろ。
最新の学説では、魔法とは6つの系統でできている」
彼曰く。
火:運動量増加
氷:運動量低下
土:個体操作
風:流体操作
天:五感で知覚可能なエネルギー発生
霊:五感で知覚不可能なエネルギー発生
魔法はこれら6系統を単独、または組み合わせて発動するものなのだという。
「簡単なところなら、<炎矢>は火と風、<氷剣>は氷と土、という具合だな。
天と霊の属性は、効果の増加に使われる場合が多い」
「へ、へー」
余りにスラスラと説明するせいで、つい頷いてしまう
いや、彼は学長が選んだ講師なのだから、それで正しい反応なのだが。
「人はこの6系統それぞれに得手不得手があり、それによって使用可能な魔法が決まる。
で、結論を先に言ってしまうと、君の適性は霊属性だ。
しかも、他の属性は全て壊滅」
「――えーと、それって珍しいことなんですか?」
「非常に珍しい。
普通、苦手な属性はあっても全く使えない属性というのは稀なんだ。
ところが君は、5系統の属性に対する適性が限りなく0に近い。
霊属性しか使えない人間なんて、少なくとも俺は初めて会った」
「はぁ」
気のない返事。
要するに、自分には魔法の才能がないと言われているわけか。
「要するに、君は今まで自分の属性に合った魔法を使ってこなかったんだ。
だから、魔法が使えなかった。
学院の共通講義では霊属性を学ばないそうだからな。
霊属性に特化した君に見合う魔法なんて知る機会が無かったんだろう」
講師はそう結論付けた。
さらに続けて、
「そういうわけで、さっさと魔法を使ってしまうぞ」
「は?」
「いや、“は?”じゃないが。
属性が分かったなら、次は魔法の行使だろう。
本来なら他にも段取りは色々あるが、幸いほとんど“学院”の授業でやったそうじゃないか。
なら、とりあえず魔法を使って、感覚を掴んでおくべきだ」
「……はぁ」
気のない返事。
そうは言ったところで、産まれてからこの方使えなかった魔法がすぐ使えるようになるとでも――
「――使えたぁっ!!?」
「だから使えるといっただろう。
君が魔法を発動できなかったのは、単に適切な魔法を習得しなかっただけなんだから」
「使えたっ!! 使えたっ!! 使えたっ!! 使えたぁっ!!」
講師に教えられた通りの手順を踏み、呪文を唱える。
どうせ発動なんてするわけないと思ってたのに――魔法は、見事に発動した。
「使えたっ!! 使えたっ!! 使えたぁっ!!」
感極まって、先程から同じ言葉を繰り返すだけになっている。
でも仕方がないじゃないか。
絶対無理だと思い知らされてきたことが、できてしまったんだから。
今、イーファが使ったのは霊属性を用いた回復魔法の一種だ。
それを自分に対して使ってみた。
するとどうしたことだろう、みるみる身体の痛みが取れて行ったではないか。
目に見えて何かが起こったわけではないが、魔法が発動したということがこれ以上なく実感できた。
「使えたっ!――う、ぐっ!――使えたっ!――ひっうぅ――使えたぁ――!」
涙が出てきてしまう。
ヴィル講師の前だというのに、みっともない。
止めようと思って――でも、止まらない。
どんどん涙が溢れてきてしまう。
一方で身体は歓喜に沸いてはしゃぎだしている。
顔は泣いて、身体は喜んで。
なんとも器用に嬉しさを表現するイーファなのだった。
(――あそこまで喜んでもらえるなら、教えた甲斐があったな)
過剰表現気味な少女の歓喜っぷりに、ヴィルも思わず顔が綻びそうになる。
教師名利に尽きるというものだ。
かつて士官学校で出遭ったあの鬼教官達も、こんな気持ちだったのだろうか。
(エルミアには散々野次られたが)
今日、イーファに魔法を使わせることを教えたら、エルミアはやれ“浪漫が無い”だの“ドラマが無い”だの。
挙句には“そういうのは最終日のイベントとしてやるべき”などと宣ってきた。
(最終日じゃ駄目だろう。
まだまだ色々教えなくてはならないのだから)
イーファに教えた魔法は初歩もいいところ。
やり方さえ覚えれば、素人でも使える代物だ。
ここから訓練を積み、魔法を使う下地を整え、高位の魔法を習得していくのだ。
寧ろ、初日の段階で彼女にここまで教えてやれなかったことを謝りたい程である。
(――とはいえ)
実は、結構大きな問題がある。
イーファに教えられる魔法が余りないのだ。
原因は、彼女が霊属性しか扱えないこと。
少し前まで魔法は4系統であったという事実からも分かる通り、天と霊は近年発見された属性だ。
故に、まだ研究が進んでおらず、その属性単体で使える魔法の数が少ない。
天も霊も、ただエネルギーを発生させるだけの属性であるという事実も、それに拍車をかけている。
力を発生させる他の4系統より、単属性での扱いが困難なのだ。
特に霊属性は“気功”や“霊気”という、人が知覚しづらい力を発生させる属性であるため、天属性と比べてすら魔法の種類が無い。
(さっき教えた治癒魔法と――悪霊を退散させる魔法くらいか?)
