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第2話 宿場町へ

③ 到着(H)※

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 日が暮れる、寸前。
 予定通り、ヴィルとエルミアは宿場町へ辿り着いた。

「……ん?」

 町に入ったところで、青年は立ち止まる。

「どうしたの、ヴィル?」

「いや、妙に人が多いと思って――あれは、兵士か?」

「え?」

 訪れた宿場町は、そこまで大きな規模ではない。
 だというのに、町の中には多くの武装した人々――兵士達が居た。
 何か事件でも起きたのか、と不審に思っていると、

「――あっ! 君達!!」

 1人の男性兵士が2人に気付き、話しかけてくる。

「無事にここまで来れたんだな、良かった!」

 やや砕けた口調だ。
 自分達に警戒心を抱かせないためだろうか。

「無事、とは?」

 ヴィルが返す。

「知らないのか?
 ――あ、いや、知らないからこの道で来たんだな。
 実は、君達が通ってきた街道で、“バーゲストの群”が出没するという報告があってね」

「……ほほう」

 なんとなく心当たりがあった。

「それも数匹程度の群じゃない――正確な数はまだ把握していないのだが、数十を超える大群だそうだ。
 既に被害報告もかなりの数がなされている」

「なるほど。
 そうでしたか」

 十中八九、ヴィル達が途中で出遭ったあのバーゲストだろう。
 今日まで通ってきた街道にほとんど通行人がいなかったのは、辺鄙な場所という以前にバーゲスト達のせいでもあったのか。

「いや、君達は本当に運がいい。
 バーゲストに襲われず済んだのだから。
 ――ところで、もしよければ話を聞かせては貰えないか。
 その“群”に関する情報を集めているんだ。
 姿を見たでも、痕跡を見かけたでも、何でもいい」

「構いませんが――貴方達はいったい?」

「おっと、申し遅れた。
 我々は、その群を退治するために派遣された討伐隊なんだ。
 私はその隊長を務めさせて貰っている」

 隊長と名乗った男は、そう言って一礼する。
 こんな得体の知れない旅人ヴィルにも丁寧な対応を見せる辺り、この隊長、なかなか“出来る”男の匂いがする。

 見れば、他の兵士達もきびきびと、規律の取れた動きをしていた。
 おそらく、討伐のための食糧調達や聞き込みをしているのだろう。
 全員が姿勢よく、だらけている者は一人もいない。

(なかなか教育の行き届いた隊だな)

 隊長は被害が多いと言っていたが、ここまで来る間にそれらしき痕跡は少なかった。

(つまり、被害が出始めた初期段階で動いたということだ)

 その迅速な動きもまた、ヴィルは高く評価した。
 総じて、彼らは高い練度を持ち、賢明な判断が下せる――又は賢明な上官を持つ――部隊と推測できる。

「討伐隊――では、これから出発をするのですか?」

「いや、もう日が暮れ始めている。
 今から動いたのでは、みすみすバーゲスト達の餌を増やすだけさ。
 明日の朝を待って、出発する予定だ」

「――その必要はありません」

 唐突に、エルミアが会話に加わった。

(――おぉっ!?)

 振り向いて、ヴィルは驚く。
 いつもの彼女ではなかった。
 凛とした表情に、品格のある佇まい――“聖女”のエルミアだ。
 一瞬疑わし気な視線を向けた隊長だが、そんな少女の姿を見て、あっさり疑惑の態度を解消した。

「……お嬢さん、それは、どういう?」

「バーゲストの群れは、私達が既に退治しました。
 勿論、残党が居ないとは限りませんが――早急に対処せねばならない危険は、もう無いでしょう」

「――なっ!?」

 隊長が目を見開く。
 だがすぐに顔を綻ばせ、

「はっはっは!
 お嬢ちゃん、冗談を言っちゃいけないよ。
 そういうのはもっと――――のわぁああああっ!!?」

 今度は全身で驚きを表現する。

「そ、それは! その聖印はっ!!」

「――はい。
 私は、エルミア・ウォルストン。
 此度、“聖女”に任命された者です」

「な、なんと!!」

 エルミアが見せたのは、教会の聖印。
 しかし、それはヴィルが知るものよりは遥かに美麗で、煌びやかな光を纏っていた。
 彼女が“聖女”であることを示す証なのだろう。

(ああ、そういうのを持っていたのか)

 考えても見れば、当然である。
 聖女は国が定める大役なのだから、それを証明する物があって然るべきだ。

 何故、ヴィルと会った時に証を見せてくれなかったのか疑問はあるが……
 帝国の生まれであるヴィルに聖印を見せても、その意味が理解できないと考えたのか。

(ん? すると、エルミアは俺が帝国出身だと最初から気付いていた?)