霊属性しか使わない魔法を、ヴィルはその程度しか知らない。
つまりイーファが魔法使いとして大成するためには、霊属性のみで使用できる魔法を“開発”しなければならないのだ。
これは、かなりの大仕事である。
魔法学における最先端分野の研究なのだから。
(――あと、もう一つ)
目下のところの大問題があった。
(――あの。
見えちゃってるんだけれども)
はしゃいで動きまわっているイーファ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねてすらいる。
肩まで伸びた赤い髪が、動きに合わせて躍動していた。
……話が少しそれるが、今日も彼女は学院の制服を着ていた。
紺色のブレザーにスカート姿。
イーファの場合、彼女の趣向からなのか他の女生徒よりスカートの丈をかなり短くしている。
そんな(男にとっては)危険な格好で激しく動くものだから。
見えてしまうのだ。
ミニスカートが捲れて。
少女の履いている下着が。
(――し、縞パンか)
思わず――男の本能に逆らえず――視線をやってしまう。
スカートの布地の合間から、青と白のストライプ模様が入ったショーツがチラチラと垣間見える。
可愛らしい容姿のイーファには、実に似合う下着だった。
紺色のスカート、青白のショーツ、健康的な太もも――それらのコントラストが素晴らしい。
……それは学長の仕業だった。
昨日までのスカート丈は、多少動いても中は見えないよう計算された長さだった。
それをエゴールが、夜のうちに少しだけ短く詰めていたのだ。
そんなことにヴィルが気づくわけもなく。
少女が見せる魅惑の三角地帯に釘付けになっていた。
(いやいや、何を考えてる!
一時的にとはいえ教職となった身で!)
欲望に流される己に喝を入れ、どうにか目を反らした。
大きく深呼吸。
心を静め、煩悩を払う。
(――落ち着け――落ち着け――)
少しずつ興奮が収まっていった。
これでも大丈夫。
後は、イーファが落ち着くまで待てば――
――事件は、その時起こった。
「ヴィル先生っ!!
ありがとうございますっ!!」
「っ!?」
イーファが、抱き着いてきたのだ。
ヴィルの腰に手を回し、ぎゅうっと抱き締めてくる。
(おおおぉおおぉおおおおっ!!?)
当たるっ!!
当たっているっ!!
大きな膨らみがっ!!
ヴィルの腹部に、ボヨンボヨンと!!
「アタシ、絶対魔法なんて使えるわけ無いって!
先生が何言っても全然信じてなくって!!
ごめんなさいっ!!
そして、ありがとうございますっ!!」
ぐいぐいと身体を押し付けてくる。
制服に包まれた柔らかい肢体が青年の下半身にムニムニと触っていく。
ひょっとしてワザとか。
いや、少女の表情を見るに、ただ自分への感謝を示しているだけだ。
(鎮まれ鎮まれ鎮まれ鎮まれ――!!)
脳内で繰り返す。
股間に血が集まりそうになるのを、どうにか抑える。
「今まで、ずっと、悩んでたのにっ!
こんな簡単にできちゃうなんてっ!!
やっぱり、先生って凄いんですねっ!!
これからもよろしくお願いしますっ!!」
すりすりと身体をすり寄せてくる。
豊かなおっぱいの感触がヴィルを刺激し続ける。
本当にワザとではないのか。
しかし彼女の顔には一片の邪気も無い。
単に天然なだけなのか。
(エルミアエルミアエルミアエルミア――っ!!)
恋人である銀髪の少女のことを想い、ヴィルは耐える。
耐える。
耐える。
耐えて――
――どうにか、2日目の特訓メニューを消化した。
「――う。
う、う、う、う――」
呻く。
午前中の縞パン・チラリズム攻撃をどうにかいなしてほっとしたところで。
午後は、体操服でのボディタッチによる猛攻を仕掛けてきた。
薄い服での“抱き着き”は、より少女の柔らかさが、豊満さ具合が鮮明に分かってしまい。
剥き出しの“凶器”に晒される恐怖を、ヴィルへ刻み込んだ。
(――い、いきなり、懐き過ぎだろう)
昨日はこちらに近づこうともしなかったのに。
それだけ、魔法が使えるようになったのが嬉しかったのだろう。
そこだけ見れば、素直に喜ばしいことなのだが。
(気持ちが、昂ってしまった……)
気を抜けば、イーファの“感触”を思い出して勃起しそうだった。
あのあどけない顔に、あのスタイルの良さは反則だ。
(部屋に急がなければ――)
悶々としてしまい、もう我慢できそうにない。
部屋にいけば、“処理”できる。
ひょっとしたら今日もエルミアが居てくれるかもしれない。
そうであれば、また彼女に協力して貰って――
「――着いた」
自室に到着。
急いでドアを開ける。
中には、
「あ、ヴィル?
今日は早いのね」
嬉しいことに、エルミアが待っていてくれた。
「ああ、講義が終わってすぐに戻ってきたんだ。
で、せっかくで悪いんだが――!?」
声が途切れる。
“少女の姿”を見て、息を詰まらせたのだ。
「え、エルミア?
その、格好は――」
「ああ、これ?
ふふふ、どう?」
ぐるっとその場で一回転するエルミア。
ふわっと紺色のスカートが舞い上がる。
「あ――あ、あ、あ」
ヴィルの顔が引き攣った。
彼女は――“学院の制服”を着ていたのだ。
イーファが着ていたものと同じブレザー姿。
「学長に言って、貸してもらったの。
似合ってるかしら?」
悪戯っぽく微笑みながら。
エルミアは、自分の手でスカートを捲った。
「――――っ!!」
ヴィルが声の無い叫びを上げる。
彼女は、“黒と白のストライプが入ったショーツ”を履いていたのである。
昼間、散々青年を悩ませた下着を。
――プツッと。
張り詰めた糸の弾ける音が聞こえた。
「――ううぅ。
今日もあの人の講義が始まるんですね……」
気分が沈む。
今更、魔法が使えるようになるとは期待しておらず、祖父の紹介だから一応付き合おうという程度の認識だったのだ。
イーファは、賢者の孫として生まれてしまった。
父や母も高名な魔法使いであったという。
なのに自分は魔法が使えず。
まぐれで発動したことすらない。
無論、努力した。
人の十倍はやったと、胸を張って言える。
なのに、ダメ。
全然ダメ。
祖父の影響もあってか“賢者の学院”へ入学を許されたものの、ここでも芽はでなかった。
(……ま、そんなもんですよ)
そのことに悔しさを感じた時期もあったが、もう何とも思っていない。
別に、全ての人が魔法を扱えるわけでは無いのだ。
寧ろ、使える人間の方が少数派であるとすら言える。
そして、自分は多数派に所属する人間だった、と。
――ただ、それだけ。
今は祖父の手前、まだ“学院”に在籍しているが、いい加減そろそろ出ようとも考えている。
魔法の才能がない人間が長く居て良い場所ではないし、イーファだって新しい道を探したい。
そんな風に考え、毎日をただ消化していった。
今回の特別訓練もその一環としか捉えていない。
(――なのに)
怒りがわいてくる。
あの男の厳しさと言ったら!
魔法の訓練らしきことをしたのは午前中だけ、午後はひたすら身体を動かされていた。
『気を失って倒れるまで走れ』と言われた時は、何の冗談かと思ったものだ。
それが本気だと分かって、こいつは頭がおかしいんだと確信した。
「なんでお爺ちゃんはあんな奴を……」
尊敬する偉大なる祖父に対し、ついつい愚痴を零してしまう。
「……うぐぐっ!