 彼女にそれを説明したのは、紹介の少し後だったように記憶しているが。

(まあ、単に慌てていただけかもしれないしな)

 あの時は、状況が状況だ。
 エルミアに完全な対応を求めるのは酷というものだ。

 考え事をしている最中にも、エルミアと隊長の会話は続いている。

「し、失礼しました!
 よもや、聖女様がいらっしゃるとは――」

「構いません。
 寧ろ、こちらこそが失礼をしました。
 身分を明かさず、お話を始めてしまいまして」

「そ、そんな、私のような者に頭を下げないで下さい!
 ――で、では、お話を繰り返してしまいますが、聖女様がバーゲストの群を討伐したということでよろしいのですか?」

「はい。
 私と、こちらの――私の守護を任せられた騎士・・とで」

「………ん?」

 いきなり自分を指され、きょとんとするヴィル。

(きゅ、急に何を言うんだ!?)

 唐突に話を振られても、困る。
 そもそも、ヴィルの出で立ちで騎士と主張するのは、かなり無理があるだろう。
 鎧なんて着ていないし、剣だって安物。
 ただの旅人以外には見えないだろう。

 しかし、ヴィルの心配をよそに、

「そうか、君は聖女の守護騎士だったのか。
 ははは、人が悪いな、最初からそう言ってくれていれば」

 隊長は、あっさり信じてくれた。
 人が良いのか、何なのか。

「あ、ああ。
 すみません、自分の独断で話していいものか分からなかったので」

「いや、別に責めているわけじゃない。
 そう考える気持ちはよく分かる。
 しかし――流石、守護騎士だな。
 一見して、只者でない・・・・・ことはすぐに分かったよ。
 君のような騎士が傍にいるのであれば、聖女様も安心だろう」

 とりあえずそれっぽく返事をしておいたが、特に疑問は持たれなかったようだ。
 ヴィルと隊長の話に区切りがつくと、エルミアが話を戻してきた。

「隊長様、こちらに遠見の魔法を使用できる術者はおられませんか。
 お手数を取らせてしまいますが、確認をして頂きたいのです。
 地点は、こちらで指定いたします」

「承知しました。
 すぐに手配します」

 そう言うと、隊長は自分達に敬礼してから走り去っていく。


 ――程なくして、バーゲスト達の壊滅が確認された。





 町は、あっという間に祝勝ムードとなった。
 宴会があちらこちらで開かれ、飲めや歌えやの大騒ぎだ。
 2人も当然誘われたのだが、疲れを理由に断らせてもらった。
 エルミアはともかくヴィルの方は、飲みの席でアレコレ質問責めにあい、ボロが出ないか心配だったのだ。

「――――ふぅ」

 通された部屋で腰を落ち着けると、一つ息を吐く。
 そう大きくない宿場町の宿にしては、かなり立派な造りをしている。
 おそらく、最上級の寝室を貸してくれたのだろう。
 勿論、エルミアとは別室だ。

「急に身分を明かしだした時はどうしたものかと思ったが」

 仮にも、エルミアは命を狙われている身なのだ。
 自分の所在をばらすのは如何なものだろう。

「……黙っていても、そう大差ないか」

 頭を振って、思い直す。

 ヴィルは、余り隠蔽工作が得意な方ではない。
 彼女を狙う者が本気になって追手を差し向けてきたなら、隠れとおすことはまず不可能と考えるだ。
 ならばいっそ、自分達が聖女一行であることを知らしめた方が、周りを味方にできる分有利になるかもしれない。
 エルミアも、そう判断したのだろうか。

「……それはどうだろうか」

 少女と旅を始めて3日になるが、まだ彼女の人となりを把握しきれていない。
 聖女とはとても思えない程ふしだらな素振りを見せたかと思えば、先程は突然“聖女”然とした振舞をしだした。
 しかも、どちらも実に自然体なのだ。

(2つの人格を使い分けているようにすら見える)

 二重人格なのだと言われたら、信じてしまうことだろう。
 いや、それを否定する要素も、実のところなかったりするのだが――

「……ん?」

 外の廊下を、誰かが歩く気配があった。
 その気配はヴィルの部屋の前で止まり。
 直後、扉が軽くノックされる。

「――ヴィル」

 ドアの向こうから声が聞こえた。
 エルミアだ。

「ああ、君か。
 別に鍵はかけてないぞ」

 ヴィルはそう告げる。
 すると、ゆっくりとドアが開けられた。

「――――っ!!?」

 その“人物”を見て、青年の呼吸が止まりかけた。

 部屋の入り口に立っているのは、エルミアだ。
 それは間違いない。
 間違いなくエルミアなのだ、が。

「そ、その、格好、は――?」

 彼女は、“白銀のローブ”を纏っていた。

 清廉な雰囲気を纏わせ、神々しさすら感じさせる装い。
 高級感のある、薄手の白い生地を基調とし、ところどころに銀色の刺繍やアクセサリが施されている。
 銀色の髪と白い肌を持つエルミアに、この上無く似合う装束だ。
 過度な修飾は無く、それがさらにエルミアの魅力を引き立たせていた。
 スカート部分にスリットが入り、彼女の脚がチラリと見えるのだが、それもまた下品ではない。
 おそらくだが、聖女としての正装なのではないだろうか。