か、身体がっ――関節がっ――筋肉がっ――!!」
少し体を動かしたら、コレだ。
普段あまり動いていないところへ、死にそうになる程動いたのだから凄まじい筋肉痛になるのも当たり前。
今日は一日中休んでいたい位なのだけれど――
「はあぁぁぁぁ……
行かなくっちゃ、ダメなんですよねぇ……」
何せ、学長である祖父の頼みなのだ。
聞かない訳にはいかない。
たとえそれが、まったく意味のない行為であったとしてもだ。
その程度の恩は、祖父から受けている。
イーファは最後にもう一度大きくため息をついて、自室を後にした。
自分と講師、2人だけしかいない教室。
「君が魔法を使えないのは、属性のせいだ」
開口一番、講師ヴィルにそんなことを言われた。
「――属性、ですか?」
「ああ。
魔法の属性は知っているな?」
「勿論ですよ。
火・水・土・風の4系統でしょう?」
当たり前の知識である。
こんなこと、魔法使いでなくとも知っているだろう。
「違う」
「へ?」
が、講師はあっさり否定してきた。
「それは昔の考え方だ。
現在、属性は火・氷・土・風・天・霊の6系統とされている」
「――聞いたことないんですけど」
良くないと思いつつ、講師を疑わしい目で見てしまう。
確かに4つの系統以外にも属性は存在するという噂はあるが、ほとんどが眉唾物だ。
「……本当に何も教えてないんだな、エゴールの奴」
ぼそっとヴィルが何事か呟く。
何のことかと聞く前に、青年講師は話を開始した。
「信じられないかもしれないが、信じろ。
最新の学説では、魔法とは6つの系統でできている」
彼曰く。
火:運動量増加
氷:運動量低下
土:個体操作
風:流体操作
天:五感で知覚可能なエネルギー発生
霊:五感で知覚不可能なエネルギー発生
魔法はこれら6系統を単独、または組み合わせて発動するものなのだという。
「簡単なところなら、<炎矢>は火と風、<氷剣>は氷と土、という具合だな。
天と霊の属性は、効果の増加に使われる場合が多い」
「へ、へー」
余りにスラスラと説明するせいで、つい頷いてしまう
いや、彼は学長が選んだ講師なのだから、それで正しい反応なのだが。
「人はこの6系統それぞれに得手不得手があり、それによって使用可能な魔法が決まる。
で、結論を先に言ってしまうと、君の適性は霊属性だ。
しかも、他の属性は全て壊滅」
「――えーと、それって珍しいことなんですか?」
「非常に珍しい。
普通、苦手な属性はあっても全く使えない属性というのは稀なんだ。
ところが君は、5系統の属性に対する適性が限りなく0に近い。
霊属性しか使えない人間なんて、少なくとも俺は初めて会った」
「はぁ」
気のない返事。
要するに、自分には魔法の才能がないと言われているわけか。
「要するに、君は今まで自分の属性に合った魔法を使ってこなかったんだ。
だから、魔法が使えなかった。
学院の共通講義では霊属性を学ばないそうだからな。
霊属性に特化した君に見合う魔法なんて知る機会が無かったんだろう」
講師はそう結論付けた。
さらに続けて、
「そういうわけで、さっさと魔法を使ってしまうぞ」
「は?」
「いや、“は?”じゃないが。
属性が分かったなら、次は魔法の行使だろう。
本来なら他にも段取りは色々あるが、幸いほとんど“学院”の授業でやったそうじゃないか。
なら、とりあえず魔法を使って、感覚を掴んでおくべきだ」
「……はぁ」
気のない返事。
そうは言ったところで、産まれてからこの方使えなかった魔法がすぐ使えるようになるとでも――
「――使えたぁっ!!?」
「だから使えるといっただろう。
君が魔法を発動できなかったのは、単に適切な魔法を習得しなかっただけなんだから」
「使えたっ!! 使えたっ!! 使えたっ!! 使えたぁっ!!」
講師に教えられた通りの手順を踏み、呪文を唱える。
どうせ発動なんてするわけないと思ってたのに――魔法は、見事に発動した。
「使えたっ!! 使えたっ!! 使えたぁっ!!」
感極まって、先程から同じ言葉を繰り返すだけになっている。
でも仕方がないじゃないか。
絶対無理だと思い知らされてきたことが、できてしまったんだから。
今、イーファが使ったのは霊属性を用いた回復魔法の一種だ。
それを自分に対して使ってみた。
するとどうしたことだろう、みるみる身体の痛みが取れて行ったではないか。
目に見えて何かが起こったわけではないが、魔法が発動したということがこれ以上なく実感できた。
「使えたっ!――う、ぐっ!――使えたっ!――ひっうぅ――使えたぁ――!」
涙が出てきてしまう。
ヴィル講師の前だというのに、みっともない。
止めようと思って――でも、止まらない。
どんどん涙が溢れてきてしまう。
一方で身体は歓喜に沸いてはしゃぎだしている。
顔は泣いて、身体は喜んで。
なんとも器用に嬉しさを表現するイーファなのだった。
(――あそこまで喜んでもらえるなら、教えた甲斐があったな)
過剰表現気味な少女の歓喜っぷりに、ヴィルも思わず顔が綻びそうになる。
教師名利に尽きるというものだ。
かつて士官学校で出遭ったあの鬼教官達も、こんな気持ちだったのだろうか。
(エルミアには散々野次られたが)
今日、イーファに魔法を使わせることを教えたら、エルミアはやれ“浪漫が無い”だの“ドラマが無い”だの。
挙句には“そういうのは最終日のイベントとしてやるべき”などと宣ってきた。
(最終日じゃ駄目だろう。
まだまだ色々教えなくてはならないのだから)
イーファに教えた魔法は初歩もいいところ。
やり方さえ覚えれば、素人でも使える代物だ。
ここから訓練を積み、魔法を使う下地を整え、高位の魔法を習得していくのだ。
寧ろ、初日の段階で彼女にここまで教えてやれなかったことを謝りたい程である。
(――とはいえ)
実は、結構大きな問題がある。
イーファに教えられる魔法が余りないのだ。
原因は、彼女が霊属性しか扱えないこと。
少し前まで魔法は4系統であったという事実からも分かる通り、天と霊は近年発見された属性だ。
故に、まだ研究が進んでおらず、その属性単体で使える魔法の数が少ない。
天も霊も、ただエネルギーを発生させるだけの属性であるという事実も、それに拍車をかけている。
力を発生させる他の4系統より、単属性での扱いが困難なのだ。
特に霊属性は“気功”や“霊気”という、人が知覚しづらい力を発生させる属性であるため、天属性と比べてすら魔法の種類が無い。
(さっき教えた治癒魔法と――悪霊を退散させる魔法くらいか?)
霊属性しか使わない魔法を、ヴィルはその程度しか知らない。
つまりイーファが魔法使いとして大成するためには、霊属性のみで使用できる魔法を“開発”しなければならないのだ。
これは、かなりの大仕事である。
魔法学における最先端分野の研究なのだから。
(――あと、もう一つ)
目下のところの大問題があった。
(――あの。
見えちゃってるんだけれども)
はしゃいで動きまわっているイーファ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねてすらいる。
肩まで伸びた赤い髪が、動きに合わせて躍動していた。
……話が少しそれるが、今日も彼女は学院の制服を着ていた。
紺色のブレザーにスカート姿。
イーファの場合、彼女の趣向からなのか他の女生徒よりスカートの丈をかなり短くしている。
そんな(男にとっては)危険な格好で激しく動くものだから。
見えてしまうのだ。
ミニスカートが捲れて。
少女の履いている下着が。
(――し、縞パンか)
思わず――男の本能に逆らえず――視線をやってしまう。
スカートの布地の合間から、青と白のストライプ模様が入ったショーツがチラチラと垣間見える。
可愛らしい容姿のイーファには、実に似合う下着だった。
紺色のスカート、青白のショーツ、健康的な太もも――それらのコントラストが素晴らしい。
……それは学長の仕業だった。
昨日までのスカート丈は、多少動いても中は見えないよう計算された長さだった。
それをエゴールが、夜のうちに少しだけ短く詰めていたのだ。
そんなことにヴィルが気づくわけもなく。
少女が見せる魅惑の三角地帯に釘付けになっていた。
(いやいや、何を考えてる!