 エルミアはヴィルの質問に答えず、部屋の中に入ってくる。
 彼女の顔は、つい先刻も見せた“聖女”のもの。
 そして、青年へと恭しく頭を下げる。

「此度は、本当にありがとうございました。
 貴方が居てくれなければ、こうしてこの町へ辿り着くこともできなかったでしょう。
 正式な感謝が遅れてしまったこと、まず深くお詫び申し上げます」

「え? あ、うん。
 そんな、別に、気にしなくて、も」

 しどろもどろに答える。
 思考が上手く働かい。
 “聖女”なエルミアの言動と服装に、頭をやられてしまっていた。

「貴方のような方があの時あの場所に居合わせてくれたことは、正しく奇跡だったのでしょうね。
 貴方を遣わせてくれた神の思し召しと、何よりも私を見捨てず救って下さった貴方の優しさに、感謝を」

「……俺は、当然のこと、を、したまで、で」

 心臓がバクバクいっている。
 初めて会った時と同様、いや、それ以上に可憐で清楚なエルミアの姿に、心を奪われていた。

「あの行いを、“当然のこと”として捉えられる者が、どれ程いるでしょうか?
 貴方の徳の高さがあったからこそ、私は救われたのだと――そう思います」

 真摯な目でじっとヴィルを見つめてくる。
 背筋がピンと伸びる。
 自分でもよく分からない、緊張感のようなものが湧いてくる。

「そして、改めてお願いします。
 どうか、私を王都へと導いて下さい。
 未熟者故に貴方の足を引っ張るような真似をしてしまうこともあるかもしれません。
 勿論、そのようなことが無きよう、私も懸命に努力致しますが――」

「い、今更、そんなこと言われるまでも無い!
 安心しろ、俺が、必ず、君を王都へ連れて行く!」

「――――ありがとう、ヴィル」

 少しだけ、その気品のある表情を崩し、微笑むエルミア。
 その仕草の愛らしさに、頭が熱くなっていくのを感じる。
 きっと今、自分の顔は真っ赤であり、当然それを少女は分かっていると思うのだが……
 余りに恥ずかしいので気付かないフリをする。

「ただ、何の見返りも無く、そんなお願いをしてしまうなど、許されざることです。
 ――勿論、王都へ辿り着いた際には、相応の報酬が贈呈されるでしょう。
 それは、私もお約束できます。
 でも、その時まで貴方に何もしてあげられないだなんて神がお認めになるはずが無く――他ならぬ私自身もまたそう考えております」

「い、いや、そんなもの、俺は気にして――」

「いいえ、貴方の優しさに甘えるわけには参りません。
 ですから――」

 エルミアは、ローブのスリットを自ら広げた。
 彼女の白い太ももが、露わになる。
 他が神聖な雰囲気を放っている分、実に艶めかしい。

 少女は瞳を潤しながら、告げる。

「――せめて、この私の身体を、存分に味わって下さいませ」

「って、結局いつもと同じかいっ!!」

 最終的にソレが言いたかっただけか、と。
 やはりエルミアはエルミアだったと、そう考えて思い切りつっこみを入れたのだが。

「…………」

 ヴィルの言葉に彼女は表情を硬くし、そのまま動かない。
 まるで、意を決した告白が拒まれたかのようだ。

「…………あ、と、その」

 予想外の反応に、青年も固まった。
 てっきり、いつものノリに戻ると思ったのに。

「…………」

「…………」

 互いに動かないまま、視線を交わし合う。
 沈黙に耐えきれず、ヴィルが先に口を開く。

「……あ、あの、エルミアさん?」

「そ、そうですね。
 ただ申し出るだけでは、失礼でした。
 私の方からお誘いするべきでしたのに」

 そう言うと、彼女は恥ずかしそうに・・・・・・・に顔を赤らめ。
 部屋の壁に手を突くと、尻をヴィルに向けて突き出してくる。
 そして、ローブを捲り上げ――

(――うぁっ!?)

 ヴィルは胸中で叫ぶ。

 純白のショーツに包まれた少女のお尻が、彼へ差し出されている。
 小柄な彼女に見合った、少し小ぶりなお尻。
 だが、サイズこそやや小さいものの、その形は美しいの一言だった。
 柔らかく、それでいて弾力のありそうな尻肉が、丸みを帯びた綺麗な曲線を描いている。



「見て下さっていますか、私のはしたない格好を」

 エルミアは、お尻をふりふりと横に振りだした。
 間違いなく、ヴィルを誘っている。
 誰が見ても聖女であることに疑いをもたれないであろう少女が、淫らに自分を誘惑してきている。

 彼女は、言葉を紡ぐ。

「どうか――どうか、私の身体をお使い潰し下さい。
 こんなにも卑しい私めに、貴方の逸物をお恵み頂きたいのです……」

「―――!!!!」

 ヴィルの中で、何かが切れた。


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