一時的にとはいえ教職となった身で!)
欲望に流される己に喝を入れ、どうにか目を反らした。
大きく深呼吸。
心を静め、煩悩を払う。
(――落ち着け――落ち着け――)
少しずつ興奮が収まっていった。
これでも大丈夫。
後は、イーファが落ち着くまで待てば――
――事件は、その時起こった。
「ヴィル先生っ!!
ありがとうございますっ!!」
「っ!?」
イーファが、抱き着いてきたのだ。
ヴィルの腰に手を回し、ぎゅうっと抱き締めてくる。
(おおおぉおおぉおおおおっ!!?)
当たるっ!!
当たっているっ!!
大きな膨らみがっ!!
ヴィルの腹部に、ボヨンボヨンと!!
「アタシ、絶対魔法なんて使えるわけ無いって!
先生が何言っても全然信じてなくって!!
ごめんなさいっ!!
そして、ありがとうございますっ!!」
ぐいぐいと身体を押し付けてくる。
制服に包まれた柔らかい肢体が青年の下半身にムニムニと触っていく。
ひょっとしてワザとか。
いや、少女の表情を見るに、ただ自分への感謝を示しているだけだ。
(鎮まれ鎮まれ鎮まれ鎮まれ――!!)
脳内で繰り返す。
股間に血が集まりそうになるのを、どうにか抑える。
「今まで、ずっと、悩んでたのにっ!
こんな簡単にできちゃうなんてっ!!
やっぱり、先生って凄いんですねっ!!
これからもよろしくお願いしますっ!!」
すりすりと身体をすり寄せてくる。
豊かなおっぱいの感触がヴィルを刺激し続ける。
本当にワザとではないのか。
しかし彼女の顔には一片の邪気も無い。
単に天然なだけなのか。
(エルミアエルミアエルミアエルミア――っ!!)
恋人である銀髪の少女のことを想い、ヴィルは耐える。
耐える。
耐える。
耐えて――
――どうにか、2日目の特訓メニューを消化した。
「――う。
う、う、う、う――」
呻く。
午前中の縞パン・チラリズム攻撃をどうにかいなしてほっとしたところで。
午後は、体操服でのボディタッチによる猛攻を仕掛けてきた。
薄い服での“抱き着き”は、より少女の柔らかさが、豊満さ具合が鮮明に分かってしまい。
剥き出しの“凶器”に晒される恐怖を、ヴィルへ刻み込んだ。
(――い、いきなり、懐き過ぎだろう)
昨日はこちらに近づこうともしなかったのに。
それだけ、魔法が使えるようになったのが嬉しかったのだろう。
そこだけ見れば、素直に喜ばしいことなのだが。
(気持ちが、昂ってしまった……)
気を抜けば、イーファの“感触”を思い出して勃起しそうだった。
あのあどけない顔に、あのスタイルの良さは反則だ。
(部屋に急がなければ――)
悶々としてしまい、もう我慢できそうにない。
部屋にいけば、“処理”できる。
ひょっとしたら今日もエルミアが居てくれるかもしれない。
そうであれば、また彼女に協力して貰って――
「――着いた」
自室に到着。
急いでドアを開ける。
中には、
「あ、ヴィル?
今日は早いのね」
嬉しいことに、エルミアが待っていてくれた。
「ああ、講義が終わってすぐに戻ってきたんだ。
で、せっかくで悪いんだが――!?」
声が途切れる。
“少女の姿”を見て、息を詰まらせたのだ。
「え、エルミア?
その、格好は――」
「ああ、これ?
ふふふ、どう?」
ぐるっとその場で一回転するエルミア。
ふわっと紺色のスカートが舞い上がる。
「あ――あ、あ、あ」
ヴィルの顔が引き攣った。
彼女は――“学院の制服”を着ていたのだ。
イーファが着ていたものと同じブレザー姿。
「学長に言って、貸してもらったの。
似合ってるかしら?」
悪戯っぽく微笑みながら。
エルミアは、自分の手でスカートを捲った。
「――――っ!!」
ヴィルが声の無い叫びを上げる。
彼女は、“黒と白のストライプが入ったショーツ”を履いていたのである。
昼間、散々青年を悩ませた下着を。
――プツッと。
張り詰めた糸の弾ける音が聞こえた。
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